42.白兵Lv1、士気Lv5
「まず星系全体を『見』ます」
『猿谷さん。第3惑星周辺は対ハイレベルパイロット用のトラップを仕掛けているので直視は避けてください』
星系管制はジャージ姿で、昔に俺が使っていた子供部屋にいる。
俺は脳が混乱しそうになるし、ブルネットの気配が物騒になって猫耳幼児に怯えられている。
「それは先に言ってくれませんかね。眩しくて目が痛かったです。……次に予定進路を念入りに『見』ます。全速だとデブリはもちろん薄いガスも危険です。いざというとき避けるためにも、予定進路だけでなくその近くも念入りに『見』るのが大事です」
俺は色んなことに目をつぶって、地球の復讐者たちを迎えに行くために全力を尽くす。
「マジで貴重な情報っす! 自分には全く何の役にも立たない情報っすけど!」
俺の自力センサー経由の情報と、銀河通商第7営業艦隊が送信してくる情報を統合中のスッスがそんなことを言う。
「スッス。仕事を舐めるなら待遇を下げてもいいけど?」
「すみませんっす……」
スッスは社長に対して平身低頭しながら光翼も『ぺこぺこ』している。
それでもデータの統合速度は落ちないんだから大したものだ。
『発展した星系なら絶対に許可が下りない飛行ですね。猿谷さん、本当にやるんですか?』
懐かしいタイトルの漫画を寝転びながら言ったセリフだ。
見た目よりは、真剣な態度だった。
「自称連中を好きにさせるよりマシですよ。俺の力でどこまでできるか知られてはしまうでしょうが」
『運送に投資している私としては、猿谷さんを護衛するためのコストが増えすぎるのは嫌なんですが……』
「情報統合終わったっす!」
「猫の巣号との情報連結が完了したよ。サルくんがあっちを動かすことになるけど大丈夫?」
「今の状態ならなんとかなります。予定進路にデブリやガスが浮いていたら大事故確定ですが、今は綺麗なものですから」
『暇なときに掃海をしていますから。……改めて言いますが、銀河通商はこの惑星に影響が出ない限り、企業同士の戦闘には介入しません。今回の情報提供も脱法的なものです』
「十分です」
準備は整った。
後は実行だけだ。
「先輩。敵揚陸艦による移乗攻撃が始まるまで、最短で後30分っす」
「いつでもOKだよ、サルくん」
「ありがとうございます。発進します」
ベリル号の操縦はベリルに任せ、俺は遠隔で猫の巣号を操縦する。
俺とベリル号をケーブルで繋げるとタイムラグは激減するがゼロになるわけではない。
近くにある味方船とはいえ別の船を同時に飛ばすつもりなら、俺が遠隔で操縦するのが一番マシだ。
「時間がかかるのは、旧ISSで人を回収してからですね」
短時間なら大勢の人間を低軌道まで打ち上げられるようになった地球人を称えるべきか、まだその程度しかできないことを嘆くべきか、俺にはよく分からない。
「慣性制御も万能じゃないからね……」
加速が始まる。
母港周辺はデブリが増えているが、少し離れれば非常にまばらだ。
「最近、先輩の操縦に慣れちゃったっす。操縦は真似できないのに、速度の感覚だけ狂ってきてるっす」
「職業病みたいなものだよ。スッスが操縦するときは気を付けてね?」
既にカイパーベルトからは遠く離れ、火星を通り過ぎている。
このあたりまで来ると、人工衛星やデブリも増えてくる。
減速も開始しないと地球を行き過ぎてしまうので、猫の巣号もベリル号も操縦が難しくなっていく。
「猫の巣号内の画面に、現地の状況を映しておくっす」
「ありがとうございます。詳しい状況を渡せていませんから、それで少しは改善されるはずです」
地球を背景に浮かぶ旧ISSと、旧ISSに入りきれずに簡易宇宙服で宙に浮かんでいる人間が、本当に大勢見える。
まるでこの日を待ち焦がれていたかのように、大勢の軍人だけでなく、剣術家や槍術家、格闘家など、白兵戦を専門とする者たちが交じっていた。
☆
自称地球防衛艦隊の揚陸艦が近づいて来る。
あれから2往復を完了させた俺はベリル号の操縦席でぐったりしているし、ベリルもスッスも似たような状況だ。
