77.敵艦78隻の包囲
母港が【見】えてきた。
ベリル号も護衛の猫巡洋艦3隻も無事だ。
ただし救助された地球人たちは深刻な状況で、スッスが付きっきりで面倒を見ている。
「今襲われたらまずいですね」
俺はベリル号から、スッスの船を遠隔操作している。
直接乗り込んで操縦するのが船にとって一番安全ではあるんだが、ベリル号の飛び抜けた居住性がないと、俺の命が危ない。
「まずいのはサルくんの健康だよ。今母港からのデータを受信した。敵の高速船6隻の襲撃があったけど無事だって」
センサー役と操縦を同時にこなしている俺以上にベリルは多忙だ。
操縦、通信、艦隊指揮など、ひとつだけでも大変なことを同時に行っている。
『あなた。こちらは無事よ。詳しくはデータで』
「はい」
ブルネットの無事な顔を見て安心した。
できれば娘の顔も見たいところだが、海賊を【見】た直後で苛立った顔を娘に見せるわけにはいかないし、ブルネットが平然としているなら娘が無事なのは確実だ。
俺は、我慢をしていることを悟らせないよう、いつもの表情を心掛けた。
「サルくんって表情が分かり易いよね」
「それは社長が鋭いだけですよ」
『『にゃぁ?』』
『『うーん……』』
ベリル、船長猫耳たち、拿捕猫耳たち、あわせて10人近くに、微妙な表情をされてしまった。
「んんっ。分遣艦隊は無事帰還できたようです。その少し後に敵の高速船6隻が母港に襲撃をかけ……」
「2隻撃破したけど4隻に逃げられたみたいだね」
ベリルの態度が仕事モードに切り替わった。
「お姉ちゃんなら誘き寄せて半分以上撃破すると思ったんだけど」
『ベリルちゃん、無茶を言わないで。敵船の性能まで正確に読み取れるサルさんがいなかったのよ? 撃退だけで精一杯よ』
「さすがですね」
出産後は体調を考えて宇宙船には乗っていないブルネットだが、射撃の腕はベリル運送の中で一番だ。
攻撃するタイミングも攻撃の際の戦術も自由に選べる敵高速船を相手にして、母港の被害がゼロなのは、敵高速船全滅よりも大きな戦果だ。
「時間は稼げると思うけど、時間を稼いだら、ブラックマーケットはタキオン砲搭載船だけでなく、それ以外の船も一杯集めて攻めてきたりしない?」
「それはもちろん集めるでしょう。ですがその時間があれば、キンさんと整備班がタキオン砲7門を戦力にしてくれるはずです」
タキオン砲ごと破壊された敵船の残骸が、回収困難な速度で、何もない方向へ進み続けていた。
☆
港湾区に船を停泊させた直後、キンを先頭に整備班がなだれ込んできた。
『お邪魔します!』
何故かキンではなく拿捕猫耳からの通信だ。
拿捕猫耳の背後から肉食獣の唸りのようなものが聞こえるが、これはたぶん、興奮しきったキンの鳴き声だ。
『タキオン砲のシリアルナンバーを確認しました。銀河通商傘下のメーカーの製品です』
俺とベリルの表情が強ばった。
「サルくん、これ」
「社長の想像通りでしょう」
超高価な商品(タキオン砲)をブラックマーケットに売りつけ、その直後にベリル運送との戦争が起こるように誘導して商品(タキオン砲)をベリル運送に奪わせたのだ。
銀河通商はリスクを負わずに大儲け。
ベリル運送は数隻を失いはしたが切望していた兵器を入手。
ブラックマーケットは巨額の金を払わされたあげくに商品の24分の7を奪われるという大損害。
邪悪にもほどがある企みだった。
『呼ばれた気がしました』
思い浮かべた顔がそのまま画面に映った。
星系管制の光翼は相変わらず黒く、しかしその黒さは少し弱くなっている。
『やはりこの惑星の食『は』素晴らしいですね。特権階級や特権種族が高値を提示するはずです。……これはブロイラーではなく放し飼いで育てられた鶏肉です。これは、いいですよ』
