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地球人に人権がない銀河で、零細猫耳社長にスカウトされました ~生体パーツ扱いのどん底から操縦チートと拿捕ビジネスで成り上がる~  作者: 星灯ゆらり
第1章 地球人に人権がない銀河で

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4.パートタイムの猫耳

 仮眠をとりながら3日かけて移動して、俺たちは目的地である母港を目視した。

 有人惑星はひとつもない星系の、小惑星に『ちょこん』とくっついているモジュール型の小都市だ。


 大気を外に逃さないシールドなどの最新設備は存在せず、数十年前の旧式設備をだましだまし使っている。

 ベリル号と同サイズの採掘船30隻ほどがここを母港にしていて、20隻が星系内で採掘、10隻と少しが補給と修理で都市内にいるらしい。


 なお、全部ベリルから受けた説明の受け売りだ。


「ついたー!」


 ベリルは上機嫌だ。

 俺は意識が朦朧としている。

 どこが危険か分かる感覚がなければ、都市にベリル号をぶつけていた確信がある。


『初航海はどうだった、お嬢!』


「船名も航海も勝手に大げさにしないでよ! 整備は僕がするからエネルギー補給だけお願い!」


『あいよ! おかえり!』


「うん! ただいま!」


 母港に着陸というか接舷というか、とにかく母港側から指定された場所に停止させる。

 そこで完全に集中力が切れて、俺はベリルに操縦席から外へ運ばれていった。



  ☆



「おとこだー!」


「しんにゅうしゃだー!」


 気絶と覚醒の狭間で、俺はベリルに似て非なる声を聞いた。


「こらっ、やめなさい!」


「ベリルねーちゃん?」


「ベリルねえさんをたすけるのっ」


 小さな手が俺の背広を引っ張る。

 それよりもっと小さな手と足が、俺の体をよじ登っていく。

 ひとりふたりではない。

 最低で4人だ。


「っと、すみませんしゃちょ……う?」


 俺が目を開けると、青や黒や赤の瞳が至近距離から俺を覗き込んでいた。

 おそらく美形ではあるんだろうが、美しさより幼さの印象が強すぎて、俺は激しく狼狽してしまう。

 覗き込んでいる連中の体勢が不安定すぎて、下に落ちて怪我をさせてしまうと思ったんだ。


「にゃっ?」


「にゃうっ!」


「わーいっ!」


 最低でも50センチは落下したのに、お子様たちは器用に手足を使って着地する。

 その頭には猫耳があり、金属光沢のシャツとズボンの間から猫尻尾が出ていることに、俺はようやく気づいた。


「サルくん起きた? ここまで運ぶの大変だったんだよ?」


 ベリルが肩を貸してくれていた。

 身長が足りずに俺の靴とかが引きずられることになったが、ベリルに特に疲れた様子はない。

 見た目よりはるかに体力と筋力があるのだろう。


「ありがとうございます、社長。ところでここは?」


 また、お子様たちが俺をよじ登っている。

 それだけでなく、お子様第一陣より幼いお子様たちが、俺の足元に集合して俺を見あげている。


 俺は、幼さが善や無垢を意味するとは思わない。

 それでも、幼児を危険に巻き込まないよう配慮する程度の良識はある。

 うっかり傷つけないよう気を付けるのは、かなりのストレスだった。


「僕の家だよ!」


 ベリルが誇らしげに胸を張る。

 ほとんど純戦闘用であるベリル号と比べても飾り気が少なく、廊下も床も痛みが激しく、しかしできる限り丁寧に補修と清掃を行っていることが分かる、人が住んでいる場所だ。


「家だよ!」


「家にゃ!」


「家にゃのよ!」


 白、黒、ぶち、とら。

 髪の色も顔立ちも違う猫耳たちが、元気に挨拶してくる。


「お招き頂きありがとうございます」


 礼儀には礼儀を返すのがまともな人間だ。

 俺は丁寧に頭を下げた。


「ねーちゃんのおとこ?」


「ぼーいふれんど!」


 甲高い声なのに不快ではない。

 ただし力は強い。

 猫のように鋭い爪はなくても、俺の背広を跡が残る力で掴んで俺の体を這い上がる。

 人間ではなくキャットタワーとして扱われている気がする。


「違う! サルくんは僕がスカウトしたパイロットだよ!」


 ベリルが大声を出してもお子様たちは止まらない。

 赤ん坊のような肌より、絹糸のような髪より、子供あるいは猫のように高い体温が俺を追い詰める。


(いかん。寝不足が)