「地球人は、どうなっています?」
『にゃーには指揮なんてできねーから任せたにゃ』
「キン姉、下僕さんたちでも無理?」
『あいつらはガキどもに直接役に立つ場面じゃねーとやる気を出さないにゃ。……そんなことよりベリルもサルも今は休むにゃ。万が一のときはおめーらが頼りにゃ』
キンの表情は穏やかだ。
覚悟が完全に決まっているのだろう。
「んぷっ……。先輩。そろそろ通常のセンサーでも敵の揚陸艦が見えるっす」
スッスは言った直後に口を押さえて疲労が原因の吐き気に耐えている。
俺の自力センサーも、疲労のせいか普段より有効範囲が狭い。
それでも、迎撃のための大量にばらまいたデブリ網に、大きな穴が深く刻まれるのが『見』えた。
なお、回線越しに母港の外壁表面が目で見えている。
緊急生産された小型装甲を盾のように構えた宇宙服姿の地球人が、一つのカメラに映るだけでも数十人いた。
敵揚陸艦による母港への掃射が始まる。
ただのレーザー砲と、ただの機関砲。
そんな普通の攻撃で装甲の盾が激しく赤熱する。
銃弾には耐えたが衝撃には耐えきれず、外壁から引き剥がされ、母港から遠ざかる方向へ吹き飛ばされる者もいる。
そんな光景が母港の外壁のあちこちで発生し、死傷者の数だけが際限なく増えていった。
『無意味なことをする』
『『『にゃぁっ!』』』
気合いの入った鳴き声と共に粘着弾が放たれる。
それまで機能していたレーザー砲や機関砲が、本来は工事用の粘液に巻き込まれて動きを封じられるだけでなく機械内部まで入り込まれて機能を喪失する。
盾を構えただけの『カカシ』の役割はレーザー砲や機関砲の位置の特定だ。
まともにやりあっては勝ち目はないという現実に真正面から向き合い、自ら望んで『カカシ』の役割を果たしたのだ。
『『『にゃにゃっ!』』』
戦友から与えられた情報を見事に活かして敵揚陸艦の火力を奪った猫の爪号たちは、一撃離脱で敵揚陸艦から遠ざかる。
そして、器用に進路を変えて、死んでも直進し続ける運命だった地球人を器用に回収。
悠々と戦場から離脱した。
『これが最後の反撃とは、哀れなものよな。……行け、我が兵よ』
揚陸艦の装甲に切れ目が生じる。
母港の外壁と最も近い位置に生じたので、母港の迎撃兵器でもベリル号の特大タキオン砲でも位置的に狙えない。
そこから現れたパワードスーツ兵は、最終的に50人に達した。
離着艦施設へ移動して守りを固めていた地球人たちは、ほとんど一瞬で駆逐される。
『逆らう者は殺せ。獣に対する躾には鞭が一番だ』
聞いていたベリル社長は、眉ひとつ動かさず、首を掻ききるジェスチャーと地獄に落ちろのジェスチャーを流れるように決めていた。
☆
戦場は母港内部に移る。
パワードスーツ兵は、その優れた火力でバリケードも奇襲を狙った地球人も軽々と撃破する。
「よく訓練された兵士を機械化してるっす。どっちも金がかかるのにあまり長持ちはしないはずっす」
「使い捨てられるほど人的資源に余裕があるのかしら?」
ブルネットの表情に嫌悪の要素は薄く、懸念の要素が強い。
もし精兵を使い捨てにできるほど余裕があるなら、俺たちの予想の上限をさらに上回る戦力を持っているということになる。
「地表のSF作品にはクローンやコピーで有能兵士を量産するなんて展開もありましたが……。すみません脱線しました。社長、狙撃は可能ですか?」
「可能だけど、敵船が迎撃兵器を温存してたら危ないのは変わらないよ。特大タキオン砲とあの装甲は技術水準がたぶん同程度だけど、ベリル号は近距離で撃ち合う船じゃないから」
「装甲が、アレですからね」
覚悟の上でこの船を選択したが、あの揚陸艦と殴り合う船としてはとことん不適格だ。
「何か援護ができればいいんだけど」
ベリル社長は情報を分析している。
キンや母猫耳たちは一番奥の区画で籠城している。
母港に残った下僕たちは、移動させる余裕がなかったデュプリケーターを使って何かを作っている。
いや、何かというか、剣や槍や刀、か?
