49.惑星規模の猫パンチ
『ケモ耳プラントは、ベリル運送を名乗る海賊どもには決して屈しない! 我が社の忠実かつ優良なる猫耳たちが、必ずや、かの猫耳海賊どもに鉄槌を下します!』
宣戦布告は豪華な映像だった。
自らの正当性を主張するため、豪華客船の事件への介入や、ルージャー警備の母港への襲撃を、非常な悪意を以て紹介している。
俺は一度自動翻訳機を停止させ、ケモ耳プラントが格好良い響きの単語であることを確認し、再度自動翻訳機を作動させた。
「うーん。戦闘可能な宇宙船の数はこっちが14で、向こうは300以上かー」
ベリル社長は深刻な表情で画面を睨み付けている。
「どうしようサルくん。絶対に拿捕しきれなくて他社に漁夫の利されるよ」
ベリル社長は俺たちの勝利『は』確信している。
問題は、商売として成功するかどうかだ。
「いえ。キンさんがやってくれたようです」
あれからぶっ通しで作業中だった整備班から連絡と映像が届く。
地球に宇宙海賊を招き入れた勢力が使っていた、ベリル運送が拿捕してしばらくそのままになっていた宇宙船が、修理と改装を施された上で母港の周辺に並んでいる。
涙滴型の船体からはレーザー砲や通常型対空砲が取り除かれ、かわりに多用途対空砲とトラクタービームが取り付けられている。
戦闘のみを考えると威力不足ではあるが、拿捕に関してはかなりの性能だ。
『にゃーはもう寝るにゃ』
過酷な白兵戦を平然とこなすキンが疲れ果てている。
「キン姉は戦場に来ないの?」
『この体調でついてっても怪我するだけにゃ。ガキどもには仮眠をとらせたから、ガキどもに任せるにゃ』
キンはエアロックから母港へ帰還し、宇宙服を脱ぐこともせずにその場で気絶するように就寝した。
『『『猫の手号、着艦しますにゃ!』』』
涙滴型の小型宇宙船4隻が、直方体の特大艦『猫の巣号』へ接近する。
あっという間に亜光速やそれ以上に加速する性能があるので、触れ合う距離まで近付くのは本当に危険な行動だ。
しかし4隻とも、非常に滑らかな飛行で、飛行甲板として機能する装甲に『着陸』するだけでなく、指定された位置に危なげなく停止した。
「「「おー!」」」
ベリル号の艦橋に歓声が満ちた。
俺もベリルも歓声をあげているし、拍手までしている。
「社長、これなら」
「うん! 通商に4割もってかれても大丈夫なくらいいける!」
そんな楽観ムードに割り込む通信があった。
『『『ちょっと待つにゃ! なんで先代ベリル号はお留守番にゃ!?』』』
前回の戦いで大活躍したのに留守番なので、先代ベリル号の船長たち(時間制で交代)は納得していないようだ。
「あのね。今から始まるのは襲撃じゃなくて戦争なの。母港にも速い船を残しておかないと、攻撃艦隊は勝ったけど帰る母港がなくなるなんて展開になりかねないの」
ベリル社長が、幼子に言い聞かせるように説明する。
『『『帰れないにゃ!?』』』
船長猫耳たちが『びくり』と体を震わせて涙目になる。
その背後では、今にも飛び出して慰めたい顔をした下僕(志願した船長猫耳に仕えて貴重な自力センサー持ち)が船長と同数いて、耐えていた。
「帰れなくなる可能性をゼロに近づけるためだよ。いい? 敵の戦力が薄い所を襲うというのは有効な戦術なの。僕らも使うし、敵も使う。……サルくんがいる分、攻撃艦隊の方が強いからね。君たちを信用してるから、お留守番なの」
『『『おー!』』』
船長猫耳たちの機嫌が一瞬で直った。
猫耳はピンと立ち、尻尾も上機嫌に『ぱたぱた』している。
「先輩。ほんとのところはどうなんです?」
スッスが小声で聞いて来た。