星系管制がチキンソテーを一切れ食べるたびに、星系管制の光翼は白へ近付いていた。
「呼んでない!」
即座に通信を切ろうとしたベリルを、俺は全力で宥める。
「まあまあ。星系管制も、このクソ忙しい状況の俺たちを邪魔するほどクソではないはずです」
つい『クソ』とかいう本音が出てしまった。
『猿谷さん。クソ呼ばわりはないでしょう』
本気で傷ついた表情になり、色が黒っぽい灰色になった光翼が『へなり』と垂れた。
一応は身内なので【見】るつもりはなく、それが本心かどうかは分からない。
「すみません口が滑りました。それはそれとして早く本題に入って下さい」
俺はちらりと別の画面に視線を向ける。
そこには、タキオン砲を外壁へ運んでいくキンたちの姿が映っている。
『そのタキオン砲の整備マニュアルをお渡しします。安全上問題があるので物理で運ばせています』
「……今こちらへ向かって来ているのはブラックマーケットではなく通商の船ですか。ステルス船なので奇襲かと思いましたよ」
『申し訳ありません。ですが理由も聞いて下さい。この距離で分かるとなると、猿谷さんの自力センサーがまた成長しているのだと思います』
星系管制の表情が少しひきつっている。
光翼の動きも、ストレスに晒されているときの激しい上下の動きだ。
「戦闘だけを考えれば、朗報ですね」
『はい。戦闘だけを考えるなら、朗報だと思います』
俺の表情も、苦々しさを隠しきれなくなる。
「それって、サルくんの戦利品としての価値が、また上がっちゃったってこと?」
ベリルが気付いて焦り出す。
『猿谷さん。今後は、自力センサーを全力では使わないでください。命、惜しいですよね?』
「そこまで!?」
驚いたベリルの尻尾の毛が膨らんだ。
「命は惜しいですね。娘の結婚式に参列するまでは死なないと決めているので」
『こちらとしては、猿谷さんに最低500年は生きてもらいたいです』
「それ、お金のためだよね?」
ベリルが冷たい目を向けると、星系管制は誤魔化すそぶりなど一切なく、力強く頷いた。
『猿谷さんがベリル運送で活躍するほど私の利益になりますからね。今後100年は追加投資を続けて、その後の数百年……できれば1000年以上美味しい思いをさせてもらうつもりです』
「……勘弁して下さい」
数百年あるいは1000年以上の労働を想像した俺は、初めて星系管制に対して精神的に敗北した。
『人類に大人気の不老長生手術も紹介できますよ?』
「実質永遠の労働は勘弁してください。本当に、勘弁してください……」
猫耳の短命の運命から解放されたばかりのベリルはピンときていないようだが、俺は、娘が成長した後に働く気力が残っているかどうか、正直あやしいと思っている。
『ふむ。今のところはいいでしょう。今回も勝利と軍拡をお願いしますね』
『ばさっ』と光翼を広げて格好をつけてから、星系管制は再び食事に戻る。
銀河通商の光速ステルス船がタキオン砲整備マニュアルを『置き配』したのは、それから数分後のことだった。
☆
「ドクターストップっす」
その直後に俺は休暇を強制された。
「以前もそうだったすけど、先輩、死にかけるくらい働いたときに自力センサーがパワーアップする傾向があるっす」
「まるで漫画の主人公ですね」
茶化すつもりはなく、俺は本心を口にする。
「先輩が漫画やアニメの主人公みたいに成長するなら自分に出番はないっすけど、残念ながら先輩は健康や寿命と引き換えに能力を得るタイプっす。ここまで極端なのは学校の教科書にも載ってなかったっす」
スッスは大きなため息を吐いてから、弟子や同僚ではなく、主治医としての態度で俺を見る。
