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地球人に人権がない銀河で、零細猫耳社長にスカウトされました ~生体パーツ扱いのどん底から操縦チートと拿捕ビジネスで成り上がる~  作者: 星灯ゆらり
第5章 猫耳の国を作ります

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89.800年ぶりの賞金首

 コネと金を駆使した再開要求を躱しきれず、遺物回収が再開された。

 今日は記念すべき100回目だ。


「はじめまして! よろしくです!」


 1回の依頼料も決して安くはないのに、初めての客もリピート客も大量で、最近では第1攻撃艦隊だけでなく第2攻撃艦隊まで遺物回収依頼専門で動いている。


「はい。こちらこそよろしくお願いいたします。早速ですが……」


 ベリル運送には99回のデータが蓄積されている。

 遺物に直接関係するデータは依頼人との契約で利用できないが、それ以外のデータは利用できるので『母港から日帰り可能な範囲』のデータは膨大だ。


「1日で発見できるんですか? 誇大広告とか、特殊な条件が満たされているとき限定とかではなく?」


 言動からして若い学生さんらしい光翼人間が、びっくりした顔と光翼の動きで聞いてきた。


「お望みの物の状態までは保証できません。我々に可能なのは、発見と回収のみです」


 海賊や敵対企業を相手に猛威を振るった俺の自力センサーも、最近では平和的な分野で使われることが多くなっている。


「はい、それは承知しています。小さなデブリひとつでも重要な情報ですから! もちろんそのまま形が残っているのがいいですけど!」


 最近は護衛だけでなく秘書的な仕事までし始めた拿捕猫耳が、『母港まで運ぶ際の料金表』を依頼人へ渡す。

 大きいほど金がかかり、危険なほど金がかかるだけでなく『いざというときは捨ててOK』という条件がつく。

 依頼人は契約時点で確認しているはずなのに、実際にその場面になると結構な確率で頭から抜けているものだ。

 母港から出発する前に改めて確認をとっておくのも、俺の重要な仕事だった。


 数分後に、母港での仕事をなんとか片付けたベリルがベリル号に搭乗。

 これでようやく発進だ。


「わあ! これが光速の5万倍! ……念のためにお聞きしますけど、合法ですよね?」


「このあたり、星系外まで速度制限を強制できる国や企業が存在しないの」


「無人の星系ばかりですからね。社長、デブリの処理をお願いします」


「了解ー」


 客相手に雑談しながら仕事をする。

 なお、俺が声をかけたときには既に射撃済みだった。

 だいたいこんなものだが、100回に1回程度は見落としやミスがあるので、お互い声をかけて注意を促すのは重要だ。


「サルくん、そろそろと思うけど、何か【見】える?」


「今見えるのは残骸ですらないゴミばかりです。何かが【見】えるとしたら、あと数分はかかると思います」


「残滓とかもなし?」


「はい。今のところはありません」


 俺が答えると、ベリルは客を気遣う表情になった。


「念のため言っておくけど、最初からないものは見つからないからね?」


「あ、はい。それは覚悟の上です」


 スッスのように修行僧じみて己を鍛え上げる求道者でもなく、星系管制のような能力と倫理観のなさを兼ね備えた悪党でもなく、今回の客はほどほどの覚悟とほどほどの能力を感じさせる『普通』の人間だ。

 自己申告した情報が正しいなら、かなり良い教育機関に通う、金持ちの子女(子弟?)でもある。


「800年と少し前に滅亡した国の残党が隠れているとしたらここ! という場所を一度調べたかったんです。そろそろ卒業して親の事業の手伝いをしないといけないので、卒業前に調査旅行をしたかったんです!」


