第21話 迷宮
そう言いながら、センテが用意してくれたご飯をかきこんで、じゃ先にとそそくさと宿を出た。
門の方に向かうと兵が何人もいたので、似顔絵だとバレることもないかなと思いつつ、雷身体になって門を登って外に出た。
大きな石のところで数十分ほど待っただろうか。チラホラと人の往来がある中で、街から大きな馬車が出てこちらに向かってくるのが見えた。リツが待っているのは王都方面なので、王都に行くのだろう。
だんだんと近づいてくると、掲げている旗からして、聖教会の馬車だとわかった。
(やばい……隠れるところもこの岩くらいしかないし、今動いたら絶対怪しまれる)
そのまま石に座ったまま動かずに待っていると、聖教会の人々は一瞥してから素通りしていった。
通り過ぎる際に、揺れたカーテンの隙間から、昨日の女性が乗っているのが見えた。
(あっぶない……! 気づかれなくてよかった。そしてやっぱり偉い人なんだ、王都に行くのか)
それから少しして、センテとレイアが街から出てきた。
「どうやら聖女様が本当にいたっぽいよ。もっと早く出れたんだけど、規制で出れなくて時間かかっちゃったのよ」
「え……じゃあやっぱり昨日のは聖女様だったんだ……」
「聖女様に会えるなんて幸運だったな。聖天魔法の担い手として選ばれてるから、お高い金額を払って治療を受ける貴族が多いんだとか。でも、聖教会本山から出てこっちに来てるなんて珍しい」
*
そんな話をしつつ、センテとレイアが取ってきてくれたクエストの魔窟に向かい、これも難なくクリアできた。
「これでようやく三つ目ね。どう?」
ステータスを確認すると、レベルが20まで上がっている。第二位階に到達できたようで、ふっと身体が軽くなる感じがあり、力が漲っている気がする。ステータスボードを見ると、新しく空間包囲を使えるようになっていた。
「順調そうだよ。第二位階に上がったと思う」
「よかったな。一ヶ月も経たずにここまでこれるなんてすごいもんだろう。では、昨日の紫色魔窟に行こう」
センテは早く行きたそうにしている。
「ちょ、ちょっと待って。マジで死にかねない。考えがあるんだ。一週間だけ、付き合ってくれないか?」
レイアとセンテを連れて近郊の森に向かった。
目当てはドッペルダンサー。ゲームでも出現率が低く、長時間粘っていた記憶がある。一見するとただの鏡面質の魔獣だが、空間に閉じ込めると内部で自己増殖し、お互いを攻撃し合う性質を持つ。放置しておくだけで経験値が積み重なる、効率の塊のような魔獣なのである。
空間包囲を練習しながら三日間粘ると、ついに遭遇することができた。ひたすら包囲を維持し続けると、中でじわじわと増殖が始まり、MPが尽きたらセンテからもらった回復薬を飲み、ひたすら繰り返した。
そして、一週間後、ステータスを確認するとLv.29になっていた。
二色魔窟をクリアすると、第三位階に上がることができるため、正にちょうどよい状況が作れたわけである。
「やることがえげつないな……」
時々様子を見に来ていたセンテが素で引いていた。
そして、センテに「待ちくたびれた」と押し切られる形で、いよいよ力と仕掛けの紫色魔窟に突入することになった。
*
洞窟内は特に変わったこともなく通り過ぎて識異点に到達した。だが、転移すると、珍しく地面が石畳のようになっており、室内のような空間が広がっていた。天井も側面も全く見えないため、はっきりと室内なのかは判断がつかないが、少なくとも相当広い空間にいるのだろう。
中心にミノタウロスのような鉄像があり、遠目に見る感じ固まっているようだが、手には鎖に繋がれた鉄球と斧を持っている。
「うわ……マジか……これはヤバい」
「リツ、なにか知っているの……?」
ゴーーーーーン。
突如、鐘のような音が鳴り響き、全員ビクッとする。見上げると、頭上に空を覆うような巨大な時計盤がこちらを見下ろしていた。
僅かな沈黙が訪れたあと、「ヂッヂッヂッ」という鈍い音を出して、時計の秒針が動き出した。
ヒュー……ドーーーンッ。