「あの人たち何やってるっすか?」
「俺にもさっぱりです」
艦載兵器じみた威力のレーザーが隔壁を焼き切る。
最初50人いた敵兵は、50人のまま母港の居住区へ侵入する。
ベリルが怒りの表情で耐え、ベリル号に避難した猫耳が『にゃあ』と悲しげに鳴き、ブルネットが鋭い目で睨み付ける。
俺も、日常の場所に敵が侵入する場面を実際に見た瞬間、胸と腹にどす黒いものが広がった気がした。
「……えっ」
最初に気付いたのはブルネットだ。
障害物となる机やソファーを破壊しながら前進していた敵兵が、何かにつまずいて転倒したように俺には見えたが、彼女は違った。
「あなた、宇宙服を着ていない人がいるわ。確かにそれなら、多少身軽にはなるけど……」
「宇宙服は予備も含めて全員着れる数を用意しましたよ?」
「なんか、動きが鈍るから着用を拒否したらしいっす。マジで生身っす。原始的な槍でパワードスーツの脚を引っかけて転ばせたっす」
光翼が上下する速度が上がりすぎて『ぶおんっ』という感じになっている。
パワードスーツ兵が隊列を変更する。
捜索から迎撃に。
たとえ空気と人工重力が消えても自分たちは無事という確信のもとに、母港に穴が空く火力を全周囲に撒き散らす。
おそらく、隠れていた地球人がそれでかなりの数死亡した。
なのに、刀や剣を構えて生身とは思えない速度で床を走る人間の数は、100や200では効かない。
鉄と鉄がぶつかるにしてはおかしすぎる音が『ずぬっ』と響いた。
一人の剣士が、パワードスーツの肘関節、その装甲同士の隙間ともいえぬわずかな空間に刀を滑り込ませたのだ。
俺には刃が何をなしたのかは分からない。
ただ、パワードスーツの片腕が、力を失って垂れ下がったのは分かった。
パワードスーツ兵が1人、痛みで絶叫しながら発砲する。
片腕を奪った剣士もその背後にいた復讐者たちも瞬時に消し炭に変わり、しかし人類の攻撃は止まらない。
ロングソードの切っ先がパワードスーツ兵の股関節を抉る。
それを為した剣士がレーザー剣で両断される。
死角から忍び寄った槍使いが、抉られて薄くなった場所を槍で貫く。
そんな技を繰り出すことができる達人たちが、パワードスーツ兵の反撃によって無造作に死んでいく。
十数年あるいは数十年磨き続けた技を一度しか使えずに死んでも、攻撃に巻き込まれて一度も使えず死んでも、まだ生きている地球人は静かに復讐を続行する。
「サルくん、これ」
ベリルは真っ青になり、震えていた。
「俺が最後まで見ます。皆は直視しないでください」
まさに美としか表現しようのない技が、使われた直後に使い手ごと消える。
目を逸らしたくなる。
AIに任せれば戦況把握は可能だ。
だが彼らをここへ運んだ俺だけは、最後まで見届けなければならない。
(これは、刺激が強すぎますね)
人間の形すら失った死体の山に、俺は一瞬だけ目礼する。
そして、俺以外で唯一ある程度の冷静でいたブルネットに、俺が見ている画面以外にモザイクをかけるようお願いした。
「分かったわ。……キンや下僕たちに治療の準備をさせておいた方がいいかしら」
「それは俺が伝達します。俺も冷静じゃないですね。まったく思い付きませんでした」
数時間にも感じた激しい戦闘は、実際には数分で終わった。
50体のパワードスーツの残骸と、傷を負いながらも生き残った地球人十数名と、数え切れない死体だけが、戦場に残っている。
「借りが大きくなりました。自称地球防衛艦隊のすべてを拿捕して、報酬や見舞金や遺族年金の原資を確保する必要がありますね」
俺の言葉に、猫耳たちは獰猛な鳴き声で応えた。
◆ BERYL FLEET
規模:2 防衛:4 遠征:5
◆ BERYL THE GREAT MK3
船体:3 / 跳躍:4 / 航続:4 / 装甲:0 / 居住:4 / 船倉:0 / 兵装:5
◆ BERYL THE GREAT MK2 ※故障中
船体:3 / 跳躍:2 / 航続:3 / 装甲:1 / 居住:2 / 船倉:2 / 兵装:4
◆ CAT'S NEST MK2(4/4)
船体:4 / 跳躍:2 / 航続:4 / 装甲:4 / 居住:2 / 船倉:4 / 兵装:1
◆ CAT CLAW *5
船体:1 / 跳躍:2 / 航続:1 / 装甲:2 / 居住:0 / 船倉:0 / 兵装:2
◆ CAT CLAW CUSTOM *1
船体:1 / 跳躍:3 / 航続:1 / 装甲:2 / 居住:0 / 船倉:0 / 兵装:2
◆ BERYL THE GREAT
船体:1 / 跳躍:3 / 航続:1 / 装甲:0 / 居住:0 / 船倉:0 / 兵装:4
◆ CREW
ベリル |船長Lv2 [財産Lv1]
サル |操縦Lv5 [衰弱Lv3]
ブルネット|射撃Lv2 [事務Lv2]
キン |白兵Lv2 [整備Lv2]※静養中
妹猫耳ズ |白兵Lv1 [整備Lv1]
新人船長ズ|船長Lv1 [猫語Lv1]
猫耳の下僕|操縦Lv2 [信仰Lv2]
スッス |操縦Lv2 [医療Lv1]
◆ CREW IN TRAINING
母猫耳ズ |学生Lv1 [衰弱Lv2]
◆ GUEST
復讐者たち|白兵Lv1 [士気Lv5]
◆ CAN BE PRODUCED
装甲:2
◆ BERYL HOME PORT(3/3)
権利:1 / 規模:1 / 装甲:0 / 修理:0 / 居住:1 / 備蓄:0 / 兵装:1




