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地球人に人権がない銀河で、零細猫耳社長にスカウトされました ~生体パーツ扱いのどん底から操縦チートと拿捕ビジネスで成り上がる~  作者: 星灯ゆらり
第5章 猫耳の国を作ります

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93.建国した方が面倒が少ない

 広域開拓が始まってから、今日でまだ10日目だ。

 普通なら『たかが10日』だ。

 惑星開拓船の護衛と海賊の偵察船が小競り合いを始めるかどうかという時期なんだろうが、俺たちと海賊の戦いは既にクライマックスに突入している。


『社長! 母港からの急報っす! お嬢がペットに乗ってこっちに向かおうとしてるっす!』


「またぁ? サルくんお願い!」


「ベリル社長の代理として俺が返信します。すぐに戦闘は終わりますから、援軍を名目にお勉強をさぼらないように。以上です」


 即時通信による返信に、「にゃあ」というしぶしぶ受け入れた感じの猫語の返事があった。


『戦力は頼もしいですけど、トーティちゃんのペット、結構勝手に動きますよね』


 俺たち第1攻撃艦隊と共に移動する第2攻撃艦隊から、司令猫耳の感想が届いた。


「はい。年齢の割には躾できていますが、攻撃艦隊の命とベリル運送の財政がかかっていますからね。あと、トーティの勉強も」


 ただの3歳児なら遊んで経験を積むのと体力を鍛えるのが仕事なようなものだが、トーティは生きている限り厄介事に巻き込まれる人生が確定しているので、それ以外のことも優先せざるを得ないんだ。


