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地球人に人権がない銀河で、零細猫耳社長にスカウトされました ~生体パーツ扱いのどん底から操縦チートと拿捕ビジネスで成り上がる~  作者: 星灯ゆらり
第2章 港・信用・拠点

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31.母港生活のはじまり

 カイパーベルトで採掘された氷が、水素と酸素に分解されていく。

 どちらも使い道はあるが、今重要なのは酸素だ。

 既に用意されていた窒素に混ぜられた上で、相変わらず違法建築じみた形と色をした母港に注入されていく。


『空気の漏れを見逃すんじゃねーにゃ!』


『『『にゃっ!』』』


 母港の中と外でパワードスーツを着た猫耳たちが動いている。

 いつもは工具やパーツを運んでいる手に持っているのは、応急修理用のペーストと小さな探知機だ。


『にゃぁっ!?』


『慌てるんじゃねーにゃ。漏れてる場所が特定できれば十分。まだ人は住んでないし空気はたっぷり用意してるにゃ』


 一転して穏やかに語りかけるキンに、整備班の猫耳幼児たちは落ち着きを取り戻す。

 そして、母港のあちこちから空気漏れの報告が届き始めた。


「いやあ、豪快ですね」


 俺は本心から感心する。

 元ISSまで使い続けてなんとかやりくしている地球人艦隊と比べると、ベリル運送の母港建設工事は非常に順調だ。


『サル! 笑いごとじゃねーにゃ! おめーのガキもここで育つことになるにゃ!』


「ええ。ですから徹底的に不具合を洗い出してください。俺の出身地でも、一度住み始めると大規模な改装は面倒でした。調べるのも改造も今のうちにしてしまいましょう」


『おめーがそう言うってことは、地表の暮らしも宇宙とそう変わらねーのかもにゃ。……そこ、遊ぶんじゃねーにゃ!』


 最近のキンは戦闘していない。

 しかし、作業をしくじったりペーストを塗っているうちに遊びだした猫耳幼児のもとまで跳ぶ早さと正確さを見る限りでは、その実力に衰えはないようだ。


「あなた。見ていて楽しい?」


 まだ熱い麦茶のカップを、ブルネットが運んできてくれる。

 俺たちがいるのはベリル号だ。

 母港にはまだ与圧区画は存在しないし、迎撃体制も十分とはいえない。

 だから宇宙船による警護が不可欠なのだ。


「もちろんです。俺に体力があれば工事に参加したのですが」


 ゼロから基地を作るのには、非常に強いロマンを感じる。


「サルさん?」


 ブルネットが、我が儘を言う猫耳幼児に接するときと同じ顔になる。


「うっす」


 口調が乱れてしまうほど落胆し、俺は星系外縁から外側を『見』ながら、ちびちびと麦茶を飲み始めた。


「おわんにゃーい」


 ベリルの口調も乱れている。

 今は時間に余裕があるから優先度の低い案件をまとめて処理しているんだが、その量が多すぎるのだ。


「おねーちゃーん。脳に直接知識を焼き付けようと思うんだけど。官僚系のやつ」


 銀の猫耳が『うんざり』を全力で表現している。


「先に治療でしょう? 来月にお医者さまが来られるのだから、そのときに相談しなさい」


「はーい」


 俺がスカウトされる前は、いつもこんなやり取りをしていたのかもしれない。


「けど平和だよねー。このまま母港を完成させて、家族を増や……うにゅ」


 ベリルが俺を見て、ブルネットを見て、作業中の画面とキーボードに視線を戻した。

 ブルネットは笑顔だが、妙に迫力があってちょっと怖い。


「母港として機能する意味での完成は今日中かもしれませんね。ただ、敵に対する迎撃能力という面では、時間がかかるかもしれません」


「サルさん、そうなの? このまま猫の爪号を増やしていけば十分と思っていたのだけど。……下僕になりたがる地球人も増えているようだし」


 ブルネットは、地球からの通信文の一部に、心底嫌そうな目を向けた。


「少し前に、海賊相手にアホみたいに加速してから機関砲の弾を浴びせたじゃないですか。あれは艦隊に当てるのは面倒でも、母港みたいに動かない的に当てるのは比較的簡単なんです」


 ブルネットもベリルも一瞬で真剣になる。


「サルくん、襲撃、あると思う?」


「ベリル号がこの星系から離れたタイミングで、確実にあります。舐められたままだと商売がうまくいかないのは、我々ベリル運送も海賊も同じのはずです」


「うにゃぁ……。サルくんがもうひとりいればなぁ……」


「弟とか妹でもいればこっちに引きずり込んだんですけどね。俺はひとりっ子で親戚づきあいも薄いので、信用できるツテがないんですよ」


「才能を持っている可能性があっても、信用できるかどうか分からないのは問題ね」


 ブルネットの手により、銀河通商との細々した取り引きや、地球人の艦隊との取り引きなど、確認は必要だが高度な判断は不要な案件が超高速で処理されていく。

 暇になったベリルが自分で麦茶を運んできて、熱すぎてふうふう吹いている。


 ブルネットの仕事ぶりにも意識を向けていた俺は、ふと気づく。

 少しはあるはずの情報が『ない』。


「ブルネット。お子様たちの母親たちの報告はないのですか? 便りがないのは良い便り、なら良いのですが」


「ちょっとサルくん!」


 ベリルが焦っているが、今だけは無視だ。

 俺のブルネットが、嫉妬で暴力を振るうわけがないだろう!


