81.飼い猫ノワール
創業数百年の企業を3日で崩壊させた俺たちだが、特別なことはしていない。
まず、母港から出発する前に、企業間戦争の開始を宣言した。
宣戦布告の直後に攻撃しても合法ではあるが評判は悪くなるので、宣戦布告が『2日後』に届くように複数ルートで送信した。
その後は母港から標的の母港に向かって一直線だ。
無人の星系がいくつかあるだけで、生きている航路が存在しない空間を、俺の自力センサーを頼りに延々飛行する。
主治医には最大でも一日12時間の活動しか許されていないので、俺が艦隊のセンサーをしているときは光速の4万倍。
スッスがセンサー役のときは光速の1万倍未満で、無理なく標的の母港へ近付いた。
「あれを無理なくって言えるのは先輩くらいっすよ?」
スッスには呆れられていた気はするが、俺ひとりを除いて体力が有り余っているベリル運送攻撃艦隊(第1と第2が一緒になって行動中)は、万全の状態で敵母港がある星系までたどり着いた。
『宣戦布告なしで星系内に侵入だと!? 蛮族め!』
「僕らからの通信を拒絶でもしたのかな? 文句があるならこのあと法廷で会おう! ……そっちが生きてたらだけど」
星系への侵入。
敵母港周辺の敵船に対してタキオン砲で攻撃。
その時点で光速の2万倍は出していたので、少量のタキオン粒子で9割以上の敵船が吹き飛んだ。
微小なサイズまで砕けた敵船の破片が、惑星や航路へ向かうこともあった。
それらすべては、ベリル社長による恐るべき長距離精密狙撃により撃破……というより何もない方向へ強制的に方向変更させられている。
『社長。本当に拿捕しないんですか? 船ごと拿捕は難しくても、船倉におさまるサイズのパーツなら拿捕して良いと思います』
第2攻撃艦隊旗艦に乗る司令猫耳から意見の具申があった。
「気持ちはすっごく分かるんだけどねー。拿捕してる間に、奇襲開戦されて襲われたら負けちゃうから」
「俺を捕まえることができれば大儲けですからね。俺の存在に気づかれた時点で、無関係の企業が大量に参戦してくる恐れがおおいにあります」
事実だ。
これまで散々暴れてきたので、このあたりまで俺の能力と金銭的価値が知られている恐れがある。
『承知しました。でも、もったいないですよね』
「うん」
「はい」
ベリルも俺も、拿捕したい欲に耐えていた。
攻撃艦隊が、慣性制御でGを消せる範囲で加速を続けて『ぐるり』と180度向きを変える。
次の狙いは敵母港……ではなく、敵の母港を守ろうと集まってきた敵艦隊と敵防衛艦隊の生き残りと、敵に急遽雇われた傭兵や警備企業の艦隊だ。
「母港の近くの艦隊なら拿捕までできるんだけどね。地球艦隊を呼べるし、最近は白翼人間も艦隊持ってるし」
攻撃を再開する。
起床したスッスと手分けをして星系内の敵すべてを把握。
俺が敵司令部を【見】た結果も添えて、全乗組員と情報を共有する。
「本気でお姉ちゃんを捕まえるつもりだったの!? たったこれだけで?」
ベリル社長が撒き散らしていた殺意がしおれていく。
司令猫耳も困惑を隠せていない。
「輸送船と揚陸艦を多数投入する、手堅い作戦ではありますよ。俺やスッスの自力センサーだけでなく、ブルネットの現在の射撃の腕も知らないようですが」
敵とその友軍の反撃が始まる前に、猫巡洋艦16隻による攻撃が始まる。
拿捕のことを一切考えていないので、艦橋、動力、弾薬庫などを、拿捕すれば高値で売れるパーツも巻き込んで吹き飛ばす。
「うーん、やっぱ狙いづらい。サルくんに【見】てもらっても、敵船の壊れ方を完璧に予測するのは無理だもんね」
ベリル号の特大タキオン砲は、敵の破壊ではなく敵の残骸の破壊に専念している。
