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地球人に人権がない銀河で、零細猫耳社長にスカウトされました ~生体パーツ扱いのどん底から操縦チートと拿捕ビジネスで成り上がる~  作者: 星灯ゆらり
第3章 人権の値段

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55.冷蔵庫のない猫巡洋艦

『サル! シミュレーターでこの船使ってくれにゃ!』


 整備区が完成してから数日後。

 寝る前の読み聞かせが終わる寸前、キンから緊急の通信が届いた。


「あ゛ぁ?」


 凄まじい表情になって振り向いたのはブルネットだ。

 その眼光で射抜かれたキンが、借りてきた猫のように大人しくなる。


 俺は必死に表情を維持する。

 ここまで激怒したブルネットを宥めるのは容易ではない。

 『ベリル運送のために忙しくしているキンを助けてあげましょう』というセリフも、おそらく口にした時点で俺まで危険に晒される。


「ブルネット。今は休むのも仕事ですよ」


 とりあえずキンのことは無視して、ブルネットを最優先する姿勢を示す。

 ブルネットと子供が最優先なのは事実だ。

 ただ、最優先にするために、他者や職場を優先するしかない場面があるだけだ。


「……ええ、今のは私『も』悪かったわ」


 ブルネットの表情は穏やかな微笑みに戻ったが、目には激情が隠せていない。


(1時間後に伺います)


