第12話 世界の強者たち
「初めまして、当主のシウ・ゼルバーキン・オーガストだ。よろしく」
初めて会う貴族の当主は、威厳が違った。
ゴツゴツした体格と白髪。眼光が鋭く、一瞬で首の骨をへし折られそうな威圧感があるが、声色はとても柔らかい。
「スルギから話を聞いたが、大変だったようだね。まずはご飯を食べよう」
席に促されていると、追って二人の少女も入ってきた。
「紹介しよう、娘のサランとヨルワだ」
「こんばんは、サランです」「ヨルワです」
(……この2人は覚えている。王都学園の特待生として、将来的にサランは兵を率い、ヨルワは「氷雷殿」から一緒に行動することになるキャラクターだ)
スルギの母センカを中心に様々な話をした。妹2人は静かに話を聞きながら食事をし、シウは頷いたり時々質問をしたりした。リツたちが探索者区に拠点を持ちたいと話すと、信頼できる業者を紹介してくれることになった。
食事が終わり、女性陣が風呂へ向かうと、シウ、リツ、スルギの三人で談話室へ移動し、スルギが改まってルアの事情を切り出した。
「……それで父上。こちらの紹介状を王国騎士団のどなたかに渡し、ガーランドに繋いでもらうようにと、ダリオさんから預かっています」
「なるほど、バーサーカー化か……わかった。明日、手続きを取ろう。バーサーカー化関連であれば、恐らくすぐに会ってくれると思う。神聖教会の武力部門、神聖騎士団には気をつけるようにな。バーサーカー化関連は特に目の敵にしている」
「ありがとうございます」
シウの頼もしい言葉に深く安堵し、その日はお開きとなった。心身ともに限界だったリツは、スルギの部屋に用意してもらったベッドに倒れ込み、泥のように眠った。
*
翌朝。
カァ〜ッ! という奇妙な鳴き声がして、窓の外を鳥のようなものが通り過ぎていった。
「お坊ちゃん、ギルドから『カートリッジ』が参りました」
執事が受け取ってきたのは、鳥の形をした魔法の郵便物だった。届け先の近くになると鳴いて知らせる仕組みらしい。
ギルドからの届けは「昨日の精算があるからギルドまで来たれし」とのことだった。
改めて3人でギルドに向かうことにした。
ギルドは朝一だからか、昨日よりも人が多く、40〜50人程度はいるように見えた。
「おぉ、おはよう、リツ。オイ、これが昨日の坊主たちだ」
「あらぁ〜おはよう〜可愛い坊やたちね〜〜」
声をかけてきたビルノードンとゲイル・ミントの他に、かなり身軽な格好で微色のグラマラスな女性がいた。
「昨日不在だった、道具士のハーティだ。こっちは左からリツ・ルア・スルギだな」
「よろしくお願いします」
「俺等はこれからクエストだからな、またよろしく。たくさん稼げてよかったな!」
そう言って、ビルノードンたち一行は颯爽と出ていった。
そのまま受付に行くと、昨日の報告書とベルクの入った袋を渡された。
「荷運びの一般クエストが260万ベルクに、集落除去の作業40万ベルクで、合計ちょうど300万ベルクになります」
集落除去もザルヴァが監視者としてついて対応したので、後から給金対象になると聞いていたが、間違いなかった。
想定よりも多い初めての報酬に、シンプルに嬉しい。
「それと、初クエストの達成で一人当たり100万ベルク到達のため、ご希望があれば群青に昇級できますがいかがされますか? 受けられるクエストの幅が少し広がりますね」
振り返って、ルア・スルギと顔を見合わせた。
「ぜひお願いします!」
*
ギルドの受付でネームタグを加工してもらうと、うっすら青色になった。
「ねえねえ私たち最速じゃない??」
「完全にイレギュラーミッションだったもんねえ」
「まあ、無色から群青になっただけだしね、どんなクエストができるかなあ」
冒険者ギルドのクエストは、保証金が一人当たり100万ベルク必要ということで、全財産をはたいて冒険に行くよりも、まずは武器を揃えて商業ギルドのクエストを受けようということになった。
