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地球人に人権がない銀河で、零細猫耳社長にスカウトされました ~生体パーツ扱いのどん底から操縦チートと拿捕ビジネスで成り上がる~  作者: 星灯ゆらり
第1章 地球人に人権がない銀河で

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7.初任給と空母

 機関砲の弾が外れた。


『ふひっ。散々暴れやがって。同じ生体パーツを使えばこんなもんよ!』


 何故か勝ち誇った態度の宇宙海賊が乗る宇宙戦闘機2機が、光速の11パーセントでベリル号を挟み打ちにしようとする。


「参りましたね」


 俺は、ベリル号の速度を光速の20パーセントまで上げ、敵戦闘機とすれ違う形で戦場から逃げだす。

 怒声を上げながら反転しようとする敵戦闘機2機が、戦場に漂う極小のデブリに衝突して粉砕される。


 光速戦闘をするなら少し勘が良い程度では足りない。

 攻撃でも回避でも常に勘で危険を避けることができないなら、待っているのは死だけだ。


 いや、攻撃と回避だけでも実は足りない。


「社長、各惑星に警告を送って下さい。どこに残骸が飛ぶか分かりません」


 勘でも計算能力でもいいが、戦闘後にどうなるかも予測できないと、とんでもない大損害が発生しかねないんだ。


「にゃっ!? 分かった!」


 ベリル社長による情報支援がゼロになる。

 海賊の戦闘機が発進した基地または大型艦の位置特定の手段がなくなるが、警告せずに被害が拡大するよりはマシだろう。


『はぁっ!? てめぇ、あの惑星の生体パーツを使ってるってのはデマかよ! こっちの艦載機と性能が違い過ぎるだろ!』


 高出力の通信で知らない声の通信が届く。

 社長が下品なジェスチャーをしてから通信を切ろうとして、切る直前に思い直して通信を分析して発信元を割り出し俺の手元の画面に表示させる。


「どうせ雑に扱ってるんでしょ! 一部だけ切り離して機械に直接繋げるとか!」


 社長は嫌悪感を露わにして吐き捨てる。

 俺が『そうなんですか?』と目で尋ねると、ベリル社長は唇に指を当てて俺に合図を送る。


(この通信を傍受している連中に聞かせて、地球人の待遇を上げるための嘘か。殺されて目や耳を利用されるより、多少切り刻まれても脳や内臓も残る方がマシだな)


