92.凄腕船長は猫語しか喋らない
シミュレーターでの3連戦を終えた俺は、意外な猫耳の訪問を受けた。
「ブラン秘書官?」
公的な役職は秘書官だが、ベリル社長のスケジュール管理から多数の部門のサポートまで行っている、実質的に(社員としての)ブルネットの後継候補の猫耳だ。
いつも非常に忙しくしているはずで、わざわざ俺に会いに来る理由が分からない。
「ベリル社長は……今日は珍しく自宅にいますね」
予定表を見るのが面倒くさかったので、内心を【見】ないよう気を付けて【見】た結果を教える。
「ありがとうございます。……いえ、そうではなくて、学園部門から『一度おいで頂きたい』と」
ブラン秘書官とベリル社長は、親友というには濃いつきあいをしているので、いろいろあるのだろう。
「俺は艦隊部門の担当ですが」
部門ごとに対立はしていない。
単純に、俺が他の部門に関わる時間がないだけだ。
「言いづらいのですが、船長猫耳さま方が……」
「申し訳ありません。すぐに出向きます」
俺は謝罪のための土産を注文しつつ、謝罪のためのスーツを着るため更衣室へ向かった。
☆
「「「に゛ゃぁ……」」」
設備が整った演習室で、船長猫耳たちがぐったりしている。
宇宙船で飛行中なら交代で休憩するのはよくあることだ。
俺『は』特に気にしない。
「あの方たちだよね?」
「うん。会社の広報ページに載っているのと同じ顔……だけど」
「ちょっとショックだよ」
同じ演習室にいる学生たちがショックを受けている。
最近増えてきた猫耳以外の学生より、猫耳の学生の方がショックが大きそうだ。
「あのっ、あのあのっ」
見た目が20代半ばの光翼人間が、教壇でおろおろして、光翼が不安げに『ぱたっぱたっ』している。
「こちらは、銀河帝国から招聘に応じて下さった教授です。専攻は実戦系数学です」
俺をここまで案内してきたブラン秘書官が小声で説明してくれた。
「初めまして。ベリル運送で幹部をしております、猿谷と申します」
猫耳には言いづらい方の名前を伝える。
「俺の部下が大変失礼な態度をしたことを謝罪します」
俺の立場を考えると、90度の礼は脅迫になりそうな気がしたので、45度に留める。
なのに、何故か光翼人間教授に『びくっ』と怯えられてしまった。
「「「おっちゃん。シミュレーターで戦闘モードになったまま戻ってないにゃ」」」
船長猫耳からの注意は真っ当なものだが、船長猫耳の態度が真っ当ではない。
「今のみなさんは学園の編入生です。へりくだれとは言いません。他者には丁寧に接してください」
露骨に「「「めんどいにゃ」」」と(比喩的な意味で)顔に書いてある。
俺は『にっこり』と笑って『ベリル社長の恥になる言動を続けるなら一番キツイ進路相談してやる』という思いで見る。
「「「ごめんなさいにゃ」」」
姿勢を正して教授に頭を下げる船長猫耳は、そこだけ見ると非常に礼儀正しく見えた。
☆
先程の謝罪で一件落着なら良かったんだが、学園区の雰囲気は浮ついたままだ。
学園区に直接訪れる機会は滅多にないので、俺はしばらく留まり視察することにする。
「学園区における船長猫耳への評価に違和感があります。船長猫耳は船長としては上澄みの存在のはずですが」
俺が聞くと、ブラン秘書官は困った顔を隠しきれなくなった。
「生活態度と計算の訓練しかしないためです。そのまま採点すると『編入できているのがおかしい』成績になってしまうのです」
ブラン秘書官は、俺にとって耳が痛いことも言ってくる。
本人の性質かな?
