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地球人に人権がない銀河で、零細猫耳社長にスカウトされました ~生体パーツ扱いのどん底から操縦チートと拿捕ビジネスで成り上がる~  作者: 星灯ゆらり
第3章 人権の値段

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45.戦力再編計画

 4月になった。

 銀河で一般的な暦には4月も何もないんだが、ベリル運送で最も数の多い猫耳幼児たちが『地球産のコンテンツ』を非常に好んでいるので、地表の日付がそのまま通じるんだ。


 閑静な公園には立体映像で桜が映し出され、風と同期して散っていく花びらが儚くも美しい。

 広場に整列した母猫耳たちは、猫耳の伝統的装束である金属服を上品に着こなしている。

 見た目も実年齢も地球の(社会人を経由していない)大学生程度だ。

 詳しい前後の事情を知らなければ、宇宙人の卒業式に見えただろう。


(実際に卒業式ではあるのですけどね)


 過酷な状況で生き抜いてきた彼女たちには、子供への愛と、銀河の最底辺で生き抜く覚悟しか持っていなかった。

 数多の海賊を討ち滅ぼし、租借とはいえ恒久的な宇宙基地を所有するベリル運送の社員としては、露悪的に表現すれば不適格な存在だった。


 しかし彼女たちは頑張った。

 初めて経験する規則正しい生活。

 初めて経験するギチギチのマナーが求められる一日三食おやつつきの食生活。

 初めて経験する小学生低学年相当から大学の教養課程までの内容を数ヶ月で詰め込む超絶スパルタ教育。

 そのすべてに耐え抜き、今日、新たな門出を迎えたのだ。


「みなさん。全課程の修了、おめでとうございます。これからみなさんは、ベリル運送の被保護者ではなく、ベリル運送の正規社員です」


 彼女たちは『とんでもなく少額の出資』をした人たちではあるんだが、配当金は生活費にも全く足りない。

 だがそんなことは、俺たちベリル運送の首脳陣には関係ない。

 その『とんでもなく少額の出資』がされた時期が重要なんだ。


「皆さんの出資のおかげでベリル社長がベリル運送を立ち上げることができました。ベリル社長が飛翔する機会を得たのは、皆さんの助力のおかげでもあるのです」


 光速の一万倍で飛ぶ戦闘用宇宙船を所有し、恒久的な母港(ただし租借権の期限の問題はある)を保有するベリル運送も、最初は借金まみれのボロ船1隻しかなかった。

 それからの爆発的発展はベリル社長の才覚と豪運が主な理由だが、ベリル社長が事業を始める機会を得たのは、『とんでもなく少額の出資』を含めて出資金のおかげだ。


「みなさんを正式な仲間としてベリル運送にお迎えできて、感無量です。ようこそ、ベリル運送へ。心から歓迎します」


 膨大な金を稼ぐハイレベルパイロットであり、扱いはともかく登録上はベリル社長所有の生体パーツである俺が呼びかけると、多くの猫耳と尻尾が機嫌よく動くのだった。



  ☆



 そんな光景を、超光速通信網経由で見ている猫耳たちがいる。


『これから数ヶ月、地表から招いた専門家からマンツーマンで指導を受けることになるのだけどね』


『ブルネットお姉ちゃん。今日だけは忘れさせてあげよう?』


『連中、ショックで寝込まねーといいにゃ』


 ブルネット、ベリル、キンの、ベリル運送の大口出資者である(血の繋がりのない)三姉妹だ。

 ベリル運送の最初期はブルネットとキンのみが大口出資者で、その後にベリルと俺が加わった。


「一人くらい来賓として参加して欲しかったですよ」


『ごめんなさいあなた。でも、あなたを舐める不届き者もいたから、馬鹿でも立場の上下を理解できるようにした方がよいと思ったの』


 見た目は俺と同年齢に見える、栗毛の猫耳がブルネットだ。

 俺と正式な婚姻関係にあり、出産を数カ月後に控えた、俺の生きる理由でもある。

 なお、発言はかなり辛口だし倫理観は薄めだ。

 そうでなければ銀河の底辺種族である猫耳はこの年齢まで生きられないし、ベリルのための教育費や企業立ち上げ資金を貯められない。


『ブルネットおめー、親になるんだからもうちょっと穏やかになれにゃ』


 自動翻訳機でも頻繁に翻訳できなくなるほど猫耳要素が濃いのがキンだ。

 体格が良く、体力と腕力に優れ、それ以上に生身で動く際のセンスが素晴らしい。

