56.光速の3.5万倍の豪雨
俺たちと合流した揚陸艦は傷だらけだった。
タキオン粒子を受け流すという常軌を逸した防御力があるのに、葉巻型の船体のあちこちに細かな傷がついている。
それだけの損傷を受けるほどの、過酷な戦いを繰り返しているのだ。
できる限りの整備はされている。
しかし、客観的に見れば整備状態は劣悪だ。
「一旦帰港します。異論は聞きません」
ベリル社長が宣言した直後、特大葉巻型宇宙船に7つのトラクタービームが突き刺さる。
トラクタービームでは物理的な被害は皆無。
しかし、7隻の巡洋艦(しかも加速力とエネルギー容量(航続距離)に優れた船ばかりだ)の牽引には逆らおうにも逆らえない。
攫われた地球人を海賊から奪還するために設立された『地球人奪還社』の本社でもある揚陸艦が、戦利品のように牽引されていった。
☆
「死ぬ気かおめーら。言い訳は聞きたくねーにゃ。にゃーたちが直すところを指くわえて眺めてろにゃ」
キンは下品なハンドサインをしてから、興味津々で集まって来た拿捕猫耳たちを引き連れ整備区へ向かう。
整備区では、それまで修理中だった元海賊船が外へ追い出されて、特大サイズの揚陸艦が固定されている。
「今回の件は、謝罪を求めるべきなのだろうか」
かつて俺たちの母港で、圧倒的な戦力を持つ賊を相手に戦い抜いた生き残りが、心底困った顔をしている。
「協力関係にある企業に、必要以上のリスクを負わせたくないんですよ。母港防衛の恩人でもありますし」
「あれは双方納得の上の戦いと戦後処理だった」
海賊に大事な人を奪われた復讐者の生き残りであり、同じ立場の人間が集まった地球人奪還社の一員である男が、本気の態度で断言する。
「こちらの感情の問題です。そちらが気にする必要はありません」
俺はできるだけ穏やかな態度と言葉で、俺たちベリル運送の本音を伝えた。
「……感謝する。だが、あのまま攻め込んだ方が良かったはずだ。ケモ耳プラントは猫耳の遺伝子の設計図を所有し、あなた方ベリル運送はそれを奪取するつもりだ。時間をおけば、消去や外部への持ち出しの恐れがある」
この復讐者は誠実ではあるのだろう。
残念ながら、この銀河には対応しきれていないようだが。
「設計図は金をかければ購入可能ですし、俺たちが派手に勝てば他に持っている奴が売り込んできますよ。……その『売り物』が信用できるかどうか分からないのは、ケモ耳プラントにある設計図も同じです」
俺は小さく息を吐く。
うんざりするような現実だ。
なお、金があれば購入可能というのは事実だが、例えば銀河通商に依頼すると、設計図の奪取だけでなく設計図が正しいかどうかの調査にも膨大な金がかかり、最終的にはとんでもない額になるはずだ。
ケモ耳プラントから設計図を奪いたいという気持ちは、とても強い。
「承知した。……ずいぶんと、様変わりした」
復讐者は整備区を見渡し、感慨深げに呟いた。
「公園区は変わりませんよ。……どうです?」
あの戦いで大勢の復讐者が倒れた。
身寄りも引き取り手もいない者も多く、彼らに強く恩を感じたベリル運送が墓所を作った。
「……ああ」
復讐者の無表情の仮面がひび割れる。
俺はそれに気付かないふりをして、彼に背を向け、護衛を伴わずに公園区へ道案内をした。
☆
「「「いらっしゃいませ」」」
女性用のスーツを隙なく着こなした若い猫耳たちが、洗練された態度で出迎える。
まるで『式典に招かれたVIP』に対するような対応だ。
実際それは、地球人奪還社とベリル運送の関係を考えれば事実に近い。
「ん……んん?」
復讐者が困惑を隠せない。
