57.工場制圧と最後の追撃
工場内を守るのは、人間サイズのクモじみた機械だった。
主な武器はその『脚』だ。
体当たりで敵を転倒させ、その『脚』で突き刺したり滅多打ちにしたりして仕留めるのだ。
効率は酷く悪いが、生産設備を傷つけないという意味では及第点以上だった。
だが取り柄はそれだけだ。
母港での決戦では生身や普通の宇宙服を着ていた復讐者たちは、今ではパワードスーツを装備し、しかも使い慣れている。
非常に高い士気と十分な練度と連携を誇る彼らは、ただの『性能の良い兵器』でしかない障害を短時間で排除する。
揚陸艦が突き刺さったのは、工場の表層ではあるが重要区画に近い。
復讐者たちが2つの隔壁を突破すると、まだ稼働中の生産施設に遭遇した。
『なっ……』
復讐者たちの動きが鈍る。
工場で生産され、加工されているものを直視してしまったからだ。
「スッス!」
「猫巡洋艦への通信にはモザイクをかけたっす!」
人間が無機質な工場で生産される光景も、生産された『直後』の人間が加工される光景も、見る者の心に深い傷を負わせるのに十分な威力がある。
ちらりと見たスッスの表情はひきつり、光翼は不規則に明滅を繰り返している。
俺も呼吸が乱れているし、顔色や表情もスッスと似たようなものだろう。
「サルくん、今何かした?」
ベリル社長は、一時的に混乱したケモ耳プラント艦隊を葬るために集中している。
あの光景を目にしなかったことに、俺は深く安堵する。
「母港に戻ってから詳しく報告します。モザイクを外すための許可は、キンさんか、出産を終えて体調を回復した後のブルネットから得て下さい」
「ああ、そういう内容……。僕も一人前なんだよ?」
ベリルは、後半は拗ねたように言った。
「覚悟が決まった古参兵が行動不能になりかねない光景ですよ。社長はベリル運送全体に責任があるんです。概要はお知らせしますので、ここは我慢して下さい」
俺の自力センサーが『工場内の人間の数は少ない』と『見』たのは正しい。
生きている人間は、とても少ない。
『サル殿』
地球人奪還社の現場指揮官が直接通信してくる。
『ケモ耳プラントの社員を何人か捕縛したが数が予想より少ない。サル殿が『見』た内容と比べてもだ』
「少し待って下さい。確認します」
一瞬だけ、『見』る範囲を戦場全体から工場のみに変更する。
それまで『見』えなかった、生きている気配が薄いものまで『見』てしまい、俺の胃が痙攣し、表情もひきつる。
ストレスがかかりすぎている。
「先輩。ドクターストップ寸前っす」
俺を気遣うスッスも、そろそろ限界に見える。
俺は目で感謝しながら自力センサーを意識して操作する。
一仕事終えたらしい拿捕猫耳たちが閲覧しようとしているので、モザイク処理も忙しくなる。
「戦意がゼロではない人間の位置を送信します」
『受信した。……おそらく、地球人の生産に切り替えるまえに生産された猫耳たちだ。申し訳ないが、必ず生かして捕らえると約束はできない』
それでも、負傷を覚悟して捕縛は目指してくれるのだろう。
感情を『見』なくても分かる。
俺は通信越しに、工場の奥へ進む復讐者たちを見送った。
「サルくん! こっち終わったよ!」
「……えっ」
俺の口から間抜けな音が漏れた。
慌ててベリルを見ると、冗談の気配など皆無の得意顔で胸を張っていた。
『『『おっちゃん! 母港は遠いんだからいっぱい拿捕しても持って帰れないよ!』』』
拿捕猫耳が説明してくれる。
画面を確認してみると、高く売れそうな船や、猫巡洋艦用のパーツが回収できそうな船が10隻拿捕されている。