 ベリル運送の母体となった、猫耳の幼児のための孤児院を物理的な意味で守っていたのはこのキンだ。

 なお、身繕いを頻繁にさぼるので、今日も金毛はぼさぼさだ。


「キンさん。作業服を着ているということは、治療は終わったのですか?」


 俺が通信越しに尋ねると、キンは『にやり』と笑った。


『おう。これで猫耳の短い寿命とはおさらばにゃ。でも、寿命が伸びただけで体力も集中力も変わらねーから、労働の日々が続くにゃ』


 宇宙船の整備、母港の増改築、敵船の拿捕まで幅広くこなす多才な人物でもあるが、飛び抜けて雑な性格でもあった。


『ただの治療じゃなくて不老長命化に近いんだからお金めちゃくちゃかかってるんだよ? 分かってるの?』


 身内だけの会話なので末っ子要素が強く出ているベリル社長だ。

 宇宙海賊の群れに襲われた地球で俺をスカウトした、俺にとっての命の恩人でもある。

 元気にぴこぴこ動いている銀の猫耳と猫尻尾が目印だ。


『わかってるわかってる。だからにゃーの酒代も減らされてるにゃ』


 ベリル運送の経営が軌道に乗ってからは、キンは大口出資者としての権利はベリル社長に任せ、現場仕事に集中している。


 海賊船を大量に破壊しても手に入るのは賞金だけだ。

 海賊船を拿捕して金や資材に変えているから、今のベリル運送の発展がある。


「キンさんが率いる拿捕班が稼ぎ頭なんですから、体調には気をつけてくださいよ」


『サルがそういうことを言うにゃ? 最初に海賊ぶっ殺して拿捕できる状況にするのはサルじゃねーか』


「俺は戦闘の一部を担当しているだけですよ。……そろそろ時間なので出ますね」


 謙遜しているのではなく、ただの事実だ。

 公園から出て、チューブ状の桟橋を通り、事実上の俺専用船に乗り込む。


「「「にゃ!」」」


 今日卒業した母親猫たちの子世代の猫耳たちが出迎えてくれる(この子たちの親はベリル運送に合流する前に亡くなっている)。

 この子たちはかなり前からベリル運送の社員だ。

 極限の自転車操業を続けてきたベリル運送で、シミュレーターや実機演習をやっているうちに艦載機を任されるようになった猫耳たちだ。

 俺が超光速で飛ばすのに同乗すると良い経験になるようで、俺も操縦はできても射撃は得意ではないので、見習い兼射撃担当として同乗することが多い。

 今回は移動のみ予定だから、できれば射撃をする機会はなしで終わって欲しいがな。


「スッスはいないにゃ?」


「おっちゃん、スッス怒らせたにゃ?」


「にゃっ!? ひょっとしてブルネットおば……んんっ、ブルネットおねーちゃんが嫉妬で刺しちゃったにゃ!?」


「やめなさい」


 俺は3人目に厳重注意する。

 事実無根なことを広言するとろくなことにならない。

 3人目は『ブルネットおねーちゃんならマジでやりかねないにゃ』と本気で思っていそうなので、早めに止めておかないとまずい。


『あなた?』


 母港の奥の区画で事務仕事中のはずの、ブルネットの声が聞こえる。

 穏やかなのに、とても怖い。


「遅れてごめんなさいっす! ……えーっと、どういう空気っすか、これ?」


 背中の光翼を『ぱたぱた』させながら、高校生くらいに見える光翼人間が艦橋に飛び込んでくる。

 相変わらず性別がよく分からないし、そもそも性別があるのかも不明な、猫耳でも地球人でもない宇宙人だ。


「子供は覚えるべきことが多くて大変だな、と」


「あー、そういうことっすか」


 スッスは操縦席に座ろうとして、実体化したままだった光翼を席にぶつけてしまう。


「あぶなっ」


 反射神経に優れた猫耳に接してきた結果か、光翼に大きなダメージが入る前に非実体化して難を逃れた。


「ブルネット。今日は残業をせず急いで帰ります」


『ええ、ゆっくりお話しましょう。その子も連れてきてね?』


「み゛っ」


 3人目が短い悲鳴をあげて涙目になる。


「ええ。同僚と親睦を深めるのは大事なことですから。他にも何人か連れていきますね」


『もう。甘すぎるのも考えものよ? サルさんが無事に戻ってきてくれたら、さっきの暴言は忘れてあげる』


 通信越しに3人目を見るブルネットは、目が笑っていなかった。



  ※



 チューブ状の桟橋が外れ、ベリル号から離れていく。

