第22話 脱出
直後、ゴーンという音とともに、剣を二本持った細身のミノタウロスの銅像が降ってきた。ヂッヂッヂという音とともに周りの石が剥がれていき、大きな雄叫びとともにリツに突進をしてくる。
タイミングを合わせて、二体目のミノタウロスの足元に向けて空間包囲網を展開するが、一体目のミノタウロスよりも遥かに身軽なため、包囲網を回避して襲いかかってきた。
リツは連続して、小規模の空間包囲を連続で展開し、回避に努める。
「くっそ……本当に魔連の指輪のおかげだな……」
そう思ったのもつかの間、遠くから回転した斧が投げられてきた。
間一髪かわしたが、その先で片腕のないミノタウロスが右手を地面につき、身体全体を放り出す形で突進してきた。
リツは避けきることができず、クリーンヒットし、背面の壁にぶつかった。
「グッ……」
かろうじて意識は保てているが、身体に力が入らない。突進してきた一体目のミノタウロスは最後の突進だったのか、そのまま力尽きている。
そばにステラが駆け寄ってきて、じっとこちらを見ているが、どうにもならない。
再度飛び出してきた二体目のミノタウロスが剣を携え、リツとステラめがけて向かってくる。
眼の前で、ステラがため息をついたように見えた。
ジジジ……。
何度目かの耳鳴りがした。その直後に、背筋をゾクッとした感覚が走り、フッと身体が軽くなった。なにが起きたかと考える間もなく、意識が鮮明に戻ってくる。
立ち上がり、その場で、次々に小さな空間包囲網を連続で展開しながら、二体目のミノタウロスを翻弄し続ける。だが、これも軽々と回避して迫ってくる。まもなく、リツの至近距離まで詰め寄ったミノタウロスは勝ち誇った顔をしてゆっくりと剣を振り上げた。
「道を作ったんだよ」
その直後、一体目が持っていた巨大な斧が落ちてきて、二体目のミノタウロスが真っ二つになった。
少し停止したかと思うと、グシャリと巨体が崩れ落ちた。
「ふぅ……これで倒せてよかった」
空間包囲を展開しながら、巨大な斧を上空に移動させ、タイミングを合わせ、二体目のミノタウロスに落としたのだった。
鉄板の落ちてくる音も止まり、静寂がやってくると同時に、周囲のモヤも晴れ始めた。付近のモヤの先に鈍色に輝く宝箱のようなものも出現している。開けると、お目当ての地図のようなものを手に入れることができた。
「ふぅ、一件落着ということで戻りますか……」
ちらっとステラを見ると、尻尾をゆらゆらとさせながら、遠くを見ていた。
そこで気がついた。鉄の壁は消えていない。モヤは晴れてきているので、戻り穴はもう形成されているはずだ。早く戻らないと、戻り穴が消えてしまう。
「ヤバい……!」
(ゲームなら勝手に転送してくれていたのに、現実だとこうなるのか)
急いで来た道を戻り始める。戻っていく先も分かれ道が数回あり、道も新しくできているのだろう。数回進んだ先で広いエリアに出たと思ったら、さっきのミノタウロスがいたエリアに戻ってきていた。
「ま、まじかよ……積んだ……」
「リツ!」
向こうから巨大な矢印のようなものを持ったセンテの姿が見えた。
「センテ! やばい、間に合わない!」
「早く来い! レイア次第だが……一気に戻るぞ!」
センテのもとに駆け寄ると、センテが片手に持っていた糸がリツの身体に巻き付いた。そして一気に強く引っ張られた。
「おおおおおおおお」
あっという間に景色が通り過ぎていき、気づいたらドサっと地面に投げ出されていた。
「早く、閉じる! 行くよ!」
よろよろと立ち上がると、レイアが戻り穴の前で待っていた。急いで全員で駆け戻った。
◇
戻れたのはいいが、突然のことで世界がグワングワン揺れている。
「大丈夫?」
レイアがかがんで覗き込む。
「説明しておくと、モヤが晴れてきたから識異点魔獣を倒したのは分かったんだが、迷宮はそのまま。リツだと戻り穴まで戻れないだろうと思って、『繋ぎ糸』を持ってレイアに戻り穴を探索してもらったんだよ。繋ぎ糸は先端を持っている者同士を引き合わせることができる魔道具だね。で、僕の方は『方位矢印』でリツを探しに行ったってわけだ。会えてよかった。ちゃんと地図は手に入ったか?」
「あぁありがとう……ヴェエエ。ほらこれ……」
少し休んでから帰路についた。
◇
「それにしてもよく倒せたな、真っ二つになってたけど」
「だいぶ危なかったんだけどね……やっぱり第六感ってやつなのかな。吹き飛ばされて危なかったんだけど、一気に頭が冴えて空間包囲網がうまく使えたんだよ」
「空間魔法もだけど、その演算能力がすごいな……」
(なるほど。空間把握の精度が高いからできたのか。危なかった)
「それで地図はどうなんだ?」
「あぁ……満月が出ていて干潮の夜に浜辺でこの地図を照らすといいみたいだね」
特に説明文が書かれているわけではないが、ゲームどおりだとそういうギミックになっているはずなので、そう説明した。
「なるほど、じゃあタイミングは少し先だな」
「たしか次は遺跡扱いだから、もっと準備しないと危ないと思う」
「遺跡か、じゃあもう少し強くなっておかないとだな」
「そうだね、でもこれでようやく第三位階になったと思うよ」
「この短期間で第三位階……まともじゃないな……」
「え、あたしもうすぐ追いつかれるじゃん……」
「レイアさん第四位階に入ったばかりって言ってましたもんね。でも、レイアさんもだいぶ錬成できるようになったでしょ?」
「そうね。複雑なものまである程度!」
困難はたくさんあったが、結果的には想像以上の成果を手に入れることができた。
「このあとはどうしようか?」
「西ケレ進行までまだ時間があるから、装備でも整えにいこうかな」
「遺品か?」
食いついたようにセンテが口を挟む。
「いや、遺品があるところ特定はできないから、あるかもしれないけど……」
「まあそうか……では私は一度戻るよ。レイアの修行もそこそこだろうし、西ケレ遺跡も興味があるが、大規模侵攻は知っているやつもいそうだから参加したくないしな。深淵大陸の仲間のこともあるので」
「分かった。というか、センテって仲間とかいたんだね?」
「ああ、言ってなかったか」
そう言って、にやりと笑って続けた。
「ディランセフといえば分かるかな? あいつは問題が色々多くてね。どうせ定期的に休憩が必要だから、次はまた干潮の時期くらいに戻ってくるから強くなっててくれよ。まあ、今回は面白い弟子が二人もできてよかったよ。それでは」
そう言い残して、ビューっと飛んでいってしまった。
「……いまディランセフって言ったか? ノワール11人の最強ディランセフ……? ってことはその従者って言われてるのがセンテってこと?」
「とんだ大物じゃない……」
毎日21時更新です。次話もよろしくお願いします。