「戦利品は、穴が開いている割に機能を維持できていますね」
「修理に手間がかかる船を持ち帰ったらキン姉に怒られそうだし……。後は身代金をとるか、もっと破壊してデブリにしちゃうかだね。ところで、工場の方はうまくいってる? モザイク多すぎてよく分からないんだけど」
「手こずっているようです。地球人奪還社は爆発物の解体技術もあるようですが、短時間ですべて解除するのは不可能です」
既に何カ所かで爆発が発生している。
復讐者たちに死者も重傷者も出ていないが、工場の無事な区画は徐々に減っていっている。
「社長、自分も工場へ行っていいっすか?」
「危険だよ?」
ベリルの返事は即座だった。
光翼人間であるスッスは頑丈だが、白兵戦の才能はない。
「あの工場を放置すると寝覚めが悪いっす」
『『『はい!』』』
拿捕班が一斉に挙手した。
全員、スッスと一緒に突入したいらしい。
「うーん、でも……」
モザイクの下に何かあるか想像できている顔のベリルが、渋い顔をする。
もっと『軽い』何かだと思っている拿捕班は、非常にやる気だ。
「スッス。猫耳たちがいる区画だけでの行動で構いませんか?」
「了解っす。加工済みの生体パーツなんて、子供が見ていいものじゃないっす」
スッスが頷いたので、俺は改めて工場を『見』てから侵入ルートを提案する。
ベリル社長と地球人奪還社からの許可は、即座に出た。
☆
「どうなりますかねえ」
一度移乗戦闘が始まれば、俺にできるのは情報支援だけだ。
戦場全体を『見』ると、拿捕された10隻と降伏した30隻程度と残骸と化した約50隻と、無傷の猫巡洋艦4隻とレンタル船3隻と、工場に刺さったときにダメージを負った揚陸艦が『見』える。
まだ漁夫の利狙いの第三者は現れていないが、時間の問題だろう。
「ん? サルくん、この通信、悪戯かな?」
ベリル社長が通信要求の情報を俺に見せる。
「ケモ耳プラント代表、ですか? ずいぶんと遠い場所からの通信のようですが」
通信に関係ない画面のひとつから、スッスの悲鳴が聞こえてきている。
装甲の厚いパワードスーツを着せられたスッスが、拿捕猫耳複数によって超高速で運ばれている。
『正面突破はやめるっす!』
固定式のタレットで狙われたり、クモ型の機械に襲われたりと、ピンチの連続だが彼らには最強の武器がある。
『自分の翼はそんなに便利な道具じゃないっす!』
スッスの光翼は物質を透過するのも物質に干渉するのも自由自在だ。
鍵開け程度は器用にこなす。
予想より器用すぎて、俺もベリルも驚いている。
『『『開いた! 次いこ!』』』
だから拿捕班も容赦なく利用する。
泣き言を言っているスッスが、実は頑丈さだけならベリル運送で一番ということを知っているからだ。
「えーと、何の話でしたっけ」
「この通信が悪戯かもって話だよ。……まだ通信要求が続いてる。しつこいね」
「今は時間に余裕がありますし、念のため俺が出ますよ」
軽い気持ちで通信を繋ぐと、非常に苛ついた表情の、耳が上方向に長い男が映った。
『戦争相手を待たせるとは、交渉技術のつもりか? 猫耳らしい浅知恵だ』
「ひょっとしたら本当にケモ耳プラント代表だったりする? ここまでボロボロに負けるまで交渉に現れないって、ちょっと臆病すぎないかな」
ベリルに悪意は皆無だ。
だから余計に、ケモ耳プラント代表は感情が逆撫でされたようだ。
『状況が変わったのだ。貴様らの予想外の戦力には驚いたが、貴様らの敵の多さに助けられたよ。我が社は多額の支援を受けて本社を移転済みだ。貴様らは、せいぜい空になった工場と切り捨てられた艦隊と遊んでいればいい』
