第11話 漆色の引きこもり
ガサガサと森の中を駆けていく。
座標感知で、先にビルノードンたちとルアたちが街道に出て合流しているのが分かった。
合流すると、ビルノードンと会話している長髪の大男がいた。ビルノードンもさらに背が高く2メートル近くありそうだ。
「うわ……追加援軍が"引きこもり"か……」
ぼそっとレイアが独り言を言うのが聞こえた。
(見覚えがない。ゲームの中では出てこなかったが……このデカいやつ、誰だ?)
近くまで駆け寄ると、ルアが泣きじゃくっていた。スルギとともに駆け寄ってくる。
「リツ〜〜〜良かった〜〜〜」
「おう、レイア大丈夫だったか。ゼシィーはゲイルとミントに街に運ばせたよ。あと、残念だが追加援軍は"引きこもり"が派遣されたそうだ」
「いや、ありがとう。これで一安心だ。また一から考えるさ」
「坊主も生きていてよかった。よく無事だったな」
ビルノードンに声をかけられ、リツは頷き返した。
「はい、危なかったですが……レイアさんと出会えてよかったです。それで、こちらの方は?」
リツの不用意な問いに、全員がバッとこちらを振り向いた。
「!?……お前知らないのか? 漆色だぞ」
ビルノードンが非常に驚いた様子でこちらを見てくる。
「最近探索者になったばかりの少年だろう? 初めまして。引きこもりのザルヴァです」
見た目と裏腹に、挨拶はユーモアのある言い方だった。
(漆色だって? 超高位の階級じゃないか)
万象看破で鑑定をかけてみると、先ほど聞いた名前と階級以外はノイズがひどく、何も読み取れなかった。
「内陸の英雄だぞ。ちなみに、知らないなら言っておくが"引きこもり"って呼んでいるのは、自分でも好んで呼んでいるから愛称だ。悪口じゃない、と本人が公言しているのでな。深淵大陸には出ず、ずっと内陸のクエストをサポートしているから、内陸の引きこもりって呼ばれている」
「よろしくね、若者たち。では、早速始めるよ。いいね、レイア?」
「もちろんです。よろしくお願いします」
「鎌か雨かどちらがいいだろうか」
「雨でお願いします。仲間の遺体が恐らく中にあるので、できれば傷つけたくない」
「わかった」
そういうと、森の中に入り平原に向かった。
ビルノードンから、せっかくだから着いてこいと言われ、レイア・リツ・ルア・スルギは後をついていく。
「引きこもりの討伐が見れるなんて……」スルギが興奮した様子でつぶやく。
「さっき言っていた、『引きこもりが派遣されて残念だったな』ってどういう意味ですか?」リツはレイアに聞いた。
「あぁ、このクエストに追加で緊急要請がかかって救助に来たんだろう?クエストに出る際は仲間で積立した金をギルドに預けていくんだ。そして、クエスト失敗または緊急状態になった場合にその金が使われて、補填や追加派遣がされる。緊急要請の時点で半額。その後の追加派遣は誰が来るか指定できず、来た人によって価格が変わる。漆色であるザルヴァは当然最高額だ。そういう意味だよ。たしか2,000万ベルクくらいだから、借金だね」
そう言っていると、森を抜けた。
先程の位置とは違うため、少し櫓が遠くに見える。
「では」
そう言って、ザルヴァが少し集中した。
「38だね」
長剣を抜き、剣先で円を書くようにゆっくり回すと、大きな光の玉が6つできて、それぞれが分裂した。
「では行きます」
光の玉が宙に浮かび、次の瞬間には軌道となって、櫓に落下した。キィイインという音と共に、光のあとだけ残って消えた。
「あれただの光追跡弾らしいよ。数、正確性、早さ、威力が段違いなだけだって」
スルギが横でそういうのを聞いたが、確かに段違いだった。
「……ありがとうございました」
リツの横でレイアが祈るポーズになった。仲間に対しての黙祷だろう。残っていた全員が同じように黙祷を捧げた。
