70.海賊宇宙港の心臓を奪え
初めての場所で自力センサーを使うと新鮮な気持ちになれる。
熱を持った恒星、大小さまざまな惑星、その一部に張り付くようにして生きる極小の命。
そのうちのどれかが特別尊いとは思わないが、俺では何万年かけても創造不可能なものが実在するという事実が、俺に強い感動を与える。
それはそれとして海賊は殺す。
船長席にいるベリルが、俺が渡したデータをもとに特大タキオン砲の狙いをつけている。
星系の警察や軍では歯が立たないほど厳重に防御された宇宙港に対して、貫通力を高めたタキオン粒子を、ベリル号の速度込みで光速の1万倍で放った。
相変わらず良い腕だ。
俺だと、かなり広い範囲に撃ち込まないと、【見】えていても当たりはしないだろう。
「サルくん。いつも以上にデータの殺意がすごいんだけど」
ベリルは次の攻撃にとりかかっている。
貫通力を高めた分威力が激烈に低下しているので、光速の1万倍という非常識な速度があっても威力はそれほど高くはない。
巡洋艦サイズの船の攻撃としては大威力なんだが、特大船の数倍に達する海賊の宇宙港を一撃で破壊するにはまったく足りない。
「長々と抗争したくはない相手ですし、気合いが入っているんですよ。海賊だって生きているんです。山に隠れている野生動物くらいに獰猛で狡猾だと思うくらいでちょうどいいです」
着弾まで後1分程度だ。
最初の一撃の狙いはシールド発生装置で、現在狙っているのは動力源を守っている装甲だ。
両方が命中すれば、移乗攻撃のための大穴が開くことになる。
『おっちゃん。隣の宇宙港を狙った方が楽と思うにゃ』
第1分遣艦隊の司令にして猫巡洋艦の艦長である船長猫耳が、通信で質問してくる。
「俺の自力センサーなら隣の宇宙港も海賊判定ですが、現地星系の警察に提出できないデータなんですよ」
俺の自力センサーは、俺の娘ほどではないが争奪戦の対象になりうる貴重なものなのだ。
『面倒にゃ。こっちも撃っていい?』
「またの機会にお願いします」
『誤射はしないにゃ!』
「惑星や宇宙港の近くに流れ弾が飛んだだけでも高額の賠償金を請求されるんですよ。着弾後の残骸の計算も、面倒でもやる必要がありますよ?」
『にゃあ。気持ち良く戦いたいにゃ』
それは俺も同感だ。
宇宙での戦闘は事前準備と後片付けが9割以上を占めているので、娯楽としては向いていない。
「人が苦労してるときに楽しくおしゃべりは良くないと思うよ?」
ベリル社長が第2射を完了させていた。
『ごめんにゃ』
「すみません。ところで第3射は?」
「もうエネルギー残量が60パーセント台だからね。特大タキオン砲は、本来は特大船用の兵器だから……」
和やかに話している間に、速度が光速の1.1万倍の第2射が、第1射に追いついていく。
追いつく前に第1射が海賊宇宙港のシールドに着弾。
並の宇宙船相手なら10隻以上に攻撃されても耐えられるはずの強力なシールドが、直径十数メートルの範囲だけ破壊される。
第1射のタキオン粒子はまだ7割ほど残っていて、そのうち6割と引き換えにシールド発生装置を覆う装甲を破壊。
最後の1割で、かなり頑丈なはずのシールド発生装置を完全に破壊した。
そこへ第2射のタキオン粒子が到達する。
急速に薄れていくシールドではまともに防ぐことができず、まだ無傷の装甲にタキオン粒子が直撃する。
動力源という、ある意味では居住区より重要な場所を守っている装甲なので、その厚みは凄まじい。
しかし、限界近くまで貫通力を高められたタキオン粒子は、装甲を完全に貫いただけで止まらず、動力源の端を破壊して動力源を緊急停止させた。