秒針が五秒経過したタイミングで、後ろでとてつもなく大きい音がした。振り向くと、三メートルくらいある大きな鉄の板が落下してきたのだとわかった。それと同時に目の前のミノタウロスが動き出す。
「気をつけて! 五秒ごとに、迷宮が出来上がっていくはず!」
見覚えのある状況を踏まえて、リツが呼びかけた。
ミノタウロスに対してはまずは様子見と距離を取っていると、持っていた鉄球を回し始め、振り回してきた。わかりやすい振りかぶりのため簡単にかわせたが、気配察知に頭上からの落下物が感知され、慌てて横に飛び抜けることになった。
直後にまたドーーーンという音がして、リツがいた位置に巨大なブロックが落下してきた。
「危ないですね。あの牛もたぶん狙って攻撃してきてるみたいですし」
「そうだね、ブロックは察知できるけど、あの牛が捉えられない。何か阻害されてそう」
直後に板の横から、ミノタウロスの持っていた鉄球が迫ってきた。
「うおっ器用だな……」
(ゲームでも鬼ほど苦戦した覚えがある)
「ミノタウロス自体は魔法は氷属性しか効かないはずです! あとは物理攻撃は効きますが相当硬いです!」
「氷魔法は僕が中級までなら使える!」
「では私とレイアさんで撹乱しながら、センテの魔法で徐々に削っていきましょう! あとはとっておきの裏技があるので、広い空間まで誘導しましょう!」
とりあえず落ちてくる板と鉄球を避けるのに集中しながら先へ進む。
「あと、早く倒さないといけません! 分針が十を刻むと……」
まだ板が落ちていない広いエリアに出ることができたが、今度は牛がいない。
と思った束の間、眼の前の暗闇から今度は斧が回転しながら飛んできた。避けるため横に飛び出したが、スレスレすぎて持っていたカバンに当たり、カバンがちぎれた。中に入っていたアイテムと黒猫姿のステラが飛び出す。
直後、ミノタウロスが目の前に現れ、ステラに襲いかかった。
「やめろ!」
飛び出しながら、ステラと自分の前に空間魔法を展開。斧の一振りで空間魔法は破壊されたが、反動でぎりぎりかわすことができた。
「ステラ、大丈夫か!?」
ステラは無表情に頷いた。
土埃が収まり顔を上げると、レイア・センテがいた方向に、間を二分するように大きな板が落ちてきていた。
「マジか……なるほどね……さすが悪意」
「レイアさーん、センテー、大丈夫ーー?」
恐ろしいほどに音が聞こえない。ヂッヂッヂという秒針音と、定期的に発生する迷路が出来上がっていく音以外は聞こえない。
(マジか……リアルだと難しすぎるだろ……とりあえず早く合流しないと)
先に進みだすと、猫の姿のままのステラが後ろについてくる。
角を曲がろうとするとミノタウロスが斧を振り下ろしてきた。間一髪で雷身体になって避ける。
「……こっちにいるのかよ!」
迷宮が完成されつつあるためか、すでに鉄球は持たず、斧だけを持って振りかぶってくる。大ぶりのため簡単には当たらないが、合間で短剣で切りかかってもほぼ傷がついているとは言い難い状況だ。
「やばい、早くしないといけないのに」
ミノタウロスの間を通り抜け、迷宮の先に向かって走り出した。途中からミノタウロスも四足歩行で、都度壁に激突しながら追いかけてくるが、ギリギリで避けていく。
だいぶ先に行くと、まだ壁が落ちきっていないエリアになってきた。
「一人でやるしかない」
ミノタウロスが再度斧を掴み、振り回して連撃をしてくる。適宜かわすがギリギリだ。横目で頭上の秒針を見ながら、秒針が五を叩くのに合わせて、ミノタウロスの足元に向けて空間包囲網を展開した。
ミノタウロスがバランスを崩し、倒れた瞬間、上から鉄の板がミノタウロスの左肩に深く突き刺さる。
ギャアアアアアという声を出したが、再度立ち上がってくる。
「くそ、仕留めきれなかった……やばい」
その直後、二度目の鐘が鳴った。頭上を見ると、分針が十を刺していた。
「……やばい」
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