「社長の発言も事実ではありますよ。ケモ耳プラントの戦力が予想をはるかに超えていたとき、母港を捨てて逃げるときに先代ベリル号でないと加速力と船倉サイズが足りないというのが最大の理由ですけどね」
「なるほどっす! ひょっとしてキンさんもっすか? キンさんならもう一晩徹夜でも平気そうっす」
「キンさんは同じ作業を長時間続けるのが苦手ですから、本気で疲れているのも本当だと思いますよ。猫の手号4隻を艦載機に改造するのは精神的に苦行だったでしょうし。……スッスも予想していたでしょうが、万一への備えです。救助した猫耳が従順でいるとは限りませんから」
「そういうことっすか。でも、キンさんくらい強いと、猫耳は本能的に戦いたくなるみたいっすから、何も起きないと思うっす」
「何も起きないのが最良ですよ」
スッスにいいことを教えてもらった俺は、心穏やかにそう言った。
「サルくん、こっちの話は終わったよ」
「了解です。どのプランでいきます?」
ケモ耳プラントは大企業だ。
生産工場を防衛する艦隊だけで3つ、攻撃や遊撃に使える艦隊も2つある。
現在俺たちの母港へ進撃中なのは後者の2艦隊であり、モスボール化を解除された船からなる1艦隊が新たに編成されている……らしい。
「ルージャー警備みたいな、僕らと規模が変わらない企業がステルス船を使ってたよね? その上の組織であるケモ耳プラントなら、隠し球があるかもって思うんだ」
「考えすぎ……と言えればいいんですけどね。母港に配置する下僕の数を増やしますか?」
「うん。サルくんに負担をかけることになるけど、一番防御を重視したプランでいく。……いけるよね?」
最後の瞬間だけ、ベリル社長ではなく、ただのベリルの顔が覗いた。
「勝てます」
俺は断言する。
敵が300隻いようが、攻め込むのがベリル号と猫の巣号とその艦載機をあわせた6隻だけだろうが、艦隊戦なら勝てる。
問題は……。
「問題は、儲けの額ですよ」
「うん、そうだよね……」
俺をスカウトした頃と比べれば武力も社会的地位も大きくなったベリル社長は、当時と変わらず自転車操業であった。
☆
「いい配置です」
敵の母港周辺のデブリ群を『見』た瞬間、俺は、その分厚さと巧みな配置に感動した。
これでは光速の千倍以上で近付くのは自殺行為だ。
俺たちの母港がこのデブリ群に囲まれていたなら、俺は毎日安心して熟睡できるだろう。
「これだけデブリ撒くには滅茶苦茶な労力と資源が必要っすよ」
「うん。もしサルくん……ほどじゃなくても、下僕さんたちみたいな自力センサー持ちが防御側にいたらやっかいだね。いたらだけど」
感動も警戒もするが過大評価はしない。
能力優先で人材を採用するなら猫耳が主力として採用されているはずなのに、ケモ耳プラント母港にもその防衛艦隊にも、公開されている情報では猫耳はひとりもいない。
念のため金を払って銀河通商に調査してもらってもゼロだった。
奴らは猫耳を心底軽視しているのだろう。
『『『こちら猫の手隊! 発進するにゃ!』』』
直方体の特大船から、小さな涙滴型宇宙船が4隻飛び立つ。
タキオン砲も超光速ミサイルも搭載していない船ばかりだが、乗っているのは船長猫耳(先代ベリル号の船長猫耳とは別人)と下僕たち(自力センサー持ち)だ。
亜光速でデブリ網を軽々と躱して『俺が操縦するならぶつかりそう』なデブリにだけ対空弾を当ててその場所からどかしていく。
『『『やってることいつもと変わらないにゃ』』』
普段はカイパーベルトで猫の爪号(一回り小さい艦載機サイズの船)を乗り回している船長猫耳たちなので、デブリの扱いは本当に素晴らしい。
「サルくん。今、どの程度あの子たちをサポートしてる?」