「学生さんなのにお金持ってるんだ……」


 今のベリルからは、普段は感じないコンプレックスを感じる。


「社長。こういうときは素直に応援してあげましょう。『当たり』なら大金持ちになって、次も良いお客さんになってくれるかもしれませんよ?」


「あはは。たぶん見つかるとしても宇宙港の残骸とかですよ。原型をとどめた機動要塞でも見つかれば、今回使ったお金くらいにはなるかもです」


 光翼人間はベリル号の雰囲気に馴染んで冗談を飛ばす。


「機動要塞かあ。サルくん、あれ、本当に維持するの?」


「娘が独立するまでは、維持費は負担するつもりです。修理費用と弾薬費は、娘にいずれ、社会勉強を兼ねて稼いでもらうつもりだったんですが……」


「結構な数のお客さんが面白がってパーツを残していったもんね……」


 『好きな物が無事に動いている』のに満足するタイプの好事家が多かったんだ。

 その結果、まだ3歳児の娘のペットが、往時の戦闘力を取り戻しつつある。


「それって」


 興味を持った光翼人間が詳しく聞こうとする。

 だが俺は、自力センサーから何かを感じ、軽く頭を下げて仕事に集中した。


「特大、いえ、宇宙港サイズのデブリが5つ。位置はそこです」


 俺が見つけたものは、自力センサーの最大有効射程の半分程度の距離にあった。


「サルくんがこの距離で見つけたということは、無人?」


「と、思うのですが感触が奇妙です。今、映像を出します」


 艦橋で一番大きな画面に5つのデブリが映る。

 最初は安定しないモザイクのように見えていたそれが、急速にはっきりして形をなす。

 それは、トーティのペットである機動要塞に、とてもよく似ていた。


「えっ」


 光翼人間が口を開けたまま固まる。


「完動品ならいくらだろ」


 ベリルは冷静に見えて冷静ではない。


「さて? 俺としては、母港まで引っ張る際に必要な船の数を考えると頭が痛いです。エンジンが無事ならいいんですが」


 俺たちは、遺物の所有権は依頼人という条件で仕事をしている。

 だから当然、(乗組員が生きているという奇跡が起きなければ)あの5つの機動要塞は依頼人のものだ。

 何故か宇宙線による色褪せはなく、外から見えるタキオン砲にも欠けはない。

 換金に成功すれば、親を上回る資産家にもなれるだろう。


 『ぶんっ』と勢いよく光翼が上下する。

 ただ興奮しているのではなく、呑気な金持ち学生から、厳しく結果を求められる研究者の顔に変わっている。


「社長さん。デブリではなく現役の機動要塞かもしれません。ステイシスフィールドはご存知ですか」


「確か、起動の際に大量のエネルギーを使って、一定範囲の時間を一時的に止める技術だよね? まさか、あれぜんぶ?」


 社長から技術と必要エネルギーの情報がデータとして送られてくる。

 仮にあの5つが800年間続くステイシスフィールドを張っていたのだとしたら、それこそ大国が破綻しかねないエネルギーが消費、いや、浪費されたことになる。

 800年で目覚めたのは、俺たちが近づいてきて警報などが反応してステイシスフィールドが緊急停止した結果だろうから、800年ではなく1000年続くステイシスフィールドを張っていた可能性すらあった。