「自分には先輩を物理的に止める手段はないっすけど、先輩が休まないなら、本社か第2営業艦隊の世話にならないと近いうちに死ぬっす。自分のスキルじゃ体調の悪化を食い止められなくなるっす」
スッスが口を閉じると、会議室に耳が痛くなるほどの沈黙が落ちる。
いや、娘が機嫌良くはしゃいでいる声だけが、小さな音量で響いていた。
「……あなた」
ブルネットの目に迷いはない。
「休んで」
「はい」
娘の面倒を見ることも許されず、俺は自宅の一室へ軟禁された。
☆
「サルー! 見舞いにきたにゃ!」
「「「おじゃましまーす」」」
キンと整備班一行が見舞いに訪れたのは、それから3日後のことだった。
【見】るのはいつでも可能だが、一度でも【見】たらブルネットに本気で泣かれると直感してしまった俺は、ただただ静かにすることしかできない。
具体的には、この銀河における一般教養を、何故か星系管制から学んでいる。
「あん? おめーがなんでここにいるにゃ?」
拿捕班と整備班のトップのキンだから強く言えるが、普通の拿捕班である猫耳には、超大企業の幹部相手に強いことは言えない。
拿捕班の面々は、気配を消して俺の背後に隠れた。
「近い将来に大勢力の幹部になる猿谷さんに対して、実践的な教育を行うためです。私の利益にもなりますから、恩に感じなくてもいいですよ」
また光翼が黒くなった星系管制が胸を張る。
見た目だけなら俺が今まで見た人間の中で最上位層なんだが、中身が俗すぎて美形という印象が薄い。
「そうじゃなくて、ブラックマーケットの艦隊に完全に包囲されてるのに、ここにいていいにゃ? 7門のタキオン砲を母港にとりつけて迎撃する作戦、とっくに破綻済みにゃ? ブラックマーケットの連中、一番こっちが嫌がることしやがったにゃ」
キンの言うとおり、俺たちの母港は包囲されている。
敵艦隊は、ブルネット(とブルネットに次ぐ射撃の名手であるベリル)が操るタキオン砲を恐れて有効射程には近づかなくなった。
しかしその数は高速船12隻(うちタキオン砲搭載船は4隻)と低速船66隻(タキオン砲搭載船は11隻)におよぶ。
母港に出入りしようとする船を破壊するのに十分な戦力であり、このままでは資源調達手段を失った母港が餓えて死ぬだけの場所になる。
母港にいるのが、常識的な人材だけなら、だが。
「マニュアル、役に立ちませんでしたか?」
星系管制が不思議そうに聞くと、キンは満面の笑みで破顔した。
「めっちゃくちゃ役に立ったにゃ! 猫駆逐艦へのタキオン砲とりつけ、調整に1隻10日はかかると思ってたのに2時間くらいで済んだにゃ!」
「それはすごい」
俺は心から称賛する。
メーカーが作成したマニュアルがあっても、タキオン砲という超高度技術の産物を整備できたのは、キンの高い技術があったからだ。
「実際にすごいですよ。年齢延長治療を受けただけの猫耳が、このレベルの整備技術を持つなんて前代未聞です」
「キンさん。星系管制が『種族の歴史に残るレベルの偉業』と言ってるみたいですよ」
「照れるにゃ」
キンは「にゃふふ」と笑い、俺が勉強机として使っている掘りごたつ(室温設定が『秋』なのでこたつ布団はなし)へ、俺の正面に座る。
「つーわけで、今のベリル運送は、14隻の高速船が運用可能にゃ。特大タキオン砲搭載船が1隻、タキオン砲搭載船が13隻にゃ。シミュレーターだけど機種転換訓練もそろそろ終わるにゃ」
「……タキオン砲の数はほぼ同じで、高速船の数はこちらが上ですか」
これならやれる。
まだドクターストップは解除されていないが、一度や二度【見】るだけなら、ぎりぎりで許可が出る……と思う。