「最初に情報を渡したきりです。今は下僕たちの自力センサーの情報をもとに飛んでいますね」
障害物相手にぎりぎりまで近付いても確実に躱せるのが大きい。
弾薬とエネルギーを有効活用しながら、予定進路上のデブリだけを動かしていく。
「ん。下僕さんたちの自力センサーがパワーアップしてるみたいだね。いいことなんだけど、また給料上げなきゃだよね……」
「ベリル運送の価値がまた上がるっすね。そろそろ専属の護衛部隊を用意しないと、誘拐が怖いっす」
スッスが真顔で言う。
俺と、おそらくベリル社長も護衛部隊に必要な経費を暗算して、戦争に負けたかのような暗い顔になった。
「社長。この件については後で考えましょう」
「うん。みんな一度戻って」
『『『こちら猫の手隊! 帰還するにゃ!』』』
1隻ずつ別の場所で別のデブリを片付けた涙滴型宇宙船が、俺の感覚では『デブリの隙間を縫うように』戻って来て、猫の巣号に訓練通りの着艦をした。
「今からケモ耳プラント母港に対する攻撃を開始する! 攻撃の成否にかかわらず撤退するから拿捕はなし!」
『『『えー!?』』』
猫の巣号に準備万端で待機している拿捕班が抗議の声をあげる。
「ケモ耳プラントには艦隊がいっぱいあるんだから一カ所に時間かけられないの! それじゃサルくん、やっちゃって」
「了解しました。社長は特大タキオン砲で射撃をお願いします」
「うーん、計算が面倒くさいんだよね……」
デブリ網にわずかに開いた『穴』を通りながら、ほんのわずかずつ減速する。
そして、ほんのわずかずつ速度を上げたタキオン粒子を敵母港めがけて発射する。
こうすることで『わずかな時間差で』膨大なタキオン粒子が母港に直撃するわけだ。
もちろんデブリ網が盾として機能する。
タキオン粒子にぶつかることでタキオン粒子のエネルギーを奪っていくが、速度は違っても全く同じ進路で進むタキオン粒子をすべて防ぐにはデブリの数が足りない。
衝撃で砕け散るデブリの連なりが、惑星規模の猫による猫パンチにも見えた。
「社長。敵母港周辺の艦隊が回頭を開始しました。いえ、回頭だけでなく迎撃射撃も開始したようです」
「下僕さんたちより気付くのが遅いね。タキオン粒子は?」
「初撃が命中するまであと5秒です」
「うん」
固唾を飲んで見守る。
先頭を進んでいたタキオン粒子は、敵母港の分厚いシールドを『揺らす』だけで消滅した。
「残存するタキオン粒子は推定で7割です」
「うん!」
破滅が始まる。
終わることなく降り注ぐタキオン粒子に耐えられず、シールドが崩壊する。
続いてシールド発生装置も、敵母港の『巨大な』装甲を巻き込みながら消滅した。
残ったのは、深く傷ついた装甲に守られた敵母港だ。
「残存するタキオン粒子は推定で4割です」
破滅は止まらない。
全力でシールドを張った防衛艦隊が、複数同時に到達したタキオン粒子の塊に飲まれて消滅する。
「推定で3割です」
タキオン粒子が突き進む。
減衰も進むが既に敵母港は至近だ。
装甲に到達し、装甲を砕きながら直進し、ついに『柔らかな』敵母港本体に到達した。
「聞いていて愉快な音声じゃありませんね」
呪詛と絶望がとても濃厚だ。
猫耳のセキュリティホール対策が自動で発動するレベルで大音量でもあり、すべて聞いたのは俺と下僕たちの地球人組だけだ。
ベリル運送の母港へ攻撃艦隊を送り込んだのは、あちらが先だ。特に罪悪感はない。
不快ではあるがな。
「僕も後で聞くよ?」
「たいしたことは言っていませんよ。情報を統合すれば何か分かる可能性はありますから、AIに分析を任せましょう」
ベリル社長や猫耳たちのメンタルへの配慮だけが理由ではない。
敵はまだいるのだ。