「社長」


「サルくんに委任する。緊急時は僕の承認なしでやって」


「了解です」


 俺は第1攻撃艦隊の進路を変える。

 5つの機動要塞に向かっているのは変わらないが、大きく回り込んで、艦隊、5つの機動要塞、母港が一直線になる位置を目指す。


 ベリルは今後の方針について客と話し合おうとしているようだが、それより早く5つの機動要塞に動きがあった。


 多数のエンジンが強く発光する。

 装飾の多い1つの機動要塞を中心に、4つの機動要塞が守りを固める陣形をとる。


『800年ぶりの目覚めの出迎えが、たった9隻とはな』


 中心の機動要塞から聞こえたのは、ひどく傲慢で、俺が『海賊の命に価値を認めていない』レベルで『自分より下の人間の価値を認めていない』野郎の声だった。


 甲高い音がベリル運送の艦橋で発生する。

 客が騒いだ経験から(危険な音を自動で消す)耳栓を使っている拿捕猫耳に影響はない。

 徹底した治療を受けたベリルも同じだ。


 甲高い音に一番ダメージを受けたのは、大音量に参った俺と、甲高い音の意味を知っている光翼人間だった。


「賞金首?」


 研究者としての(成果争いや予算争いや学内政治という)戦いはしたことがあっても、殺し合いの経験はないのかもしれない。

 光翼人間はあたふたと自分のタブレットを取り出そうとして失敗し、ベリルの助けを借りて必要な情報を表示させ、共有した。


「800年前の戦争当事国の元首。ハイパーレーンを悪用して複数の星系を滅ぼした、賞金支払いが死亡限定の犯罪者ですか」


 賞金額もすさまじいが、800年経っても手配が取り下げられず、自動で反応するタブレットが出回っているのもすごい。


「見た目は光翼人間だね。ここまで男の見た目なのは初めて見るけど」


「社長さんもパイロットさんも危機感を持ってください! タキオン砲がこっちを向いてますよ!?」


『上位者に頭を垂れることも知らぬか』


 悪意のない殺意がベリル号と猫巡洋艦8隻を狙う。

 それは、読みづらいペットの思考と比べると読みやすく、海賊と比べても工夫がなさすぎた。


「社長。『20万』を使います」


「っ……承認!」


「社長さん、何をっ!? 速度を上げすぎ……光速の20万倍っ!?」


 光翼人間が「ひっ」と声をあげて真っ青になる。

 微小なデブリに触れただけで宇宙船ごと消滅する速度なので、恐怖するのが人間として正しい感覚だ。


 この時点でエネルギー残量は45パーセント。

 既に、自力で減速するエネルギーは残っていない。


『愚か者め』


 800年前の賞金首が迎撃の命令を下す。

 その数秒前に、ベリル社長と船長猫耳たちの攻撃は完了している。


 貫通力を文字通りの最優先にしたタキオン粒子は、通常なら光速に毛が生えた程度の速度しか出ない。

 しかしタキオン砲を搭載した船が光速の20万倍という非常識な高速なら、『最初から予測している』か『遠くから自力センサーで気付いている』ときを除き、防御しようがない。


『『『命中にゃ』』』


『命中したよ』


 トーティのペットは修理の際に徹底的に調査され、同型の機動要塞ならどこが弱点か調べ尽くされている。

 まあ、弱点というより、最も分厚い装甲で守られた艦橋(重要区画)を破壊するのが一番マシというのが分かっているだけだがな。


 ただのタキオン粒子なら受け流してしまう装甲が、『ちょうど必要なだけ』の貫通力と、圧倒的な破壊力に耐えきれずに陥没する。

 その下の艦橋には大勢の人間がいて、地位の高い者も低い者も関係なく、押し潰された。


 これでエネルギー残量は9パーセント。

 これは艦隊全体の平均値であり、最も残っているベリル号で15パーセント、猫巡洋艦で最も少ない船で5パーセントだ。


 敵からの通信はない。

 指揮官や幹部が乗る艦橋を吹き飛ばされた5隻の機動要塞は、自分たちを襲った敵に追いつけず漫然と漂っている。


「光速の20万倍なんて、死んでも止まれないじゃないですかぁ」


 光翼人間がへたり込む。

 なのに俺たちは、多少の緊張はあるが、助かると確信している。


「サルくん。毎回僕にデブリ掃除させてたのって、これが目的?」


「これも目的です。綺麗にしておけば、猫ボートや、第7営業艦隊第1分遣隊で『受け止める』確率も上がるでしょうから」


 俺は自力センサーを使いながら、母港との距離と方向を計算する。

 進路がズレそうな猫巡洋艦には方向変更を指示。

 方向はあっている猫巡洋艦には、可能な範囲での減速を指示する。


 エネルギー残量が5パーセントだった船は減速がほとんどできず、最も早く母港へ近づき、猫ボートの群れに『受け止め』られた。

 せっかく新規に量産した猫ボートを資源回収任務から引き剥がすことになったが、背に腹は変えられない。


『いきなりの即時通信で驚きましたよ。回収に一枚噛ませてくださいね?』


 星系管制が欲の皮が突っ張った顔で笑った。


 第7営業艦隊第1分遣隊16隻のトラクタービームも活躍している。

 最初に出会った頃より格段に操縦技術が上昇しているのは、暇さえあれば『俺たちの母港』のシミュレーターに籠もっていたからかもしれない。


 猫巡洋艦がすべて『受け止め』られた後、最も減速していたため最も遅くに母港に近づいたベリル号が、猫ボートのトラクタービームにより減速させられ、母港の港湾区に危なげなく収容された。