「サルくんって、姪ちゃんのことになると頻繁に混乱するよね」


『はい』


『そっすね』


 ベリルと司令猫耳とスッスが何か言っているが、俺は聞こえないふりをした。


「……サルくん、なんか聞こえた気がする」


 ベリルの態度が日常から戦場に切り替わる。


「社長は俺より俺の自力センサーを使いこなしているかもしれませんね。少し、自力センサーに集中します」


 操縦はベリルに、近距離の索敵はスッスに任せて、俺は海賊が集結中の場所を【見】るのだった。



  ☆



『何度も何度も何度も何度もっ! 奴ら何隻いやがるっ!』


 一番気配が強い海賊の心が、壊れる寸前だった。


『ベリル運送の主力艦隊は17隻、で』


 恐る恐る答えた部下の思考と命が唐突に消える。

 直前に一番気配が強い海賊が激しく動いたので、こいつに殺されたのだろう。


『その17隻がっ、いつでもどこでも、あの17隻せきぃっ』


 【見】ているだけなので映像は届いていないが、口から泡を吹いたり白目を剥いていたりしてもおかしくない。


「僕らが苦しいときは海賊も苦しいんだね」


 海賊に人権を認めない価値観のベリルが、非常に珍しいことに海賊を憐れむような態度をとっている。


「楽にしてあげなきゃ!」


『社長。あれがこのあたりの最後の大規模艦隊ですから、できるだけ拿捕しないと運転資金が危ないです』


 司令猫耳が進言する。


「にゃあ」


 現在の資金状況を思い出したベリルが、船長席の上で体育座りをした。


「攻撃の優先順位設定はお願いします」


 俺が司令猫耳に依頼すると、了解信号は即座に返ってきた。


『おっちゃんは?』


「敵を精査します。例の海賊がいれば安心できるんですが」


 一度戦った時点で殺すか捕まえることがほとんどだったので、一度戦った相手は探しやすくなることに気づいたのは最近だ。


「たぶん、いないかも?」


 結論を出すのはベリルが一番早かった。

 本人の口調は自信なさげだが、俺の感覚はベリルが正しいと告げている。


「ここで確実に殺してしまいたかったんですが」


『おっちゃんが特定の人間殺したがってる!?』


『珍しいっすね。先輩は必要なら殺すタイプで、殺せないなら殺せないで気にしないタイプだと思ってたっす』


 司令猫耳もスッスも、俺のことを殺意にあふれた人間と思っているようだ。

 事実なので、否定できないのが少し悔しい。


「情報や戦力を手土産に地球艦隊あたりに参加して、俺たちに攻撃させないようにするなんてエグい真似をしてきそうで怖いんですよ」


『そんなことできるのかな……。社長、おっちゃん、計画ができたからチェックお願いします』


 最初に狙うのは通信が得意な船。

 次に狙うのは高速船。

 攻撃する際の角度やタイミングは、明らかに『中破以下の損傷での拿捕』を指向している。


「うん」


「俺が計画を立てる時間の3分の2ですね。実に素晴らしいです」


 ベリルと俺がそれぞれに修正する。

 初撃に失敗したときの計画を付け足したのが俺で、賞金の条件が『生存のみ』の海賊がいる艦橋を狙わないよう修正したのがベリルだ。


『訂正されながら褒めるのは、ちょっと嫌がらせでは?』


『まあまあ。このふたり、マジで褒めてるっすから』


 同じ船に乗っているスッスが、司令猫耳を慰めていた。



  ☆



『降伏するぅっ!』


「やだっ! 生死不問の賞金首には情け無用!」


 ベリルの宣言を聞いた船長猫耳たちが海賊艦隊旗艦を狙う。

 艦橋の正面装甲のみを破壊する曲芸じみた射撃だが、彼我の速度差が光速の1万倍を切っているので命中率は100パーセントだ。


「生き残りの海賊が連合しただけあって、大した数ですね」


 俺は、宇宙に吸い出された海賊がもがき苦しみながら死んでいくさまを横目で【見】ながらコメントする。


『あの、先輩。今回、海賊に何もさせずに勝っちゃったっすけど』


「高速戦闘は、もともと大勝か大敗のどちらかですよ。たまに相討ちなんてこともあるかもしれませんが」


 俺はスッスの呆れ声に対し、肩をすくめて返答した。


『社長。敵船のタキオン砲、たぶん質が低いです』


 司令猫耳が、これまでの戦闘で観測した内容のまとめとその分析を送信してくる。


「初代のベリル号のメーカーよりはずっといいメーカーっぽいけど……」


「社長。今から見ると、当時の飛行はかなりの危険飛行ですからね?」


「分かってるって、サルくん。それじゃ、死亡のみと生死不問の海賊を殺しながら降伏勧告を始めるよ!」


「降伏した船を撃とうとした海賊船は、問答無用で艦橋を潰して下さい」


『『『にゃ!』』』


 戦闘開始前の時点で百数十隻いた海賊艦隊が降伏するまで、数分しかかからない。

 俺たちは強くなった。

 高速とタキオン砲と乗組員の高い技量を兼ね備えた艦隊でない限り、もう、敵どころか障害物にすらならない。



  ☆



「ふー! にゃーっ!」


 母港に戻るとトーティに威嚇された。

 トーティの背後の1光秒先を【見】ると、トーティのペットに喜んで甘んじている機動要塞が、俺を威嚇するかのようにタキオン砲を発射可能な状態にしている。


「攻撃戦闘に参加していいのは成人してからです」


「ふにゃっ! にゃーっ!」


「覚悟は決まっているとか、食べるだけでも命を頂いているとか、それは今の件とは別問題ですよ? 人間を殺すと殺した側に悪い影響があります。その影響を実感として予想するためには、知識だけでなく経験が必要です。トーティ。まだそこまで急ぐ必要はありませんよ」


「にゃあ」


 納得したトーティが、俺の背後に回り込んでから背中を狙って飛びつく。


「おっと」


 根性で受け止めて肩車をしたつもりだったが、実際には護衛の拿捕猫耳が横から補助してくれていた。


「さて、と」


 俺はペットを【見】る。

 現代の情報に触れてセキュリティをアップデートした機動要塞は、星系管制による覗き見すら困難なほど情報的に強固になった。

 ただ、俺の身内でない(躾が完了すれば一応身内あつかい)反抗的な存在が、俺の近くにいるのは自殺行為だ。


「ブルネット。機動要塞が自ら改造したマスターキーを特定しました。1時間ほど黙らせてください」


『分かったわ。本当に駄犬ね』


『『『マスターを産んだ生き物とはいえ、我々にこのようなことをしてタダで済むとっ』』』


 あっさり沈黙したペット(機動要塞)は、手すきな猫ボートにより『滅多に航路にならない場所』へ曳航されていった。


「にゃ?」


 トーティが高い天井を見上げる。

 ただし、意識を向けているのは、天井でも母港でもなく、その先だ。


「トーティも【見】えるようですね。あまり遠くを見ると疲れますからほどほどに」


「にゃ! にゃ?」


「通商の本社からまとまって向かって来るのは輸送船ですね。惑星開拓船だけでも開拓は可能ですが、適切な物資を投入すると開拓速度が上がるのですよ」


「にゃっ!」


「……サルくん、いつの間に猫語が分かるようになったの?」


 事務手続きを終えたベリルが顔を出す。

 司令猫耳は整備班と整備の打ち合わせ中。

 船長猫耳たちは報告書だけ書き上げて商業区や地表に遊びに出かけている。


「娘や昔からの仲間の猫語ならだいたい分かります。問題は、だいたいしか分からないことですね」


【こっちで話した方がいい?】


「トーティが好きな言葉で構いませんよ。ただし、リゼーレさまに対してはできるだけ【声】でお願いします」


「にゃ!」


 肩の上で飛び跳ねる。

 幼くても猫耳なので力と勢いが強く、それでも俺にとっては幸せな重さだ。


「にゃ?」


「おや?」


 トーティと俺が、別々に同じ方向を向く。

 ハイパーレーンを出入りする(そして通行料をベリル運送に払ってくれる)船と比べるとずいぶん小さく古びた船が、光で数日かかる距離で『母港との相対速度がゼロ』で浮いている。


「社長、あの船は何でしょうか」


「母港で鶏肉を買ったけど、身分証が怪しくて港湾区への停泊を断った船だよ。数日停止して休むって言ったから、明日くらいには出発するんじゃないかな?」


「……いやな予感がします。社長。地表には不法占拠による立ち退き料請求や、取得時効というものがありまして」


『ベリルちゃん。防衛面でも問題よ。その船のかげに隠れて海賊船が接近してきたら、悪評を覚悟してその船ごと海賊船を撃ち落とすしかなくなるわ』


「……撃たないって選択はないんだね。じゃあ、どかないなら企業間戦争を仕掛けるつもりで交渉するね」


 残念なことに嫌な予感は的中した。

 俺たちは、母港の近くに留まろうとする(ひょっとしたら海賊と繋がりがあるかもしれない)民間船を相手に、不毛な交渉を強いられることになる。


『星系外の領有を主張するなら建国した方が面倒が少ないですよ? まあ、建国は建国で面倒なんですけど』


 星系管制が何気なく口にした言葉が、猫耳たちを大いに刺激する。


「にゃ?」


「この件についてはノーコメントです」


 一応出身国がまだ存在している俺が、一度も国を持ったことがない猫耳について言及するのは、たぶんフェアではない。

 真剣な表情で話し合うベリルたちを見ながら、俺はどんな結論が出ても最期までつきあう覚悟を固めていた。

司令猫耳 |司令Lv1+[拿捕Lv2]

司令猫耳 |司令Lv2-[拿捕Lv2]



◆ CAPTURED

海賊船(高級パーツ不使用) *107

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