96.孫を量産すれば銀河最強
地球人奪還社は、宇宙海賊に拉致された地球人を救うための義勇軍であり、その義勇軍を支えるための企業のこともさす。
一見、神聖猫耳王国とは無関係な組織に見えるが、両者の関係は非常に密接だ。
彼らは、まだ弱小企業であった頃のベリル運送の本拠地を、膨大な血を流して守り切ってくれたのだ。
それ以降、ベリル運送と、そこから生まれた神聖猫耳王国は、彼らを強力に支援し続けている。
『社長!』
ベリルの敬称が『陛下』であることも忘れて、第2攻撃艦隊の司令が大声で呼びかける。
「今すぐ救援に向かって! 補給は僕が第1で運ぶ!」
『はい!』
母港に戻って補給と休息を行うはずだった猫巡洋艦8隻が、戦闘時にすらしない猛加速で地球人奪還社本社へ向かう。
興奮しているのは司令猫耳だけではない。
第2攻撃艦隊の船長猫耳たちも、ベリル以下の第1攻撃艦隊のメンバーも、身内が攻撃されたときの態度になっている。
「では俺も」
「あなたは留守番よ?」
「サルくん。一戦で終わるような戦いにはならないから、サルくんは体調の回復を最優先にして」
「にゃ!」
俺は、ブルネットとベリルとトーティに制止される。
そしてそのまま、拿捕猫耳たちにより最寄りの治療ポッドに運ばれ、とても丁寧に閉じ込められた。
☆
治療ポッド内の生活は暇だ。
高度な知性と計算能力の持ち主(猫耳でいうならブルネットとかブラン秘書官とか)ならリモートでの仕事も可能なのだろうが、自力センサーが前提の仕事しかできない俺はやることがない。
『猿谷さん。いい加減、治療ポッドのいいのを買いましょうよ』
星系管制が通信してきたのは暇つぶしかと思ったが、星系管制の服装がジャージではなく銀河通商の制服なので違うようだ。
普段は余裕をもって働いている光翼人間たちが、(星系管制を除いて)緊張した態度で仕事を進めているのが見える。
「これ以上の治療ポッドとなると、1つでベリル号くらいするんですが」
今のベリル号は、極めて高度な居住性、非常に高価な特大タキオン砲、特に高価なパーツとアホみたいに高価なパーツ(エネルギー容量関連)で成り立つ壮絶な高級船だ。
『あんな高コストな船を量産するのにですか?』
「あんな高コストな船を量産するからですよ。必要な数が揃うまでは、国のリソースも俺の個人資産もそっちへ集中させる必要があります」
『まあ、面倒なことになってますからねえ』
星系管制は肩をすくめた。
そして、手元の画面に触れて俺にデータを送ってくる。
「ずいぶんと広範囲の『地図』ですね。俺が見て良い奴ですか?」
猫耳王国が持っている『地図』より3倍は広い範囲が載っている。
銀河帝国に属する有人星系のすべてと、銀河通商の本社と第1営業艦隊から第9営業艦隊までの所在地など、どう考えても他組織の人間に見せてはいけない内容が含まれていた。
『猿谷さんには今のうちに見せておかないとまずい内容です。これも見て下さい』
『地図』が更新された。
銀河通商の艦隊戦力と銀河帝国の艦隊戦力だけではなく、敵対、中立、友好を問わず、すべての近隣勢力の予想艦隊戦力が『重ねて』表示される。
トーティを構いに現れるリゼーレが頻繁に失言するので、第7営業艦隊の内情も戦力も良く知っている。
「通商も帝国もデカイですね。ですがこれは……。まさか、大戦争が起きる寸前だったりします? やる気満々の戦力配置の勢力が多すぎます」
ベリル社長にスカウトされてから今まで、大小さまざまな戦いを経験してきた。
体系化された軍事知識は持っていないが、自力センサーによる勘もあるので『有利』『不利』『危険』『安全』に関しては、本当に『なんとなく』だが分かるのだ。
『猿谷さんが原因である確率は低いです。猿谷さんをもとにコピーやクローンを作ったとしても自力センサーを持っている確率は極小です』
「具体的ですね。実際に試しました?」
『私が猿谷さんを怒らせるほど馬鹿だと思いますか?』
星系管制は食事中ではない。
光翼が徐々に白さを失い、今は灰色に近い。
『猿谷さんなら私を【見】ても構いませんよ』
誘うように微笑む星系管制は、危険な魅力に満ちている。
危険なのは普段からなので、俺はうんざりして大きく息を吐いた。
「情報が濃厚すぎて俺の人格が影響を受けそうなので、絶対に【見】たくないです。昔、軽く【見】たときも、負担が大きかったですし」