 文字でキンに伝えてから、ブルネットと添い寝して読み聞かせを終わらせ、他愛のない会話をする。

 軽く触れることすらあまりないこの時間が、これまで生きてきた中で最上に分類できる時間だった。



  ☆



 妻が眠りに落ちた後も時間ぎりぎりまで粘り、起こさないよう静かにベッドを降り、着替えをしてシミュレーター区画へ向かう。

 母港は平時から24時間態勢であり、住人は交代制で動いているので熱心に模擬戦闘している者が多い。

 スッスを含めて4人しかいない光翼人間が常に最低ひとりはいるのは、操縦技術向上に非常に熱心だからだろう。


「ブルネットがすみません」


 通信越しに、キンに深く頭を下げる。

 短い仮眠をとりながら整備区の試運転を進めているキンは、肉体はまだまだ元気そうだが精神的に疲れているようだ。


『妊娠中の猫耳にああなるのが多いってこと、忘れてたのはにゃーにゃ。あいつが……ブルネットがあそこまで旦那にべったりなのは予想外にゃけど』


 深い溜息を吐いて、数秒してからキンは意識を切り替えた。


『新設計の船を仮組みしたにゃ。実機を仕上げる前に、シミュレーターで操縦データを取って欲しいにゃ』


 俺は普段なら行列の最後に並ぶんだが、拿捕班と整備班のトップであるキンから『至急』の命令が出ているので、強制的に俺が最優先される。

 まあ、俺と対戦するのを目的に俺『を』割り込ませる奴が、普段から多いんだがな。


「これですか」


 シミュレーターの中に入り、20ある操縦席のひとつに座ってベルトを締めてからデータを確認する。

 先代ベリル号にそっくりだ。

 船長猫耳と下僕のペアが乗るのを前提に、使用頻度が低い装置やソフト(俺やスッスが操縦するときに必要になるあれこれ)を、設計段階から削除してしまってもいる。


「操縦の手間が少し増えますね。体への負担も大きいので、実際の宇宙船に乗れば、俺は一度の飛行で寝込むことになりますよ?」


『データが欲しいだけだから、加減速や船との接続による身体負荷は、再現なしの設定でやってくれにゃ』


「それは構いませんが……」


 キンの意図が読めない。

 身内の感情を『見』るのは嫌なので、一旦保留してシミュレーターに集中することにする。


 もっとも、対戦要求の数が多すぎて、一旦保留というより忙しすぎて忘れてしまった。


「へっへっへ。キンさんと先輩の行動から読んでたっす!」


「医者の不養生は感心しませんよ」


 スッスは良いパイロットだが自力センサーはない。

 俺が距離をとって遠距離攻撃をする塩試合を展開するだけで、多少時間はかかったが無傷で勝利できた。


「よろしくにゃ」


「サルさま。よろしくお願いいたします」


 次は船長猫耳と下僕のペアだ。

 先代ベリル号に乗っているときとは違い、ペアは一組だけだが役割分担は問題ないどころか最大効率で機能している。


「にゃ!」


「サルさまが同じ設計の宇宙船に乗っているのだとすれば、サルさまの戦闘可能時間は極端に短いはずです」


「にゃぁ!」


「かしこまりました」


 仮想の敵船が距離をつめてくる。

 自力センサーの性能では俺が倍近く上でも、お互いに戦い方の癖を知り抜いているので予測がよく当たるんだ。


 俺が放ったタキオン粒子が、仮想の敵船からのタキオン粒子で弾かれた。

 本物の敵が使った技を積極的に取り入れていく貪欲さは、眩しいくらいに魅力的だ。


「察知してからのわずかな時間でそこまでできますか。なら、これではどうです?」


 画面に表示される『実戦の場合に俺にかかっている負荷』を確認しながら、仮想の自船のルートを変更する。

 何度も変更する。

 船長猫耳と下僕のペアはかなりの精度で俺の動きを予測してタキオン粒子を撃ち込んでくるが、仮想の戦場は光速で一日かかるほどに広い。

 ほんの少しのズレが巨大な距離になり、至近弾にすらならない。


「いけませんっ」


「にゃっ!?」


 薄く広げたタキオン粒子がシールドに命中。

 シールドを吹き飛ばされて焦った船長猫耳が、最も得意な回避の動きで躱そうとしてしまった。


「これでエネルギー残量が10パーセントを切りますね」


 俺は最後の攻勢をかける。

 射撃位置と射撃タイミングを工夫した射撃が、ひとつひとつは薄いタキオン粒子の砲撃として仮想の敵船に迫る。


「にゃ! にゃぁ!」


 敵船の加減速の頻度が、俺が『見』ても追いきれないほどになる。

 俺の自力センサーは『即座』に『遠く』まで『見』れるという圧倒的な性能を持つが、俺自身は一般的な地球人だ。

 若く実戦経験に富んだ猫耳相手に、射撃でも回避でも圧倒的に負けている。


「にゃっ!?」


 ただし、反射神経ではなく予測対決ならまだ負けない。

 俺は毎回の出撃でアホみたいな量の情報を集めて、分析だって行っているんだ。

 『敵が高確率でいる場所』に撃ち込むのは俺にとって容易だ。

 そして、どれだけ回避に優れたパイロットや船長でも、狙って当てる『狙撃』ではなくいつかは確率的に当たる『弾幕』を躱し続けるのは不可能だ。


「ふなぁ……」


 仮想の敵船を、仮想のタキオン粒子が貫く。

 戦死判定を受けた船長猫耳が悲しく鳴いて、専属の下僕に慰められていた。


 しかし俺の戦いは終わらない。

 戦闘開始前は10の操縦席から行われていた対戦申込みが、今では17になっている。

 いや、今負けたふたりのかわりに別のペアが入り、すぐに19になった。


『サル。できれば負けたときのデータもくれにゃ』


「俺も好き好んで負けたくはないんですがね……」


 それから5連勝して、4連敗した。

 最後の方は頭の使いすぎで、熱まで出ていた。



  ☆



 少し休んで熱が引いたあと、俺は整備区へ向かった。


「サル。助かったにゃ」


 整備区で俺を出迎えたキンは、パワードスーツでも宇宙服でもなく、普通の作業服を着ていた。

