第26話 王都陥落
話しぶりがまるで変わったステラは、リツの鎖を握って破壊し、レイアのもとで祈る姿をとると、レイアの足の傷が癒えていくのがわかった。
「ちっ、不意打ちすぎるだろ」
気づくと吹き飛ばされた男が再度構えている。
「ミラ、魔導ゴーレムの鎖も解け」
そう言うと、魔導ゴーレムに絡んでいた鎖がズルズルと取れた。
「ギャアアアアアアア」
魔導ゴーレムが雄叫びを上げながら突進してくる。
「レイアもまだ動けないだろうし、スルギとクオンも危ない。さすがに厳しいね」
ステラがそう言って、ゴーレムを弾き飛ばしながら男に迫るが、男も本気になったようで、高レベルな応酬が繰り広げられている。適宜、鎖もアシストに入っているようで、双方決め手にかけている。リツもアシストに向かいたいが、鎖に阻まれる。
「くっどうすれば……!」
その時、入口の扉が再度開いた。
「今度は何だあ?」
男がそう言った瞬間、ゴーレムが切り刻まれて崩れ落ちた。
入口に見覚えのある、赤い長髪で隻眼の男が、穏やかな表情で立っていた。
「探索者諸君、お疲れ様。ケイジーだ。どうしたんだい?」
「ケイジーさん、こいつら神聖教会の裏切り者です!」
レイアがそう叫ぶと、ケイジーは「そうか」と言った。
ケイジーがゆっくりと前に進むと、キンッという音がして鎖を操っていた魔法使いが意識を失ったように天井から落ちてきて、動かなくなった。そして、男は壁際で、自分の身体を見下ろしていた。
「まじかよ……」
男がそうつぶやくと、身体がぐちゃりと崩れ落ちた。
「……え」
誰かがそう言った。リツ自身だったかもしれない。
「これで大丈夫かな?」
何が起きたのか、全くわからなかった。だが、敵の脅威が一瞬でなくなったのはわかった。
「ご苦労様。扉を抜けていった後を追っていったら偶然追いつけたよ。遅くなって済まなかったね」
あっという間に、遺跡の攻略は終了した。
◇
ケイジーを追ってきた他の騎士団に遺体やその場を任せ、足早に外に戻ると、慌ただしい状況になっていた。
近くにいた騎士団の団員に聞くと、神聖教会の強硬派が暴動を起こし、王国へ攻め入っているとのことだった。
「想定より早い」
リツの声が震えた。
「ルアが危ない」
遺跡の攻略で負傷している探索者が多く、すぐに移動できる人だけ、鳥人族の移動手段の協力を受け、王都へ戻ることとなった。リツたち一行は全員満身創痍だったため、残留を強く勧められたが、リツとステラだけは強く希望して王都へ戻ることになった。
◇
戻ってきた王都は、空から見る限りでも煙が上がっていた。
上空から見ると、整った区域分けがされているが、その中でも、第一居住区手前まで戦火がひどい。それに、結界があるはずの王都の内部でも、炎が上がり叫び声が響いている。
全体的に魔獣が大量に発生しており、逃げ惑う人も多く、認識阻害も使われているようで、状況の判断がつかない。
街の様子を見ながらも、リツは第一居住区に急いで進んだ。
市街地には王国騎士団が展開して、魔獣を討伐し避難誘導をしているのが見えた。
リツが第一市街地につくと、ガーランドがルアや学園の生徒たちを連れて出てきたところだった。
「リツ!」
「ルア! よかった! 無事だったんだね!」
走ってきたルアを抱きしめる。
「小僧。本当だったようだな、地下にいたセーステスは破壊した。安心しろ」
近くにいたガーランドが静かに言った。
「よかった……やはり良い未来にも変えられた」
「本当に変人ということだな。小僧なら、神聖教会の変化を導けるかもしれんな。一段落させてから詳しく聞かせてもらおう。まあ……事情は後から聞くがすまなかったな」
「いえ、ガーランドさんがいてくれてよかったです」
「あぁそうだな。西ケレ侵攻と各地の問題で、引きこもりも王国騎士団もドミネーターもほとんどいないタイミングだったからな。シンラとやらが魔族と連携して街を襲ってるようだ。教会も感知できていなかったようだった」
ガーランドは状況を憂いているようだが、そこまで現状を心配している様子ではないようだった。
「そうだ、詫びと言ってはあれだが、このセーステスの精霊魂はお前にやろう。売れば相当な高値になるだろう」
そう言って、ガーランドが水晶を投げてよこしてきた。受け取って、リツは一瞬固まった。
「ガーランドさん、一つだけですか」
「ああ、一体だけだったからな」
「 五 体 い る は ず で す 」
瞬間だった。
キィィィイインという音がして、ガーランドの腹に大きな穴が開いた。
「ガーーーーランドさん!!!」
(ゲームでは、地下から上がってきたセーステスに第一居住区も大きく破壊されるが、ガーランドが五体を一掃していたはずである。セーステスが一体しか見つからなかったのは、ゲームとは違う。……隠されていたのか?)