猫耳という宇宙人が、地表の高級店の店員にしか見えない態度をしたので戸惑ったのかもしれない。
「地表から専門家を招いて教育を担当してもらっています」
俺は、若い猫耳たちを見守っている男女に頭を下げる。
ベリル運送の幹部である俺と、人権を持たない地球人との間には、立場と力で大きな差がある。
だが相手は、俺にとっては『身内の若手の教育を任せている相手』だ。
敬意を示す必要もない程度の相手なら、最初から若手を任せたりしない。
「……ずいぶんと、様変わりしたようだ」
海賊に攫われた地球人を取り戻し、それが無理でも遺体の一部である生体パーツを(弔うために)回収するために戦っている彼らは、あまり成果を挙げられていない。
今回のベリル運送からの提案(揚陸戦を担当して戦利品があれば地球人奪還社のものにしてよし)に応じたのも、金銭や物資の不足が深刻だからだ。
『見』るまでもなく、劣等感に近いものを感じているのが分かった。
「皆さんが母港を守って下さった結果ですよ。自由にできる場所があるから、若手の教育もできるんです」
公園区の奥まで進み、慰霊碑の前で立ち止まる。
特に儀式などは行わず、しかし感謝と慰霊の気持ちは本物だった。
☆
揚陸艦の修理完了から再度の出発までは非常に慌ただしかった。
ケモ耳プラントの工場までの距離が半分を切った頃にようやく、揚陸艦の状態をじっくり観察する時間ができた。
それは、『金継ぎ』というより、高級なパーツの割れ目に無理矢理金属を流し込んだような外見になった。
地球人奪還のためなら過酷な戦場も苦にしない地球人奪還社の面々が、情けないような困ったような複雑な感情を向けている。
『機能に問題はないにゃ!』
キンの堂々とした態度と言葉を思い出す。
実際、機能的にはまったく問題はない。
「うーん、いいのかな? 地球人奪還社からクレームはないんだよね?」
ベリル号の艦橋で社長が小首を傾げている。
「見た目も人付き合いの面では大事ですが、まず生き延びないと始まりませんから。っと、地球人奪還社さんから通信要求です」
「繋いで!」
俺と一緒に慰霊碑に行った男が映る。
今回の代表者は彼らしい。
『丸一日予定が遅れたが、作戦は予定通りか?』
「いいえ。もともと、外部との通信が届かなくなった時点でこの作戦を提案するつもりでした」
よそ行きの仮面を被ったベリルが、静かに微笑みながらデータを送る。
男は微かに眉を動かし、相手の正気を疑う目でこちらを見てきた。
『我々が先陣を切る予定だった。その作戦でいくなら、ベリル運送が大きなリスクを負うことになるぞ?』
「ふふ。心配して下さってありがとうございます」
ベリルは機嫌良く微笑み、牙をちらりと見せる。
「私たちにとってはこれが一番儲かる……んんっ、確実な作戦なのです。出番まで、安心してご覧下さい」
レンタル船3隻は揚陸艦の護衛につき、ベリル号と猫巡洋艦4隻がケモ耳プラントの工場へ突撃する。
ただそれだけなら自殺同然の危険行為だが、俺たちには自信があった。
「同じ場所で何度も戦えばデータが増えて、敵の残骸がどこへ飛ぶかの計算もやり易くなるのです。サルくん?」
言葉遣いが普段と違っても、生命力に満ちた緑の瞳はいつものままだ。
「敵船を捉えました。敵船の数は前回と比べて3割減。すべての船が、工場に張り付くようにして迎撃攻撃の準備をしています」
「……『ガチャ』された地球人が乗ってると思う?」
ベリル社長は、その言葉に汚らわしさを感じているようだ。
「分かりません。ただ、下僕連中以上の自力センサーを持っている確率は低いと思います」
