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地球人に人権がない銀河で、零細猫耳社長にスカウトされました ~生体パーツ扱いのどん底から操縦チートと拿捕ビジネスで成り上がる~  作者: 星灯ゆらり
第2章 港・信用・拠点

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34.旧ベリル号の専属パイロット

 母港を出発してから数時間しか経過していないのに、帰ってこれたという安心感があった。


『相変わらず前衛的っすね! このあたりに停めておいて良いっすか?』


 光翼人間のテンションは高く、しかし操縦は安定している。

 ベリル号と同サイズの十字架型大型宇宙船を、漂っているパーツや作業中の猫耳に当てずに移動させ、母港との相対速度をゼロにする。


「低速なら俺は見本になりませんね」


『光速未満なら金さえかければAIに任せることもできるっす。でも、超光速戦闘はハイレベルパイロットが不可欠っす! 超光速戦闘ができるかどうかで人材としての価値は数桁違ってくるっす!』


 光翼が機嫌よく『ぱたぱた』している。


「数桁ですか?」


 調子の良いことを言っているだけだろうか。

 もし本当に数桁違うなら、俺は『金銭的意味でも狙われる対象』かもしれない。


『ハイレベルパイロットって、列強でも揃えるのに苦労してるんっす。それじゃ、自分は寄港許可が出るまで待機してるっす! 有給届も書かないとっす!』


 光翼人間は元気に言って通信を切る。

 しかし、性能もベリル号とほぼ同等の船が味方として存在すると、安心感があるな。


『みんなお帰り! 無事でよかった!』


 母港からベリルの通信が入る。

 喜びと安堵が交じった、本当にいい笑顔だ。


 しかしすぐに真顔になる。


『サルくんはすぐに来て』


「ベリルちゃん。通信では駄目なのかしら?」


『お姉ちゃんもだよ。絶対に盗聴できない場所で相談する必要があるの』


 ベリルの猫耳にも尻尾にも怒りと苛立ちが現れていて、このまま放っておくと『ふしゃー!』と威嚇してきそうな感じだ。


「承知しました。お客様はどうしましょう?」


『待ってもらう……のはまずいよね。応接スペースなんて作ってないんだけど!?』


「シミュレーターで時間を潰してもらうのはどうでしょうか。パイロットとして腕を磨きたいようなので、多少の興味は持ってくれると思います」


『ん。じゃあそんな感じでお客の案内とかもよろしくね、サルくん』


 結果から言うと、ベリル運送が所有する宇宙船すべての詳細データと実戦データが反映されたシミュレーターにこもりきりになり、光翼人間は丸一日以上出てこなかった。



  ☆



 母港の中に小さな変化があった。

 装甲を生産する自動調理器デュプリケーターと、料理・食材生産専用のそれの数をあわせると、以前より5割ほど多くなっていた。


「ひょっとして、自動調理器を新しく購入しました?」


「ベリルちゃん。まさかまた借金をしてしまったの?」


 俺とブルネットの追求に、ベリルはそっと目を逸らした。


「装甲はいくらでも必要だし……。それに、地球人の艦隊にも売れてるんだよ!?」


「ベリル運送のキャッシュが枯渇しかかってるわよ」


 ブルネットの表情は穏やかだが気配が冷たくなる。

 ベリルの猫耳がぺたんと伏せられ、尻尾も気弱になった。


「設備投資に力を入れたくなる気持ちは分かりますよ。投資すればするほど収入が増える状況ですから」


「そうだよね!」


 ベリルが一瞬で上機嫌になる。

 が、ブルネットが咳払いをすると一瞬で元に戻る。


「キャッシュが枯渇すれば、何かひとつトラブルがあった時点で資産を叩き売りせざるを得なくなるわ」


「で、でも」


「これまではサルさんがどんどん出資してくれたけど、サルさんの財布にも限界があるの。分かっているの?」


「ひゃい……」


 社長としての権威が揺らぐような態度なので、俺は他の猫耳や下僕からベリルに向かう視線を遮る位置に、そっと移動していた。


 そのまま歩き続け、緊急時に避難するための区画へ到着する。

 ベリル運送の宇宙船が敵を撃退するまで耐えるための場所であり、ベリル運送の宇宙船が全滅すれば俺たちの墓になる場所でもある。


「えっとね。星系管制はめちゃくちゃ怒ってる。あいつサルくんには弱いけど猫耳は舐めてるの。パイロット兼医者の引き抜きにカンカンだよ」


「引き抜きではなく売り込みなんですが」


 俺は事実無根な内容を訂正しようとするが、ベリル社長は力なく首を横に振った。


「星系管制の中ではそうなってるって話。サルくんが口を挟むのはやめてね。あいつならサルくんにはペコペコするだろうけど、その分、ベリル運送にきつくなりそうだし」


「なるほど……。承知しました。気をつけます」


 ベリル運送は俺の妻の事実上の実家なので、正直腹が立つ。

 しかし、猫耳の社会的立場を考えるとこれでも『甘い』対応であることも分かる。


「ベリルちゃん。私は是非雇いたいと思っているわ。医療をよそに頼り切りな状況は怖いもの」


「俺も同意します。必要な要素をすべて自前で抱え込むのは不可能ですが、ベリル運送存続に不可欠な要素は、できる範囲で確保しておきたいです」


「でもお姉ちゃん、サルくん、あの人けっこう要求大きいよ? 専用の船を用意して、ずっとサルくんの近くでパイロット勤務するのが最低条件だよ? 何でもするって割に要求が大きすぎない?」