  ☆



「社長さん! 助けてください!」


 機動要塞5つの所有者となった光翼人間がベリルに泣きついた。

 あの5つは、艦橋だけを破壊されているので装甲の大部分とタキオン砲は無事だ。

 わずかな生き残りもいるが、最悪級犯罪者の部下であり、軍人としての身分も機動要塞の所有権も認められない立場だ(星系管制を通して銀河帝国側にも確認した)。


 つまり、機動要塞5つを単独で所有しているのが、このお客さんだ。

 そのまま売り飛ばしてもとんでもない金持ちになれるはずだった。


「知らない親戚がいっぱい現れて怖いです! パパもママもすぐにはここまで来れません! はやくお家に帰りたいよぉ」


 ステイシスフィールドの一件では非常に頼りがいがあったのに、今の光翼人間は見た目よりも子供っぽい。

 しかしベリルは、悪意はないものの目の前の光翼人間に寄り添わない。


「そんなこと言われても、僕らは機動要塞を買い取るのも、安く運んであげるのも無理だよ」


「そんなあ」


 ベリル運送は、金も力も足りないのだ。

 宇宙船の回収程度ならともかく、機動要塞5つというのは、物理的にも政治的にも大きすぎる。


 俺はベリル社長の代理として、星系管制や光翼人間の有力者からの通信要求を断り続けている。

 まず間違いなく、5つの機動要塞を買い叩くつもりだからだ。


「サルくん。意見」


 ベリルは俺に丸投げした。


「意見と言われましても……。そういえば社長、例の件はどこまで進んでいます?」


「星系管制は乗り気。銀河帝国の国交省から何人か役人が来るって話になってる」


 多数の星系の開拓計画は、一朝一夕で決まる計画ではない。

 銀河帝国に余裕がないなら却下される可能性は十分にある。

 だが、倫理はともかく能力だけは高い星系管制が乗り気であるなら、仮に銀河帝国が参加しないとしても、計画は小規模に修正されるだろうが出資者も開拓参加者も大勢集まる……可能性がある。


「となると、すぐに売らないほうが得ですね。お客様、提案があるのですが……」


 俺が同情半分、営業半分で語りかけると、俺は何故かうさんくさいものを見る目を向けられてしまった。



  ☆



「突然の呼び出しに強く抗議いたします! 猫輸送船8隻の取り引きが流れてしまいましたわよ?」


 相変わらず隙のない容姿と服装の黒猫耳が抗議してくる。

 猫耳ノワールは、その優秀さを買われ、ベリル運送から営業の依頼を受けて活動していた。


 既存取引先(地球艦隊と地球人奪還社と白翼人間)以外との取り引きはベリル運送に多大な利益をもたらし、ノワールも『猫輸送船の売り上げの1パーセント』という、割合としては小さくても額としては巨大な報酬を受け取っている。


「ほぼ最優先の仕事です。機動要塞5つの輸送作戦に、所有船と共に参加して下さい」


 概要データをノワールに渡すと、表情は変わらないが、黒猫耳と黒尻尾に驚愕を隠せなくなった。


「ベリル運送は、未確認の上位存在から加護を与えられてでもいるのですか?」


「もしそうならトリックスターじみた上位存在でしょうね。既に第2攻撃艦隊が漂流中の機動要塞5つを確保しています。準備が整い次第、防衛艦隊と共に現地に向かって下さい」


「……機動要塞の使い道をお聞きしても? 母港周辺では過剰すぎる戦力です。解体してパーツを売り払った方が儲けに繋がるはずです」


「先に守秘義務の契約書の更新をお願いします。……確認しました。近いうちに始まる、多数の星系の開拓計画における、臨時の宇宙港として利用する予定です。宇宙港として利用するなら現地に運んだ後は最低限の修理ですみますし、開拓が進行すれば機動要塞としての使い道もある。所有者からは既に了解を得ています」


「所有者にリスクを押しつけて、護衛や輸送で利益だけ貪るつもりですの? ベリル閣下らしくないですわね」


 お前の差し金か、と言われている気がする。


「ベリル社長も、機動要塞の所有者も長命です。長期的には双方に大きな儲けが出ると判断したのだと思いますよ」


 成功すれば両者に膨大な利益が転がり込むのは間違いない。


「危ういですわ」


「そこをなんとかするのが我々ですよ。で、答えは」


「直ちに出発します。仕事が終わった後は、総天然食材の料理を味わいたいですわね」


 俺たちは、新たな契約を交わし、それぞれの職場へ向かう。

 広域開拓という巨大事業が、徐々に現実に姿を現そうとしていた。

◆ GUEST

要塞所有者|学生Lv2 [財産Lv5] ※機動要塞の所有権は財産に未反映



◆ CREW

ベリル  |司令Lv3-[財産Lv1]

◆ CREW

ベリル  |司令Lv3-[財産Lv8] ※賞金首の賞金と遺物回収依頼群での利益




◆ CAT TUGBOAT MK2 *16

船体:2 / 跳躍:4 / 航続:4 / 装甲:1 / 居住:0 / 船倉:0 / 兵装:0

◆ CAT TUGBOAT MK2 *32 ※艦隊大規模増強に備えて量産

船体:2 / 跳躍:4 / 航続:4 / 装甲:1 / 居住:0 / 船倉:0 / 兵装:0

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