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地球人に人権がない銀河で、零細猫耳社長にスカウトされました ~生体パーツ扱いのどん底から操縦チートと拿捕ビジネスで成り上がる~  作者: 星灯ゆらり
第2章 港・信用・拠点

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37.生体パーツ

 俺が仮眠から目覚めたとき、ベリル社長とスッスが真剣な表情で話し合っていた。


「ドクターストップっす!」


 表情と態度はいつものままだが、スッスの光翼が『神聖』っぽい感じで光っている。


「うん。これまで迷ってはいたけど具体的な数字で説明されるとね。でも長期休養は無理」


「先輩の寿命を削りたいっすか?」


 厳しい表情になったスッスに、ベリル社長は悪意のない困った表情で返す。


「サルくんの性格だと宇宙船から降りたあとも何か始めちゃうよ。子供向けに料理とか作るの好きだし、シミュレーターに籠もって教えるのもしょちゅうだし」


「……先輩、飛べなくなった時点で死ぬタイプの生き物っすか?」


 スッスの光翼が『理解不能』という感じで明滅した。


「あの、もし俺に聞かせるつもりでしたら、もう少し大きい声で頼みます」


 なにしろ寝起きなので、五感も思考も普段より鈍い。


「おはようサルくん」


「おはようっす!」


 ふたりは挨拶する。

 俺は片手をあげて応えながら、無意識の動作で周囲の画面からベリル号とその周辺の情報を確認する。


「母港へ帰還途中ですか」


「うん。キン姉が直接地表に降りて迎撃兵器を取り付けるのと引き換えに、拘束期間を1日減らしてもらったの」


「キンさんのことっすけど、社長よりも前に治療した方がいいっす。精密検査しなくても体のダメージ読み取れるって、かなり深刻っすよ」


 スッスの態度が医者のそれになっている。

 これは、かなり深刻な話だな。


「キンさんは?」


「お酒を取り上げて寝室に閉じ込めてるよ」


 むん、と胸を張るベリルを見て、俺は微笑ましさと誇らしさが交じった気分になる。

 社長として必要なときに必要なことをできるのは、当然なことではあるが難しいことなのだ。


「今はふて寝してるみたいっす」


 スッスは話しながら操縦もしている。

 そのことに気づいたのは今なので、俺はかなり寝ぼけていたようだ。


 俺は、気分を切り替えるためにタオルで顔を拭く。

 茹でタオルほどすっきりはしないが、そこそこ効果はあった。


「先輩、『見』るなとは言わないっすけど体力温存優先でお願いするっす。この船の居住性がもう少しマシならよかったんっすけど……」


『悪かったにゃ。金がねーから豪華装備は削ったんだにゃ』


 通信で会話に参加したキンは、機嫌が悪そうだ。


「私も合意しましたし、その件を責める奴はいませんよ。しかし……」


 どうにもうまく言葉がまとまらない。


『船の維持費よりおめーの健康の方が重要になっただけにゃ。気にすんにゃ』


 キンはひらひらと手を振ってから、チューブ型容器から音をたててすする。


「キン姉、お行儀」


『ブルネットみてーなこと言うなにゃ』


 キンはベッドの上で丸くなり、大口を開けてあくびをしてから寝息を立て始めた。


「……かなり健康に見えますね。すぐに眠れるのは羨ましいです」


 ベッドに寝転んでもなかなか眠りにつけない俺から見ると、キンの快眠には嫉妬すら感じる。

 しかしスッスは別の意見だった。


「キンさん、めちゃくちゃ体力があるからあの程度ですんでるっす」


「詳しい説明は母港に帰ってからお願い。……サルくんの診察もだけど、ブルネット姉の診察もお願いできる?」


 ベリルの言葉は実質的に命令だ。

 スッスは何故か、とても困った顔になる。


「結婚式で、あの方から念入りな祝福を賜ったんっすよね? 奥方さまとはいえ、できれば関わりたくない案件っす……」


 スッスの光翼が『しおしお』と力を失い垂れていた。



  ☆



 母港への帰還の前に、地球艦隊から次の護衛依頼についての話が来た。

 貧乏艦隊なので報酬はかなり安い。

 それでも、ベリル運送を舐めてないことが分かる程度には、頑張っている額だ。