 ベリルは、明らかに納得がいっていない。

 しかし既に転職の打診を行っていたのか。

 行動力がすごいな。


「サルさんに色目を使わないなら構わないわよ」


「ブルネットお姉ちゃんはそれでいいかもしれないけど……」


 本音での利害調整は重要だが、揉めているようにも見えるので子供には見せたくない。

 それはそれとして、猫の爪号が活動中なのに、救難担当である俺が持ち場から長時間離れるのはまずい。


「ブルネット。社長」


「ええ。こちらは任せて」


「ほんと、サルくんがふたりいればいいのに」


 ベリル社長には妙な反応をされてしまったが、退出の許可はとれた。

 俺は急いでベリル号へ移動し、体を休めながら待機する。


 日付が変わるまでに出撃が2回。

 母港帰還時のエネルギー残量は、77パーセントと62パーセントだった。



  ☆



 翌日。

 光翼人間は、正式に客として歓迎された。


「銀河帝国第2星系出身の『ぱたたたっ、しゅっ』っす! ベリル運送へ転職希望っす!」


 『ぱたたたっ、しゅっ』は光翼の風切り音であり、明滅でもある。

 光翼人間の名前は文字ではなく、光翼で表現するらしい。

 なお、こいつは丸一日ぶっ通しでシミュレーターに乗っていたため、目の下にクマができている。

 シミュレーターでの模擬戦につきあっていた新人パイロット数名が、歓迎会なのに床で寝ていた。


「銀河帝国ですか」


 俺は感慨深くつぶやく。

 偶然の一致だろうが、思い入れのある言葉と同じ名前の国なので縁を感じる。


「銀河帝国は現存している国だけで百単位あるっす! 自分の出身国はその中でも大きい方っすね」


 銀河通商の制服やパイロットスーツではなく、どこから見てもリクルートスーツにしか見えないものを着こなしている。

 他の光翼人間と同様に、見た目は中学生から高校生だ。

 顔も体格も整いすぎていて、服装によってどちらの性別にも見える。


 まあ、そんなことよりも飛ぶことへの熱意が特徴的だ。

 シミュレーターで新人船長と競っているときは、闘志に溢れた本当によい笑顔をしていたからな。


「みんなにはスッスと呼ばれてるっす! だからスッスで登録してくださいっす!」


「そこまで気を使わなくていいのよ?」


「あの子たちはその場の勢いで生きてるところがあるから」


 ブルネットもベリルも考え直すように言う。

 既に酒を飲み始めているキンは「好きにすればいいにゃ」という態度だ。


「自分、いえ、自分だけでなく、光翼を持ってる人間は仮名はテキトーにつけるっす! それに自分、スッスって名前も気に入ったっす!」


 勢いよく光翼を『ぱたぱた』しそうになり、料理が並べられたテーブルに当たる直前で慌てて止めていた。


「……大変そうですね」


「自分、実体化と非実体化の切り替えが苦手なんっす。あっ、光っていても非実体化はできるっす!」


「なるほど」


 俺は相槌を打っているだけだが、まだ起きている猫耳幼児たちは興味深そうに頷いていた。


「じゃあ基本的に採用で。銀河通商から円満退社するのが条件だからね!」


 ベリル社長が決定事項を告げた。


「ありがとうございます! えっと、ところで、自分の船は猫の爪号になるっすか?」


 スッスが子供のようにわくわくしている。

 最近は母港の離着艦設備の拡充と猫の爪号の新造で寝る時間まで削っているキンが、面倒くさそうに手を振ってから酒瓶に口をつけて飲み始めた。


「そのことですが、社長。スッスに旧ベリル号を使わせませんか」


 俺が発言した直後、大勢が集まった居住区全体が静まり返った。

