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達成率999%のゲーム世界に転生した俺、攻略知識を使うたびにシナリオが崩壊していく〜攻略者の因果律〜  作者: @太郎
因果について

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第27話 天使の精霊

その後は、できる限りの市民を避難させながら、市街地側の救助に向かった。

 

王国騎士団や残った探索者と共に徐々に魔獣を撃退し、ようやく危機が去る頃には、王都の美しい街並みはあちこちが瓦礫と化した焦土へと変わり果てていた。

 

市街地で合流したハナから詳しい状況を聞いたが、神聖教会の強硬派リーダーであるシンラが、混乱の中で聖女を人質に取り、そのまま姿を消したとのことだった。

 

リツは今日、この街で死んだ人間の数を思った。ゲームの知識を使って変えられた未来と、変えられなかった最悪の現実が、頭の中で鋭くせめぎ合う。

 

街への被害自体はゲームの正史より少なかったが、その代わりに、取り返しのつかない対価を支払うことになった。ガーランドが死んだ。どう因果が変わったのかは分からないが、リツの行動の何かが、シンラを焦らせ、襲撃を前倒しにさせたのかもしれない。そして、セーステスの動きを変え、ガーランドの死につながったのかも知れない。

 

重い後悔と苦痛が、絶え間なくリツの胸を抉る。

 

自分の選択によって世界の歯車は完全に狂った。もう、都合のいいゲームのレールには戻れないことだけは、はっきりと分かっていた。

 

 

街の復興には、思ったよりも時間がかかった。

 

一ヶ月ほどかけて、瓦礫を片付け、負傷者の治療を手伝い、壊れた建物の修繕を続けた。その間も、街の地下や外縁に現れる魔獣の残党が出れば討伐に向かい、遺跡の完全封鎖作業にも駆り出された。動ける者が極端に少ない中で、探索者(シーカー)たちは最前線に立ち続けざるを得なかった。

 

ルアは復興作業の間も、時折、その瞳を真っ赤に染めていた。

 

「意識はちゃんとあるから、怖くないよ。むしろ、力が身体の奥で冴え渡っている気がするんだ……」

 

そう言って、ルアは笑った。泣いているのか笑っているのか分からないような、危うい表情のまま、人間離れした膂力で巨大な瓦礫を持ち上げていた。ガーランドの死を糧にして、バーサーカー化を我が物とした赤の支配(ドミネーター)の力。それは消えない喪失の傷跡そのものだった。

 

 

街の復興が一段落した頃、探索者ギルドから通知が届いた。

 

内容は、深淵大陸へ渡る公認の証——微色(ティント)に昇格するための黒色試験の案内だった。

 

「今回の西ケレ遺跡の魔放出と、この王都急襲によって、内陸最高位の深紅(ドレー)微色(ティント)といった高位の探索者が多数戦死、あるいは負傷離脱してしまいました」

 

受付嬢が、重苦しい面持ちで書類を差し出した。

 

「そのため、探索者(シーカー)の本業たる深淵大陸攻略のために不足した戦力を補填する臨時措置として、群青(ルーブ)まで参加できる一斉昇格試験が開催されることになりました。異例の王命です。ただし、深淵大陸とは正に死と隣合せであることは言うまでもありません。本試験でも、命の保証はないことはご理解ください」

 

今回の騒動で高位の探索者(シーカー)が死に絶えたからこそ設けられた、泥縄式の救済策だった。

 

 

その夜、スルギの屋敷で、同じく受験資格を得ていたクオンを交え、四人で話をしていた。

 

「……本当に受けるか?」

 

リツは集まった三人の顔を見回した。ただのゲームじゃない。ガーランドを失い、王都が壊滅的な状況となり、心に傷を負ったリツたちに、あの過酷な世界で生き残れるのか。重い沈黙が場を支配した。

 

「……私は受ける」

 

最初に口を開いたのはルアだった。

 

「改めて、強くならないといけないと思った」

 

赤い目を静かに見開いて続ける。

 

