73.置き配はじめました
鶏肉の輸出が始まった3日後に、母港へ急報がもたらされた。
「猫駆逐艦が撃破された!?」
衝撃的すぎる内容に、俺は怒鳴り声に近い大声で反応してしまう。
「サルさん。情報は錯綜しているけど、全員無事なのは確定しているわ」
突然の悲報に混乱する母港の中で、ブルネットは冷静に情報収集と善後策の検討を行っている。
俺にも何かできることはないか。
そう考えたタイミングで、スッスが仮眠用のアイマスクを渡してきた。
「先輩。自力センサーの酷使は駄目っすよ。今の先輩が治療を受けることのできる設備は、本社か本国の中央だけっす」
この状況で仮眠をとれるほど俺の肝は太くない。
俺は意識して自力センサーを使わないようにして、言葉を荒らげたことを謝罪してから続報を待つ。
「スッス。風邪とかでもアウトってことにゃ?」
銀河通商から取り寄せた分厚い技術書(貴重な情報が多数載っているので流出対策で物理書籍)を読んでいたキンが、しおりを挟んでからスッスを見た。
「はい。ですから先輩もみなさんも健康には気をつけて欲しいっす。いざとなったら自分が治療するしかないっすけど、それで先輩の能力が低下したら、自分、本社や本国からどんな目にあわされるか分からないっす……」
スッスの顔はひきつり、光翼は怯えたように縮こまっていた。
「んん?」
ブルネットの表情から緊張感が薄れていく。
近くの画面に表示されている『ふたつの分遣艦隊から送られてきた情報』が、どんどんと増えていく。
主に船長猫耳や下僕からの私信だ。
内容を見る限りでは、少なくとも全滅とか大勢死んだという状況ではなさそうだ。
「詳細が分かったわ」
ブルネットに、俺を含めた全員の視線が集中する。
「宇宙港に入ろうとしたところで襲撃されたみたい。送られてきた映像を再生するわね」
画面が切り替わる。
光速の1万倍以上の速度を出していた猫巡洋艦2隻と猫駆逐艦6隻が、猛烈な勢いで減速しながら星系の第2惑星にある宇宙港に接近する。
ベリル運送の8隻は、星系内を飛行する宇宙船と『ベリル運送にとっては』安全な距離をとって飛行している。
「良い腕ですね。自力センサーの範囲が俺より狭いのに、危なげない」
俺は思わず口に出してしまった。
非常に上から目線と気付いて恥ずかしくなったが、ブルネットたちは『実際に上だからね』という態度だ。
「始まるわ」
ブルネットが告げる。
光速の1パーセントまで減速して宇宙港への寄港コースに入った8隻に対し、犯罪歴のない宇宙船を含めた23隻がいきなり攻撃を開始したのだ。
「にゃっ!?」
ベリルが猫語になるのも無理はない。
宇宙港を巻き込む攻撃は、高額賞金が自動でつくレベルの重大犯罪なのだ。
『人気が爆発しているのに手に入らない』鶏肉は、俺の予想以上に魅力的らしい。
「全員無事と知らされていても胃が痛くなりますね。ああ、シールドが破壊されて……」
猫巡洋艦は、超光速戦闘の中でも特に高速な戦闘が可能な船だ。
猫駆逐艦は、安価な分性能は劣るが、高速戦闘に限れば猫巡洋艦と共に戦える船だ。
つまり、猫駆逐艦は低速での戦闘には非常に弱い。
「おう、よく躱してるにゃ。新人の下僕もやるじゃねーか」
キンは満足そうに頷いている。
猫耳に対する憧れが止められずに下僕を志願して母港(にいる古参下僕)に招かれた新人下僕たちは、過酷な訓練の成果を遺憾なく発揮してミサイルや砲弾の豪雨を回避している。
被弾はするがその頻度はとても低く、このまま戦っても中破以下の被害で勝利できそうに見える。
猫駆逐艦ですらこうなのだから、古参下僕が操縦する猫巡洋艦はとんでもないことになっている。
