第18話 師匠
回らない頭のまま、なんとなくスルギの家に落ち着かず、街の方に向かった。
少し歩いて落ち着いてくると、リツは思い出していた。
「……そうか、次のシナリオは西ケレ遺跡か」
本来であれば、ルアと共にガーランドのもとで修行をつけてもらい、学園研修を受けながら三つの魔窟を攻略し、その最終仕上げとして王国騎士団が募集する西ケレ大規模侵攻に合流したスルギも含めて参加する、という流れだったはずだ。
だが、どう考えてもガーランドのサポートはもう受けられない。完全にシナリオが変わってしまっている。
今のままでは西ケレで太刀打ちできないだろうし、その先の冬がまずい。そして、物語のレールから外れすぎてしまう。
(ゲームなら、ここでやり直せる。セーブデータを読み込めばいい。だが、ここには戻る場所がない。知っているはずの世界で、初めて、本当に何も分からなくなったのだ)
何もかもが新しい世界で後ろ盾のように思っていた「物語を知っている」というところから外れ、不安だけが頭の中でぐるぐると回り続けた。
どれくらい歩いたか分からない。気づいたら、見覚えのある裏通りに来ていた。センテと初めて出会ったあの路地だ。足が、勝手にここに来ていた。
「センテは……いないか……」
一度整理しようと思って、座ると、どこからともなく黒猫が現れた。
「ステラか……シナリオから外れてどうすればいいかわからなくなっていて……どうすればいい? サポートキャラクターって言ってただろ?」
ステラはじっとリツを見つめていたが、少し間をおいて、人間の姿になった。
「強くなるしかないのでは。と思われます」
「なんだよそれ、シナリオから外れて、自分一人でどうやって強くなれって言うんだよ」
「ですから、私はシナリオから外れることを推奨していませ……」
「もういいよ」
途中で遮られたステラは、ハッと驚いたような顔をしたかと思うと、その後、キッと口惜しそうな顔をして、うつむいて黙ってしまった。
数分経っただろうか。何か悩んでいる様子のステラが顔を上げようとした矢先、来た道の方からセンテの声が聞こえた。
「二人揃ってどうしたんだい?」
「やあセンテ。ちょっと困って……あ…れ…?」
そう言い掛けて、リツは意識を失った。
「おい! どうしたんだよ! 高熱じゃないか! ったく……っておい! なんで猫の姿に戻ってるんだよ! 手伝えよ!!!!!!!」
◇
目が覚めると、真横にゼロの顔があった。
「うわっ!!!!」
驚いて転げ落ちた。立ち上がってみると、風通しの良い部屋でベッドに寝かされていたのに気づいた。
声に気づいたのか、センテがドアを開けて確認してきた。
「大丈夫か。高熱が出てたみたいだが」
病み上がりの妙な力の入らなさは感じるものの、特にそれ以外に不調な感じはない。
「うん、大丈夫そう。ありがとう、センテと会ったところまでは覚えてるんだけど……ここは?」
「とりあえずこっちに来なよ」
隣の部屋に呼ばれ、先にあるテーブルに腰掛けた。センテの家だろうか。きちんとされている。
「裏道で僕と会った後にぶっ倒れたんだよ。仕方なく運んでやったというわけだ。それで……どうしたんだ?」
センテが聞いてくる。(さすがパトロンである。優しいのがしみる)
道具を持ち去った話、ガーランドからの尋問、知っていたはずの成長環境が失われたこと。一通り話した。
「ふぅん……で、どうしたいんだ?」
「……強くなりたいよ。それも早く強くならないといけない。何か方法はない? パトロンとして修行をつけてくれたり……」
「道具師になるならまだしも。もっと適任の師匠を見つけたほうがいいだろう」
「そうだよなあ、やっぱりまずは職業ギルドでも見てみるか〜」
落ち込んでいるのを見かねたのか、センテが続けた。
「ちょうどいいのがいるだろう。頼んでみなよ」
「おうい、一回戻っておいで」
センテが燕の紋で誰かに声をかけると、走り寄る音がして、入口の扉が開いた。先にいたのはレイアだった。
「リツ、起きたのね! 大丈夫?」
「あ、はい……」
「師匠との訓練の日だったんだけど、いきなり倒れてるリツを連れてくるからびっくりしたよ」
「ここは王都の西側の探索者の拠点にあるレイアの家だ。この前話し合っただろう? 修行をつけてあげる日だったからちょうどよかった感じだね」
(なるほど)とリツは思った。先日、図書館でレイアと再会した際に、次のスキルの伸ばし先に悩んでいたレイアに対して、センテを紹介したのだ。道具師のスキルである「道具生成魔法」と「多重道具扱い」を覚えれば戦いの幅が広がると勧めた形だ。ゲームでは、斥候の器用さで道具の「クイックチェンジ」を使っていくことで、「ウェポンマスター」という統合上位職を目指せるのである。
「ん? ってことはさっきの話は」
「そうだ」
「なんのこと?」
(なるほど、確かに)
「レイアさん、師匠になってくれませんか?」
「え? 私?」
「そうです、道具師の修行中ですよね? その修行をこなしながら、一緒に魔窟に潜ってもらったりして、斥候の修行をつけてもらいたいんです」
「え〜あ〜まあいいけど〜やったことないよ?」
「大丈夫です、ある程度までやり方が分かれば、吸収できるんじゃないかと思うので!」
「なんだそれ。まあ私も道具師修行で潜りたいからね、師匠も毎回いけるわけじゃないし、レベル合わせが大変だからちょうどいいかも」
「よかったな。じゃあ、早速いこうか」
「えっどこに?」
センテの急な提案に、リツもレイアも驚いて振り返った。
「リツ、いい遺品が落ちているところか、なにか知ってるだろう? 私もついていくからそこに行くんだよ」
「遺品ダンジョンなんて、大体高レベル……」
「じゃあないのか?」
「いや、あるにはあるけど、それなりに危ない橋だと思う……」
「微色が二人だぞ。お前も早く強くなりたいんだろう。一矢五グレムリンってやつだな!」
「一石二鳥みたいなことかな……」
「わからないがそういうことだ!! 明日から出るから準備しろ」
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