 次の瞬間、怒声が交じった声でうるさくなる。


「「「なんでにゃ!?」」」


「「「ずるいっ!」」」


 新人船長たちの反応は覚悟していたが、拿捕班と整備班の反応も同じだったのは予想外だった。


「サルくん。理由」


 ベリル社長の目が据わっているのは完全に予想外だ。


「はい。旧ベリル号は極めて危険な船です。加速力の割に航続力が貧弱なため、遭難を含む事故の恐れが大きい。その上、装甲もシールドも極めて貧弱です。超光速時はもちろん、亜光速で飛んでいるときも軽いダメージでパイロットごと死にます」


 緊急時に俺が乗るなら良いが、猫耳をこれに乗せるのは絶対に避けたい。

 持ち主であるベリルであっても同じだ。

 ベリル運送に余裕があるならモスボール化して記念船にするのも良いだろうが、残念ながら、今もまったく余裕がない。


「そんなことは僕もみんなも分かってるよ。僕は分かった上で旧ベリル号に乗ったし、みんなも乗りたがってるの。あの船のおかげで、僕もみんなもまともに生活できるようになったんだよ」


 ベリル社長の怒りが、初めて俺に向いた。

 表情は平静でも、猫耳は後ろに倒れ、尻尾が膨らんでいる。


「ベリル社長やみなさんの勇気は尊敬しています。ですが、装甲にも優れた猫の爪号がある今、旧ベリル号への搭乗は認めたくありません。特別の理由があって、そのためなら命も惜しくないと思っている、自分自身でそう決めた成人なら、話は別ですが」


 ベリル運送に属している時点で危険はゼロにはならないんだ。

 ロマンはあっても危険への配慮は皆無な旧ベリル号に、猫耳幼児を乗せられるわけない。


 俺の考えを理解したベリルから、勢いが消えた。


「にゃぁ……」


「サルの気持ちも分かるけどにゃー」


「私はパイロットではないから、この件については推測はできても共感はできない。どちらの味方もできないわ」


 ベリル運送の首脳陣ベリルとキンとブルネットは、反対から中立に移行した。


「先輩っ、そんなに自分に優しくして、何が目的っすか?」


 光翼を輝かせ、顔を上気させて上ずった声で話しかけてくるスッスは、声や外見だけなら蠱惑的な天使や女神にも見える。

 ただ、俺へ向いた感情が『飛ぶことへの熱情』の余波でしかないのが分かってしまうので、まったくそそられない。


「事故が怖いだけです。おそらくこの中で最年長は俺かスッスでしょう? で、スッスは好き好んでパイロットをしてるんですから、万一事故が起きてもお互い納得済みでしょう」


「先輩、怖いこと言うっすね。でもその通りっす! あんなに速くてタキオン砲まで載ってるイカした船、乗れる機会があれば逃すわけないっす! よろしくお願いするっす!」


 猫耳幼児たちが『『『にゃーにゃー』』』と抗議し続けているが、俺はこの件について、譲歩する気はまったくない。

 この後も揉めに揉めたが、まだ銀河通商籍のスッスが、旧ベリル号の専属パイロットに内定したのだった。



  ☆



 船長猫耳たちは拗ねてしまった。

 具体的に言うと、俺が話しかけても最低限の受け答えしかしてくれない。

 まるで反抗期だ。


「大変ね? お父さん」


 ブルネットが『くすり』と笑う。


「こういう形で父親の予行演習をすることになるとは思いませんでしたよ」


 カイパーベルトでは猫の爪号が猛烈な勢いで飛び回っている。

 シミュレーターでスッスに苦戦したのが悔しかったのか、旧ベリル号に乗れば事故を起こす(かも)と俺に思われたのが悔しかったのか、違法採掘船や海賊の小型船相手に容赦のない攻撃をしかけている。