 俺が合図通りに黙っていると、ベリル社長は『にゃふふ』と馬鹿にするような笑みを浮かべる。

 その態度が相手に伝わったのだろう。

 怒気と怒声が一回り大きくなった。


『動物を人間扱いでもしてるのかよ猫耳がよ!』


「大事にしたらいっぱい助けてくれるんだよ。こんな風に、ね」


 ベリル号のセンサーに反応はないが、俺の五感ではない感覚に小さな反応があった。

 俺の態度からベリル号がセンサーの向きを変え、デブリ群の陰に潜んでいた大型の海賊船を見つけ出す。

 戦闘機の離着艦に使えそうな甲板だけでなく、大型のレーザー砲塔が船体のあちこちについた豪華な船だ。


「相対速度をゼロにしての撃ち合いでは勝ち目がありません。遠距離からの射撃を行います」


 ベリルと海賊に聞こえるように言って、いつも通りに機関砲に仕事をさせる。

 大型艦の反応は素早く、エンジンを猛烈に光らせて回避行動を開始する。


 しかし弾は光速の20パーセントを越えている。

 弾の進路は一方向だけではなく、海賊船が逃げるのを予測して適度にばらまいている。


『躱したぞてめぇ! しょせん猫や猫に飼われる動物程度っ』


 躱されたので、大きく回り込んで敵船の正面に出る。

 ここからなら、敵船が減速しようが頑張って左右や上下に動いても、非常に当てやすい。


「それじゃ処理しますね」


「拿捕もしたいけど安全第一だよねー」


 機関砲が元気に射撃を開始する。

 多数の海賊を倒して賞金を得ているので残弾には余裕がある。

 だから10秒以上連射を続けることができた。


 俺のような勘がないパイロットによる操縦では、一度躱せただけでも奇跡に近い。

 最初の1秒でシールドと艦首の装甲が全壊。

 次の数秒は慣性制御を諦めた強引な加速で一度は回避に成功し、しかし最後の5秒ほどは狙いを修正した銃弾の雨に直撃される。


「んー。最後の回避行動で中身がみんな死んだみたい」


「海賊の命には興味ありませんが、金目のものは欲しいんですけどねえ」


 残骸となった大型海賊船が複数に分かれて飛んでいく。

 その中に有用なものが混じっているかどうか、俺も社長も目を皿のようにして探していた。



  ☆



『ハイエナを撃つにゃ!』


 拿捕班(EVA班)は気が荒い。

 金毛猫耳だけでなく、アシスタントの猫耳幼児たちも『海賊船の残骸を横取りするために』待機していた船を威嚇している。


「できるわけないでしょキン姉! 僕の会社は合法の会社なの!」


「社長、猫の巣号に接近中の船がいくつかあります。威嚇射撃をしても?」


「やっちゃって!」


「了解」


 海賊相手の戦いが終わっても戦いは続く。

 賞金は、弾薬費や船のメンテ費用でほとんど消える。

 より良い給料とより良い生活のため、海賊の残骸から儲ける必要があるのだ。


「こっちに撃ってくれば正当防衛にできるんですけどね」


「そうなんだけどねー」


 ベリルは少し戦闘的な雰囲気だ。

 やっている方はただの脅しかもしれないが、ベリルにとっては大事な家族と家を狙われたので頭に来ている。


『ちっ。メインエンジンを盗られたにゃ。サル! 残りにビーコンを撃ち込んでくから回収してくれにゃ!』


「だーかーらー! サルくんに命令していいのは僕だけなの!」


 相変わらずの口喧嘩をBGMに、俺は社長の許可が出た残骸にアンカーワイヤーを打ち込み牽引する。

 牽引する数が増えるほど加速度的に難易度が上がるが、ここでの頑張りが収入に直結するので気合いの入れどころだ。


 今日は初の給料日。

 俺の士気は、かつてないほど高まっていた。



  ☆



「あっ……あっ……」


 猫の巣号の中で、自分の口座残高を確認したベリルが白目を剥いていた。

 尻尾は力なく垂れ下がって床についている。

 俺との雇用契約の、雑な文章を放置していた結果だ。


「ベリルちゃん。今の契約だと、サルさんが今のペースで活躍すると、次の給料日でベリルちゃんが破産するわ」


 栗毛猫耳さんは鶏肉もどきを作りながら社長に注意している。

 髪と猫耳を覆う白い布とエプロンが良く似合っている。


「「「おっちゃん!」」」


「危ないから油には近付かないでねー。火傷するとずっと痛いよ?」


 俺は、カートリッジに残った油を鍋で熱しながら、肉団子を揚げている。

 濃いめの塩と肉と油の組み合わせは暴力的なほど魅力的だ。


 揚がった第一陣を大皿に移すと、まだ熱いのに猫耳幼児たちが取り合いを始める。


「独り占めする子は、今日は肉団子ぬきだぞー」


「に゛ゃっ!?」


 揚げ肉団子獲得競争の勝利者が、肉団子抜きの恐怖で震えながら再分配に同意する。

 そんなやりとりの間も、俺は煮える油の熱に耐えながら調理に集中する。

 揚げ物は美味しいが危険だからな!


「実はねベリルちゃん。サルさんに引き抜きの話が来てるの。運送業の最大手からよ」


「ぎにゃー!?」


「社長。危ないのでしがみつかないでください」


 涙目ですがりつかれても俺にはどうしようもない。

 今は揚げ物が最優先だ。


「サル。おめー、なんでおちついてるにゃ? にゃーたちが力で引き留めるとは思わないのにゃ?」


「人権のない俺に対してならいくらでも好条件を出せますよ。俺が誘いに応じてやって来た後は、操縦席に閉じ込めるなり加工するなりして無料で使い潰せばいいんですから」


 俺は、鍋の中の肉団子の色の変化に意識を集中している。


「おめー、性格悪いにゃ」


「私たちには普通の社会人経験がないから、サルさんがいてくれて頼もしいわ」


「サルくん……」


 3人の猫耳が感動している。

 栗毛猫耳さんは少し冷静なようだが、少なくとも、俺を罠に嵌めようとする気配はない。


「社員兼生体パーツから、ただの社員に待遇を変えてくれるなら条件交渉には応じますよ。危ないから離れてねー」


 俺は揚がった肉団子を皿に移す。

 クッキングペーパーもどきが油を吸い取る前に、猫耳幼児たちが再び争奪戦を……多少は遠慮と譲り合いがある争奪戦を開始した。


「腹の探り合いは面倒なんで本音を言うとですね。何を企んでいるか分からない相手のところへ行くより、ベリル社長の下で金と権利を手に入れたいんですよ」


「ううっ、サルくーん。嬉しいけど、今日の給料は現物支給でお願いできると助かるかなって」


「今後も荒稼ぎするんですから、半分なら構いませんよ。それより雑炊の準備をお願いします。キンさんも、子供にまじってつまみ食いする余裕があるなら、ベリル号の改修に必要な部品のリストアップを進めておいて下さい」


