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地球人に人権がない銀河で、零細猫耳社長にスカウトされました ~生体パーツ扱いのどん底から操縦チートと拿捕ビジネスで成り上がる~  作者: 星灯ゆらり
第2章 港・信用・拠点

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33.救難信号は『にゃー』

 土地(小惑星)は借地(租借権10年)。

 家(母港)は派手な色使いの違法建築風(材料は元海賊船)。

 銀河基準では、ド辺境の家族経営な住宅商店一体型建築物にあたる宇宙建造物。


 そんな母港が、どうやら地球人に衝撃を与えたらしい。


「おっちゃん! 今日あったおっちゃんとどーきょーの人、めちゃくちゃおうちを意識してたにゃ!」


 猫耳幼児が猫耳をぴこぴこ動かしながら報告してくる。

 俺は真面目に聞くだけでなく、分かりやすく大きく頷き、表情豊かな猫耳幼児とできるだけ目の高さをあわせる。


「あなたがそこまで言うということは、相当ですね」


「そうにゃ! やっぱおうちはすげーにゃ!」


 尻尾も上機嫌で、ぴんと立って猫耳幼児の頭の後ろで揺れていた。


「今日もお疲れ様でした。後は、報告書ですね」


「に゛ゃっ……」


「下僕に手伝わせるのはいいですが、主体となって書くのは船長であるあなたです。あと少しだけ頑張ってくださいね」


「に゛ゃぁ……」


 肩を落とし、尻尾から力が抜けた状態でとぼとぼ立ち去る新人船長。

 俺に一礼した下僕が、事情を知らない者が見れば『高貴なお嬢様に仕える女性執事』にしか見えない態度で新人船長についていった。


『サルおめー、ガキどもどう育てるつもりにゃ? このままだとすげー調子にのるにゃ?』


 母港の拡張工事で忙しく働いているキンから通信が届く。

 一緒に映っている場所は、どうやら艦載機の離着艦施設のようだ。

 地表の基地や空母と比べても大規模で、滑走路にあたる場所は宇宙海賊が塗装したときのままの極彩色だ。


「船長なんですから、多少押し出しが強い方がいいと思いまして。必要以上に傲慢になるようなら注意しますよ」


『サルは自覚しているより猫耳に甘すぎるにゃ』


 休憩時間が終わったキンは、俺に対して手をひらひらさせてから仕事に戻る。

 パワードスーツありとはいえ、巨大なパーツを危なげなく運んで静かに配置する仕事ぶりには安心感がある。


『最低でもふたりがかりで運ぶにゃ! にゃーの真似はふたりがかりで完璧にできるようになってからにゃ!』


『『『にゃっ!』』』


 並行して整備班の猫耳幼児の様子をしっかり見た上で指示も出している。

 相変わらず、仕事中と私生活の落差が激しい猫耳だ。


「サルさん。シミュレーターにつきあって欲しいと言ってきている子たちがいるのだけど、今、余裕はあるかしら?」


 隣の席というには距離が近すぎるブルネットが聞いてくる。

 先程の面談の際も、もちろんこの距離だ。


「少し待ってください」


 AIに管理させている予定表とメールボックス(に相当するもの)を呼び出すと、今から2時間ほど、下僕連中からの宗教勧誘じみた誘いしかない状況だった。


「ブルネットに時間の余裕があれば一緒に過ごしたいですね」


「……私も同感だけど、お医者さまを迎える準備があるから」


 歯ぎしりしそうな表情が一瞬見えた気がした。


「では、一旦ベリル号から母港へ……」


 違和感に満たない、うっすらした感覚が俺の頬を撫でた。

 それに俺より早く気づいたブルネットが厳しい表情になる。


「ベリルちゃん、母港と周辺宙域に異常はない?」


『お姉ちゃん!? 特に連絡は……』


 ブルネットとベリルの情報交換を聞きながら、俺は自分のやるべきことを考える。


「社長。ベリル号を発進させます。……ふたりとも、下船許可を取り消します。至急艦橋に移動して席についてください」


『にゃっ!』


『承知しました』


 新人船長と下僕のコンビが、宇宙服を着込んだまま船内を逆走する。

 俺は並行して発進作業を進めている。