「ふふ。そうね。サルさんが浮気なんてするわけないものね」


 笑顔なのに怖さが消えないので、仕事が終わった後はいつも以上にリクエストに応えようと思った。



  ☆



 母猫耳たちの学習状況は最悪だ。

 集中力が続かない、前提となる知識が足りない、学習の習慣がまったくないからまずそこから。

 本人たちにやる気があるのに、これが現状だ。


「お子様たちの方が教育水準も習得速度も上とは……」


 予想以上の惨状に、俺は腹に痛みを感じてしまう。


「下僕さんたちも頑張っているんだけど、あの子たちを教えるときと比べて気合いが足りないんだよね」


「通商に依頼すれば猫の爪号単位の授業料が必要な内容ではあるの。気合いは足りないけれど」


 俺が授業内容を確認してみると、最初は社会人経由の大学生向けだった内容が、高校生向け、中学生向け、そもそも教育も躾も受けていない人間向けに急速に変わっていった感じだった。

 猫耳幼児の面倒を見つつ猫の爪号の操縦を担当もしつつこれもやってるんだから、下僕連中が有能かつ勤勉であるのは間違いない。


「とりあえず、連中の手当は増やさないとまずいのでは? 仕事はしてますし」


 中継映像を映した画面には、見た目は大学生あたりの母猫耳が、算数レベルの教材相手に苦戦する姿が映っている。

 それに根気よく付き合う下僕と、ときどき顔を出して遊んでいく猫耳幼児の姿もある。


「下僕さんたちは趣味でやってるって言い張ってるから面倒なの。サルくん、説得お願いしていい?」


「俺だって面倒ですよ。連中、俺に宗教勧誘だか洗脳だか分からないこと言ってくるんですよ?」


 低レベルな押し付け合いをしているうちに、キンから通信が届いた。


『おめーら! できたにゃ! はやく来るにゃっ!』


 普段は荒っぽくても芯の部分では冷静なキンが、猫耳を前向きに立て、尻尾も高々と上げている。


 母港完成の知らせに、俺たちは自然と表情をほころばせる。

 装甲も迎撃能力も艦載機運用能力も上を見ればきりがない。

 それでも、ベリル運送の猫耳が自由に暮らせる空間が、宇宙船の外にもできた意味は非常に大きい。


「行きましょう、あなた」


 猫の爪号に乗る下僕たちに外部への警戒を任せ、俺と猫耳たちは大急ぎで母港へ向かうのだった。



 ☆



 そこには重力があった。

 豊富な空気があった。

 広々とした空間があった。


 最後の空間に関しては、ありすぎて見上げる首が痛い。


「今日からここが、僕らの母港だよ!」


 宇宙服を脱いだベリルの宣言に、猫耳たち全員が沸き立った。


「「「にゃっ! にゃっ!」」」


「「「本当に、ここに住んでいいの?」」」


 無邪気に駆け回る猫耳幼児たちと、自分たちの立場の激変に対応しきれない母猫耳たちが対照的だ。

 なお、猫耳幼児たちは、垂直に近い壁を器用によじ登って天井近く壁の凹みを占領したり、猫耳ではなく犬っぽく走り回っていたりと、本当に好き勝手している。


「部屋割りはどうするにゃ?」


「ベリル社長が一番上であることが全員に分かるようにお願いします。緊急時の出撃や退避も重要ですが、この3人以外の成人猫耳の反応に不安があります」


 自力センサーが敵意を捉えるほどではないが、ベリル社長を頂点と認識している猫耳幼児と比べると不安がある。

 別に彼女たちに悪意があると疑っているわけじゃない。

 超光速戦闘が当たり前なこの銀河では、緊急時には即座に一丸となって動かなければ負けて死ぬのが現実だからだ。


「あなた。警戒しすぎると不信感を煽ることになりかねないわ」


 ブルネットも俺も、ここにいるメンバーにだけ聞こえるよう喋っている。

 一番目立つ場所にいるベリルとは距離が離れているので、まだベリルには伝わっていない。


「多少の不信感より緊急時の安全を優先したいです。俺が嫌われ役になっても構いません」


「分かったわ!」


 ブルネットの回答が早くそして力強い。

 キンが『マジかよこいつ。そこまで男をとられるのが嫌か』という目を、ブルネットへ向けていた。


「「「おっちゃーん!」」」


 パワードスーツ姿の猫耳幼児たちが自動調理器を運んでくる。

 海賊船から略奪したものではなく、銀河通商製の高いやつだ。


「「「あれ作って!」」」


 運ぶ際は揺らさず、床に取り付ける際は手際よい。

 この猫耳幼児たちが整備班で真面目に働き技術も身につけているのがよく分かる。


「あれと言われても何か分かりませんよ。まあ、今日は何でも作りますよ。母港の初日ですからね」


 興奮している猫耳幼児たちに詳しく聞いてみると、俺に作らせたいのは地球で食べた肉らしかった。


