第20話 シューティングスター
「サーンの商業ギルドは今日も賑わってるねえ。さすが中毒性マックスのギャンブルギルド」
人だかりができているところを見ると、現代で言う射的ゲームのようなものに大勢の人が集まっていた。
「うおおお、懐かしい。このミニゲームこっちにもあるんだ」
「お、リツはどこかでやったことあるの? 難しいんだよねえ、大体全然当たらないんだよ」
「ちょっとやってみたいな……これ景品何?……え! 雷身紋!?!?」
「いいけど、雷身紋はスコア100点でもらえるものだから全然取れないよ。今まで歴代でも100点はいないんじゃない? 大体40点くらいの商品が取れたらラッキーくらいで……」
「任せて! 次、俺がやる!」
(ゲーム内にいくつかあるミニゲームもスコア100点までやり込んでいたリツには、どのゲームにもコツがあるのが分かっている)
チャララララ〜と陽気な音楽とともに、様々な大きさの魔獣の絵をかたどった画像が動くところを、銃で狙っていく。ズッタズッタというリズムに合わせて上下に撃ち抜く。そして最後にシュルルルル〜ドン……パンというリズムで、フィニッシュ。
画面全体がピカピカ光り、スコアは100点と表示された。周りにいた観客が一気に盛り上がった。
「うぉおおすげえな兄ちゃん!」「スコア100なんて本当に出るんだな!」「美しい。華麗なリズムの少年だね」
口々に盛り上がる人々に囲まれ、アンコールをせがまれた。
「ギルド職員さん、これもしまた100点だったら何か商品あるの?」
「いえ……今すぐにはないので、下位商品から選んでいただくしかないかと……」
「そうしたら、もし100点出したら二回分チャラにしてね」
「それで良ければ……分かりました……」
そして、再度100点を叩き出し、「シューティングスター」というあだ名で呼ばれることになった。
*
「おい、シューティングスター、気をつけろよ。超有名になってるし、雷身紋なんて高価なもの持ってるのみんなにバレてるから、悪いやつに絡まれないようにな」
「その呼び方をやめろ! もうそのへんのやつに追っかけられても、雷身体になるから大丈夫だよ!」
雷身紋は一定期間電気をまとった身体になる。高速移動、感電、疑似電気魔法が使えるスグレモノだ。
「まあでも気をつけなよ。絡んでくるのが悪いやつだけとは限らないから。特にソーンは……」
「え、それどういう……」
「まあまあ、それはそれで楽しければいいんじゃないか。じゃあ明日は一旦各々自由行動ってことで。僕はもう帰るよ」
「あ、じゃあ私も」
全員で店を出たが、リツは微色の二人とは資金状況が違いすぎて安い宿にしていたため、繁華街から離れて一人で向かうことになった。
ほろ酔いでいい気分だったので気を抜いていると、気づいたら周囲にたくさんの人影がいるのに気がついた。やけに照明が明るいエリアなので逆光でよく見えないが、囲まれている。
「言ってたそばから……何だお前らは!」
「クックック」
「何だお前らは! だってーーーかわいい〜〜〜〜〜〜〜〜」
一歩踏み出してきた二十名くらいの人影は、全員きれいなドレスを身にまとった……お姉さんたちだった。
「な、なにぃ!!!!!!!!!」
「あなたがシューティングスターでしょ? かわいい顔してる、私の店来ない?」
両サイドから寄り添ってくる。最高ではあるのだが、元の世界でも、雰囲気で入ったお店でぼったくられた経験があるリツは危険な匂いを敏感に感じ取った。
「大丈夫です大丈夫です! またぜひ!」
と言いながら小走りで通り抜けていくと、段々と毛色が変わったオネエさんたちが登場してくるようになった。
「あなたがシューティングスターでしょ? かわいい顔してる、私の店来ない?」
言っていることは同じだが、声が太いし身体がムキムキすぎる。
通り過ぎて逃げようとするが、先程のお姉さまたちと圧が違う。ほぼ追いかけられている。
「ちょっと〜いいじゃないのよ〜」「待ちなさいよ〜」「ただでもいいわよ〜」
「しょうがないわね、みんな、誰がゲットするか勝負よ!」
後ろを振り返ると、高いハイヒールを脱ぎ捨てて、前傾になって追いかけ始めようとしている十名ほどが見えた。
「やばい……捕まったら終わる……!」