 温かな布団に包まれるのに似た感覚に耐えることはできず、俺はあっという間に眠りに引きずり込まれた。



  ☆



 俺自身の腹の音で目が覚めた。

 喉が渇いて腹も減っているが、頭も体も爽快だ。

 今なら過去最高の操縦ができると断言できる。


「お目覚めですか」


 栗毛の猫耳女性が部屋に入ってくる。

 部屋と言ってもドアの跡があるだけの凹みで、俺の体にかけられているのもビニールめいた毛布のみ。

 それでも、この『家』の中では良い待遇だろう。


「食事です」


「ありがとうございます」


 渡されたカップを受け取り、意識して中身の味を無視して、飲む。

 俺の知るものの中で最も近いのは、冷めきって甘味が皆無の『おかゆ』だ。

 毒ではないのだろうが、とにかく不味い。


「ベリル社長のご家族でしょうか」


「孤児院の先輩です。出資者のひとりでもあります」


 ベリルの親というには若く、姉というには歳をとっている。

 それでも十分若いはずなのに、化粧でも隠し切れない疲れと肌の劣化がある。

 向かいの部屋(凹み)で寝ているベリルや子供たちに向けたときの目は優しいが、俺に向ける目は荒んだ気配を隠しきれていない。


「……なるほど」


 そのとき俺の心に浮かんだのは、哀れみでも好意でもない。

 戦闘と商売だ。


 ベリルと共に地球から飛び出した俺は、宇宙海賊や自称地球防衛艦隊と戦った。

 決して楽な戦いではなかったが、初陣の割にはよくやったはずだ。

 経費より高額な賞金を手に入れてもいる。


 だがそれだけだ。


 ベリル号と同じサイズの戦闘機を2機撃破しても得られたのは賞金だけ。

 ベリル号よりずっと大きな海賊船を追い詰めても、何の利益も得られなかった。


 要するに、俺とベリルだけでは足りないんだ。


「パートタイム労働に興味はありますか」


「……はい?」


 戸惑って小首をかしげる栗毛猫耳は、顔は似てないのにベリルとよく似た表情をしていた。



  ☆



「サルくん本気なの? お姉ちゃんも! ぶっつけ本番なんて無茶苦茶だよ!」


 ベリル号が母港を飛び出す。

 母港の外で待ち伏せをしていた、低額の賞金首たちの小型船が反応する前に速度を光速の10パーセントに到達させる。


『正気じゃねぇっ!』


『港の至近でその速度なんて正気か!?』


 他者を食い物にして生きてきた連中が、一丁前にこっちを非難してくる。

 なお、栗毛の猫耳さんも言葉にはしないが同じような雰囲気で、予備シートから俺を見ている。


「ふんだっ! サルくんなら誤射なんてしないよっ。そうだよね、サルくん!」


「誤射はしませんが、敵船の残骸がどこに飛ぶかまでは保証できません」


 ベリル号の進路を複雑に変えつつデブリを回避する。

 小型海賊船が対高速船用のデブリをばらまいているが、狙いを絞らず雑にばらまいているだけなので俺たちの脅威にはならない。


「そんなあ」


 ベリルが落胆する。

 栗毛猫耳さんが目に失望を滲ませる。


「じゃあ始めますね」


 俺は、シールドを展開した小型海賊船を狙う。


 敵に向かって直進しながら機関砲で射撃。

 その後に進路を変えて敵との衝突を回避し、敵には弾との正面衝突をプレゼントといういつもの奴だ。


 断末魔も残さず小型海賊船1隻と、その乗組員が消える。

 残りの小型海賊船は、シールドを慌てて展開したり、加速してその場から逃げだそうとしたりと様々だ。


「サルくん、お話があります。残骸も狙ったところに飛ばしてるように見えます」


 ベリル社長はお怒りだ。


「はい社長。狙ったところには飛ばせませんが、人が住んでないところに飛ばすくらいなら余裕……痛いです社長」


 ベリル社長は、デコピン1発で許してくれた。


「ベリルちゃん、すごいパイロットをスカウトしたのね。あっ、3隻目の海賊船はシールドで耐えたみたい。サルさん?」


「ええ、準備をよろしくお願いします」


 シールドで耐えたとはいえ、高速の弾が持つ運動エネルギーは膨大で、小型海賊船のあちこちから火花が散っている。

 つまり、拿捕を狙える。