まるで攻撃すべてを予知しているかのように躱すだけでなく、襲撃者の後方にいる『強力だがとても高価な船』まで接近中だ。
「光速未満の戦いはこんな感じだったでしょうか?」
「最近サルくんは高速戦闘しかしてないもんね。たまには低速戦闘の訓練もしたら?」
「時間がですね……」
仕事と子育てと健康の3つをこなすのは、大変なんだ。
『そっちがその気ならぶっ殺してやるにゃ!』
『にゃ! にゃっ! ふしゃーっ!』
2人いる船長猫耳はぶち切れている。
普段は余計な恨みを買わないためと、何より拿捕が目的なので必要以上の殺しはしないのだが、今はタキオン砲で敵船の艦橋を狙い撃つ戦い方をしている。
高速戦闘では俺の情報支援が必要な船長猫耳たちも、光速未満の戦いでなら狙ったものは外さない。
2隻が時間差で放ったタキオン粒子が、その船のサイズ(船体:3)の割には強力なシールドの『艦橋を守っている部分』を破壊し、次に艦橋を内部の人間ごと破壊し尽くす。
ただ、すべてがうまくいっているわけではない。
『先輩、隊列、隊列っ!』
『ふえええっ!』
新人船長である猫耳たちは、船長猫耳たちや下僕たちほど肝が据わっていない。
敵船を破壊するには不足でもミサイルや質量弾の迎撃は可能なはずの速射砲を活かし切れず、操縦を担当する新人下僕たちに頻繁な回避を要求し続ける展開になっている。
『にゃーはっはっは!』
『がるるるっ!』
本能が解放された船長猫耳たちが戦果と『拿捕しても金になりそうにない残骸』を増やしている。
しかし猫駆逐艦との距離が離れ、猫駆逐艦に命中しかかった攻撃をタキオン粒子で狙撃する頻度が落ちてしまった。
そしてそのときがくる。
シールドを回復できないまま複数の質量弾に貫かれた猫駆逐艦が、内側から火を噴いたのだ。
『やべっ』
『退艦いそぐにゃ!』
一瞬で我に返った船長猫耳たちが、猫駆逐艦に対する援護を再開する。
そのため2隻目の爆発は発生しなかったが、1隻目はもう助からない。
『こっち!』
『船よりおめーらの方が高価値なの! とっとと船から出ろ!』
拿捕猫耳たちが、炎上する猫駆逐艦から乗組員全員を連れ出す。
その加速は凄まじく、減速のためのエネルギーは間違いなく残っていない。
2隻の猫巡洋艦のトラクタービームが、手分けして全員を回収する。
敵船という障害物が減った戦場を、1隻減って5隻になった猫駆逐艦が離脱し、猫巡洋艦がすぐに追って最後部についてシールドを展開する。
その直後、爆発した猫駆逐艦が弾けて、まだ無事だった敵船集団の一部に、大きな被害を与えた。
『ごめんにゃ。負けちゃったにゃ』
『ベリル運送の常勝無敗の看板に泥ぬっちゃったにゃ』
記録映像ではなく、母港と直接通信可能な距離まで戻ってきた船長猫耳からの通信だ。
「全員を連れ帰ってくれてありがとう。いい仕事だよ」
ベリル社長は、頼り甲斐のある表情で、優しく頷く。
俺も同感だが、ベリルの社長としての成長っぷりも嬉しくて、嬉しさで表情が崩れないようにするのに苦労している。
『『にゃあ』』
「母港に帰還するまではふたりが責任者だから気を抜いちゃだめだよ? それじゃ、すぐに直接会おう!」
『『にゃ!』』
船長猫耳の緊張しきっていた猫耳と尻尾から、適度に緊張が抜けていた。
「サルくーん! どうしよう!? 負けちゃったよ!? 恨みを持ってる海賊が襲って来ちゃう!」
通信が終了した直後、ベリル社長は俺に泣き付いてきた。
体力差がありすぎるので、俺は吹き飛ばされそうになってしまうがなんとか耐える。
「社長。落ち着いてください。一番苦手な低速戦闘で3倍近い敵に襲われて損害が1隻だけというのは、大勝利ですよ」