 ベリル号は高度な技術で作られている割に単純な姿をしていて、特大タキオン砲が目立つ、純白の白鳥を思わせる姿だ。


「今回の目標は、銀河通商から依頼があった輸送船の捕捉と銀河通商への通報です」


 口で言いながら、依頼人から受け取ったデータを船内限定で公開する。


「先輩。これ、輸送船じゃなくて小惑星をくりぬいて作った基地じゃないっすか?」


 スッスの言葉に、猫耳たちが頷いて同意している。


「連中にとっては輸送船なんでしょう。いずれにせよ、輸送船を減速させるのは銀河通商の連中です。俺たちの仕事はいつも通りですよ」


 ベリル号を『ゆっくり』と加速させる。

 母港近くでは秒間に数メートル程度。

 それから徐々に速度を上げて、母港が肉眼で見えなくなってから本格的な加速を開始する。


「最初はこの加速を爽快に感じてたっすけど……」


「「「にゃっ!」」」


「分かってるっす。苦手でも手は抜かないっす!」


 恐るべきことに、このベリル号にはセンサーはひとつもない。

 あえて言うなら、俺自身がセンサーだ。


「今日は通商の船が多いですね。8隻もいますよ」


 俺には特殊な能力がある。

 ベリル社長が自力センサーと名付けた、遠くのものを感じ取る能力だ。

 見つけやすいのは敵や障害物だが、味方や中立の船や人も感じ取ることができる。


「8隻っすか? キャッチするものの速度と重さを考えたらぎりぎりっすね」


 スッスは露骨に表情を歪める。

 猫耳たちは、俺の延髄から伸びるケーブル経由で俺の自力センサーからの情報を受け取り、周辺宙域の把握に努めている。


「そのキャッチするものが近付いてきました。……本当に大きいですね」


「通商に通報するっす」


 十字架の形をした8隻の大型船が、見事な連携で円形の隊列を組む。

 俺の自力センサーが正しいなら、円の真ん中を輸送船が通過するはずだ。


「ただの小惑星と思っていましたが……。形だけですね。頑丈で性能がいい」


「形とサイズから考えて、本社の船っすね。おそらく、特大サイズのデュプリケーターを乗せられる船っす」


 十字架型大型船8隻が、最大出力でトラクタービームを発射する。

 円の中心を超光速で通過した船に見事に命中した。

 しかし、質量差がありすぎるため、十字架型大型船8隻が『持っていかれた』。


「始まるっすよ!」


 8隻が、タイミングをあわせてエンジンを始動する。

 自身を加速するだけならベリル号と同程度の高性能だが、小惑星サイズの輸送船を減速させるにはパワーが足りない。


「「「あのでかいの、動いてるけど自分では加速してないにゃ!」」」


「はい。損傷もしていないようですし、中から生きている人間の存在を感じます。このままいけば、10分程度で停止できそうですね。……何事もなければですが」


 俺の自力センサーで捕捉できる最大の距離で、小惑星サイズの輸送船がやってきた方向から、強い敵意と物欲でぎらつく宇宙船が現れた。


『そのデカイ船は俺のだ! 営業艦隊程度に負けるわけがねえ! 降伏しないならやっちまうぞ、えぇ!』


 言動はチンピラそのものだが、乗っている船の性能は悪くない。

 壮絶な速度で輸送船を追いかけてきただけでなく、8隻による減速中の輸送船よりも減速具合が優れている。


「先輩。通商から護衛依頼っす。現時点で正当防衛が成立するらしいっす」


『ちっ、護衛は9隻か。だがこいつがあればっ』


 フレームが剥き出しの船体から、多数のミサイル発射塔が突き出される。

 かなり迫力がある光景のはずなんだが、逆噴射中のエンジンが今にも爆発しそうなほど危険な輝きを放っている。


「「「おっちゃん!」」」


 猫耳たちの猫耳は真っ直ぐに前を向き、尻尾は小刻みに動いている。

 集中できているときの光景だ。


「射撃は任せます」


「「「了解にゃ!」」」


 ひとりが1つ目のエンジンを狙う。

 別のひとりが2つ目のエンジンを狙う。

 最後のひとりが3つ目のエンジンを狙う。


 3人とも使用しているのは艦載の特大タキオン砲で、速度だけを優先したタキオン粒子が3回、それぞれのエンジンに向かった。


『んなっ!?』


 3つ目のエンジンにのみ着弾。

 通常なら浅い傷が刻まれる程度で済んでいたかもしれないが、的が爆発寸前なら話は別だ。


「「「やったにゃ!」」」


 爆発する。

 フレームが剥き出しの船体が猛烈に回転して端から崩れて部品が飛んでいく。