「よし、あとは罠の解除と仲間の回収をして帰ろうか」
ビルノードンがそう言い、レイアとリツが罠の発見を率先して行い、残りのメンバーで解除した。ザルヴァは櫓の解体を行った。散らばっていた魔獣は、小さな玉が急所を通ったあとだけ残り、無惨な死体となっていた。レイアの仲間の遺体はビルノードン、レイア、ザルヴァで穴を掘って葬り、ネームタグだけ回収していた。
*
王都までは歩いて戻ることになった。ザルヴァがレイアから報告を聞くのを後ろで聞いていた。
レイアたちが到着したタイミングでは、ドラムとゴブリンの姿しか視認できなかったという。そのため、ダンだけを森に残し、罠を避けながら櫓に近づいた。だが、ドリーが誤って気付鐘の罠に触れてしまった。ゴブリンが大量に出てきたタイミングで、死角に紛れていたフープル三匹から魔法を受け、ゼシィーが牢内に飛ばされたらしい。
すぐさまレイアは救助に向かったが、想像以上の数と、遠距離攻撃の要であるゼシィーの不在が響いた。魔法使いのロイが落ち、続いてガンド、ドリーも囲まれて落ちた。一人ではどうにもならず、レイアは隠蔽魔法で隠れるしかなかった——という地獄のような顛末だった。
その後の救助の顛末の中で、リツが援護しようとしたこと、ルアを庇って飛ばされたことを話した。
「戦闘には参加するなと言っただろう!」ビルノードンは怒ったが、
「度胸はある。だが、それよりもとても幸運だね。どう考えても死ぬ確率のほうが高い」
ザルヴァはそう言って、リツの指輪をちらりと見た。それ以上の言及はなかった。
ギルドに帰着する頃には赤い夕日が沈む間際になっていた。
レイアはゼシィーを見に行くとのことで町中で別れ、5人でギルドに戻った。ザルヴァは受付嬢に「問題なく」とだけ伝えてすぐに立ち去り、ビルノードンには「一杯やるか」と誘われたが、さすがに心身ともに疲弊していたリツたちは「また今度」と伝えて帰った。
スルギ家に戻ると、またボロボロになっているリツを見て、スルギの母がすぐに風呂に入るように指示し、リツだけ先に浴室に向かった。
*
ふぅ——と湯に浸かっていると、窓際に黒猫が寝転んでこちらを見ているのが見えた。
「おい!男湯にまで入ってくるな!!」
黒猫は微動だにせずこちらを見ている。
タオルで前を隠しながら、諦めて話しかけた。
「……ったく……ステラ、今話せるか?」
黒猫はシュルシュルと形を変え、ステラの姿になった。お風呂に服を着た女性がいるという不可解な状況になっている。
「どうされましたか?」
(しまった……風呂場で話しかけるんじゃなかった)
「……いや、風呂場でごめん。その……ゲームの中では自分が漆色を目指す必要があったけど、『将軍』・『探求者』・『擁立された人』以外に、『引きこもり』なんていう漆色がいた描写はなかったと思う。漆色って元々他にもいたの?」
「ゲームで描かれているのは、あくまでリツ様から見た一部の景色だけです。リツ様が知っているのはメインストーリーと、ご自身が体験したサブシナリオの数々ですが、逆に言うとそれのみです。この広い世界で、知らないこと、起こっていたことはたくさんあります」
(なるほど、確かに——街人と話すと知らない情報が更新されていたことはたくさんあったし、自分以外のパーティのことなど聞いたこともなかった。でも他のパーティがいたのは当たり前ではある)
「じゃあ、今、漆色とか絶色って他にはどれくらいいるの?」
「世に言われているのは、『ノワールの11人』と『アビスの3人』になります」
「え、そんなに!? 詳細教えてもらえる?」
そう言ったところで、スルギから「ご飯ができたし、父上が帰ってきたぞ」と呼ぶ声がかかり、急がねばということで、中断になった。
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