「でもでも、初の戦闘での喪失だよ!?」
「戦術的には大勝利なのは認めるけど、経営的には打撃が大きいわ。鶏肉の運搬失敗で違約金もとられたし、賞金は振り込まれたけれど拿捕ができなかったからかなりの赤字よ」
ブルネットの冷静な指摘に、ベリルが本格的に涙目になる。
「どうしよう……。やっぱり軍拡? 今の倍くらいに増やせば……」
ベリルは混乱して尻尾を振り回している。
「ベリル落ち着け。サル、船の運用側からの意見をくれにゃ」
「はい。我々が今後確実に相手にすることになるのが『高速戦闘可能な船で構成された艦隊』です。銀河通商の第7営業艦隊も第2営業艦隊も高速船のみで構成されている以上、これは間違いないはずです」
「そうね。でもあなた。輸出の護衛には低速時の戦闘力も重要なのは、今回の戦いで分かったでしょう? 今はニワトリだけだけど、いずれマグロとブリの輸出も始まるわ。今の船で戦いを続ければ、近いうちに戦死者が出るわよ」
「はい。その問題を解消するために、私は『直接食料品を引き渡す』やり方から、『食料品が入ったコンテナを目標地点に置く』やり方への切り替えを提案します。これなら、我々の船は高速のまま行動が可能です」
いわゆる『置き配』だ。
第7営業艦隊が結構な頻度でしていて、そのたびにトラクタービームで回収している。
「それは……。取り引き相手からの苦情は確実よ? トラクタービームを持っていない企業もあるし、規模の小さな海賊でも食料品を狙えるようになってしまうわ」
「整備班としては、生産する船の種類はこれ以上増やしたくないにゃ。猫駆逐艦と猫ボートが量産できてるのは、2種類の船しか作ってないからってのもデカイにゃ」
画面には、真新しい4隻の猫駆逐艦が、分遣艦隊7隻と入れ替わる形で港湾区から出撃している。
これからカイパーベルトでの試験航海だ。
「海賊の利益が増えるのはやだなー」
ベリル社長の発言は冗談めかしているが、おそらくは完全に本気だ。
「それは俺も同感なんですが……」
俺が出した案がすべてを解決する案ではない。
俺も、『置き配』狙いの海賊が現れそうで、心底嫌だ。
しかし結論を出さないというのが一番まずい。
俺と三姉妹は、スッスがドクターストップを発動するまで、徹底的に話し合うのだった。
☆
方針は決まった。
決め手になったのは、地表の企業からの協力の申し出だ。
「予定通り、建造技術が漏れてるね」
「新入社員の教育のために『教えるためのマニュアル』を渡しましたからね。守秘義務は守っているのでしょうが、あれほどの人材たちなら回避方法の考案も容易ということでしょう」
地表からの援軍による『食料生産プラント』の『量産』が始まった。
『増産』ではなく『量産』だ。
母港の規模が一段階上がるほどの規模で、『食料生産プラント』の大量建造が始まっている。
「類似品やコピー商品が出回る前に市場を独占できるのは素晴らしいことよ。……問題は、需要がどこまで拡大するか分からないことね」
ブルネットは憂鬱そうに息を吐く。
若返って体力が増えた分を育児に使っているので、目のまわりのクマが復活している。
「なあブルネット。タキオン砲の調達は無理にゃ? そろそろ猫駆逐艦の修理が終わるにゃ。次に作るのは猫駆逐艦でいいにゃ?」
「ブルネット。白翼人間からも鶏肉の購入の打診があったようですが、白翼人間からのタキオン砲の購入は可能でしょうか?」
キンと俺からの質問に、ブルネットは再度憂鬱そうな息を吐いた。
「サルさんとキンが期待しているレベルのタキオン砲は無理ね。猫巡洋艦はタキオン砲1門だけ載せているでしょう? 戦闘中に調子が悪くなるかもしれない、状態の悪いタキオン砲は、ちょっとね」