 俺にとっては慣れない『無重力で酸素あり』の環境に、キンは完全に馴染んでいる。


「まさかと思いましたが」


 俺は、キンの背後にある大型宇宙船と、その背後に3つ並ぶ同型の大型宇宙船を眺めた。


 外見は旧ベリル号や先代ベリル号と同じ戦闘機型だ。

 砲塔型のタキオン砲が一門、トラクタービームが一門、他には民生用に近い対空砲らしきものが2門ある。


「おう。1隻は仮組みまで終わって、3隻も組んでいる途中にゃ。サルのデータを反映して仕上げるにゃ」


 戦利品は6隻だが、2隻は分解して修理に使ったらしい。


「キンさんの仕事ですから、その点は疑いませんが」


 俺は近くにいた拿捕猫耳からタブレットを見せてもらう。

 シミュレーターでのデータと全く同じで、しかし現実に見れば大きく印象が変わる箇所がある。


「これ、居住性、大丈夫ですか? 生命維持系や慣性制御はともかく、過ごしやすさはもとになった船と比べて極めて劣悪ですよ」


 俺だと、脊髄からのケーブルを船に繋がなくても命が危なそうだ。


「サルがいる限り日帰りの宇宙飛行にゃ? それなら船長どもも下僕どもも余裕で我慢できるにゃ」


 船長猫耳は純粋に体力があり、下僕たちは宇宙海賊から救出された後の治療で一部機械化されているしそもそも俺より若く体力がある。

 つまり、俺とは違って、10時間程度の飛行であればまったく問題ない。


「これが、感覚的には論外なのに計算『は』合ってるのが気持ち悪い、って奴ですか」


「サルの懸念も分かるけどにゃ。運用コストを減らさないとどーにもならねーにゃ」


「はい、それは俺も分かります。資金ショートが発生した時点で、ベリル運送は終わりですし」


 地表なら1回くらいはなんとかなることもあったようだが、この銀河では1回めでアウトだ。


「キンの姉御! またあいつら来てる!」


 パワードスーツを着た拿捕猫耳が、軽くスラスターを吹かしながら近付いてくる。

 その後ろでは、生身のまま広大な整備区を駆ける船長猫耳たちが、大きなプラカードを掲げていた。


「冷蔵庫てっきょ反対にゃ!」


「昼寝はベッドでしたいにゃ! ハンモックはいやにゃ!」


「シアタールームがないと映画が楽しめないにゃ!」


 俺は、比喩でなく頭が痛くなった。

 拿捕猫耳は肩をすくめ、キンはコメカミに青筋を浮かべている。


「性能を削るほど維持コストや修理コストが安くなるにゃ。速度も加速も航続距離も減らせねー。装甲も、拿捕のときの殴り合いのために残すしかねー。だから居住性と倉庫を必要最小限まで削ったにゃ。異論はきかねーにゃ」


「キンさんの決断を支持します。トラブルが発生したときは、こっちでなんとかしますよ」


 船の数が不足していたときも、敵の数や性能が強力だったときも、戦って勝ったり逃げて仕切り直したりと、なんとかしてきた。

 俺は、これまで通りにやるだけだ。


「にゃーはガキどもに躾してくるにゃ。サルは、出向してきた連中に『修理を待たせて悪かった』って伝えてくれにゃ」


「了解です。できるだけ拳ではなく言葉でお願いします。……キンさんも体調には気をつけてください」


「サルこそ気をつけるにゃ。おめーが倒れたら代わりがいねーんだから」


「はい。もちろんです」


 禁酒禁煙減塩は気をつけているが、さらに気をつけようと思った。



  ☆



 ベリル社長によって『猫巡洋艦』と名付けられた4隻は、1隻ずつの試験飛行でも艦隊としての試験飛行でも予定通りの性能を発揮した。

 船長猫耳と下僕(自力センサー持ち)の能力を前提とした船の『予定通り』とは、各種設備の性能をあえて低下させながら、十字架型大型船と同等の戦闘能力を発揮することだ。


「ケモ耳プラントにとどめを刺したいけど、もう一度試験して不具合がないか確認しよう!」


 同じくベリル社長の判断で、レンタル船3隻vs猫巡洋艦4隻の模擬戦が行われることになった。

 数でもパイロットの質でもレンタル船側が劣る。

 レンタル船3隻が母港を攻める側で、猫巡洋艦4隻が母港を守る側だ。

 母港という足手まといを守る側である猫巡洋艦4隻は戦闘方法が限られ、模擬戦は伯仲した展開になっている。


「性能強化じゃなくて運用コストを抑える方向へ進むのが、異文化っす」


 スッスは仕事をしながら困惑している。


「100年以上売れ続けているベストセラーですからバリエーションも豊富なんですが、このバリエーションは初めて直接見ました」


 銀河通商第7営業艦隊の幹部なのに、脱法的手段でベリル運送に個人で出資している星系管制が、大口出資者の立場でベリル号の艦橋から演習を見物している。


「キンさんがしたのは、よくある改造に思えますが」


「よくある改造ではありますよ? そういう改造をされた船はすぐに沈んでしまうんです。パイロットとして、ベリル運送でいう『自力センサー』持ちがすべての船に乗っていて、しかも強力な『自力センサー』持ちの情報支援を受けられるような艦隊なら、標準型巡洋艦のしかもダウングレード版なんて使いませんし。貴重な人材の無駄遣いです」


 相変わらず言いたい放題だ。


「標準型というのは、何を基準にした標準型なのでしょうか」


 俺が口にすると、星系管制は軽く肩をすくめた。


「私やそこの『スッス』の出身国が設計した巡洋艦が基準です。あの設計、使い勝手が非常に良いので長く使われているんですよ。最近はほとんど骨董品扱いですけどね」


「いい船っすよ! 最近の船はセンサーも火器管制も自動化が進んだ船がほとんどで、パイロットとして上を目指すなら標準型を使うのが一番っす!」


「こういう変わり者を集めることで、なんとかパイロットを定数揃えているのが第7営業艦隊です。……何人か自力センサー持ちをこっちに移籍させてくれませんか。移籍料は弾みますよ?」