「艦隊はもう戦利品と残骸にしたけど」
『工場と遊んでいればいい! 爆発物を仕込んだ猫耳の相手をどうするか、ここで見物……』
『うわ、原始的な人間爆弾っす。こういうのって今の時代にする奴いるんっすね。今解除するっす!』
『『『すげー! ぴかぴかの翼すげー!』』』
別の画面の向こうで、スッスが医者兼光翼人間としての能力を見せつけている。
『『『おめーらは今からベリル運送の新社員! 異論はみとめない!』』』
拿捕猫耳たちが、直前まで戦っていた猫耳幼児たちに優しく毛布をかけたり、天然食材(密輸品)の干し肉を渡したりしながら、体内に爆弾がしかけられていたらしい猫耳幼児たちに語りかけている。
呆然としていた猫耳幼児が、おそるおそる干し肉を口に入れた直後、数秒のあいだ目を丸くしてから、猛烈な勢いで食べ始める。
拿捕猫耳たちが、苦悩の表情で、自分たちの分の干し肉を新入りに差し出していた。
「救出も終わったけど?」
『にゅふふ』と猫っぽく笑い、ベリルが煽る。
『くっ、この……。猫耳は猫耳らしく、僻地で腐っていろ。貴様ら程度では、我が社の新しい本社には辿り着けぬ! それでも戦争は続くのだ。貴様らを狙う強力な会社からの襲撃に、どこまで耐えられるかな!?』
『不敵に笑っているつもり』の引きつった表情を浮かべて、縦に長い耳を持つ男は通信を一方的に切断した。
通信の最初から相手の位置は分かるが、確かに遠い場所ではある。
『こちら地球人奪還社。工場の制圧を完了した。スッス殿をしばらくお借りしたい。生体パーツへの加工途中にある者を、何人か救えるかもしれない』
「スッスはそれでいい? うん。申し出を受け入れます。工場内の猫耳は僕らが引き取るってことでいいよね?」
『もちろんだ。感謝する』
地球人奪還社の現場指揮官が深く頭を下げる。
なお、戦闘も交渉もその後の処理も完璧に成功させたはずのベリルは、一瞬前の有能社長の顔から追い詰められた猫耳の顔になった。
「どうしようサルくん。相手にとどめを刺せないの、すごくヤバイよ。サルくんが日帰りでいける距離じゃないし」
「それなら問題ありませんよ」
俺は慰めるのではなく、ベリルの勘違いを指摘する。
「俺に制限があるのは一日の活動時間だけです。停泊可能な場所を借りられるなら、遠出は可能です。そろそろ星系管制が営業をかけてくるかもしれませんね」
『呼ばれた気がしました』
ジャージ姿の星系管制が、画面のひとつに映る。
「盗聴してただけでしょ!」
ベリルが吠える。
賠償金についてのいつものやりとりはすぐに終わり、どの星系のどの施設を借りるかの交渉が始まる。
補給だけでなく安全も買う必要があるので、金がかかりそうだ。
戦いはまだ終わっていない。
そして、戦いの決着は、すぐそこまで迫っていた。
☆
母港まで戦利品と新入社員たちを運び、新入社員に刺激されて入社を希望した元特攻猫耳たちの入社手続きを終えて、一晩休んだ。
翌日に出発。
銀河通商の拠点でも補給を受けて、一晩休む。
そしてさらに翌日。
俺たちは、開発が進んだ星系を飛んでいた。
「船が多いですね。輸送船なんて、星系内だけで何百隻もあります。宇宙港も、どれも豪華だ」
俺たちの母港があるのがコンビニもない田舎だとすると、ここは県庁所在地程度に『都会』だろうか。
『は?』
ベリル運送からの通信要求に応じたケモ耳プラント代表は、目を見開き、恐怖で体を震わせている。
『なぜ? どうして、ここへ』
「社長、あの宇宙港から反応があります」
