第24話 西ケレ侵攻
久々に戻ってきた王都は、少し騒々しくなっていた。
探索者ギルドに顔を出すと、想定通り、王国騎士団が西ケレへの大規模侵攻を予定しており、第二位階を超えている探索者を百人規模で募集しているとのことだった。リツにとっては、想定よりもいい状態で準備ができていた。
当然、参加の意を示し、数日後の招集に向けて控えた。
◇
集合当日、王都の門に向かうと、見知った顔がいくつもあった。
「おう、レイア。リツも、たくましくなったな」
ビルノードンが最初に気が付き、声をかけてきた。
「リツ、久しぶり。ちゃんと訓練してたみたいだね」
そばに、スルギと、その横に年齢が近そうな女性も立っていた。日本の和装のような服装をしている。ゲーム内で名前は知っていたが、念のため挨拶をした。
「スルギ、久しぶり。あと、はじめましてですよね」
「初めまして、クオンと言います。リツさんですね、ルアさんから聞いています」
丁寧だが、決して気を許してはいないような雰囲気だった。
スルギがバっと肩を組んでコソコソと話し出す。
「クオンが僕と一緒に師匠に師事している片割れだよ。気が強いから気をつけて」
振り向くと、クオンが作られたような笑顔のまま話しかけてくる。
「スルギ。また適当なこと言っているでしょう? また、わからせないとわからないの?」
物騒である。スルギも居場所がなさそうに「ごめんごめん」と言って小さくなってしまった。
「ルアとは一度一緒に魔窟に潜っていたから、三ヶ月ぶりなのはリツだけだよ。また色々聞かせて」
話を聞いていると、ルアとスルギとクオンは一度二色魔窟に入るときに合同しているらしい。五人で潜っており、一回目はパーティの一人が大型負傷して離脱・失敗。二回目がこの西ケレ侵攻の直前でギリギリ成功したばかりだとのことだ。スルギとクオンは仲が悪いらしいのだが、スルギのおおらかさとクオンの実直さのかみ合わせが悪いためだとのことだった。
「ルアは?」
「ルアは今回の侵攻には不参加だって。神聖教会が参加するから、ガーランドに止められているらしくてね。王都でお留守番だよ」
「……なんだって」
(またシナリオが変わってしまっている。ガーランドのもとで一緒に修行をしていたなら、本来はこの西ケレ侵攻に一緒に来ていたはずなのに)
(ガーランドの近くに残る、か。逆にガーランドがそばにいるなら、万が一のときは大丈夫かもしれない)
そう自分に言い聞かせながら、出発の時間になった。
王国騎士団の説明が始まった。
「探索者のみんな、今回は参加ありがとう。現王国騎士団長のカラック・グローリア。通称ケイ・ジーだ」
「西ケレ地方にあるサーザリーという都市の近くで、遺跡が見つかった。この三ヶ月間探索と対応を重ねてきたが、ついに『魔放出』が発生してしまった」
周りがざわめいた。リツの中でも、嫌な感触が走る。
魔放出。モンスターが大量に溢れ出す事態のことだ。遺跡級の脅威から起きた魔放出となれば、被害は相当なものになっているはずだ。
「シナリオが変わりすぎている」
思わず呟いていた。
「サーザリーにも被害が多く出ており、一度は追い返しているが早期の対策が必要なため、王国の戦力をできる限り集める形で依頼をさせてもらった。是非力を貸してほしい。ここからは十日間ほどの行程を経て、到着し次第直後に対策に当たる」
約百人の探索者と王国騎士団、神聖教会騎士の面々で、侵攻が始まった。
◇
不安を抱きながら十日間の行程を経て、サーザリーに到着した。
西ケレの都市サーザリーは、もともと鳥人類が多い場所だ。大木のある大きな森なので、木の上に家を設けることが多く、とてもきれいなエリアだったはずである。
だが、想定していたきれいな町並みは戦火に飲み込まれ、影も見ることができなくなっていた。
「そんな……」
何本もの焼けた木や建物と、負傷した鳥人類や人々。すさんだ目をしている被害者たちが多くいた。
「深紅の冒険者も何人も死んだらしいぞ」
「微色の大槌ゴルディフやジンのいた烈火旋風のパーティも丸ごとダメだったらしい」
「鳥人類の飛機動部隊も、救助の最中にだいぶやられたらしい」
目の前に広がっているこの惨状は、ゲームにはなかった光景だ。知っていたはずの世界が、知らない形で壊れている。
「なんで……こんなにシナリオが変わってるんだ」
黒猫の姿のままいたステラが、静かに顔を背けた。
◇
翌日から探索を開始するとのことで、夜、ステラに話しかけた。
「ステラ、ゲームでは魔放出があるのって、到着後じゃなかったっけ。こんなことなかったよな……?」
ゲームのシナリオ通りであれば、リツたちが到着した直後に魔放出が発生し、確かにサーザリーは被害を被るのではあるが、到着した騎士団や探索者によってここまでの被害にはならない認識だった。
「はい……リツ様。世界は少しずつシナリオが変わっています。できる限りストーリーに忠実になさるのが良いかと思います。シナリオと違ういくつかの行動が重なると、大きな変化に繋がっていくのは間違いありません」
遠回しに言われているが、これまでのことを繋げれば分かる。自分が選んだ選択肢でシナリオが変わったのだ。
(じゃあ……俺が……これを)
どこまでが自分のせいなのか、わからなかった。魔女の家の扉を開けたこと。センテの店に足を踏み入れたこと。それらが本当にここに繋がっているのか、繋がっていないのか、証明する方法がない。もしかしたら、何もしなくてもこうなっていたかもしれない。だが、もしかしたら、という言葉は、目の前の崩壊した景色に対して、あまりにも軽かった。
「今からでも遅くありません、これ以上はシナリオの通りに……」
「もう取り返しがつかないくらい変わってるじゃないか!」
大きな声が出てしまった。ステラは目を伏せたまま黙っている。
しばらく、沈黙が続いた。
焼けた木の匂いが、まだ空気の中に残っていた。
「……ごめん」
リツは、ステラではなく、暗闇の向こうを見ながら言った。
「これ以上は見ていられない」
ピコン、とシステム音が鳴り響いた。
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メインストーリー達成率:11%
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