もしあれだけの自力センサーが量産できるなら、ベリル運送という危険な勢力を相手にする必要は薄れるからだ。
俺の回答に、ベリルは大きく頷いた。
「作戦に変更なし。速度と貫通力を限界まで上げて、威力は逆に限界まで下げた攻撃を敵艦隊に対して行います」
「了解です。各船に伝達します。予定通りです。微量のタキオン粒子を連射してください」
この作戦限定で、ベリル号の特大タキオン砲は威力が大きすぎて邪魔になる。
猫巡洋艦のタキオン砲が、極小の威力で連射する。
艦隊の速度(光速の3万倍)にタキオン砲による加速(光速の5千倍)が加わり、光速の3.5万倍のタキオン粒子が微量の豪雨として『落ちて』いく。
『……嘘だろう?』
復讐者が呆然と呟く。
ベリルだけでなく、ベリル運送のパイロットや船長たちは『わくわく』しながら見守っている。
「高速船の数が揃うと作戦の幅が増えすぎて、考えるのが大変ですよ」
俺はついぼやいてしまった。
複数の戦法をベリルに提案した後、全部について詳しく説明してくれと言われて大変だった。
「ふふっ。私は作戦を選ぶのが楽しかったですよ。サルくんもでしょう?」
「否定はしません。……着弾します」
タキオン粒子と敵艦隊が接触する。
大きな爆発が起きる恐れもあったが、シールドも船も『最大でも数メートルの穴が開くだけ』で終わる。
もちろん、その『穴』に稼働中のエンジンがあれば爆発はするが、その場合でも艦隊まるごとや工場ごと吹き飛ぶほどの威力にはならなかった。
敵艦隊も敵工場も酷い損害を受けたが、どちらも戦争中で損害も覚悟している。
短時間で復旧や応急修理が行われ、俺たちに苛烈な攻撃をしてくるはずだ。
だが、今この瞬間は、戦闘能力を失っている。
『『『拿捕! 拿捕!』』』
拿捕班が盛り上がっている。
キンの腕と整備区の施設があればニコイチかサンコイチで直せそうな『残骸』が、大小100近く浮かんでいるからだ。
『『『艦隊戦はなしかにゃ……』』』
対照的に、仕事が戦闘ではなく後片付けになってしまった船長猫耳たちは、かなり露骨に落胆している。
「ケモ耳プラントの工場にも当たりました。死者は少ない……いえ、どうやら予想より工場内の人間が少なかったようです。人間の被害はほぼゼロです」
俺は『見』た結果を口にしている。
どれだけ悪人でも、人間が死ねば少しは動揺する。
それがほぼ皆無なので、おそらく人死には『現時点では』少ないはずだ。
「サルくん。地球人奪還社へ送るのは工場に関する情報だけだよ」
ベリルは俺だけに聞こえる小声で命令する。
「社長。それだと先輩の自力センサーの精度がかなりばれちゃうっす」
スッスが小声で意見を述べる。
「うん。でも相手は恩人だからね。……悪用するなら報復するけど、それまではね?」
俺たちからケモ耳プラントの工場の予想地図を送られた地球人奪還社は、動揺を隠せなかった。
どの感情を抱いた人間がどう動いたかという情報は、現在の工場内の構造を推測するための、極めて価値の高い情報になる。
工場内で戦うことになる地球人奪還社としては、喉から手が出るほど魅力的だろう。
ベリル運送の情報収集能力に恐怖してしまうかもしれないが、な。
「社長。予定位置まで後5秒です」
「うん! みんないくよ!」
俺は操縦を船長たちへ任せる。
ベリル社長を筆頭とする猫耳の船長たちが宇宙船を操縦して、ケモ耳プラントとその艦隊の間にある、わずかな隙間へ『滑り込む』ことに成功する。
「降伏勧告信号を送りながら攻撃開始! 降伏勧告に応じたふりをした奴には僕がとどめを刺す! 一気に制圧するよ!」
なんとか再稼働に成功したレーザー砲塔やミサイル発射筒が、猫巡洋艦の粘着弾で封じ込められる。