「あれだね。……『レンタルオフィス』の中でも一番小さい奴だよ。ひょっとしてこいつ、もう名目だけの代表? 護衛は何隻かいるみたいだけど、残ってるのはそれだけみたい」
宇宙港を守る宇宙船も8隻。
ベリル号、猫巡洋艦4隻、レンタル船3隻からなる俺たちと同数だ。
真新しい印象を受けるのは、最近手に入った金で買ったのかもしれない。
「名目だけでも代表なら、身柄を押さえればこちらの勝ちでしょうか」
俺が聞くと、ベリルは『にやり』と笑う。
「その通り! 本当にいろいろあったけど、僕たちの完全勝利で終わらせるよ!」
十分な休息と補給を終えた俺たちは、万全の状態で、この戦争の最後の攻勢を開始した。
◆ BERYL ATTACK FLEET
規模:2 防衛:5 遠征:9
◆ BERYL THE GREAT MK3
船体:3 / 跳躍:4 / 航続:4 / 装甲:0 / 居住:4 / 船倉:0 / 兵装:5
◆ CAT CRUISER *4
船体:3 / 跳躍:4 / 航続:4 / 装甲:2 / 居住:1 / 船倉:1 / 兵装:4
◆ CREW
ベリル |船長Lv3-[借金Lv5]
サル |操縦Lv5+[衰弱Lv3]
スッス |操縦Lv3-[医療Lv1]※出張中
船長猫耳ズ|船長Lv2-[猫語Lv1]
拿捕猫耳ズ|白兵Lv1+[整備Lv1]
猫耳の下僕|操縦Lv3-[信仰Lv2]
◆ RENTAL FLEET
◆ IMPERIAL STANDARD CRUISER *3
船体:3 / 跳躍:4 / 航続:4 / 装甲:2 / 居住:3 / 船倉:2 / 兵装:4
◆ CREW
光翼人間 |船長Lv1+[光翼Lv1]
◆ FRIENDLY FLEET
◆ Rescue Ship of the Earth(1/1) ※搭載船は脱出艇
船体:4 / 跳躍:3 / 航続:3 / 装甲:5 / 居住:3 / 船倉:2 / 兵装:3
◆ CREW
復讐者たち|白兵Lv1+[士気Lv5]
◆ CAPTURED
拿捕船 *10 ※価値は「備蓄:4」相当
◆ BERYL DEFENSE FLEET
規模:3 防衛:6 遠征:5
◆ BERYL THE GREAT MK2
船体:3 / 跳躍:4 / 航続:4 / 装甲:2 / 居住:2 / 船倉:2 / 兵装:4
◆ OTHER SHIPS
船体:4 *1 / 船体:2 *4 / 船体:2(修理待ち) *4 / 船体:1 *7
◆ CREW
ブルネット|射撃Lv2 [事務Lv2]※妊娠中
キン |整備Lv2+[白兵Lv2]
拿捕猫耳ズ|白兵Lv1+[整備Lv1]
船長猫耳ズ|船長Lv1+[猫語Lv1]
猫耳の下僕|操縦Lv3-[信仰Lv2]
◆ CREW IN TRAINING
母猫耳ズ |市民Lv1 [衰弱Lv2]
ブラン |市民Lv1 [衰弱Lv1]
救助猫耳ズ|学生Lv1 [衰弱Lv1]
新人猫耳ズ|船長Lv1-[従順Lv2]
猫耳幼児ズ|学生Lv1-[猫語Lv1]
◆ CAPTURED
◆ Small Stealth Ship
船体:2 / 跳躍:2 / 航続:4 / 装甲:1 / 居住:2 / 船倉:2 / 兵装:1
◆ Huge Transport Ship
船体:4 / 跳躍:2 / 航続:4 / 装甲:1 / 居住:2 / 船倉:5 / 兵装:1
◆ CAN BE PRODUCED
装甲:2
◆ BERYL HOME PORT(3/3)
権利:1 / 規模:2 / 装甲:0 / 修理:3 / 居住:2 / 備蓄:0 / 兵装:1