 母港を含めて周辺の人間に発進することと発進の方向を知らせ、船内のエネルギーをエンジンへ回していく。


『お姉ちゃん、船長代理をお願い。サルくんが無茶しそうになったら止め……6番機との通信が途絶!?』


 ベリルの声に悲鳴が交じった。


「サルさん」


「緊急発進します。加速度が加速度ですので慣性制御は最初から最大でいきます」


 俺がブルネットに伝えている間に、全力で走って戻ってきた新人船長が予備席に飛び乗る。

 わずかに遅れてたどり着いた下僕が、疲労で息を荒らげながら新人船長の様子を確認してから自分も席についた。


「こちらベリル号。緊急発進します」


 通信の対象は星系全体だ。

 何故なら、これからアホみたいな速度で飛ぶからだ。


『サルくん、6番機が違法採掘船との交戦中に操縦に失敗。独力での帰還が不可能な速度で星系外へ飛び出した。今から30秒前だよ』


「直ちに救助へ向かいます。派手にエネルギーを使いますから、補給の準備をしておいてください」


『うん。気をつけて』


 ベリル社長は、危険極まりない状況を正しく認識した上で、俺を信頼して任せてくれた。


「発進します」


 母港から十分離れるまでが亜光速。

 そこから光速の10倍、100倍と加速度的に加速し、そして一気に速度を上げて光速の千倍を超えるまで加速する。


「エネルギー残量83パーセント。……この船でもエネルギーが不足するのね」


「普段しないレベルの加速をしていますからね。みなさん、体調に異常があれば即座に報告してください」


 下僕は顔が真っ青だが叫んだりはしていない。

 新人船長は、最初に海を見たときのように、目を見開いて『何か』を凝視していた。


「サルさん。……気をつけて」


「ええ」


 心配そうなブルネットに頷く。

 口に出しては言いたくないことだが、二重遭難するくらいなら6番機に乗っている新人船長と下僕を諦めるつもりだ。

 最後まで諦めるつもりはないがな。


「一度追い抜いてから位置を特定。その後、トラクタービームで受け止めます。一度ミスしてももう一度挑戦可能……のはずです」


 再チャレンジはかなり危険だがぎりぎりいけるはずだ。

 俺は心を落ち着け、感覚を研ぎ澄ませる。


 この速度だと非常に薄い気体でも危険で、しかも超広範囲を『見』ないと危ないので負担が大きい。


 額から流れた汗が目に入る。

 ブルネットが素早く汗を拭いてくれる。

 頭も多少痛むが疲労がそれ以上にすさまじく、しかし救助対象はどこにも見つからない。


『にゃっ、にゃっ、にゃっ、にゃー、にゃー、にゃー』


 気の抜けた声が聞こえた気がした。

 内容が内容なので幻聴かどうか区別できない。


『にゃっ、にゃっ、にゃっ! にゃー! にゃー! にゃーっ!』


 よく考えると、俺が雑談で教えた救難信号だった。


「……あなた、私にも小さいけれど聞こえたわ」


 ブルネットが『なにこれ?』という表情で困惑している。


「行きましょう。ただの偶然でも火事場のクソ力で新しい力に目覚めたのでも、助けることができれば問題ありません」


 俺は、救助対象の位置と速度と向きを予想しながらベリル号を近づけていく。

 最初はAIに補正されても途切れ途切れにしか聞こえなかったSOSが急速にはっきりしていき、その数秒後には位置と速度と向きを示すデータまで届けられる。


「エネルギー切れになるのを覚悟の上で全力発信ですか。判断もいいし思い切りもいい」


「サルさんを信頼しているからよ。必ず助けてくれるって」


「信頼には答えないといけませんね」


 俺は超光速での移動は得意だが、亜光速以下の操縦はせいぜい並程度だ。

 ここまで飛んできて猫の爪号6番機を見つけるよりも、トラクタービームの射程内まで衝突せず近づく方が、圧倒的に疲れた。


『おっちゃんっ!』


『助かりました……』


 はしゃぐ新人船長と、下僕らしくない弱音を吐く下僕の声が聞こえる。

 俺は、安堵と同時に大きな疲労を感じ、トラクタービームの操作をブルネットに任せて、数秒だけ休息をとるのだった。



  ☆



 新人船長ふたりが興奮しきってにゃあにゃあ鳴いている。