 そして、おそらく艦橋だろう『そこだけ分厚い装甲で覆われた球体』が、敵船から飛び出した。


『覚えてろよ!』


「「「狙うにゃ!」」」


 再び息のあった三連射。

 今度は2度当たり、球体が飛んでいく方向が大きくずれた。


『へ、へへっ、この程度で効くかよっ』


「「「生意気にゃっ!」」」


 震えを隠せない声で強がるのは、演技か本気か判断がつかなかった。


「先輩。賞金が振り込まれたっす。それで、こっちが今回の予想整備コストっす」


 後者の方がやや大きい。

 輸送船の捕捉と通報の分の報酬があるから赤字ではないが、拿捕のときと比べると差は歴然だ。


「戦力増強より先に、ベリル号についてこられる船倉の大きな船を用意しないと、ジリ貧になりかねませんね」


「猫の巣号を連れてくれば解決すると思うっす!」


「スッス。母港の離着艦施設はまだ不十分なんです。ベリル号と猫の巣号の両方が遠征したら、母港の安全が確保できません」


「それもそうっすね……」


 ベリル運送の戦力は増えた。

 安住の地も得た。

 しかしそれを維持するためには、過去に有効だった戦力ではなく、現状で有効な戦力が必要だ。


「奥方さまの治療は出産後っすけど、ベリル社長も先輩も早めに治療受けないと駄目っすよ?」


 しかも、主力パイロットのふたりが要治療の状態だ。


(ひょっとして、ベリル運送が始まって以来のピンチですか?)


 猫耳たちに不安を抱かせないよう、俺は根性を入れて表情を固定する。

 だが、かつては孤児院で身を寄せ合って生きていた猫耳幼児であり、今では新進気鋭の船長たち(こいつらは艦載機サイズの船なら船長資格がある)が、野心に輝く瞳で挙手をした。


「「「先代ベリル号のパイロットに立候補しますにゃ!」」」


 タイミングをあわせたのではなく、タイミングがあってしまっていた。

 他の2人が強力なライバルであることを知った猫耳たちが、『ぐるる』と威嚇の唸りをあげた。

◆ BERYL FLEET

規模:2 防衛:4 遠征:5


◆ BERYL THE GREAT MK3

船体:3 / 跳躍:4 / 航続:4 / 装甲:0 / 居住:4 / 船倉:0 / 兵装:5


◆ BERYL THE GREAT MK2

船体:3 / 跳躍:4 / 航続:4 / 装甲:2 / 居住:2 / 船倉:2 / 兵装:4


◆ CAT'S NEST MK2(4/4)

船体:4 / 跳躍:2 / 航続:4 / 装甲:4 / 居住:2 / 船倉:4 / 兵装:1


◆ CAT CLAW *5

船体:1 / 跳躍:2 / 航続:1 / 装甲:2 / 居住:0 / 船倉:0 / 兵装:2


◆ CAT CLAW CUSTOM *1

船体:1 / 跳躍:3 / 航続:1 / 装甲:2 / 居住:0 / 船倉:0 / 兵装:2


◆ BERYL THE GREAT

船体:1 / 跳躍:3 / 航続:1 / 装甲:0 / 居住:0 / 船倉:0 / 兵装:4


◆ Pawn of the Earth *8  ※修理中

船体:2 / 跳躍:3 / 航続:3 / 装甲:2 / 居住:1 / 船倉:1 / 兵装:2



◆ CREW

ベリル  |船長Lv2+[借金Lv1]

サル   |操縦Lv5 [衰弱Lv3]

ブルネット|射撃Lv2 [事務Lv2]※妊娠中

キン   |白兵Lv2 [整備Lv2]

拿捕猫耳ズ|白兵Lv1+[整備Lv1]

船長猫耳ズ|船長Lv1+[猫語Lv1]

猫耳の下僕|操縦Lv2+[信仰Lv2]

スッス  |操縦Lv2+[医療Lv1]


◆ CREW IN TRAINING

母猫耳ズ |市民Lv1 [衰弱Lv2]


◆ CAN BE PRODUCED

装甲:2


◆ BERYL HOME PORT(3/3)

権利:1 / 規模:1 / 装甲:0 / 修理:0 / 居住:2 / 備蓄:0 / 兵装:1

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― 新着の感想 ―
分かるけどダメですブルネットさん! 3人目の意見は言葉にしてないだけで内心ではみんな…!
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