海賊宇宙港へのエネルギー供給をゼロにしつつ、キンの腕があれば修理可能な、絶妙な破壊具合だ。
『ひゃっはーっす!』
結構な数の宇宙船が行き交っている星系内を、写実的な光翼が描かれた猫巡洋艦が突破し、海賊の宇宙港の至近で停止する。
『今っす!』
『『『いくよ!』』』
パワードスーツを着た拿捕猫耳たちが、海賊宇宙港に開いた穴に突入する。
直径でいうなら10メートルほどあるので、数人まとまって突入しても余裕がある。
しかも、それだけでは終わらない。
『この距離だと自分の射撃も当たるっす! ごめんなさいちょっとずれたっす!?』
移乗攻撃可能な距離は、超光速戦闘では『密着している』のも同然の距離だ。
そして今は相対速度がゼロの状態だ。
スッス専用猫巡洋艦が、拿捕猫耳から指示を受けて穴の奥をタキオン砲で狙撃し、ほんのわずかにずれはしたが命中する。
動力源を宇宙港に繋ぎ止める箇所を破壊するのも、動力源と一体化している迎撃兵器を破壊するのも、これだけ距離が近いと威力の減衰もほとんどないので、1つのタキオン砲だけで足りた。
「サルくん、海賊の迎撃は?」
「即応部隊到達まであと30秒。本隊にはまだ動きがありません」
俺は超光速通信網も監視はしているが、主な情報源は自力センサーだ。
隣(といっても惑星と惑星の距離くらいに離れている)の宇宙港を【見】れば中身は海賊と分かるが、自力センサー以外からは海賊かどうかは分からない。
『にゃ!』
『分遣艦隊はそのまま……じゃなくて、いつでも撤退に移れるよう準備しながら待機すること。船倉にもトラクタービームの数にも限りがあるんだから、持ち帰れる数以上の海賊船を落としてもエネルギーの無駄だからね』
海賊宇宙港からも隣の宇宙港からも罵声や抗議の通信が届いている。
俺は雑にAIに要約させたものを流し見て、肩をすくめた。
「ベリル運送がこの星系に現れるとは予測していなかったようです」
「なんで? 日帰りの距離だよ?」
『あたいが一度逃げ帰ったからにゃ。海賊の宇宙港に気づけなくて、獲物なしで母港に帰ったにゃ』
船長猫耳はしょぼんとしている。
「あなたは、情報面では大きな獲物を持ち帰りましたよ。おかげで、今一番必要なものが手に入ります」
今回の作戦は、この猫耳船長が持ち帰った情報をもとに立案されたものだ。
その作戦に従い、拿捕猫耳とスッス専用猫巡洋艦の共同作業で、海賊宇宙港の動力源が切り出される。
乱暴にもほどがあるが、母港まで持ち帰って予備の動力源として使うならこれで十分だ。
『『『全員帰還!』』』
『このまま飛ばすっす!』
スッス専用猫巡洋艦のトラクタービームが、切り出された動力源を捉える。
4つのエンジンに膨大なエネルギーが吸い込まれ、最初はゆっくり加速し、しかし速度は爆発的に増加して光速の千倍まで到達した。
『ベリル運送だ! 逃がすな!』
「サルくん、これ、隣の宇宙港からの通信だけど」
「これだけだと海賊認定されるかどうかぎりぎりです。戦闘後の面倒を考えると、放置がお勧めです」
「しかたないかあ」
猫耳と尻尾にまで落胆を露わにするベリルを見ると、なんとかしてやりたくなる。
だが、今のベリル運送に必要なのは、数隻の戦利品より状態の良い動力源だ。
現時点でも膨大なエネルギーを供給しているが、大食いの特大デュプリケーターはそれでは足りないんだ。
『お待たせしたっす!』
スッス専用船が、ベリル号を含む攻撃艦隊と、第1分遣艦隊と合流する。
「みんなお疲れ! 母港に帰還するまでもうひと頑張りしよう!」
攻撃艦隊4隻と第1分遣艦隊4隻が、母港へ直進しながら砲口を後方へ向ける。
