↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地球人に人権がない銀河で、零細猫耳社長にスカウトされました ~生体パーツ扱いのどん底から操縦チートと拿捕ビジネスで成り上がる~  作者: 星灯ゆらり
第4章 揺り籠から墓場まで

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

68/102

68.安全は高く売れる

 即座に連絡がつく買い手候補の中で、一番金を持っているのはお袋だった。


『いきなりそんなことを言われてもねえ……』


 実家の台所にいるお袋は、大学芋の仕上げにとりかかっている。

 なお、大学芋は数十人分あり、台所も以前の数倍まで拡張されている。

 通商のカタログに載っている最新式自動調理器(天然食材専用)が複数設置され、同じく最新式のお手伝いドローンも複数台、台所を飛び回っている。


『にゃ』


『頂きます』


『つまみ食いは一皿までよ。星系管制さんは、お昼ご飯が食べられなくなりますから1つだけにしてください』


『にゃ!』


『部下が反抗的です……』


 休暇中のはずの船長猫耳と、もとの住人が人権を喪失した惑星の実質的支配者が、甘い大学芋をかじって幸せな表情になる。

 天然食材100パーセントのお菓子なので、銀河基準では超高級品だ。


「お袋。忙しそうだから話はあとでいいか?」


 親が相手だと昔の口調に戻ってしまう。

 俺の言葉遣いに気づいた猫耳船長が、興味をひかれた表情で俺を見ている。


『あとにしても結論は変わらないわよ。今の私は下宿経営をしている料理人よ? 自家用宇宙船なんて必要ないわ』


「そこはほら、お袋が得意な投資というか、新事業立ち上げとか?」


 我ながら苦しい話の展開だとは思うが、お袋以外はベリル運送に不利な条件をふっかけてきそうな連中ばかりなので、できればお袋相手に低速宇宙船を売りつけてしまいたい。

 一応他の候補に親父もいるんだが、『投資では無能』という自覚があるから『結果は全部受け入れるから全部任せた』とお袋に資産運用を任せていた。

 おそらく今でもそのはずだ。


『隠居のための金と孫を可愛がるための金があれば十分な私が、なんでそこまでしないといけないの? あんたはまだ若いんだから苦労しなさい』


「うっす」


 子供が苦しいときは助けてくれる(実際に助けてもらったこともある)親だが、それ以外の場面では厳しい。


『そんなことよりまだ孫ちゃんの名前は決まらないの?』


 【ぱたたっ!】と光翼が上下する音が聞こえた気がした。

 お袋が映った画面からでも、お袋がいる惑星の方向からでもない。

 俺は母港全体を(家族や社員を対象から外した上で)【見】てみたんだが、不審人物もお忍びで来ている重要人物も【見】あたらなかった。


「俺が出した名前の案が全滅したんだよ。ブルネットの案でいこうと言ったんだけど『すぐに決めなくていい』とブルネットに言われてそのままだよ」


 母港にいる赤ん坊は俺たちの娘だけなので『赤ちゃん』でも『赤ん坊』でも通じる。

 さすがにそろそろ名前を用意したい気持ちはあるんだが、実際に産んだブルネットの意向は最大限尊重されるべきだから、俺も強くは言えない。


 【ばさっ! ばさっ!】と、アホみたいな速度で動いている感じがする【音】がすごく遠くから聞こえる。

 俺の耳ではなく自力センサーが捉えていることに、俺はようやく気づいた。


『なかなか面白い状況ですね』


 一皿完食後に緑茶を飲んでくつろいでいた星系管制が、ゆったりしたジャージ姿で画面に顔を出す。

 こんな格好だが、銀河通商第7営業艦隊第1分遣隊司令であり、この星系全体の管制担当であり、ベリル運送の大口出資者のひとりでもある光翼人間だ。


「おはようございます。……大口出資者に対する態度でいいですか?」


『どちらでも構いませんよ。コンプラにうるさい本社や都会じゃないですし』


 星系管制は勝手に棚をあさるが目当てのものを見つけられなかったようだ。

 周囲を見渡していた船長猫耳が棚の奥を指差し、星系管制が顔と手を突っ込んで豪華な包装の羊羹を取り出した。


『ひとり一切れだけですよ』


『分かっています』


『あたいが切るにゃ!』


 船長猫耳は非常に慣れている。

 普段から入り浸っているのかもしれない。

 警備の名目で俺をこっそり覗き見している猫耳たちが『ずるいにゃ!』と叫んでいるのが、【見】てもいないのに感じられた。



  ☆



『なるほど。ベリル運送の成長が加速していますね。大口出資者としては大変喜ばしいです』


 星系管制は、分厚く切った羊羹を美しい所作で食べている。

 船長猫耳はひとくちで食べてしまった後、家(と呼ぶにはずいぶんと大きくなってしまったが)から飛び出して遊びに出かけている。


 お袋は『もう話は終わり』という顔をして、昼食の仕込みの最中だ。

 大量の大学芋は、ドローンがそのまま運搬したりその場所で梱包したりしている。