内側から『押し広げられる』ように爆発した敵母港や、巻き込まれて文字通り砕け散った敵防衛艦隊(AIの計測によると大小合計して86隻いたらしい)の他にも、俺の自力センサーでぎりぎり探知できる距離にもう1つの艦隊がいる。
『本社との通信が途絶えました!』
『通信妨害か? 呼びかけを続けろ』
俺の自力センサーが敵の通信を感じ取った気がする。
一度だけだったので、俺の思い込みかもしれない。
「社長、あの艦隊は拿捕しますか? 来た方向から考えると新編成の艦隊です」
「すごく拿捕したいけど、速度差を活かして各個撃破するために、僕らの母港へ向かってる敵艦隊は放置しちゃってるんだよね。……時間もないし、最終目標の工場の防衛艦隊に合流されても面倒だし、拿捕を考えずに、撤退のついでに倒しちゃおう!」
『『『また出番なしにゃ!?』』』
拿捕班の抗議を聞きながら、俺たちはデブリ網の『穴』を逆走して元敵母港から離れ、未だ状況を把握できない敵艦隊に襲いかかるのだった。
◆ BERYL ATTACK FLEET
規模:2 防衛:4 遠征:6
◆ BERYL THE GREAT MK3
船体:3 / 跳躍:4 / 航続:4 / 装甲:0 / 居住:4 / 船倉:0 / 兵装:5
◆ CAT'S NEST MK2(4/4)
船体:4 / 跳躍:2 / 航続:4 / 装甲:4 / 居住:2 / 船倉:4 / 兵装:1
◆ CAT HAND *4
船体:2 / 跳躍:3 / 航続:3 / 装甲:2 / 居住:1 / 船倉:1 / 兵装:2
◆ CREW
ベリル |船長Lv2+[借金Lv3]
サル |操縦Lv5+[衰弱Lv3]
スッス |操縦Lv2+[医療Lv1]
拿捕猫耳ズ|白兵Lv1+[整備Lv1]
船長猫耳ズ|船長Lv1+[猫語Lv1]
猫耳の下僕|操縦Lv3-[信仰Lv2]
◆ BERYL DEFENSE FLEET
規模:2 防衛:4 遠征:3
◆ BERYL THE GREAT MK2
船体:3 / 跳躍:4 / 航続:4 / 装甲:2 / 居住:2 / 船倉:2 / 兵装:4
◆ CAT CLAW *5
船体:1 / 跳躍:2 / 航続:1 / 装甲:2 / 居住:0 / 船倉:0 / 兵装:2
◆ CAT CLAW CUSTOM *1
船体:1 / 跳躍:3 / 航続:1 / 装甲:2 / 居住:0 / 船倉:0 / 兵装:2
◆ BERYL THE GREAT
船体:1 / 跳躍:3 / 航続:1 / 装甲:0 / 居住:0 / 船倉:0 / 兵装:4
◆ Pawn of the Earth *4 ※修理待ち
船体:2 / 跳躍:3 / 航続:3 / 装甲:2 / 居住:1 / 船倉:1 / 兵装:2
◆ CREW
ブルネット|射撃Lv2 [事務Lv2]※妊娠中
キン |整備Lv2+[白兵Lv2]※静養中
拿捕猫耳ズ|白兵Lv1+[整備Lv1]
船長猫耳ズ|船長Lv1+[猫語Lv1]
猫耳の下僕|操縦Lv3-[信仰Lv2]
◆ CREW IN TRAINING
母猫耳ズ |市民Lv1 [衰弱Lv2]
ブラン |市民Lv1 [衰弱Lv1]
◆ GUEST
救助猫耳ズ|求職Lv1 [衰弱Lv1]
◆ CAPTURED
◆ Small Stealth Ship
船体:2 / 跳躍:2 / 航続:4 / 装甲:1 / 居住:2 / 船倉:2 / 兵装:1
◆ CAN BE PRODUCED
装甲:2
◆ BERYL HOME PORT(3/3)
権利:1 / 規模:1 / 装甲:0 / 修理:0 / 居住:2 / 備蓄:0 / 兵装:1