人が住める環境を破壊すれば、この銀河では少数派であるまともな企業からも敵視されてしまうからだ。
なお、銀河通商は、最初は俺も信じられなかったが、あれでもかなりの良識派だ。
『おっちゃん! 敵の母港壊さないにゃ? 動力源、一個だけなら取り出せそうにゃ!』
「ほう」
船長猫耳からの報告と提案に、俺は欲望を刺激される。
増築が繰り返される俺たちの母港は、動力源がいくらでも欲しい状況だ。
わざわざ動力源として使っている宇宙船まであるくらいだからな。
「動力源はいくらでも欲しいけど……今回はなし! 艦隊の破壊だけ! 以上!」
欲望に流された俺とは違い、ベリルは断固として決断する。
『『『にゃ!』』』
明確に方針を示されたことで船長猫耳たちの集中力が増し、拿捕のことを一切考えずに敵船を残骸に変えていく。
ただ、残骸への変え方には特徴がある。
「艦橋を狙わなくなりましたね」
『敵の数が減りましたから、時間優先で艦橋を狙わなくても良くなりました』
司令猫耳が説明してくれた。
「確かにそうだね。こっちも艦橋狙わなくていいよ」
ベリル社長は部下の意見を柔軟に受け入れる。
とても難しいことができている上司の姿に、俺は、素晴らしい職場で働けているという喜びを改めて感じた。
☆
敵を再起不能なほどに痛めつけ、第三勢力が介入してくる前に離脱した。
そこまでは良かったんだ。
「どうしようサルくん! 予定のルートを使うと通行料でキャッシュが吹き飛びそうなんだけど!」
母港は辺境中の辺境にあるので、遠方の情報を更新しづらい。
関係の深い銀河通商第7営業艦隊は活動範囲は基本的に辺境であるし、関係を深めたがっている銀河通商第2営業艦隊とは距離をとりたいので、そちらからの情報収集も難しい。
「申し訳ありません。俺の失敗です」
敵艦隊に致命傷を負わせた後は、通行料や滞在費を払いつつ『ゆっくり』と母港に帰るつもりだったんだが、通行料が予想の数倍になっている。
俺たちが破滅させた企業がしかけていた罠か、猫耳の社会的地位が低すぎるせいかは分からないが、これはかなりまずい。
攻撃艦隊のエネルギー残量は平均して40パーセント以下だ。
どこかに滞在させてもらってエネルギー補給ができないなら、かなり無茶なペースで母港へ飛ぶしかなくなる。
「社長。近くに銀河通商の拠点はないっすか? 営業艦隊でもいいっす!」
「そんなに都合よくは……んん?」
ベリル社長が、驚きで目を見張る。
大量に届いている通信ひとつを、じっと見ている。
「なんとかなる……かな。スッス、サルくんにかわってセンサーをお願い。サルくんは今すぐ仮眠をとって。交渉がうまくいかなかったら、サルくんの睡眠時間を削って同じルートで母港まで戻らないといけないから」
「了解です」
あれこれ言う暇があるなら全力を尽くすべきだ。
俺は艦橋の隅にある小型ベッドに横たわり、すぐに眠りについた。
☆
俺が仮眠から目覚めると、初めて聞く声が響いていた。
『お初にお目にかかります。わたくし、ノワールと申しますわっ!』
通信用の画面に映っているのは、艶のある黒髪と猫耳と尻尾が目立つ猫耳だ。
凝った作りのドレスを着ているので、動き易い格好の猫耳を見慣れた俺には違和感が強い。
「先輩が眠ってから約2時間っす」
「ありがとうございます、スッス。あの方は?」
ベリル社長が応対しているが、ベリル社長だけでなく拿捕猫耳も船長猫耳も、機嫌の悪さが隠せていない。
「個人でエネルギーを売り込んできた方っす。先輩が寝てすぐに連絡してきて、合流してから来たルートで母港へ向かってるっす」