 俺にとっては珍しいだけの速度(光速の千倍以上)が、よほど印象的だったらしい。


「サルさん。エネルギー残量は35パーセントよ」


 ブルネットは一見いつも通りに見えるが、俺の目には焦っているのが分かる。


「十分です」


 ブルネットがトラクタービームで捕まえた猫の爪号6番機は、エネルギーが尽きる寸前ではあるが他に問題はない。


「20パーセントもあれば母港まで戻れますよ。多少時間はかかりますけどね」


 超光速でも物理法則は健在だ。

 加速にも減速にもエネルギーが必要で、宇宙は大気圏と違って大気がないので勝手に減速はしない。

 既にどの『帰路』が安全かは分かっている。

 救出対象がどう加速してどこにいるか分からなかった最初の状況と比べれば、超イージーモードといえる。


「おっちゃん、マジですごかったんだ……」


『おっちゃん、マジですごかったんだ……』


 肉声と通信越しの声が、ほとんど同時に重なる。

 新人船長ふたりの尊敬の視線に喜ぶべきか、既に船長になっているのに俺の能力を把握できていなかったことを嘆くべきか、俺には分からない。


「ベリル社長からベリル号の操縦を任されるくらいですからね。それより、席についてベルトをつけてください。万一に備えるのも大事ですよ」


「はいっ!」


『はいっ!』


 元気な返事は頼もしい。

 俺は綻びそうになる表情を意識して抑え、進路変更と母港への加速を開始する。


「俺に責める意図はないと理解した上で聞いてください。6番機が星系外に飛び出した理由は分かりますか?」


『海賊たおしたにゃ! ちきゅーのふね守ったにゃ!』


 6番機の船長が、通信越しに誇らしげに言う。

 そのおつきの下僕が、そのときの状況をまとめたデータをベリル号に送信してくれた。


 武装した違法採掘船から地球人の採掘船を守っただけでなく、犯人の船に粘着弾を多量に撃ち込んで行動不能にしたようだ。

 しかし戦闘に夢中になりすぎて速度を出しすぎ、新人船長から操縦を引き継いだ下僕でも立て直せず事故発生という流れらしい。


『申し訳ありません。責任はパイロットである私にあります』


『めーれーしたのはあたしにゃっ!』


「はい。ふたりとも反省してくださいね。報告書は特に詳細に書く必要があるでしょうから、母港へ帰った後は頑張ってください」


『はい』


『にゃぁ……』


 新人船長は、SOSを繰り返していたときより、報告書を考えている今のほうが追い詰められた顔をしていた。



  ☆



「そろそろ母港が見えてきますよ」


「サルさん。超光速通信網との接続が回復したわ。ベリル号が出撃した後に、銀河通商から直接の問い合わせが来ているようよ」


「直接、ですか?」


 俺が首を傾げた直後、銀河通商船籍の船から通信要求が届いた。

 自力センサーには敵の反応はなく、6番機が戦闘不能に陥らせた海賊船は、他の猫の爪号により母港へ曳航中だ。

 これらなら会話する余裕もあると判断して、俺はブルネットに通信を繋げるようお願いした。


『ずるいっす!』


 年齢的に中高生の見た目の光翼人間が、猛烈な勢いで光翼を『ぱたぱた』させている。


『ハイレベルパイロットの救助がある状態で実戦? しかも専用機!? 立場を交換して欲しいっす!』


『にゃっ!? にゃっ!』


 6番機の新人船長が俺の頭越しに話す。

 珍しく年上ぶって新人船長が注意すると、光翼人間の光翼が完全に停止した。


『あ、やべ、通信先間違ってたっす……』


 ぎぎぎと音がしそうな低速で俺を見る。

 俺は軽く咳払いする。


「一度通信をかけ直しますか?」


『いえ、このままお話させてくださいっす。……猿谷さん、無事っすか? ぐだぐだでほんとすみません。こっちも仕事なんで一応確認する必要があるんっす』


 もともと腰が低い光翼人間だが、今は平身低頭しそうな勢いだ。


「おかげさまで、俺も含めて無事です。……ずいぶんと仲良くして頂いているようで」


 皮肉に聞こえたかもしれないが、俺としては非常に喜ばしい展開だ。

 新人船長がベリル運送の外と交友関係を持つのも良いことだし、銀河通商第7営業艦隊の上層以外にコネができるのも素晴らしい。