「にゃー。そりゃ駄目にゃ」
「攻撃にも防御にも使う兵器がいきなり使えなくなると致命的ですからね。……戦力が拡大しても、欲しいものばかりですね」
母港外では、修理と整備が終わった2個分遣艦隊の7隻と、試験航海が終わった猫駆逐艦4隻が、艦隊行動の訓練を開始している。
「『置き配』限定にしてもさばききれないほど注文が届いてるからね。ガンガン稼ぐよ!」
ベリル社長の宣言に、俺やブルネットやキンだけでなく、訓練中の乗組員からも、力強い頷きが返ってきていた。
◆ BERYL ATTACK FLEET
規模:3 防衛:5 遠征:8
◆ BERYL THE GREAT MK3
船体:3 / 跳躍:4 / 航続:4 / 装甲:0 / 居住:4 / 船倉:0 / 兵装:5
◆ CAT CRUISER *3 ※1隻はスッス専用
船体:3 / 跳躍:4 / 航続:4 / 装甲:2 / 居住:1 / 船倉:1 / 兵装:4
◆ CREW
ベリル |船長Lv3 [財産Lv1]
サル |操縦Lv5+[衰弱Lv3]
スッス |操縦Lv3 [医療Lv2]
船長猫耳ズ|船長Lv2 [猫語Lv1]
拿捕猫耳ズ|整備Lv1+[白兵Lv2] ※猛勉強中
◆ BERYL DETACHED FLEET
規模:3 防衛:3 遠征:6 ※第1と第2をあわせた評価
◆ CAT CRUISER *2
船体:3 / 跳躍:4 / 航続:4 / 装甲:2 / 居住:1 / 船倉:1 / 兵装:4
◆ CAT DESTROYER *5
船体:3 / 跳躍:3 / 航続:4 / 装甲:1 / 居住:1 / 船倉:0 / 兵装:3
◆ CREW
船長猫耳ズ|船長Lv2 [猫語Lv1]
拿捕猫耳ズ|整備Lv1+[白兵Lv2] ※猛勉強中
猫耳の下僕|操縦Lv3-[信仰Lv2]
新人船長ズ|船長Lv1 [従順Lv2]
新人下僕ズ|操縦Lv1 [信仰Lv1]
◆ RESERVE
◆ CAT DESTROYER *4
船体:3 / 跳躍:3 / 航続:4 / 装甲:1 / 居住:1 / 船倉:0 / 兵装:3
◆ BERYL DEFENSE FLEET
規模:3 防衛:7 遠征:5
◆ BERYL THE GREAT MK2
船体:3 / 跳躍:4 / 航続:4 / 装甲:2 / 居住:2 / 船倉:2 / 兵装:4
◆ CAT TUGBOAT *8
船体:2 / 跳躍:3 / 航続:4 / 装甲:1 / 居住:0 / 船倉:0 / 兵装:0
◆ OTHER SHIPS
船体:4 *1 / 船体:1 *7
◆ CREW
ブルネット|事務Lv2+[射撃Lv3]
キン |整備Lv2+[白兵Lv2] ※猛勉強中
拿捕猫耳ズ|整備Lv1+[白兵Lv2] ※猛勉強中
猫耳の下僕|操縦Lv3-[信仰Lv2]
ブラン |秘書Lv1 [衰弱Lv1]
新人下僕ズ|操縦Lv1 [信仰Lv1]
◆ CREW IN TRAINING
母猫耳ズ |市民Lv2 [衰弱Lv2]
市民猫耳ズ|市民Lv1+[衰弱Lv1]
他種市民ズ|市民Lv1 [借金Lv1]
新人学生ズ|市民Lv1-[衰弱Lv2]
◆ CAPTURED
小型武装輸送船 *4 ※動力源として使用中
大型輸送船 *1
◆ CAN BE PRODUCED
船体:3 / 跳躍:3 / 航続:3 / 装甲:2 / 居住:2 / 船倉:3 / 兵装:3
◆ BERYL HOME PORT(7/7)
権利:2 / 規模:3 / 装甲:0 / 修理:3 / 居住:3 / 備蓄:0 / 兵装:3