「スルギ、おすすめの武器屋ってある?」
「うーん、僕も自分のお金で買いに行くのは初めてだからね。聞いたことあるのだと、大軍隊団がやっているガラム商工会の店舗かな、高いと思うけど。あとはセイレイユ通りに個人のお店もたくさんあったはずだけど……」
「大軍隊団って将軍イルの?」
「そう! リツって引きこもりは知らなかったけど、将軍イルは知ってるんだね!」
「ってことは、将軍イルもノワールの11人ってやつなの?」
「うん、そうだよ! というか知らないの? ノワールの11人もアビスの3人も?」
「うん、そうなんだ。知識が偏ってて……」
「ふーん……じゃあ教えてあげよう!大軍隊団は深淵大陸の攻略を目指す、大規模軍隊組織のことだよ。王都とかの正統組織じゃないから、傭兵に近いかな。戦闘員が500人ほどで、非戦闘員も入れたら5,000人くらいいるらしいよ。そして、そこを率いているのが漆色の大軍隊団将軍イル。商団も形成していて、商業ギルドとのつながりが最も強い組織だね。かっこいいからファンも多いよ」
「そして、ノワールの11人からだけど——」
スルギがすらすらと名前を挙げ始める。
「引きこもりのザルヴァ。大軍隊団将軍のイル。勇者ハートレイン。擁立された人ニーヴァ。探究者メルメル。最強のディランセフ。残虐なる遊び人ホーリー。不死身の七光りドルツ。竜殺の目。竜殺の杖。そして秘匿の人。これで11人と言われているね」
「……」
リツは内心で冷や汗を流していた。
「アビスの3人は、竜殺しの『竜殺』。未踏地域を最も広げた『到達』。王勅命騎士の『重圧』の三人だね。ちなみに『到達』は、大軍隊団の元将軍で、今も特殊師団として大軍隊団にいるらしいよ。もちろん見たことないけど」
(思った以上に、知らないことが多すぎる……!)
ゲームの知識だけではカバーしきれていない事実が多いことに一抹の不安を覚える。
「じゃああれは? 死人の集会所って知ってる?」
「えぇなにそれ、遺跡とかの話?」
「え……いや、武器屋……」
*
なぜかスルギにドン引きされたが、2、3店通常のお店を見つつ、死人の集会所を探してみることにした。
「確か……スラムっぽいところにあったからこっちかな……」
人気のないエリアにどんどんと入っていく。
「なんか怖いぃ……こっちで合ってるの?」
「わかんないけど、もし死人の集会所があるなら、絶対行ったほうがいいと思うんだよね……」
「ヒッヒィィィイイイイ」
ルアが突如先を指さして悲鳴を上げた。
ルアが指した先を見ると、建物と建物の間の薄暗闇に、ぼうっとした白い顔が浮き上がっていた。
「あ、ゼロだ」
「ヴェエエェェ……」
ぼうっとした白い顔は表情など何も変わらないが、鈍い鳴き声を出した。
「ヒィィィイイイ、なに、なんなの!」
「ゼロがいるから、あそこが死人の集会所だよ。でも、どうやって入るんだろう」
「バァ」
「ギャアアアアアアアアアア」
ルアが大声で叫び、振り向きざまに右ストレートを入れた。
「グゥフ……」
まともに顔面に食らった白髪の少年は、そのまま倒れ込んだ。
「な、何こいつ……」
「その人が死人の集会所のオーナーだと思うよ……」
「殴らなくてもいいじゃないか……久々に年の近そうな人がいるからと思って、少し驚かせただけなのに……珍しいけどお店に用かい? よく見つけられたね。そして君はどこかで会ったことがあるかい?」
「いや、会うのは初めてだけど、『遺品師センテ』の噂を聞いたことがあって、品物は見れるか?」
「へえ、珍しいこともあるね。もちろん見れるよ、『合うもの』があればね」
そういうと、持っていたカバンを開け、扉を出した。
「マジックバックなんだよ、倉庫サイズの。ここがお店。ほら、どうぞ」
ルアが怖がって入りたがらなかったが、置いていかれるのも怖いということで、一緒に中に入った。
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