「低速船を、現在教育中の元学生や母猫耳に任せることも考えましたが、ベリル運送が海賊やフロント企業から向けられている恨みを考えるとリスクが大きすぎます」


『ベリル運送の船すべてを高速船にするつもりですか? 固定費が大きくなりすぎて経営破綻一直線な気がしますよ』


 野菜の天ぷらとチクワの天ぷらとザルうどんに手をつけず、つまみ食いとお菓子の大量摂取で腹いっぱいの星系管制が、真面目な顔で話している。


『食べないにゃ?』


 昼食の匂いにつられた船長猫耳が戻ってきて、手洗いとうがいを済ませて席についた。


『……ぜんぶどうぞ』


『おやつ以外も食べないと体が育たないにゃ』


 星系管制はうどんの半分を回収したが、それ以外は『食え』と目で威嚇していた。


「ご指摘はその通りだと思います。ですが、これまで通り社員の命が第一でやっていきたいんですよ」


 俺は見ていないふりをして強引に話を続ける。


『ベリル運送には実績がありますから大言壮語とは言いませんが、リスクは大きいですよ?』


「娘のこともありますし、ある程度のリスクは……」


 また【ばっさばっさ】という【音】が聞こえた気がした。

 娘のことが話題に出るたびにこれなので、事情がだいたい分かってきた。

 リゼーレが『聞き耳』を立てていたのだろう。


「話は変わりますが、リゼーレさまは現在どこにおられるのでしょうか。所在地を知りたいという意図ではなく、母港の近くにおられるかどうかを知りたいのですが」


 星系管制の表情は変わらず、目の動きにも不審なところがない。

 ただ、背中の光翼が『ばささっ』という感じで激しく動揺している。


『紛争中の星系に介入して無血で鎮圧した後、惑星の環境回復を第7営業艦隊の本隊に丸投げしてだらだら過ごしていました』


「……今は?」


『姿を消したという報告が先ほど届きました』


 星系管制は頭痛をこらえる仕草で、おそらく無意識に光翼を神経質に上下させている。


「……念のため、歓迎の準備をしておきます」


『よろしくお願いします。通商の社員としては不真面目極まる駄目人間ですが、上位存在としては、軽く扱ってよい方ではありませんので』


 『駄目人間』と星系管制が言った時点で、不満そうな【ぱたたたっ】という羽ばたき【音】が聞こえた気がするが、俺は気づかなかったことにした。



  ☆



 株主総会という名目で母港の会議室へ集合する。

 俺もベリル社長も、それ以外の出席者も、明らかに『うまくいっていない』表情と雰囲気だ。


「ダチに頼んだけど駄目だったにゃ。地球艦隊や地表に住んでる人間は低速船でも欲しがるけど、金がほとんどねーにゃ」


 キンが肩をすくめる。


「星系管制以外のコネを全部使ったけど、足元を見られた。僕からぜんぶことわった。つかれた」


 ベリル社長はぐったりしている。

 ブルネットは足りない睡眠を補うための仮眠中だ。

 俺も1時間以内に寝ろと、主治医であるスッスに警告されている。


「いっそのこと、母港の増築用の資材に使ってしまいますか? 動力源として使えるんですし、猫駆逐艦の増産に力を入れるのも選択肢のひとつだと思います」


 何も決められないのが一番良くない。

 現状維持でも、安値で売り払うのでも、今俺が言っている案でもいいから決めておく必要がある。


「サルも分かって言ってんだろうけど、母港の拡張も動力源の増設も、宇宙船を使うのは効率わるいにゃ。にゃーたちは時間がなくて仕方なく戦利品の船を使ってきただけにゃ」


「それは重々承知しています。ですが、あまり使わない船も維持コストがかかるわけでして」


「それを言われるとつれーにゃ」


 キンは肩を落とした。


「サルくん、旧ベリル号と猫の巣号は売らないよね? 船長猫耳のみんなに聞いたら『それだけは売っちゃだめにゃ!』って言われたんだけど」


「それは民意に従うしかないと思います。最初の船と、長期間生活の場所になった船は別格の存在ですし。ただ、旧ベリル号のタキオン砲は外して他に流用したいです」


「異議ありっす!」


「タキオン砲が一番手に入りづらいですからね。スッスの専用船を、旧ベリル号から猫巡洋艦に変更するのが目的です。今となっては最初のベリル号は力不足ですからね」


「大歓迎っす!」


 スッスは高速で手のひらを回転させた。


「あ、言い忘れてたっすけど、自分、なんか自力センサーが身に付いたみたいっす!」


 『しゃきーん!』とスッスの光翼がポーズを決める。


「「「おめでとう?」」」


 このタイミングで告げられても、正直困る。

 【見】るまでもなく、ベリルもキンも同じ意見だ。


「リアクションうすいっすよ?」


 そういうスッス自身、喜んではいるんだが劇的な喜びではない。


「普段から先輩の【見】ているものを見せられてるっすから、自分の自力センサーで【見】ることのできる範囲の狭さにびっくりしてるっす。今も、母港の近くしか【見】え……」