数を頼みに追跡してきた海賊船は、加速力が足りずに徐々に距離を離され、俺たちからの威圧に負けてその場所で停止した。
『分遣艦隊の仕事、これだけにゃ!?』
船長猫耳が衝撃を受けている。
「そうだよ?」
「アニメでもたまに聞くでしょう。戦わずに勝つのが一番だって」
海賊視点では最悪の略奪者として、ベリル運送は今日も元気に営業中だった。
☆
『よくやった、ベリル、サル! これでもっとデュプリケーターを動かせるにゃ!』
キンの出迎えは熱烈だが、一瞬で終わった。
母港に残っていたキンと拿捕猫耳が、母港まで運んで来た動力源を持ち去ってしまったからだ。
『無事で何よりだわ。港湾区に戻った後は、みなゆっくりしてちょうだい。お義父様からの差し入れもあるから楽しみにしていてね』
ブルネットの言葉に猫耳たちが沸き立つ。
たぶん親父本人は孫あてに送っているだけのつもりなんだろうが、量が多すぎて保存するにもコストがかかるので毎回こうなっている。
『ベリルちゃんは、先に新造船の確認をお願い』
「新造船? 猫巡洋艦はもちろん、猫駆逐艦もこの時間じゃ無理だよ。キン姉が特大デュプリケーターを酷使しちゃったの!?」
驚いたのは俺も同じだ。
デュプリケーターを使わないなら工場の大群が必要になるほど多種多様なパーツが必要になるのが宇宙船なのだ。
『そのあたりのことはキンを信用して欲しいわね。あれを見て』
ブルネットが座標を送って来る。
特大デュプリケーターの近くにある、特大デュプリケーターに『食わせる』ための小惑星や元小惑星が浮かんでいる場所だ。
「あれ、ですかね」
敵意も脅威もないので、距離が近い割りに俺の自力センサーで捉えづらい。
ベリル運送の伝統に沿った『大気圏内用の戦闘機』に似た姿の、サイズとしては小型宇宙船だ。
「ブルネットお姉ちゃん。あれ、対艦兵器も対デブリ兵器も載ってないんだけど」
ベリルは恐怖と呆れが半々の表情だ。
「採掘用の装備も搭載されていませんね。強力なトラクタービームがひとつありますから、時間稼ぎは可能でしょうが」
『キンが言うには『タグボート』らしいわ。小惑星を母港まで牽引するのが主目的の船よ。海賊船に襲われたときに母港まで逃げ込めるよう、力だけでなく速度も重視しているそうよ』
小惑星を運搬する際は低速だろうが、そのときに敵に襲われたらトラクタービームを消してから全速で母港へ逃げ込めばいい、ということらしい。
この新造船は、機能が限定された船ではあるが、なかなかに有用そうだ。
「う、うん。分遣艦隊に同行させられるだけの加速力と航続力があるのはすごいよ。猫駆逐艦1隻分のコストで2隻作れそうなのもすごいし。でも、足りないものが多すぎるよ!」
『先輩は絶対に乗ったら駄目っすよ。居住性最低っすから』
病室でもないのにスッスがシリアス顔だ。
気になって新造船のデータを確認すると、比喩でなく頭痛がした。
「タグボートの機能は十分ですが、これ、採用していいんでしょうか」
「猫耳みたいに体力がある種族限定にするなら、ぎりぎり?」
ベリルが少し落ち着いたようだ。
ベリル号を新造船に近づけて、直接乗り込むために宇宙服に着替え始める。
『サルさん。あと数時間で、銀河帝国から高速で打ちだされた調査船が接近するはずよ。ビーコンを目標に進路変更はしているそうだけど……』
「俺がベリル号から調査船を探します。タグボートを誘導して、トラクタービームで受け止めに行った方がいいでしょうね。しかし、トラクタービームですか。キンさんはこれも狙って?」
俺は新造船から目を離し、特大デュプリケーターで作業中のキンを見る。