強い敵意を放つ人間が乗る船には、船ごとの拿捕を諦めた上で、すべてのエンジンや兵器をタキオン砲の連射で潰す。
「社長。揚陸艦が工場に接触するまで後10秒です」
「うーん。やっぱ加速力が足りないと遅いなぁ」
ベリルの口調は、普段のものに戻ってしまっている。
「レンタル船がトラクタービームで手伝っていますからこれでも速いんですけどね。……接触します」
葉巻型の特大船が、特大船と比べても巨大な工場に突き刺さり、突き抜けない。
衝突の瞬間に猛烈な攻撃が行われたようだが、キンたち整備班が修理した装甲は耐えている。
『これより移乗戦闘を行う』
地球人奪還社が宣言する。
地に足がついた場所なら恐るべき力を発揮する地球人が、長年いのちを弄んできた工場へ、突入を開始した。
◆ BERYL ATTACK FLEET
規模:2 防衛:5 遠征:9
◆ BERYL THE GREAT MK3
船体:3 / 跳躍:4 / 航続:4 / 装甲:0 / 居住:4 / 船倉:0 / 兵装:5
◆ CAT CRUISER *4
船体:3 / 跳躍:4 / 航続:4 / 装甲:2 / 居住:1 / 船倉:1 / 兵装:4
◆ CREW
ベリル |船長Lv3-[借金Lv4]
サル |操縦Lv5+[衰弱Lv3]
スッス |操縦Lv3-[医療Lv1]
船長猫耳ズ|船長Lv2-[猫語Lv1]
拿捕猫耳ズ|白兵Lv1+[整備Lv1]
猫耳の下僕|操縦Lv3-[信仰Lv2]
◆ RENTAL FLEET
◆ IMPERIAL STANDARD CRUISER *3
船体:3 / 跳躍:4 / 航続:4 / 装甲:2 / 居住:3 / 船倉:2 / 兵装:4
◆ CREW
光翼人間 |船長Lv1+[光翼Lv1]
◆ FRIENDLY FLEET
◆ Rescue Ship of the Earth(1/1) ※搭載船は脱出艇
船体:4 / 跳躍:3 / 航続:3 / 装甲:5 / 居住:3 / 船倉:2 / 兵装:3
◆ CREW
復讐者たち|白兵Lv1+[士気Lv5]
◆ BERYL DEFENSE FLEET
規模:3 防衛:6 遠征:5
◆ BERYL THE GREAT MK2
船体:3 / 跳躍:4 / 航続:4 / 装甲:2 / 居住:2 / 船倉:2 / 兵装:4
◆ OTHER SHIPS
船体:4 *1 / 船体:2 *4 / 船体:2(修理待ち) *4 / 船体:1 *7
◆ CREW
ブルネット|射撃Lv2 [事務Lv2]※妊娠中
キン |整備Lv2+[白兵Lv2]
拿捕猫耳ズ|白兵Lv1+[整備Lv1]
船長猫耳ズ|船長Lv1+[猫語Lv1]
猫耳の下僕|操縦Lv3-[信仰Lv2]
◆ CREW IN TRAINING
母猫耳ズ |市民Lv1 [衰弱Lv2]
ブラン |市民Lv1 [衰弱Lv1]
救助猫耳ズ|学生Lv1 [衰弱Lv1]
◆ GUEST
特攻猫耳ズ|船長Lv1-[従順Lv2]
◆ CAPTURED
◆ Small Stealth Ship
船体:2 / 跳躍:2 / 航続:4 / 装甲:1 / 居住:2 / 船倉:2 / 兵装:1
◆ Huge Transport Ship
船体:4 / 跳躍:2 / 航続:4 / 装甲:1 / 居住:2 / 船倉:5 / 兵装:1
◆ CAN BE PRODUCED
装甲:2
◆ BERYL HOME PORT(3/3)
権利:1 / 規模:2 / 装甲:0 / 修理:3 / 居住:2 / 備蓄:0 / 兵装:1