『いやー、どっちかって言うと自分がお世話になってるっす。間接的でもハイレベルパイロットとお近づきになるっての、他だとほんと無理っすし』


「あなた。お医者さまの件」


 ブルネットが、相手に失礼にならない音量とタイミングで俺に囁く。

 事務班のトップであるブルネットが母港に不在という状況はまずい。

 俺は軽く頷き、光翼人間パイロットに別れの言葉を告げようとした。


『それたぶん自分のことっす! あの方が世話役してる第7営業艦隊では閑職っすけど、自分、パイロットと医者の両方のライセンス持ってるっす! つーか、自分以外だと呼び寄せるのに時間がかかりすぎるっす!』


 本人が胸を張り、光翼が得意げに広がる。


「それは凄い」


 どちらひとつでもなるのは大変だろうに、両方か。

 ブルネットは表情こそ変えないが、明らかに油断のない目つきで光翼人間パイロットを観察している。


『ところで猿谷さん。今、個人的な話、いいっすか?』


 口調は変わらず、目の光と光翼の輝きが変わった。

 中高生の見た目と、長い時をかけて練磨された人材の気配が、奇妙なほど調和している。


『自分、ハイレベルパイロットになるために第7に志願したっす。ハイレベルパイロットになるためなら、一族を裏切ること以外ならなんでもやる覚悟っす』


『そいつ、ともだち!』


 6番機の新人船長が即座に断言する。

 言葉は短くても、確信の強さと『そいつが裏切ったら己が責任をとる』覚悟まで感じる。


 一瞬、ベリル運送にスパイを送り込むための演技かとも疑ったが、上位存在な光翼人間も含めて、思考と感情が光翼に出る連中を疑っても無意味だと判断した。

 ベリル運送と光翼人間全体では、そもそも力の差がありすぎるしな。


「あくまで仮定の話ですが、転職とかも?」


『いいんっすか!』


 光翼がテンション高く上下して、『べきっ』と音を立てて席にぶつかり光翼人間本人が悶絶した。


「あなた」


 ブルネットが目配せしてくる。

 そのまま話を進めるべきというサインだ。


「詳しい話は母港でしましょう」


「母港へ招く初めてのお客様ね」


『猿谷さん、いえ、先輩! それと奥方さま! よろしくお願いするっす!』


 勢いよく頭を下げ、再び翼をぶつけてしまって今度は痙攣を始めていた。

◆ BERYL FLEET

規模:2 防衛:3 遠征:4


◆ BERYL THE GREAT MK2

船体:3 / 跳躍:4 / 航続:4 / 装甲:2 / 居住:2 / 船倉:2 / 兵装:4


◆ CAT'S NEST MK2(4/4)

船体:4 / 跳躍:2 / 航続:4 / 装甲:4 / 居住:2 / 船倉:4 / 兵装:1


◆ CAT CLAW *5

船体:1 / 跳躍:2 / 航続:1 / 装甲:2 / 居住:0 / 船倉:0 / 兵装:2


◆ CAT CLAW CUSTOM *1

船体:1 / 跳躍:3 / 航続:1 / 装甲:2 / 居住:0 / 船倉:0 / 兵装:2



◆ CREW

ベリル  |船長Lv2 [借金Lv2]

サル   |操縦Lv4 [疲労Lv3]

ブルネット|射撃Lv2 [事務Lv2]

キン   |白兵Lv2 [整備Lv2]

妹猫耳ズ |白兵Lv1 [整備Lv1]

新人船長ズ|船長Lv1 [猫語Lv1]

猫耳の下僕|操縦Lv2 [信仰Lv2]


◆ CREW IN TRAINING

母猫耳ズ |学生Lv1 [衰弱Lv2]


◆ GUEST

光翼人間 |操縦Lv2 [医療Lv1]


◆ CAN BE PRODUCED

装甲:2


◆ BERYL HOME PORT(2/2)

権利:1 / 規模:1 / 装甲:0 / 修理:0 / 居住:1 / 備蓄:1 / 兵装:1

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― 新着の感想 ―
ブルネットさんの女の目があんまり鋭くなってない… 光翼人間は仲間の猫耳さんとは扱いが違うのかな
なんて緊迫感のないモールスニャン号(笑)
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