 銀河レベルの大企業である銀河通商への移籍というのは大出世だ。

 普通の人間なら喜んで応じるのだろう。

 ただ、俺はブルネットやベリルたちと生きて死ぬと決めているし、他の連中は性格の面で俺よりも普通ではない。


「まず猫耳を生やして出直せと、連中なら言いそうな気がします」


 幼児だった猫耳に心を救われ、人類は猫耳の奉仕種族になるべきと大真面目に説いて布教までする危険人物たちだ。

 銀河通商でも、連中を扱い切れるとは思えない。


「……猫耳ですか」


 真剣な顔で考え込んだ星系管制に、艦橋中から呆れた視線が集中した。



  ☆



 俺の自力センサーが、レンタル船2隻が猫巡洋艦3隻に包囲され、レンタル船1隻が猫巡洋艦1隻を突破したのを『見』た。

 出向パイロットの作戦が、猫耳と下僕の技術を上回ったのだ。


「演習終了! 攻撃側勝利!」


 ベリル社長が宣言する。

 猫巡洋艦から『にゃあにゃあ』と抗議の声が届くが、社長は即座に却下する。


「負けは負けだよ。サルくんの支援抜きじゃ思い切りが足りないのと、母港が本格的な超光速戦闘に耐えられそうにないのが分かったのは収穫かな。船長とパイロットのみんなは報告書を書いた後にしっかり休んでね。……次は実戦。ケモ耳プラントの工場を制圧するよ!」


 既に復讐者たちの警備会社には依頼を終えている。

 ケモ耳プラントの工場がまだ猫耳の生産を継続している場合は、制圧した工場は復讐者たちのものになり、医薬品生産工場などに改造されて彼らの定期収入となる予定だ。

 ケモ耳プラントの工場が地球人の『ガチャ』を始めている場合は、上記に加えて復讐者たちによる凄惨な報復がケモ耳プラントにふりかかるというわけだ。


 もちろん、敵の宇宙船はすべてベリル運送が排除するという契約だ。

 今のベリル運送なら、よほどの相手が出てこない限り、負けはありえない。


「鬼がでるか蛇がでるか分からないけど、ここは一気に決めちゃおう!」


 やる気たっぷりのベリルの宣言に、大きな歓声が応えた。

◆ BERYL ATTACK FLEET

規模:2 防衛:5 遠征:9


◆ BERYL THE GREAT MK3

船体:3 / 跳躍:4 / 航続:4 / 装甲:0 / 居住:4 / 船倉:0 / 兵装:5


◆ CAT CRUISER *4

船体:3 / 跳躍:4 / 航続:4 / 装甲:2 / 居住:1 / 船倉:1 / 兵装:4


◆ CREW

ベリル  |船長Lv3-[借金Lv4]

サル   |操縦Lv5+[衰弱Lv3]

スッス  |操縦Lv3-[医療Lv1]

船長猫耳ズ|船長Lv2-[猫語Lv1]

拿捕猫耳ズ|白兵Lv1+[整備Lv1]

猫耳の下僕|操縦Lv3-[信仰Lv2]



◆ RENTAL FLEET

◆ IMPERIAL STANDARD CRUISER *3

船体:3 / 跳躍:4 / 航続:4 / 装甲:2 / 居住:3 / 船倉:2 / 兵装:4


◆ CREW

光翼人間 |船長Lv1+[光翼Lv1]



◆ BERYL DEFENSE FLEET

規模:3 防衛:6 遠征:5


◆ BERYL THE GREAT MK2

船体:3 / 跳躍:4 / 航続:4 / 装甲:2 / 居住:2 / 船倉:2 / 兵装:4


◆ OTHER SHIPS

船体:4 *1 / 船体:2 *4 / 船体:2(修理待ち) *4 / 船体:1 *7


◆ CREW

ブルネット|射撃Lv2 [事務Lv2]※妊娠中

キン   |整備Lv2+[白兵Lv2]

拿捕猫耳ズ|白兵Lv1+[整備Lv1]

船長猫耳ズ|船長Lv1+[猫語Lv1]

猫耳の下僕|操縦Lv3-[信仰Lv2]


◆ CREW IN TRAINING

母猫耳ズ |市民Lv1 [衰弱Lv2]

ブラン  |市民Lv1 [衰弱Lv1]

救助猫耳ズ|学生Lv1 [衰弱Lv1]


◆ GUEST

特攻猫耳ズ|船長Lv1-[従順Lv2]



◆ CAPTURED

◆ Small Stealth Ship

船体:2 / 跳躍:2 / 航続:4 / 装甲:1 / 居住:2 / 船倉:2 / 兵装:1


◆ Huge Transport Ship

船体:4 / 跳躍:2 / 航続:4 / 装甲:1 / 居住:2 / 船倉:5 / 兵装:1



◆ CAN BE PRODUCED

装甲:2


◆ BERYL HOME PORT(3/3)

権利:1 / 規模:2 / 装甲:0 / 修理:3 / 居住:2 / 備蓄:0 / 兵装:1

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