ガーランドは口元から血を流しているが、冷静だった。
「……ほう」
赤い瞳が開き、ドミネーター化しているのがわかった。
「ルア」
傍らに駆け寄ってきたルアに、ガーランドが短く言った。
「見ておれ」
そう言って、ガーランドは四体のセーステスに単身向かっていった。
そこからは正に台風同士の闘いだった。
雷霆の精霊を宿したセーステスを一瞬で氷漬けにして砕き、その最中に炎蛇の精霊を宿したセーステスによる轟炎に包まれながら生成した魔法大剣で破壊。そして、シルフの精霊を宿したセーステスは身動きを止めたと思ったら、自害した。恐らく精神系の魔法だ。あっという間に残り一体のゴーレムの精霊を宿したセーステスのみになったところで、防御壁をはった後、ガーランドが戻ってきた。
「ガーランドさん……!」
ルアが走り出そうとするのをリツが腕をつかんで止めた。止めながら、自分の腕が震えているのがわかった。
ガーランドはまっすぐ歩いていたが、体に大きな穴が空き、右腕がなくなっていた。
「ガーランドさん! 回復を、誰か——!」
「いい」
静かな声だった。
ガーランドはルアの前まで歩いてきて、その場に膝をついた。
「ルア。卒業試験だ」
ルアは泣きながら首を振った。
「嫌です……嫌……!」
「最後の弟子になったな」
「やだ! やだよ! 嫌だ! 嫌だ!」
「……いい娘だ」
ガーランドはルアを抱きしめると、ルアの首にかかっていた静定石を掴み、砕いた。
乾いた音が、やけに大きく響いた。
次の瞬間から、ルアの目が赤くなり始めた。感情が溢れていた。怒り、悲しみ、恐怖、そのすべてが一気に溢れていた。そして、それを受けてバーサーカー化が始まった。
ガーランドはルアの真正面に立ったまま動かなかった。
「ルア。分かるだろう。もう私は必ず死ぬ。この命を次につなげたいんだ。頼む」
「師匠っ!!」
ルアが叫ぶとともに、瞳が真っ赤になった。そして、合わせて轟音とともに、ルアの眼の前の赤い瞳の老人が燃えた。
リツは、動けなかった。
見てはいけないものを見ているような気がした。だが、目が離せなかった。
少しして、炎が収まるとともに、最後のセーステスを抑えている防御壁も消失した。
ルアは地面にへたり込んで、自分の両手を見つめていた。
赤い瞳のままだった。しかし、意識があった。
「……師匠」
「ドミネーター化したんだね」
リツが静かに言った。
ガーランドは、自分が最後はルアの手によって殺されることで、ルアをドミネーター化させた。死を悟ったガーランドが最後にそれを望んでいた。「バーサーカー化したものを倒すことで、自身を律しドミネーター化する」その条件を、自分を使って成立させたのだ。
「師匠……師匠……」
震えたルアの声が響く。
「ルア、立てる?」
「……うん」
赤い瞳のままのルアが立ち上がった。
セーステスが防御壁から解放され、索敵を始めたところだった。
「やっつけよう」
ルアがそう言ったとき、その声に震えはなかった。
そこからはあっという間だった。ガーランドほどではないものの、第三位階とは思えない強力な魔法を産み落とし、ゴーレムのセーステスを水圧で押しつぶした。
そうして、最後のセーステスを倒し、人類一の大魔道士を失った。
ピコン、とシステム音が鳴り響いた。
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メインストーリー達成率:14%
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毎日21時更新です。次話もよろしくお願いします。