 金毛猫耳は、肉団子を口いっぱいにほおばったまま、タブレットで星系市場の確認を始めていた。



  ☆



「「「にゃーっ!」」」


 食後の休みもとらず、猫耳幼児たちが元気に走り出す。

 いくつかある倉庫のうち、まだ空の倉庫で全力のかけっこをするつもりらしい。


「胃腸が健康で羨ましいですね」


「ベリル! これとこれどっちにするにゃ?」


「えーっと……。サルくーん!」


「はいはい。そっちの画面に表示して下さい」


 俺は洗い物を続けながら、壁にはめ込まれた画面も見る。

 ベリル号の改修案が2つ表示されている。


 ひとつは、最初に俺が乗り込んだときの、別星系まで移動可能な航続距離重視の設計だ。

 現在のベリル号と比べると武装が半減する設計でもある。


 もうひとつは、航続距離は同じだが、武装を増やす代わりに居住性能を限界まで削った設計だ。

 戦力的には強くはあるが……。


「キン姉。これだと乗ってて疲れちゃうよ?」


「うちの戦闘機の性能は知られちまったにゃ。サルの腕があっても、戦力強化せずに戦うのはやべーにゃ」


 金毛猫耳は相変わらずの態度で、しかし発言内容は珍しくシリアスでクレバーだ。


「サルくん、そうなの?」


「ええ。メタを張られると格下相手でも危ないです」


「勝てなくなるのっ!?」


 びっくりするベリル社長を、栗毛猫耳さんが宥めている。


「いえ、この星系の海賊程度なら、メタを張られても確実に勝てます。ですが無傷ですむ確率が低下します。その分、修理費などがかかるようになると……」


 俺が何を言いたいか察したベリルが頭を抱える。

 今稼げているのは無傷で勝てているからだ。

 ダメージを負い修理費がかかるようになると、戦闘回数は減るし収入はそれ以上に減る。


「どっ、どうしよう!?」


「キンさん。飛行甲板を回収しましたが、使えそうですか?」


「戦闘機を2機運用できるパーツの端を切り落として、1機用の飛行甲板に加工することになるにゃ。普通に売っても良いと思うにゃ」


 金毛猫耳はタブレットで買い取り価格を表示させる。

 ベリル号を買えるほどでないが、生活に必要なあれこれを買った上で会社にも生活にも余裕ができる額だ。


「ベリルちゃん。判断は任せるけど、早めに決めてね。この星系の海賊は隠れてしまったから、他の星系へ移動するか、海賊狩りから運送業に軸足を移さないと経営破綻するかもしれないわ」


 栗毛猫耳さんは、会社の口座の残高を示す。

 俺の給料の半分が戻ったのに、残高は頼りなく感じる額だ。


「うん、決めた! 猫の巣号に飛行甲板を取り付けて猫の巣号とベリル号を一緒に行動できるようにする!」


 ベリルが宣言する。

 栗毛と金毛が頷く。

 社長でも出資者でもない俺は、離着艦に必要な距離の計算を始める。


 実現すれば、ベリル号は母港に戻らなくても補給でき、今より多くの海賊を狩れるようになる。

 猫の巣号の船倉に商品を積んで、ベリル号を護衛にして他の星系まで運ぶこともできるはずだ。


「次の給料日も期待できそうですね」


 宇宙海賊に対する憎悪と、奪われた人権を買い戻すための金。

 欲望のすべてを満たすことができるこの職場を、俺は熱烈に愛している。

◆ BERYL THE GREAT

船体:1 / 跳躍:3 / 航続:2 / 装甲:0 / 居住:0 / 船倉:0 / 兵装:2


◆ CAT'S NEST(1/1)

船体:2 / 跳躍:2 / 航続:2 / 装甲:2 / 居住:2 / 船倉:1 / 兵装:0


◆ CREW

ベリル |船長Lv1 [借金Lv3]

サル  |操縦Lv3 [疲労Lv4]

栗毛猫耳|射撃Lv1 [借金Lv1]

金毛猫耳|白兵Lv1 [借金Lv2]

妹猫耳ズ|白兵Lv1 [未熟Lv3]


◆ SALVAGED ASSETS

船倉:1

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