 宙空に視線を向けたスッスが固まった。

 顔に汗が浮かび、光翼が怯えたように震え出す。


「リゼーレさま?」


 気配が妙に薄く、しかも敵意がまったくないので気づけなかった。

 俺の人権を保証し、娘に加護を与えてくれた恩人に対し、俺は自然と改まった態度になる。


「恩人に対して閉ざす門はありません。是非、おいでください」


 地表にいた頃に神社仏閣へ参拝したときとは比較にならない敬意と畏敬を込めて頭を下げる。

 ただし1個人に対する敬意と畏敬だ。

 信仰心の薄い俺にとって、『妻子の恩人』は文字通りの最高の存在だからだ。


【お邪魔します】


 会議室の温度は変わらず、気配だけが変わる。

 最初に会議室の壁一面を覆い尽くす光翼が出現し、少し遅れてリゼーレ本人が現れる。

 相変わらず、人間の範囲をぶっちきった美貌と存在感だ。


「リゼーレさまのおかげで、俺とブルネットの娘は順調に育っています」


 元気すぎて俺とブルネットがときどきついていけず、下僕の力を借りるしかなくなるのは、残念でもあるが喜ぶべきことだと思う。

 リゼーレが鷹揚に頷く姿はまさに上位存在そのもので、しかしその翼は、娘の話題が出た瞬間から【そわそわ】している。


「一度娘に会っていただくことは……」


【是非】


 俺からの提案の途中で食い気味に促された。

 その間に、キンは肩をすくめ、ベリルはブルネットと下僕たちに連絡を入れていた。



  ☆



 ブルネットに抱っこされて運ばれてきた娘が、リゼーレを見て不思議そうに瞬きする。

 しかしすぐに興味を失い、馬鹿でかい光翼に小さな手のひらを伸ばす。

 ブルネットはリゼーレへの敬意と感謝はあるが娘の方が優先だ。

 そのまま光翼に近付いて、娘に語りかけながら光翼に触れさせる。


【んっ。元気な子ですね】


 リゼーレの無表情な顔が、『同族の赤子に友好的に触れられた』かのような、笑顔に変化した。


「予想通りとはいえ、リゼーレさまに触れても健康なままっすか。これ、10年じゃなくて5年くらいで、娘さんの存在が外に知られそうな気がするっす」


「怖いことを言わないでください」


 スッスがこんな場面で冗談を言わないのが分かっているから、余計に怖い。


【猿谷さま。人権の買い戻しのみならず、故郷周辺の空に平和をもたらしたこと、大変すばらしいです】


 恩人であり、銀河通商の高官であり、上位存在でもあるリゼーレからの褒め言葉は、俺の立場を大きく強化するのかもしれない。

 しかし今、俺の頭にあるのはひとつのひらめきだけだ。


 圧倒的な力を持つ存在が『平和』と断言したのだ。

 少なくとも現在、この周辺に海賊はいない。

 俺たちベリル運送が航路上のデブリを排除してきたので、かなりの高速を出しても安全。


「海賊が極端に少ないこの地域で、低速船をセーフハウスや拠点として売れば、高くなりませんかね?」


「サルくん。ここは安全でも辺境だよ? わざわざ拠点を買う人がいるかな? しかも高く売るんだよね?」


 俺の発言に否定的な返事をするベリル。

 しかしブルネットとキンは違った。


「大金持ちや、何らかの事情で文明の中心から離れる必要のある勢力は、確実に欲しがるわ」


「にゃーにはよく分からねーけど、金のにおいは感じるにゃ」


「中古船そのものを拠点にしてもいいですし、建設作業のための重機として使うこともできます。……これ、いけますね」