手の甲に貼っていた雷身紋をこすり合わせると、バチバチと電気の音がして、ぱっと前に進んだ。
「よし、使える」
だが、顔を上げたら正面にも複数人立っているのが見えた。
「どんだけ多いんだよ!」
再度手の甲をこすり合わせ、家の屋根に移動した。
「あそこよー!」
雷の残像が残るため、すぐに特定されてしまう。
「ちくしょう、連続で行くしかない」
手の甲をこすり合わせながら、家の上を伝って高台の方に移動していく。オネエさんたちの声が遠くなっていく。
「はあ、ここまでくれば大丈夫だろ。疲れた」
少し腰を下ろして呼吸を落ち着かせると、海が広がっているのと月のようなものが見え、とてもいい景色だった。無我夢中で逃げてきたが、どうやら、高台にある大きな教会の屋根の上のようだった。
「うわぁ、いい眺め。……ふう、宿に帰るか」
身体を起こそうと手に力を入れた途端、教会の屋根が崩れ落ちた。
「うっわあああああ」
ギリギリで雷身体になったが、バランスを崩したまま、教会の隅に着地した。
「いってえ……死ぬかと思った」
「あなた、何者?」
振り返ると、月明かりに照らされた中で、白色の装飾を全身に身にまとった女性が立っていた。
怪訝な顔をしているのに、その顔から目が離せなかった。
美しい、という言葉をこの人に使うのは何か違う気がした。静謐、という言葉の方が近いかもしれない。月明かりの中で微動だにしない姿が、まるでこの空間ごと彼女のものであるかのようだった。
「いや、怪しいものでは……あっ天井ごめんなさい」
「どう見ても怪しいでしょ。だれかー」
呼びかける声は涼しく、表情も柔らかい。もう一度こちらを見たとき、その目が下から上へ動いた。
「大丈夫? 怪我してるなら……」
その一言で、ようやく我に返った。
「本当にごめんなさい!」
それだけ言って、雷身体を使って外に飛び出した。走りながら、なぜかあの目のことが頭から離れなかった。
(雷身体を起動していると体力がめちゃくちゃ奪われるらしく、教会ってことは聖女様かな……っていうかあんなに破壊して捕まったりしないよな……などと心配しながらも、宿に戻るとすぐに眠りについてしまった)
◇
翌朝、ガッシャガッシャと聞こえる音で目が覚め、外を見てみると、兵士のような人々が走り回っているのが見えた。
(やってしまった……)
早々と着替えて荷物をすべて持ち、恐る恐る下に降りてみた。幸い、店主は気づいていないのか、何も言う様子はない。
宿を出ることを伝えると、
「昨日の夜、教会が賊に破壊されたらしくてな。兵士が探し回ってるから、犯人に合わないように気をつけてな。遭遇した人が一人だけいたらしいんだが、書いたこれが似顔絵らしい」
そう言って渡された似顔絵は、人間なのかどうかすら判断がつかないレベルのぐちゃぐちゃの線が並んでいるだけのものだった。
(絵心……これでは何も特定できないのでは)
「怖いですね……その他特徴とか言ってませんでしたか?」
「いや、なんか情報がほとんどないんだよな。その人の説明が下手だったのかもな。わっはっは」
(不幸中の幸いというべきか。これはあの女性が書いたのだろうか)
とりあえず、またあの人に遭遇したり何か起きる前にこの街を早くおさらばするしかない。
センテにもらっていた燕の紋で連絡すると、宿でご飯を食べるところだと言うので向かった。ちょうどレイアも一緒のタイミングになったようで、挨拶も早々に、リツはコソコソと話し始めた。
「昨日あのあとこういう事があってさ、あれ、俺なんだよね」
センテとレイアは顔を見合わせると、ゲラゲラと笑い出した。
「持ってるなあ、シューティングスター。さすがスターだ」
「うるさい!!」
「わかった。今日街を出ようか。先に外に出てな、ギルドで魔窟のクエストをもらうのといくつか買い物をしてから追いかけるから」
「ありがとう……じゃあ、街のそばの大きな岩のところで待ってるよ」
「ちなみに、その目撃者ってただのシスターかな?」
「なに、そんなに気になってるの」
少しだけレイアがムクッとした顔をする。
「いやいや、そんなことない! なんかシスターっぽくもなかったなと思っただけだし、もう会わないようにね!」
毎日21時更新です。次話もよろしくお願いします。