 ただ、キンの同行を求める依頼でもあり、そこが揉めていた。


『キンの治療を優先してちょうだい。地球人の植民計画よりキンの方が重要よ』


「ブルネット。にゃーもおめーも無茶は散々してきたにゃ? 多少の無理でデカイ恩を売れるならかまわねーにゃ」


「恩、売れるかなぁ。艦隊の人はともかく、指導部は性格よくないよ?」


 地球人についての話題なので、俺はノーコメントで通す。

 事実を伝えることが地球人をディスることになりかねない。


『スッス。キンの治療に必要な期間は?』


「結婚式でうっすら祝福されてるので短くてすむっすが、20日は欲しいっす。意識を完全に落としていいなら15日まで減らせるっす!」


『ガキどもに指示を出せなくなるなら治療を受けるのは無理にゃ』


「了解っす! 念のため25日欲しいっす!」


 スッスは新入社員だが、意思疎通は非常に円滑だ。

 本人が社交的なのが最大の原因だろうが、本人に猫耳に対する差別意識が皆無という理由も大きい。


『25日……。猫耳にとっては信じがたい期間の休みね』


 通信の向こうのブルネットが、キンが長期間の治療を受けるという事実を、しみじみと感じている。


『にゃーも出世したにゃ』


 キンはにやりと笑って、下船のための準備を始めている。

 手荷物はわずかでも、宇宙服かパワードスーツを着てからでないと母港へ移動できないので結構忙しい。


「サルくん。いい機会だからキン姉と一緒にスッスに診てもらって。本当はブルネットお姉ちゃんも一緒がいいけど……」


『現地で交渉することを考えれば、ベリルちゃんだけでなく私も行くべきね。サルさん、ベリル号の状態は?』


「エネルギー残量は74パーセントです。……常に万一はあり得ます。エネルギー補給は万全にしておくべきです」


 ブルネットなら無補給で出発するかもしれないと考え、俺は強く主張した。


『サルさん。大事にしてくれるのは嬉しいけど、お金の節約も大切よ?』


 ブルネットは真剣に考えてくれない。

 ベリル号は強力な船だし、ベリルも操縦は俺より劣るが射撃も情報処理も俺より上手いし、一般的な基準では操縦も上手い。


 それでも、何故か嫌な予感がする。

 自力センサーが少しでも反応すれば、俺は強引にでもついていこうとしたはずだ。

 だが、自力センサーは何も知らせてこない。


『スッス。キンを診るときは一番奥の区画を使ってちょうだい』


「いいんっすか? あそこ、一番の重要区画っすよ?」


『キンを任せる時点で同じことよ。自分自身のためにも、おかしなことはしないでしょう?』


「もちろんっす! この環境にいるためならだいたいのことはするっす!」


 スッスはスッスで熱意が強すぎて、ちょっと怖くなることがあった。



  ☆



 ベリル社長とブルネットは、エネルギー補給を少ししてからベリル号で出発した。

 地球艦隊第3集団(開拓船団第2陣)を護衛して、例の星系の恒星に2番目に近い惑星を目指すことになっている。


「なんかオシャレにゃ」


「キンさんが模様替えしたのではないのですか?」


 そんな状況で、俺とキンはベッドに寝かされていた。

 肌に張り付く患者着を着せられたり、監視カメラっぽいもので撮影されたりと色々されてはいるが、注射や採血などはない。


「にゃーにそんな暇ねーにゃ」


 キンが肩をすくめる。

 柔らかな色合いの壁紙や、洒落てはいるが落ち着いた色とデザインのインテリアなどは、キンのセンスとは大きく大きく異なっている。


「検査終わったっす! 先輩はただの過労っすね。あれだけ遠くを『見』続けて過労で済んでいるのは生命の神秘っす!」


 スッスは検査結果を紙で渡してくれる。

 ご丁寧に日本語に翻訳済みで、様々な数値と一緒に『塩を減らせ』とか『睡眠を増やせ』とか『体力を無視した運動をするな』とかも書かれている。


 最後のは、直接は書かれていないが寝室でのあれこれだ。

 ブルネットとは体力差があるので、どうしてもそうなってしまう。


「キンさんは典型的な猫耳の加齢っす。才能と能力があるぶん無理しちゃったんすね。……治療が遅れていたらやばかったっす」


 セリフの後半では真顔になり、光翼が真剣な色で光っていた。


「それで、にゃーは何をすればいいにゃ?」