スッスには、あの黒猫耳に対する敵意も好意も感じない。
やり手の商売人に対する評価と警戒は、うっすらと感じる。
「礼は言うし報酬は5割増しで払うよ」
ベリルの声は、交渉の場所では不適切なほど冷たい。
『今をときめくベリル閣下からのお褒めの言葉を頂き光栄ですわ』
黒猫耳がころころと心地良い音で笑うと、ベリルの尻尾が強く床に打ち付けられた。
「悪いけど、僕は飼い猫が苦手なんだ」
『あら。慈悲深く有能な主に仕えるのは、決して悪い生き方ではありませんわよ? わたくしは放し飼いですけれど、お呼びがかかればいつでも帰宅しますわ』
ノワールと名乗った猫耳は、美しいデザインのチョーカーを誇らしげに強調する。
乗っている船は本人が船長として登録された高速輸送船。
チョーカーを含む装束も、本人の美容と健康の状態も、特権階級とまではいかないが富裕層相当だ。
『主』に、ある程度以上重視されているのは、間違いないようだ。
『『『ふしゃー!』』』
なお、船長猫耳だけでなく拿捕猫耳まで威嚇しているのは予想外だった。
「スッス。飼い猫というのは社長たちと相性が悪いのですか? そもそも、飼い猫というのは? 俺は単に『他種族に雇われている猫耳』と思っていましたが、違うのでしょうか」
「自分も詳しくないっすよ。直接猫耳に会ったのはベリル運送が初めてっす」
スッスの光翼が『お手上げ』と言いたげに上向きになり、ベリルの尻尾が床を打つ音がもう一度聞こえた。
「失礼します。社長、発言許可を願います」
俺はベッドから立ち上がり、『今は武力を使わない戦闘中。落ち着いて』というサインを送る。
ベリルははっとして、軽く咳払いをして普段の態度に戻った。
「サルくん、交渉お願い」
「承知しました」
俺は部下として礼儀正しく一礼して、ノワールへ向き直る。
「っ」
すると何故か、まるで俺が武器を抜いて脅しているような態度になった。
おそらく演技ではない。
猫耳と尻尾の動きが演技かどうかなど、幼児時代の猫耳の『つまみ食いのときの言い訳』で見抜けるようになっている。
「社長?」
【見】るかどうか判断を預けると、ベリルは少し迷った末に頷いた。
なので、俺はノワールを浅く【見】た。
『推定超絶強力なテレパスな方相手に嘘をつく気はありませんわ! 憧れのベリル閣下に恩を売る千載一遇の機会と思っただけですの! これ何回繰り返せばいいのですの!?』
俺の予想をはるかに上回る、豪胆な相手だったようだ。
俺なら、初対面のサトリ相手に、表面上だけでも落ち着き払った態度などできない。
「もう、繰り返すのを止めて構いませんよ。社長。害意『は』ありません」
念のため深く【見】もしたが、俺たちに対する害意は【見】えなかったので、深く【見】た内容は忘れることにする。
「……しかたないかあ。補給を受ける代わりにお金は払うし、僕らの母港に連れて行く。それでいい?」
ベリルがじろりとノワールを見ると、ノワールは上品に微笑むのだった。
☆
【おとうさーん!】
母港が【見】えた直後に娘の声が届いた。
俺は心が浮き立ち、ベリルたち猫耳は『帰ってきたにゃ』という感じで少しリラックスする。
だがただひとり、所作も服装も上品な黒猫耳が、まるで神託をうけたかのように、陶然とした表情で跪いた。
【おみやげはー?】
俺は『久しぶりにおじいちゃんとおばあちゃんの家に行きましょう』と、文字で通信を送ってからスッスを見た。
「先輩。上位存在って、上位存在になる前から信者がいる方が多いって、知ってるっすか?」
「娘の教育の害にならないならなんでもいいです」
「それは無理じゃないっすかね……」
スッスも俺も、大きなため息を吐いた。