グロ画像なみに強烈だったとは、口に出しては言えない。
『それは残念です。……ところで、私がやらかしたと思ってたりしませんよね? 猿谷さんに敵視されたら本当に怖いんですよ!? リゼーレさまも猿谷さんには昔から配慮しているじゃないですか』
星系管制が感情を露わにする。
それが演技かどうかは分からないが、こんなのでも一応身内(ベリル運送の大口出資者のひとりであり互いの利益のために暗黙に協力し合ってきた仲)だ。
今回『は』信用することにした。
「リゼーレさまは、人間では見えないほど遠くを【見】えるでしょうし、心配性なだけだと思いますよ。……結局、誰がクローンとコピーを作成したんです? シミュレーターで計算するにしても、かなりの技術とリソースが必要なはずです」
『帝国の非主流派ならよかったのですが、残念ですが主流派がやらかしました。娘さんの性質に気付いて、実験内容を慌てて消去しようとしたようですが……』
【見】なくても星系管制の顔を見れば分かる。
俺の情報だけでなく、トーティの情報まで流出しやがったな。
「どの程度流出しました?」
『娘さんのクローンなら自力センサー持ちになる可能性が極めて高いこと。そして、娘さんの子にも高確率で自力センサーが遺伝するだろうという推測までです。娘さん本人の、リゼーレさまの加護まみれの遺伝情報はまだ守り切れていますからね。これ以上のことは、まだ『推測』の段階のはずです。『確信』に至っていたなら、既に複数の列強国が神聖猫耳王国への侵攻を開始しているはずです』
トーティの遺伝子の調査は、一度だけだが母港で行い、調査結果は全て削除した。
危険すぎる情報だからだ。
トーティの子、つまり俺の孫は、高確率でハイレベルパイロットになれる。
トーティを捕縛し、トーティの子を『量産』した勢力が、既知銀河の中で飛び抜けた勢力になるということだ。
想像しただけでも怒りで脳味噌が茹だりそうだ。
トーティを危険に晒した馬鹿どもには、相応の対価を払ってもらう必要がある。
「ご助言ありがとうございます。複数の列強国が侵攻をためらうレベルまで、軍拡が必要ということですね。戦いながらの軍拡になりそうですが」
娘の利益のために大量殺戮をするつもりはない。
娘の命と尊厳のために必要なら、身内以外を皆殺しでもやるがな。
『そこで迷わないのは、さすが猿谷さんです。楽しくなりそうですね』
星系管制の態度は変わらず、背中の光翼だけが黒々としていた。
☆
星系管制との通信を切断する前に、ベリル陛下から最優先の急報が届いた。
『サルくん助けて!』
星系管制の光翼(黒)が『へにゃり』と垂れる。
俺は、膝から崩れ落ちそうになるのを我慢して、拿捕猫耳に無理を言って治療ポッドによる行動制限を緩めて貰う。
攻撃艦隊と地球人奪還社から情報が次々に届く。
地球人奪還社は宣戦布告されると同時に全ての戦線(地球人を加工した生体パーツを使う組織との戦闘)から撤退。
しかし本拠地も移動中の複数艦隊もすべて同時に襲われ壊滅した。
『先輩! 相手はぜんぶタキオン砲搭載の高速船っす! 最低でも100隻! こっちは母港に向かって一直線に逃走中っす!』
『こちら第2攻撃艦隊司令。地球人奪還社の生存者は戦争開始前の6割です。生存者は全員救助済みですが、これは、敵艦隊が我々を誘き寄せる餌として使った結果です』
これまでの戦いでは(酷使したエンジンやタキオン砲の修理費がかさむことはあっても)無傷が当たり前だった攻撃艦隊が、速度と射程を限界まで高められたタキオン粒子に『ちくちく』と打撃を浴びている。
練度(というより自力センサーの性能)では勝っているので正面から戦ってもいい勝負にはなるだろう。
だが、そんなことをすれば、感情的にも軍事的にも『絶対に欠かすことのできない人材』が、大勢死んでしまう。
『あなた』
ブルネットの顔が画面に映った。
動揺が、隠せていない。
「ブルネット。猫飛行機(艦載機サイズの新型船)を母港の前面に展開させてください。敵艦隊に対する壁になってもらいます」
俺は敵艦隊を【見】て速度と方向を把握する。
思ったより遅い。
これなら、『貫通力を上げたタキオン粒子と宇宙船の速度の組み合わせ』で新装甲を貫くという戦法は使えない。
猫飛行機は無傷のまま戦えるはずだ。
『猫飛行機は加速力はあるけど航続力は低いわ。戦闘が終わる前にエネルギーが尽きて遭難するわよ』