「師匠に、卒業試験だと言われたから。ここで止まったら、怒られちゃうよ」

 

スルギとクオンが目を合わせて、静かに頷いた。

 

「黒色試験を突破して、深淵大陸に行こう」

 

リツは自分の手を見つめた。まだ微かに震えは残っている。だが、ここで引く選択肢なんて、最初から存在しなかった。

 

 

深夜。

 

崩れかけた外城壁の瓦礫に背を預け、冷たい夜空を見上げていると、足元に黒猫がするりと擦り寄ってきた。

 

「ステラ」

 

ガーランドを失った日から、ステラはいなくなっていた。声をかけると、人間の姿になった。

 

「ステラ……一体、何者なんだ?」

 

ステラはため息をついたが、覚悟を決めてきたような表情でこちらに向き合った。

 

「もう……戻せない所まで来たからね、リツ。ちゃんと話そうか」

 

重苦しい沈黙の後、ステラはゆっくりと口を開いた。

 

「考えてみて、リツ。ナビゲーターというのは本来、ゲームの狭間にしか存在しない記号だろう。ゲームのキャラクターでもないし、操作されるキャラクターでもない。この世界では、そういった存在自体が異質なんだよ。生身の人間が生きるこの現実に、当たり前に存在しているはずがない存在。だから、ステラというキャラクター自体が、この世界にいること自体が不自然なんだよ」

 

ステラは淡々と、だが決定的な事実を突きつけてくる。

 

「私はナビゲーションキャラクターのステラじゃないんだ。ステラの真似事をしていたんだよ。私は……天使の精霊の残滓、いや成れの果てだね。この世界を終わらせるため、天使に遣わされ、黒猫のセーステスとして精霊変体していたんだよ」

 

「天使の精霊……セーステス……」

 

「リツ。自分がゲームの知識を使って、一度も死なずにここまで効率よく進んできたと思っているでしょう?」

 

ステラの言葉が、冷たい刃のように胸に突き刺さった。

 

「刃コウモリに首を撥ねられた時も。魔女の隠れ家の奥に進み、巨大な鎌の罠に魂を引き裂かれた時も。ミノタウロスの迷宮で真っ二つに切り裂かれた時も……あなたは、現実の戦闘の重さを御しきれず、何度も確実に死んでいました」

 

頭の中が、真っ白になった。

 

「不快なノイズのような音が聞こえたことがなかった? あれは、あなたが死ぬたびに、私の精霊としての力で強引に時間を数秒だけ巻き戻して、あなたの運命を書き換えていたのです」

 

知識があるから、自分は上手く立ち回れているのだと慢心していた。

 

違う。何度も無様に殺され、そのたびに、目の前の少女に助けられ、やり直しボタンを無理やり押させていただけだった。

 

「僅かな干渉であれば、ああやって助けることもできたけれど、西ケレ遺跡の件で干渉しすぎたわ。もう時を戻す力もほぼ効力を発揮しないと思う」

 

「だから、何度も確認したの。もう……戻せないところまでシナリオは変わってしまった。そして、これから先は、もう死んでもやり直せない。その中で、クリアをしてもらわないといけない。……リツ、あなたは本当に、自分の足で戦えるの?」

 

知らず知らずのうちに支えられていたことへの無力感と、それでも西ケレで芽生えた「自分でこの世界で道を作っていく」という気持ち。その二つが、リツの中で静かにせめぎ合った。

 

深く息を吸い込み、震える拳を強く握り締めた。

 

「……やるしかないだろ。俺が狂わせた世界だ。俺が、最後まで責任を持つ」

 

ステラは何も言わなかった。ただ、ほんの少しだけ安心したように、小さく頷いた。

 

ピコン、と冷徹なシステム音が、頭上に冷たく響き渡った。

 

◆――――――――――――◆

【 メインストーリー 】

『黒色試験』 開始

◆――――――――――――◆

 

メインストーリー達成率:16%

◆――――――――――――◆




毎日21時更新です。次話もよろしくお願いします。

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