高価な船を使わなくても遠方からの船や荷物を受け取れるのは、非常に有り難い。
『キンは勘で生きているところがあるから、無意識にこれも狙っていたのかもしれないわ。……個人的には、違うと思うけど』
ブルネットは間違いなくキンを信頼しているが、キンの雑さも良く理解しているため、全面的な信頼はしていない。
「前回は、遠くで打ちだされた輸送船を追いかけてきた海賊船と戦うことになりました。今回襲撃があっても撃破できるよう、ベリル号とタグボートだけでなく、猫巡洋艦にも同行してもらいましょう」
『お仕事がんばるにゃ!』
船長猫耳の士気は高く、とても元気な声が響いた。
◆ BERYL ATTACK FLEET
規模:3 防衛:5 遠征:8
◆ BERYL THE GREAT MK3
船体:3 / 跳躍:4 / 航続:4 / 装甲:0 / 居住:4 / 船倉:0 / 兵装:5
◆ CAT CRUISER *3 ※1隻はスッス専用
船体:3 / 跳躍:4 / 航続:4 / 装甲:2 / 居住:1 / 船倉:1 / 兵装:4
◆ CAT TUGBOAT
船体:2 / 跳躍:3 / 航続:4 / 装甲:1 / 居住:0 / 船倉:0 / 兵装:0
◆ CREW
ベリル |船長Lv3 [借金Lv1]
サル |操縦Lv5+[衰弱Lv3]
スッス |操縦Lv3 [医療Lv2]
船長猫耳ズ|船長Lv2 [猫語Lv1]
拿捕猫耳ズ|整備Lv1+[白兵Lv2]
◆ BERYL DETACHED FLEET *2
規模:2 防衛:2 遠征:5
◆ CAT CRUISER *1
船体:3 / 跳躍:4 / 航続:4 / 装甲:2 / 居住:1 / 船倉:1 / 兵装:4
◆ CAT DESTROYER *3
船体:3 / 跳躍:3 / 航続:4 / 装甲:1 / 居住:1 / 船倉:0 / 兵装:3
◆ CREW
船長猫耳ズ|船長Lv2 [猫語Lv1]
拿捕猫耳ズ|整備Lv1+[白兵Lv2]
猫耳の下僕|操縦Lv3-[信仰Lv2]
新人猫耳ズ|船長Lv1 [従順Lv2]
新人下僕ズ|操縦Lv1-[信仰Lv1]
◆ BERYL DEFENSE FLEET
規模:3 防衛:5 遠征:4
◆ BERYL THE GREAT MK2
船体:3 / 跳躍:4 / 航続:4 / 装甲:2 / 居住:2 / 船倉:2 / 兵装:4
◆ OTHER SHIPS
船体:4 *1 / 船体:1 *7
◆ CREW
ブルネット|射撃Lv2+[事務Lv2]※治療中
キン |整備Lv2+[白兵Lv2]
拿捕猫耳ズ|整備Lv1+[白兵Lv2]
船長猫耳ズ|船長Lv2 [猫語Lv1]
猫耳の下僕|操縦Lv3-[信仰Lv2]
ブラン |秘書Lv1 [衰弱Lv1]
新人下僕ズ|操縦Lv1-[信仰Lv1]
◆ CREW IN TRAINING
母猫耳ズ |市民Lv1+[衰弱Lv2]
救助猫耳ズ|学生Lv1+[衰弱Lv1]
猫耳幼児ズ|学生Lv1 [猫語Lv1]
学生猫耳ズ|学生Lv1 [衰弱Lv1]
他種学生ズ|学生Lv1 [借金Lv1]
◆ GUEST
野良猫耳ズ|白兵Lv1-[衰弱Lv2]
◆ CAPTURED
小型武装輸送船 *4 ※動力源として使用中
大型輸送船 *1
◆ CAN BE PRODUCED
船体:3 / 跳躍:3 / 航続:3 / 装甲:2 / 居住:2 / 船倉:3 / 兵装:3
◆ BERYL HOME PORT(3/3)
権利:2 / 規模:2 / 装甲:0 / 修理:3 / 居住:3 / 備蓄:0 / 兵装:3