「とりあえずこれ飲んで、10日間規則正しい生活をしてくださいっす。猫耳基準じゃなくて、先輩基準で規則正しい生活っす!」


 スッスは錠剤を日数分渡す。

 ついてきた説明書には、ナノマシンで内側から治療とかなんとか書かれている。


「それ、拷問にゃ?」


「人によってはそのとおりっす!」


「拷問じゃないと思うぞ?」


 深々と頷くふたりに反論するが、反論というには我ながら勢いがなかった。

 地表時代のブラック労働で、我慢していることを我慢と感じなくなった自覚はある。


「先輩はこれ飲んでくださいっす。1時間くらいしたら毒とか老廃物とか抜けるっす。トイレはそこっす」


「便利な薬があるんですね」


 ラムネ菓子みたいな薬を受け取り飲み込む。

 香りもラムネだ。


 キンは錠剤を嫌そうに見てつまんでいたが、大量の水と一緒になんとか飲み込み、ゲップをした。


「暇にゃ」


「病院には雑誌とかが置いてあるイメージですが……」


「通商のカタログなら置いてるっすよ? ここは外と回線が繋がってないっすから、ちょっと前のバージョンっすけど」


「これにゃ?」


「タブレットの中に入っているみたいですね。……データがでかいですね」


 衣食住、保険や金融商品など、本当に何から何まである。


「脳への知識の焼き付けもあるにゃ」


「個人用の戦闘用宇宙船もありますね」


 俺が画面に触れると、何故か『販売不可』の警告メッセージが浮かぶ。

 キンが触れると『販売不可』の表示が消える。

 いや、画面の隅に『特定人物への貸与は認められません』と注意書きが出ている。


「スッス。ひょっとして、俺に対してペナルティか何か発動しているのですか?」


「そんなことは……ないはずなんっすけど。通商に先輩を優遇する理由は大量にあるっすけど、逆はないはずっすよ?」


 3人がかりでああでもないこうでもないとタブレットとカタログデータを調べていると、分厚いドアの向こうから微かな音が響いた。

 緊急の呼び出しだ。


 内側の装甲を一部どかし、透明な壁越しに見ると、そこには動揺した下僕の姿があった。


「唇を読んでみるっす。……ベリル号から定期連絡が届かず2分が経過!?」


「キンさん!」


「サル! にゃーが運ぶにゃ!」


 俺は緊急用の薄い宇宙服を着込む。

 ヘルメットの代わりに透明な膜が顔を覆う。

 似たような格好になったキンが、俺を俵担ぎして、蹴破るようにしてドアを開けて走り出す。


「激しい運動すると薬の効きがおかしくなるっす!」


 後ろから悲鳴じみた声が聞こえるが、俺もキンも余計なことを考える余裕はない。

 あのブルネットがいて『うっかり』はあり得ない。

 定時連絡が遅れたなら、それは深刻な異常事態ということだ。


「サル! なんか指示出すにゃ!」


「猫の巣号でベリル号の救援へ向かいます。非番の者は猫の巣号へ即座に移動! 間に合わない者は奥の区画へ移動してください!」


「「「にゃっ!?」」」


「「「にゃぁっ!」」」


 いきなりな指示に混乱する猫耳もいるが、素の身体能力が高いので少々遅れても『俺を運んでいるのでいつもよりは遅い』キンを追い抜いていく。

 パワードスーツを着た整備班の猫耳幼児たちが、キンに追いついて俺を数人がかりで受け取り、代わりにキンへパワードスーツを渡した。


「最優先はベリルとブルネットの保護にゃ。次にベリル号。最後が地球艦隊にゃ」


 固い口調で言うキンに、俺はわざと大声を出して答える。


「ええ、2人を助けにいきましょう!」


 猫耳幼児の中には地球人と仲が良い子もいるし、この銀河で生きるには優しすぎる子もいる。

 いざというときに非情な選択ができるよう振る舞うのも、大人の役割だった。



  ☆



 猫の巣号が発進する。

 母港と繋がっていたケーブルの解除が間に合わずに『ぶちぶち』千切れているが、どちらも頑丈なので致命的なダメージにはならないはずだ。


『サル様。我々が母港を維持します。最悪の場合は猫耳さま方を艦載機に乗せて地球へ送り出します』


「了解。無事の帰還を期待してくれ」


 ケーブルの残骸と共に加速を開始する。

 ベリル号と比べれば加速は弱いが、最高速と航続距離は実は変わらない。


『先輩。艦載機は出撃前だった猫の爪号6号機と、発進直前に自分が着艦させた旧ベリル号だけっす』