「それまでに決着をつけます。……キンさん」
『猫攻撃機はまだ4隻しかできてねーにゃ』
「分遣艦隊司令の船長猫耳に乗って貰います。彼女たちならできるはずです」
『『『おっちゃん無茶言うなにゃ!?』』』
船長猫耳たちからのすさまじいブーイングが聞こえたが、俺はブーイングの中に強い自負を感じ取る。
船長猫耳たちがシミュレーターでの機種転換訓練をしていたのは知っている。
攻撃艦隊は、大勢の避難民(地球人奪還社所属)を運ぶために、いつもの速度を出せていない。
なのに敵艦隊は追いつくことも撃破することもできていない。
「敵艦隊には4人の自力センサー持ちがいます。特大船に1人ずつ。生体パーツの気配はありません」
『『『ボーナスを要求するにゃ!』』』
「期待して下さい」
学生上がりの新人船長が猫飛行機の発進に苦労するのを尻目に、真新しい4隻の宇宙船が港湾区から渋滞する船の間を縫って発進する。
猫巡洋艦より一回りは小さいのに速度は猫巡洋艦より上で、小回りは猫巡洋艦を上回る。
『ぎにゃー!?』
『慣性制御でGを消し切れてねーにゃ! 居住性たりねーにゃ!』
『シミュレーターのときより船のバランスが滅茶苦茶にゃ!』
『ボーナス2倍!』
操縦は完璧なのに文句は壮絶だ。
ここまでショックを受けたキンを見たのは何年ぶりだろうか。
『あなた。敵艦隊からのタキオン粒子が届き始めたわ。猫飛行機が的兼盾になってくれているけど被害はなし。今のところは、だけど』
『こちらベリル、攻撃艦隊! 港湾区に一気に侵入するからできるだけ民間船は大人しくさせて!』
あまりに速すぎて瞬間移動じみた動きで、第1と第2の攻撃艦隊が港湾区へ出現する。
軽く【見】ると、ベリルもスッスも消耗が激しく、休み無しで戦えば万一がありそうだ。
『『『おっちゃん。これ以上【見】る必要はないにゃ。後は任せるにゃ』』』
4隻の猫攻撃機が、敵艦隊の側面から接近する。
ただの対空砲では猫攻撃機に届かず、宇宙船の速度がのっていないタキオン粒子では新装甲による受け流しを防げない。
ため息をつきたくなるほど優美な動きで、4隻の猫攻撃機がそれぞれ1本の『棒』を発射する。
猫攻撃機は光速の5万倍なので、『棒』の速度はそれ以上だ。
迎撃が届いたのはタキオン粒子だけで、そのタキオン粒子も新装甲に受け流されて『棒』を破壊できない。
「はい。後は頼みます」
目と、頭と、人間の体にはないはずの何かが、酷く痛む。
無意識に【見】てしまっている敵艦隊を4つの『棒』が貫く。
4隻の指揮用特大船(しかも高速)が艦橋から船尾までを貫かれ、衝撃に耐えきれずに乗組員ごと砕け散る。
(自力センサーという目がなくなれば、後は一方的に狩られるだけです。ああ、俺はまだ、死ぬ訳にはいきませんね)
俺は、死の香りのする眠りに、気合いで抵抗していた。
サル |操縦Lv6-[衰弱Lv3] ※過労状態
↓
サル |操縦Lv6-[衰弱Lv3] ※深刻な過労状態
◆ OTHER SHIPS
船体:4 *1 / 船体:1 *7
↓
◆ OTHER SHIPS
船体:4 *1 / 船体:2 *4 / 船体:1 *37 ※猫飛行機と猫攻撃機を生産
◆ BERYL HOME PORT(7/40)
権利:5 / 規模:6 / 装甲:0 / 修理:5 / 居住:3 / 備蓄:0 / 兵装:3 ※この2年で居住区と食料生産プラントが急拡大
↓
◆ BERYL HOME PORT(37/40) ※猫飛行機を生産
権利:5 / 規模:6 / 装甲:0 / 修理:5 / 居住:3 / 備蓄:0 / 兵装:3
◆ CAT PLANE ※練習機兼戦闘機。大規模量産開始
船体:1 / 跳躍:4 / 航続:2 / 装甲:5 / 居住:1 / 船倉:0 / 兵装:3
↓
◆ CAT PLANE ※通称「猫飛行機」。練習機兼戦闘機
船体:1 / 跳躍:4 / 航続:2 / 装甲:5 / 居住:1 / 船倉:0 / 兵装:3
◆ CAT JAVELINEER ※攻撃機。設計段階
船体:2 / 跳躍:5 / 航続:5 / 装甲:5 / 居住:1 / 船倉:0 / 兵装:6
↓
◆ CAT JAVELINEER ※通称「猫攻撃機」
船体:2 / 跳躍:5 / 航続:5 / 装甲:5 / 居住:1 / 船倉:0 / 兵装:6




