第23話 バトラー&メイド
その後は、レイアと二人で、西回りに大陸の中央まで行き、中央国ドランドに向かってから王都に戻ることにした。
あと一日でドランドに着く予定の野営で、いつも明るいレイアが少ししんみりした顔で話し始めた。
「ダークエルフって小さい頃は迫害された時もあってね。シーカーになってからはそんなことなかったんだけど、やっぱり最初は人付き合いも難しかったときに受け入れてくれたのが前のパーティーだったんだよ」
「前さ、集落で緊急要請のときにリツが飛ばされてきたことあったでしょ?」
「レイアさんが間一髪で助けてくれたやつですね」
「そうそう、でも私からすると、助けに来てくれたのかなって思ったの。想像してたよりびっくりするくらいシーカーになりたてで弱かったけど、嬉しかったんだよね」
「実はあの時、周りのみんなが死んでいったのはわかってたから、絶望して動けなくてさ。もちろん敵がいたのもあったんだけど、気持ち的に再起できそうになくて」
「そのあとも、生き残ったエルフの子覚えてる? あの子も病んじゃって、もう冒険者も無理かなと思いながら図書館行ってさ、そこでまたリツにあったんだよね」
「そうだったんですね……」
焚き火の光が、レイアの横顔を照らしていた。いつも飄々としているのに、今夜は少し違う。
「こうやって一緒に冒険できて嬉しいよ」
レイアがこちらを向いた。焚き火の光の中で、その目が真っすぐにリツを見ている。
目が離せなかった。
レイアも、視線を逸らさなかった。どちらも何も言わないまま、気づいたらレイアとの距離が縮まっていた。あと少し、というところで、レイアの目が少しだけ細くなった。
にゃあ。
小さな声がしてはっとした。二人の後ろで、暗闇の中で黒猫が尻尾をゆらゆらと揺らしている。
レイアが小さく噴き出した。
「ふふっ、この黒猫さんはずっとリツに懐いてるわね。なんか色々語っちゃったね。明日はまた街に入るわけだし、頑張っていこうか。じゃあまた明日。お休み」
レイアが立ち上がり、テントの方へ歩いていった。
リツはしばらく焚き火を見ていた。隣でステラが尻尾をゆらゆらとさせている。
今の出来事を思い返して、恨めしそうに黒猫を見返したが、黒猫は無表情のまま前を向いていた。
◇
中央国は住居が非常に多い国だった。片側が山になっているのもあるのかも知れないが、洞窟のような家もあり、多くの人が暮らしているのが見えた。
「ステラ!! 頼む!! お前しかいないんだ!!」
「リツ様、私はナビゲーションキャラクターです。ゲームへの介入はできかねます」
「そこをなんとかあああ、その姿でいてくれるだけでいいからあああ」
「難しいです」
「フフ……このネチェの実で作られた最高級のスイーツをご用意したのに……?」
ステラが一瞬だけ好奇に満ちた目をしたあと、キッと冷静を装い向き直った。
「はい、シナリオに影響を及ぼすことを助長できません」
「シナリオに影響って言っても、そんな大したことじゃないだろーーーどうしてもほしいんだよおおお。やり方は全部説明するからああああ」
伝家の宝刀、土下座スタイルで頭をこすり続けて何度もお願いをし続けると、ステラが折れた。
「はあ……分かりました。では、こちらの姿で、参加の届け出はしていただいても結構です」
中央国といえば、ゲーム内でもミニゲームとして最高に人気を博したイベントがある。
『超高級カジノの「給仕係(バトラー&メイド)」潜入ミニゲーム』だ。
中央国には大陸一番のカジノ「パラパラパラダイス」がある。このカジノには目玉景品として「キンピカカード」という傾国級のアイテムがある。名義人のレベルに応じて一定の支払いが自由にできる、いわばクレジットカードのようなものだ。手に入れられれば、実質的には金策に困ることがなくなる。
これを入手するためにはカジノで一億パラパラ(カジノ通貨)まで貯めなければならないが、それとは別に、ミニゲームイベントを最後までクリアすることでもゲットすることができる。ただし、男性・女性混合の合計三人でないと参加自体ができないというゲームのため、ステラに懇願していたわけだ。
このイベント自体はゲームの本筋とは関係ないが、異様に作り込まれたゲーム性があり大変人気だった。いわゆる配膳ゲームで、新米アルバイターからレベルが十段階あり、最後の十段階目は裏社会のボスたちのいるフロアで一つもミスができない緊迫感でスピードが求められるというものだ。
「レイアさん〜、一人見つけました! 一人で冒険者をやっているステラという子です。ちょうどお金にも困っていたみたいなので、ぜひ!」