 スッスの通信はその旧ベリル号から届いている。

 猫の爪号も旧ベリル号も、加速力はあっても航続距離が短すぎるので、単独で隣接星系まで行くのは危険だ。


『……いけそうっすか?』


「もちろんです」


 言葉は穏やかでも、感情は荒れ狂っている。

 心拍がヤバイくらいに早くなり、とても遠くまで良く『見』える。


「ベリル号が減速していません。地球艦隊第3集団も半数程度が健在……」


 俺は顔をしかめる。

 反応が次々に減っている。


「第3集団が襲撃を受けています。敵は、これか?」


 ドット絵もどきが『見』えるのはもっと近付いてからのはずなのに、ベリル号からも第3集団からも離れた場所に、葉巻型の小型宇宙船が『見』えた。

 銀河には様々な形状の宇宙船が存在するが、俺が見聞きした限りでは、この形状の宇宙船を使っているのは自称地球防衛艦隊だけだ。


「スッス、聞こえていますか」


『何でも命じて欲しいっす。自分、その覚悟で先輩についてきたっす』


「旧ベリル号を砲台として使うので、射撃の権限を猫の爪号船内の新人船長に渡してください。旧ベリル号と猫の巣号の接続と、猫の巣号から供給されるエネルギーの制御はスッスにお願いします」


『……っす』


 スッスが赤面しているのを、俺は気づかないふりをする。


「「「おっちゃん! なに狙えばいいにゃ?」」」


「今からそちらへデータを渡しますのでそれを使ってください」


「「「了解にゃ!」」」


 新人船長たちは適度に緊張している。

 これなら、ブルネットとベリルの命を任せられそうだ。


「おいサル! まさか!」


 キンが焦り、俺を止めようとするが、止めるには距離があって邪魔が多い。

 元が海賊船だからある余計な装飾が、今だけは有り難い。


「俺を生体パーツとして使います。治療費の支払い、お願いしますね」


 コンソールからケーブルを引っ張り出し、外科手術機能付きのアダプタをはめて、俺の延髄に突き刺す。

 痛みで意識が真っ白になるが、少なくとも死んではいない。


「敵がはやいにゃっ!」


「おっちゃんよりはおそいよっ!」


「動きはたんじゅん! だからたぶん……えいっ!」


『うそだろっ!? こんな距離から当ててくるなんて、奴は化け物っ』


 聞き覚えのあるパイロットの声が途絶える。

 新人船長たちの歓声と、スッスの悲鳴が聞こえた気がするが、何もかもが曖昧だ。


「このっ、馬鹿野郎!」


 最後に、キンの叫びが聞こえた気がした。

◆ BERYL FLEET

規模:2 防衛:4 遠征:4


◆ BERYL THE GREAT MK2

船体:3 / 跳躍:4 / 航続:4 / 装甲:2 / 居住:2 / 船倉:2 / 兵装:4


◆ CAT'S NEST MK2(2/4)

船体:4 / 跳躍:2 / 航続:4 / 装甲:4 / 居住:2 / 船倉:4 / 兵装:1


◆ CAT CLAW *5

船体:1 / 跳躍:2 / 航続:1 / 装甲:2 / 居住:0 / 船倉:0 / 兵装:2


◆ CAT CLAW CUSTOM *1

船体:1 / 跳躍:3 / 航続:1 / 装甲:2 / 居住:0 / 船倉:0 / 兵装:2


◆ BERYL THE GREAT

船体:1 / 跳躍:3 / 航続:1 / 装甲:0 / 居住:0 / 船倉:0 / 兵装:4



◆ CREW

ベリル  |船長Lv2 [財産Lv2]

サル   |操縦Lv5 [衰弱Lv?]

ブルネット|射撃Lv2 [事務Lv2]

キン   |白兵Lv2 [整備Lv2]

妹猫耳ズ |白兵Lv1 [整備Lv1]

新人船長ズ|船長Lv1 [猫語Lv1]

猫耳の下僕|操縦Lv2 [信仰Lv2]

スッス  |操縦Lv2 [医療Lv1]


◆ CREW IN TRAINING

母猫耳ズ |学生Lv1 [衰弱Lv2]


◆ CAN BE PRODUCED

装甲:2


◆ BERYL HOME PORT(3/3)

権利:1 / 規模:1 / 装甲:1 / 修理:0 / 居住:1 / 備蓄:0 / 兵装:1



◆ EARTH FLEET

規模:2 防衛:2 遠征:0

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