「あの地方ブラックマーケットの関連企業の株に、今から空売りを仕掛けますね」
星系管制が嬉々として金策に励む。
俺たちベリル運送の勝利を確信しないとできないし、やらないことをやっている。
「この銀河にはインサイダー取り引きに対する規制とかないんですか?」
「そういうのは中央限定ですよ。猿谷さんも一緒に空売りします?」
「勘弁してください……」
ベリル運送とブラックマーケットとの艦隊決戦が、すぐそこまで迫っていた。
◆ BERYL ATTACK FLEET
規模:3 防衛:5 遠征:8
◆ BERYL THE GREAT MK3
船体:3 / 跳躍:4 / 航続:4 / 装甲:0 / 居住:4 / 船倉:0 / 兵装:5
◆ CAT CRUISER *3 ※1隻はスッス専用
船体:3 / 跳躍:4 / 航続:4 / 装甲:2 / 居住:1 / 船倉:1 / 兵装:4
◆ CREW
ベリル |船長Lv3 [財産Lv1]
サル |操縦Lv6-[衰弱Lv3] ※過労状態
スッス |操縦Lv3 [医療Lv2]
船長猫耳ズ|船長Lv2 [猫語Lv1]
拿捕猫耳ズ|整備Lv2 [白兵Lv2]
◆ BERYL DETACHED FLEET
規模:3 防衛:4 遠征:9 ※第1と第2をあわせた評価
◆ CAT CRUISER *2
船体:3 / 跳躍:4 / 航続:4 / 装甲:2 / 居住:1 / 船倉:1 / 兵装:4
◆ CAT DESTROYER MK2 *7 ※猫駆逐艦から改造
船体:3 / 跳躍:3 / 航続:4 / 装甲:1 / 居住:1 / 船倉:0 / 兵装:4
◆ CREW
船長猫耳ズ|船長Lv2 [猫語Lv1]
拿捕猫耳ズ|整備Lv2 [白兵Lv2]
猫耳の下僕|操縦Lv3-[信仰Lv2]
新人船長ズ|船長Lv1 [従順Lv2]
新人下僕ズ|操縦Lv1 [信仰Lv1]
司令猫耳 |司令Lv1-[拿捕Lv2]
◆ RESERVE
◆ CAT DESTROYER *1
船体:3 / 跳躍:3 / 航続:4 / 装甲:1 / 居住:1 / 船倉:0 / 兵装:3
◆ BERYL DEFENSE FLEET
規模:3 防衛:7 遠征:5
◆ BERYL THE GREAT MK2
船体:3 / 跳躍:4 / 航続:4 / 装甲:2 / 居住:2 / 船倉:2 / 兵装:4
◆ CAT TUGBOAT *8
船体:2 / 跳躍:3 / 航続:4 / 装甲:1 / 居住:0 / 船倉:0 / 兵装:0
◆ OTHER SHIPS
船体:4 *1 / 船体:1 *7
◆ CREW
ブルネット|事務Lv2+[射撃Lv3]
キン |整備Lv3 [白兵Lv2]
拿捕猫耳ズ|整備Lv2 [白兵Lv2]
猫耳の下僕|操縦Lv3-[信仰Lv2]
ブラン |秘書Lv1+[衰弱Lv1]
新人下僕ズ|操縦Lv1 [信仰Lv1]
母猫耳ズ |市民Lv2 [衰弱Lv2]
市民猫耳ズ|市民Lv1+[衰弱Lv1]
他種市民ズ|市民Lv1 [借金Lv1]
◆ CREW IN TRAINING
船長候補 |船長Lv1-[衰弱Lv1]
新人学生ズ|市民Lv1-[衰弱Lv2]
◆ CAPTURED
小型武装輸送船 *4 ※動力源として使用中
大型輸送船 *1
通信系強化型低速大型船 *1
◆ CAN BE PRODUCED
船体:3 / 跳躍:3 / 航続:3 / 装甲:2 / 居住:2 / 船倉:3 / 兵装:3
◆ BERYL HOME PORT(7/7)
権利:2 / 規模:3 / 装甲:0 / 修理:3 / 居住:3 / 備蓄:0 / 兵装:3