「よろしくお願いします」
「よろしく! 可愛らしい子ね! あら、獣人族? 猫かしら?」
「はい、そうです」
「リツは猫に好かれるわね」
(バレたのかとドキッとしたが、女同士で仲良くやりましょうということで何やら楽しく話しているようだ)
「それではやりますか、題して『パラパラパラダイスでイケイケ給仕大作戦』」
「なんかダサいかも」
◇
翌日。
「君たちがアルバイトかい。ここはたくさんの給仕が働いているからね。よろしく頼むよ。ではこれに着替えて」
ガチムチの社員のような人に案内され、タキシード姿に着替えて、フロアに出て少し待っていると、恥ずかしそうなレイアと無表情なステラが出てきた。
バニーガールの姿で。
「可愛いけど、恥ずかしいわね」
「レイアさん可愛いです!!」
「ありがと、ステラちゃんも見てあげて」
「ステラも……おお、とてもいいと思う……」
猫耳、尻尾、バニーガールの姿はなかなかの破壊力だ。
「遊びじゃないんだ、行くぞ」
ガチムチに連れられて、まずは一つのポーカーテーブルを担当することになった。この辺りは余裕だ。リツがディーラーとして回し、レイアとステラが配膳などを担当する形だ。
しばらくすると声がかかり、横のテーブルも、フロアもと見ていくようになった。レイアは持ち前の明るさと素早さで、ステラも機械のようにサクサクと進めてくれており、進行は上々だ。
ポイントを抑えているため、だいぶサクサク進み、あれよあれよという間に、一フロア、VIPフロアと駆け巡っていった。
そして、最後の裏VIPフロアの管理を任せられることになった。
「ゴンドー様、こちら当カジノでも非常に優秀なバトラーとメイドの給仕係になります。引き続きごゆっくりお楽しみください」
「おぉ、楽しませてもらうわい」
裏マフィアのゴンドーはあるタイミングでイカサマを挟んでくる。給仕を完璧にこなしながら、イカサマを止めることでオールクリアとなる。一度でもミスると最初からやり直しというクソ仕様だが、リツは完璧に見抜いている。
「ゴンドー様、そちらにお持ちの手を開いていただいてもよろしいでしょうか?」
「あぁ? 何の言いがかりだ?」
「おそらく、そちらの手にカードを隠し握られていると思われるので、確認させていただけますか?」
「ほぅ、俺がイカサマしているってことかあ? 覚悟できているんだろうな?」
「はい」
「……ッチ、バレたか。おい逃げるぞ、やっちま……」
ドーン。
ガチムチの社員のような人が、ゴンドーの舎弟をグーでぶっ飛ばしていた。(レベル65だもんな、なんでこんなところにいるんだか)
「クッソ、おい、このバニーころすぞ!!」
近くにいたステラを人質に取り叫ぶゴンドー。
レイアが後ろから銀のお盆を投げた。だが、ゴンドーの前でお盆は弾かれた。
「組織のトップだぞ? そんな見え見えの攻撃が効くわけないだろう」
ジリジリと出口に向かうゴンドーにどう動くか考えあぐねていたその時だった。
ステラが、ため息のようなものをついたかと思うと、目にも止まらぬ動きでゴンドーの手をひねり、足払いをしたうえで、掌底でゴンドーを吹き飛ばした。
ゴンドーは壁に当たってボテッと落ち、意識を失った。
「えぇ……」
呆然とするリツとレイアをよそに、ステラは社員に向かって「これでよろしいでしょうか?」と問いかけた。
「あ、あぁ、大丈夫だったか? ありがとう。イカサマの可能性もあったが、バレなければイカサマも指摘できないからな。これまでのことを考えると値千金だよ。助かった。よく見抜けたな」
バーンとドアが開き、金髪にピンクのスーツを着たテカテカなおっさんが登場した。
「オーナー!」
「見ていたよ、ありがとう。私はオーナーのパラパラだ。素晴らしい給仕係たちにご褒美を上げよう。そうだな……何がいい?」
「景品の『キンピカカード』がほしいです!」
「ふぅむ、良いだろう。あれを上げよう。あとは心配をかけてしまったその女性二人には、こちらをプレゼントしよう」
従者が大きな箱を二つ持ってきた。レイアには「灼熱のドレス」、ステラには「黒猫の踊装束」というそれぞれドレスが入っていた。
「なんかちょっと露出が多いけど、良い装備ね……」
「いつでも来てもらえれば、特に女性なら服は見繕ってあげよう!」
「ありがとうございます……」
変態オーナーに引きつつも、目当てのものを手に入れることができた。
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