「ああもう。俺の悪いところを真似て……」


 俺が急降下爆撃に例えたこともある、機体を超光速で飛ばしながら行う質量攻撃が多用されている。

 ただの粘着弾も、光速の数十倍の速度になれば破滅的な破壊力を持つ。


 海賊船をそのまま破壊することもあれば、海賊船に無理な回避を強いてから通常速度の粘着弾で仕留めることもある。

 後者の方が、船ごと拿捕できる分、金銭的に優れている。


『自分も早くここで活躍したいっす!』


「同感だが、通商に渋られないか?」


『自分は労働者の権利を行使するだけっすよ! それじゃ先輩、次会うときは部下としてよろしくお願いするっす!』


 十字架型の大型宇宙船が地球に向かって出発する。

 その光景を、俺とブルネットはベリル号の艦橋で見ている。


『ブルネットお姉ちゃん、なんでスッスには攻撃的じゃないの?』


 母港から届いた通信に、ブルネットが少し不服そうな顔になった。


「私を誰彼構わず噛みつく女にしないでちょうだい。……あの光翼人間は本当に何でもするつもりだけど、サルさん個人に対する執着はないもの。そこまで警戒はしないわ」


「スッスはハイレベルパイロットがどうとかと言っていましたが、要するに操縦技術ですよね? 正直、よくそこまで熱中できるなという思いはあります」


 多少熱心なくらいならどうとも思わないが、スッスの熱心さは度が過ぎている。


『んー。サルくんのは、操縦技術というより自力センサーじゃないかな。僕も自力センサー欲しいよ』


「これ、後天的に身につくんですかね? スッスは後天的獲得に賭けているようですが」


 俺の言葉に、ベリル社長は肩をすくめ、ブルネットは曖昧に微笑んで誤魔化した。

 そして、すぐに真面目な表情になる。


「サルさん。これだけ犯罪者の船を拿捕や破壊しているのに現れ続けるのはおかしいわ」


「……何か理由があるとしても、大量にやって来るならそのための手段があるはずですよね。隣接星系に中継拠点がある、とか?」


『サルくん、調べに行きたいのは僕も同じだけど、母港の守りが固まるまで待って。もう少し、装甲と艦載機が増えれば……うん、もう少しどころじゃなく時間がかかるかも』


 情けない顔になったベリルだが、俺に似たような顔だ。

 ベリル運送は間違いなく強くなっている。

 しかし、現状を打開するには、まだ力が足りない。


「あなた、焦らないで。大規模な海賊が攻めてくるなら今のままでも勝てるわ。例の自称地球防衛艦隊まで攻めてきても、そのときは銀河通商も動くはず。時間は私たちの味方よ」


 その通りではある。

 しかし、現状を打破しないと子作り子育ては難しい。

 口には出さずに悩みを共有する俺たち夫婦を見て、ベリルが不思議そうにしていた。

◆ BERYL FLEET

規模:2 防衛:3 遠征:4


◆ BERYL THE GREAT MK2

船体:3 / 跳躍:4 / 航続:4 / 装甲:2 / 居住:2 / 船倉:2 / 兵装:4


◆ CAT'S NEST MK2(4/4)

船体:4 / 跳躍:2 / 航続:4 / 装甲:4 / 居住:2 / 船倉:4 / 兵装:1


◆ CAT CLAW *5

船体:1 / 跳躍:2 / 航続:1 / 装甲:2 / 居住:0 / 船倉:0 / 兵装:2


◆ CAT CLAW CUSTOM *1

船体:1 / 跳躍:3 / 航続:1 / 装甲:2 / 居住:0 / 船倉:0 / 兵装:2


◆ BERYL THE GREAT

船体:1 / 跳躍:3 / 航続:1 / 装甲:0 / 居住:0 / 船倉:0 / 兵装:4



◆ CREW

ベリル  |船長Lv2 [借金Lv3]

サル   |操縦Lv4 [疲労Lv1]

ブルネット|射撃Lv2 [事務Lv2]

キン   |白兵Lv2 [整備Lv2]

妹猫耳ズ |白兵Lv1 [整備Lv1]

新人船長ズ|船長Lv1 [猫語Lv1]

猫耳の下僕|操縦Lv2 [信仰Lv2]


◆ CREW IN TRAINING

母猫耳ズ |学生Lv1 [衰弱Lv2]


◆ GUEST

スッス  |操縦Lv2 [医療Lv1]


◆ CAN BE PRODUCED

装甲:2


◆ BERYL HOME PORT(3/3)

権利:1 / 規模:1 / 装甲:0 / 修理:0 / 居住:1 / 備蓄:0 / 兵装:1

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