 リゼーレの光翼に触れて遊ぶ娘と、触れられて喜んでいるリゼーレを置いてけぼりにして、新たな悪巧みが始まった。

◆ BERYL ATTACK FLEET

規模:3 防衛:4 遠征:5


◆ CAT CRUISER *2

船体:3 / 跳躍:4 / 航続:4 / 装甲:2 / 居住:1 / 船倉:1 / 兵装:4


◆ CREW

船長猫耳ズ|船長Lv2 [猫語Lv1]

拿捕猫耳ズ|整備Lv1+[白兵Lv2]



◆ BERYL DETACHED FLEET *2

規模:2 防衛:2 遠征:5


◆ CAT CRUISER *1

船体:3 / 跳躍:4 / 航続:4 / 装甲:2 / 居住:1 / 船倉:1 / 兵装:4


◆ CAT DESTROYER *3

船体:3 / 跳躍:3 / 航続:4 / 装甲:1 / 居住:1 / 船倉:0 / 兵装:3


◆ CREW

船長猫耳ズ|船長Lv2 [猫語Lv1]

拿捕猫耳ズ|整備Lv1+[白兵Lv2]

猫耳の下僕|操縦Lv3-[信仰Lv2]

新人猫耳ズ|船長Lv1 [従順Lv2]

新人下僕ズ|操縦Lv1-[信仰Lv1]



◆ BERYL DEFENSE FLEET

規模:3 防衛:7 遠征:8


◆ BERYL THE GREAT MK3

船体:3 / 跳躍:4 / 航続:4 / 装甲:0 / 居住:4 / 船倉:0 / 兵装:5


◆ BERYL THE GREAT MK2

船体:3 / 跳躍:4 / 航続:4 / 装甲:2 / 居住:2 / 船倉:2 / 兵装:4


◆ OTHER SHIPS

船体:4 *1 / 船体:2 *8 / 船体:1 *7


◆ CREW

ベリル  |船長Lv3 [借金Lv1]

サル   |操縦Lv5+[衰弱Lv3]※疲労状態

スッス  |操縦Lv3 [医療Lv2]

ブルネット|射撃Lv2+[事務Lv2]※治療中

キン   |整備Lv2+[白兵Lv2]

拿捕猫耳ズ|整備Lv1+[白兵Lv2]

船長猫耳ズ|船長Lv2 [猫語Lv1]

猫耳の下僕|操縦Lv3-[信仰Lv2]

ブラン  |秘書Lv1 [衰弱Lv1]

新人下僕ズ|操縦Lv1-[信仰Lv1]


◆ CREW IN TRAINING

母猫耳ズ |市民Lv1+[衰弱Lv2]

救助猫耳ズ|学生Lv1+[衰弱Lv1]

猫耳幼児ズ|学生Lv1 [猫語Lv1]

学生猫耳ズ|学生Lv1 [衰弱Lv1]

他種学生ズ|学生Lv1 [借金Lv1]


◆ GUEST

リゼーレ |市民Lv3 [光翼Lv8]

野良猫耳ズ|白兵Lv1-[衰弱Lv2]


◆ CAPTURED

小型武装輸送船 *4 ※動力源として使用中

大型輸送船 *1



◆ CAN BE PRODUCED ※特大デュプリケーターを長期レンタル中

船体:3 / 跳躍:3 / 航続:3 / 装甲:2 / 居住:2 / 船倉:3 / 兵装:3


◆ BERYL HOME PORT(3/3)

権利:1 / 規模:2 / 装甲:0 / 修理:3 / 居住:3 / 備蓄:0 / 兵装:3

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
リゼーレさま上位存在としてはかなり寄り添ってくれてるんだろうけど ちゃんと上位存在で怖い
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。