◆ BERYL ATTACK FLEET
規模:4 防衛:8 遠征:13 ※第1と第2をあわせた評価
◆ BERYL THE GREAT MK3
船体:3 / 跳躍:4 / 航続:4 / 装甲:0 / 居住:4 / 船倉:0 / 兵装:5
◆ CAT CRUISER *16 ※1隻はスッス専用
船体:3 / 跳躍:4 / 航続:4 / 装甲:2 / 居住:1 / 船倉:1 / 兵装:4
◆ CREW
ベリル |司令Lv3-[財産Lv6]
サル |操縦Lv6-[衰弱Lv3]
スッス |操縦Lv3+[医療Lv2]
司令猫耳 |司令Lv1 [拿捕Lv2]
船長猫耳ズ|船長Lv2 [猫語Lv1]
拿捕猫耳ズ|整備Lv2 [白兵Lv2]
◆ FRIENDLY FLEET
◆ SUPPLY SHIP ※エネルギー補給用装備を搭載。高価な船
船体:3 / 跳躍:4 / 航続:4 / 装甲:1 / 居住:3 / 船倉:4 / 兵装:1
◆ CREW
ノワール |諜報Lv2[霊媒Lv1]
◆ BERYL DETACHED FLEET
規模:5 防衛:6 遠征:10 ※第1から第4をあわせた評価
◆ CAT CRUISER *4
船体:3 / 跳躍:4 / 航続:4 / 装甲:2 / 居住:1 / 船倉:1 / 兵装:4
◆ CAT DESTROYER MK2 *20
船体:3 / 跳躍:4 / 航続:4 / 装甲:1 / 居住:1 / 船倉:0 / 兵装:3
◆ CAT TUGBOAT MK2 *8
船体:2 / 跳躍:4 / 航続:4 / 装甲:1 / 居住:0 / 船倉:0 / 兵装:0
◆ CREW
船長猫耳ズ|船長Lv2 [猫語Lv1]
猫耳の下僕|操縦Lv3-[信仰Lv2]
新人船長ズ|船長Lv1 [従順Lv2]
新人下僕ズ|操縦Lv1 [信仰Lv1]
◆ RESERVE
CAT DESTROYER MK2 *1
大型輸送船 *1
通信系強化型低速大型船 *1
◆ BERYL DEFENSE FLEET
規模:3 防衛:8 遠征:8
◆ BERYL THE GREAT MK2
船体:3 / 跳躍:4 / 航続:4 / 装甲:2 / 居住:2 / 船倉:2 / 兵装:4
◆ CAT CRUISER *4
船体:3 / 跳躍:4 / 航続:4 / 装甲:2 / 居住:1 / 船倉:1 / 兵装:4
◆ CAT TUGBOAT MK2 *16
船体:2 / 跳躍:4 / 航続:4 / 装甲:1 / 居住:0 / 船倉:0 / 兵装:0
◆ OTHER SHIPS
船体:4 *1 / 船体:1 *7
◆ CREW
ブルネット|事務Lv2+[射撃Lv3]
キン |整備Lv3 [白兵Lv2]
拿捕猫耳ズ|整備Lv2 [白兵Lv2]
猫耳の下僕|操縦Lv3-[信仰Lv2]
ブラン |秘書Lv2 [衰弱Lv1]
新人下僕ズ|操縦Lv1 [信仰Lv1]
母猫耳ズ |市民Lv2 [衰弱Lv1]
市民猫耳ズ|市民Lv1+[衰弱Lv1]
他種市民ズ|市民Lv1 [借金Lv1]
◆ CREW IN TRAINING
船長候補 |船長Lv1 [衰弱Lv1]
新人学生ズ|市民Lv1 [衰弱Lv2]
◆ CAPTURED
小型武装輸送船 *4 ※動力源として使用中
◆ CAN BE PRODUCED
船体:3 / 跳躍:4 / 航続:4 / 装甲:2 / 居住:2 / 船倉:3 / 兵装:3
◆ BERYL HOME PORT(7/7)
権利:2 / 規模:4 / 装甲:0 / 修理:3 / 居住:3 / 備蓄:0 / 兵装:3