「サルさま。普通の人材に諫言を期待するのは酷です。ブラン秘書官はベリル社長の後ろ盾があるから耐えられるのかもしれませんが」
今日は余所行きモードの拿捕猫耳が、俺の護衛としてついてきながら説明してくれた。
表情と雰囲気から考えを読まれるのにも、もう慣れた。
「ありがとうございます。……このまま会社が大きくなったらイエスマンばかりになりそうで怖いですね」
後半は小声で応える。
もともと俺は下っ端サラリーマンなんだ。
巨大組織の幹部にふさわしい管理能力なんてありはしない。
「わたしたち(拿捕猫耳たち)もフォローはできるけど、わたしたちも仕事が増えすぎてるからね?」
拿捕猫耳は普段の口調に戻して弱音をもらす。
なお、拿捕猫耳に対する学生の態度は、船長猫耳に対する態度とはかなり違う。
高品質の金属服を着こなし、隙のない態度で俺の脇に控える拿捕猫耳は、光翼人間の教授よりも切れ者で高い位置についているように見えるのかもしれない。
大勢の学生から、憧れや嫉妬の視線と意識が向けられているのが、とても強く感じられる。
「それにしても」
俺は学園区を見渡す。
工期を短縮するために豪快に資材を使った結果、学園区は非常に広々としていて空間的には余裕がある。
なのにそれほど広く見えないのは、学生の数が多いからだ。
「このまま会社が大きくなるのではなく、このまま爆発的に大きくなりそうな気がしてきました」
ブラン秘書官は『言いたいことを飲み込んだ顔』で目を少し逸らす。
拿捕猫耳は、真面目な表情のまま『何をいまさら』という目をしていた。
☆
それから10日後。
交代しながら順々に学園区に通っていた船長猫耳たちから、俺に対する挑戦状が届いた。
「「「成果を見せるにゃ!」」」
猫語の訛りが強くなっている気はしたが、部下たちの頑張りに感激する俺は、深くは考えなかった。
「では」
「「「いくにゃ!」」」
シミュレーターでの1対8の戦いが始まった。
俺はベリル号を担当。
船長猫耳たちは、それぞれの下僕と一緒に猫巡洋艦を担当する。
(射撃担当がいませんからね。一撃離脱に徹して、燃料切れまでに6隻撃破できるかどうかでしょうか)
【見】れる距離が倍違うので、普通に考えれば俺が圧倒的有利だ。
船長猫耳の射撃技術が向上していたとしても、撃破できる数が1隻減る程度だと思っていた。
「何!?」
光速の10万倍で飛びながら放ったタキオン粒子が弾かれた。
常に警戒し続けても反応できたのは5隻だけ。
そのうちの3隻が弾くのに失敗したが、2隻がかりで成し遂げたのだ。
「すばらしい!」
悔しさはある。
追い抜かれたことへの焦りはある。
だが、若者が予想を超えて成長してくれた喜びの方が、ずっと強い!
「「「にゃ!」」」
シミュレーターなので得意げな鳴き声が直接聞こえてくる。
「まだまだ!」
俺の声が興奮しているのは事実であるが、フェイントでもある。
船長猫耳でも常に警戒するのは不可能だ。
集中が途切れる向きとタイミングは、ほんのわずかではあるが存在する。
2射目が弾かれ、3射目も弾かれる。
しかしその直後に飛来した4射目と5射目が、猫巡洋艦8隻に襲いかかる。
タキオン粒子の速度を調節した、時間差攻撃だ。
「「「ふに゛ゃぁっ!?」」」
「なっ」
7隻が回避を試み、4隻が回避に成功した。
シミュレーターの中の猫巡洋艦4隻がタキオン粒子に消し飛ばされる。
シミュレーターの中のベリル号は、既に『母港に帰還するだけのエネルギー』しか残っていない。
「「「にゃあ……」」」
猫耳船長たちは落ち込んでいるが、一方的に攻撃できるのに半数しか落とせなかった俺の方が落ち込むべきだと思う。
『うわあ……。僕、ちょっと自信なくしたかも』
銀河帝国の広域開拓担当者との会議の合間を縫って見ていたベリルが、落ち込んでいる。
「頼もしいじゃないですか。これなら、今の猫巡洋艦の性能をフルに引き出せます」
『それはそうだけどさあ……。ねえサルくん。何かおかしくない?』
「にゃ!」
「にゃあ?」
「ふにゃあ」
「いつも通りでは?」
『サルくんしっかりしてよ! この子たち、猫語しか喋ってない!』
「あっ」
しばらくしてある程度はもとに戻ったが、猫語の比率がキンに近付いてしまった。
「「「猫語ではにゃしたら、連携しやすいのにゃ!」」」
『君たち司令になる気がないの!? 司令職は他種族との交渉が必須だよ! 猫語だけじゃ無理なんだよ!?』
ベリル運送の戦力は拡大したが、将来の人材という意味では、ヤバイことになってしまったかもしれない。
☆
『剥き出しのCPU』に、俺たちの母港からエネルギーが供給される。
特大デュプリケーターはもちろん、最低限の機能以外を止めてようやく供給可能になるエネルギーは本当に巨大だ。
俺が視線を向けると、ハイパーレーン発生装置から一直線に、宇宙の性質がごくわずかに書き換えられているのが【見】えた。
「これは、すごい」
上位存在が関わらなくてもこれほどのことができるのか。
俺は、人類の力に感動している。
『こちら星系管制。今、本社からハイパーレーンが繋がったとの報告が入りました。続いて試験飛行……どうやら惑星開拓船が先を争ってこちらへ向かっているようです。書き入れ時ですね』
膨大な人、物、金、利権が動く、熱い時代が始まった。
船長猫耳ズ|船長Lv2+[猫語Lv1]
↓
船長猫耳ズ|船長Lv3 [猫語Lv2]
ブラン |秘書Lv2 [衰弱Lv1]
↓
ブラン |秘書Lv2+[衰弱Lv1]
◆ CAPTURED
高速海賊船(中破)*2
高速海賊船(大破)*6
海賊船(中破) *11
海賊船(大破) *7
↓
すべて修理後売却し、売却益をハイパーレーン生成に使用