 俺は慎重に観察しながら、逃げだした小型海賊船も、抗戦しようとする小型海賊船も、圧倒的速度が生み出す回避力と攻撃力で蹂躙する。

 できれば2、3隻生き残って欲しかったんだが、残念ながら生き残った海賊の船は1隻だけだ。


『来るなぁっ!』


 悲鳴をあげる小型海賊船に近付き、相対速度をゼロにする。

 圧倒的有利を捨てたように見えるベリル号に、海賊は最初は驚き、次に嘲笑した。


『馬鹿め! 同じ速度なら、戦闘機ごときに負けるわけが』


 ベリルも栗毛猫耳さんも、海賊のたわごとなど聞いていない。


「お姉ちゃん!」


「ええ!」


 猫は一流の狩人だ。

 その特徴を持つベリルたちも狩人だ。

 ふたりがそれぞれ1門ずつ操作する機関砲が、小型海賊船に取り付けられたミサイル発射筒の接続部分を射抜き、レーザー砲のレンズを破壊し、薄い装甲で包まれたエンジンを適度に叩いて不調にする。


 危険への感覚と速度に頼り切った俺には不可能な、高速で高精度の攻撃だ。

 長時間訓練したベリルもそうだが、数時間ベリル号で練習しただけの栗毛猫耳さんも、一流という表現では足りないスーパー狩人だ。


 彼女たちに足りなかったのは、高速で飛ぶための生体パーツだけなのだ。


『たっ、たすけっ』


「あなたはそう言われて助けたことがあったのかしら」


 冷たく言った栗毛猫耳さんが、敵船の装甲の一部を集中攻撃する。

 その殺意は濃い。

 海賊に大事なひとを奪われたことがあるのかもしれない。


『やめっ』


 悲鳴は、骨と肉がまとめて押し潰される音と共に途絶えた。



  ☆



 新しく積み込んだアンカーワイヤーで小型海賊船を曳航する。

 曳航しながらの操縦は非常に難しい。

 今戦闘になったら、即座に切り離さないと確実に負けると断言できる。


「こういうパート仕事なら次もしたいわ」


 栗毛猫耳さんは上機嫌だ。

 そして、これが最後の機会と思っている、少し儚さがある態度だ。


 ベリル号は小さい。

 無理をすれば3人以上乗れはするが、他星系まで移動するだけで疲れ果ててしまう。

 これまで通りの商売をするなら、彼女の席はここにはない。


「お姉ちゃん……」


 ベリルは、心配そうに栗毛猫耳さんを見ている。

 何を言えばいいか、分からないのだろう。


「正社員はまだ無理ですが、パートでなら明日も来て欲しいですね。連中、多分報復に来ますよ」


 操縦に気をとられているせいで、俺が被っている猫が薄くなっている。

 母港にもいるだろう、宇宙海賊のお仲間に対し、曳航中の元海賊船をみせつけ、嘲笑する。


「あら」


 栗毛猫耳さんは演技の笑みを止め、獰猛な肉食獣の笑みを浮かべる。

 ベリル社長は戸惑っている。


「サルくん、そうなの?」


「高確率でそうなります。元海賊船の修理が終わってこっちの戦力が増えたら手が出せなくなりますからね。……ああ、そうだ。母港の中で海賊のお仲間に襲われないよう、しばらく孤児院の子たちに元海賊船へ移り住んでもらうのはどうでしょうか」


「私は誘ってくれないのかしら?」


「それは社長に聞いてください。俺はただの社員で生体パーツなので」


「お姉ちゃん! みんなと一緒に住もう!」


 上機嫌な猫耳ふたりの会話を聞きながら、俺は舌なめずりする。


 今は戦闘機1機でも、いずれは大艦隊に。

 今は零細企業でも、いずれは巨大企業に。


 そのための生け贄(宇宙海賊)が潜む星系を見渡し、一度だけ『にちゃり』と笑った。

◆ BERYL THE GREAT

船体:1 / 跳躍:3 / 航続:1 / 装甲:0 / 居住:1 / 船倉:0 / 兵装:2


◆ CREW

ベリル |船長Lv1 [借金Lv3]

サル  |操縦Lv3 [疲労Lv3]

栗毛猫耳|射撃Lv1 [借金Lv1]



◆ Small Pirate Ship

船体:2 / 跳躍:2 / 航続:2 / 装甲:2 / 居住:2 / 船倉:2 / 兵装:2

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