「おめーら、そりゃいくらなんでも無理と思うにゃ。狩った肉を料理して食うなんて、特権階級の金のかかる遊びにゃ?」


「味だけで良いならなんとかなると思います。ただ、狩りの興奮とかは再現できませんよ?」


 銀河通商の製品は高価だが、信頼性は高く性能もそこそこ良い。

 俺は、料理ではなく食材を生産するためのメニューを開く。


「いい肉が作れますね。……カートリッジ1本、いくらするんです?」


「コンテナ単位で買って割り引きされてるけどつれーにゃ」


「安全を考えると他に選択肢が、ね」


「「「おっちゃん、はやくっ!」」」


「はいはい。キンさん、網と台あります?」


「これを使うにゃ。火は炭を作るにゃ?」


「そこまで凝らなくてもいいでしょう」


 俺は自動調理器で高品質猪肉を量産する。

 変化に富んだジビエなあれとは違うが、味も舌触りも、少なくとも俺はこちらの方が好みだ。

 ついでに、塩胡椒やタレも生産してせっせと肉に味をつけていく。


 キンも猫耳幼児たちも、俺の実家で肉を焼いた経験がある。

 嬉々として俺を手伝い、網に並んだ肉に対して大型レーザー銃を使って焼き始めた。


「これは、酒が欲しくなりますね」


 脂が焼けた白い煙が、広大な空間に焼肉の匂いを広げる。

 換気装置が稼働を始めるが、焼肉の匂いは濃くなるばかりだ。


 いつの間にか広大な空間には換気の音しか聞こえなくなり、猫耳たちが食欲に支配された目をこちらに向ける。

 調理中のキンや猫耳幼児たちも目が妖しい。

 辛うじてブルネットだけが、俺を気遣う気配『も』ある。


「全員腹一杯食べても余ります! 人を押しのけようとしないでください! 全員分以上あります!」


 猫耳全員が一歩前進する。

 俺の全身に冷や汗が浮かぶ。


 焼肉という戦いは、翌日の早朝まで続いた。



  ☆



「腕が上がりません」


「最初から皆に手伝わせれば良かったにゃ」


「皆さん、俺の話を聞いてくれるようになったのは日付が変わってからでしょう。ブルネットも落ち着くまで時間がかかりましたし」


「あなた。不意打ちであんな匂いを嗅がされたら、猫耳はみなああなってしまうわ」


 少しすねた感じのブルネットも可愛い。

 それはそれとして、全身が筋肉痛で痛い。


「昨日は食べすぎちゃった」


 床に敷いたマットの上で熟睡中だったベリルが、一瞬で目を覚まして起き上がる。

 かなり食べたはずなのに、胃もたれの気配は皆無だ。


「毎日あんな食事ができるようになりたいよね」


「毎日は多すぎるにゃ。でも、毎日できる財力は欲しいにゃ。母港の迎撃能力が完成次第、拿捕ビジネスを再開するにゃ!」


「拿捕ビジネスは美味しいですが、拿捕ビジネスだけだと怖くもあります。地球人の艦隊と組んでの採掘もいいですが、もうひとつ何か良い事業がないですかね?」


 ブルネットに湿布を貼ってもらいながら、俺は本音でもある願望を口にした。


「自動調理器みたいに、材料を入れたら製品が出てくるような装備があればいいんだけど」


「ベリル。にゃーもそんなのがあったらいいと思うけど、夢は夢にゃ。今は現実的な話をするにゃ」


『いえ、ありますよ』


 相変わらず唐突に、盗聴していたことを隠しもしない星系管制との通信が繋がる。


『そこに自動調理器がありますよね? それって正式名称はデュプリケーターでして、材料とエネルギーさえあれば、食料や簡単な工業製品を量産できるんですよ』


 地球のいわゆるエネルギードリンクを飲みながら、星系管制は疲れた顔で言う。


『まあ、登録済みの製品しか作れないとか、本社が許可出さないとデータ化されないとかの制限はありますけどね。……こちらから売れる製品データのカタログは送りますから、是非買ってください』


 疲れた笑顔と共に送られてきたデータは、どれも非常にお高い。

 しかしベリルは興味を示す。


「むむむ。大量生産するならもとがとれるのかな?」


『はい。僻地での作戦では、装甲とかの消耗品とかを登録して持っていくのが基本の使い方です。今のベリル運送さんなら、最下級よりひとつ上のグレードの装甲のデータなら購入可能だと思います』


 提示された額は、ベリル運送が持つ現金すべてが消えた上で少しの借金が残るほど巨額だ。


「これがあれば、カイパーベルトで採れた資源から装甲を量産できるわけですか」


 俺は思わずうなる。

 まだゼロに等しい母港の装甲のことを思うと、俺の個人資産を使ってでも欲しくなる。


「装甲をニコイチやサンコイチでリサイクルしなくてもよくなるのにゃ!? こりゃすげえにゃっ!」


 キンは興奮している。


『今なら私の権限で2割引です! 他のデータもどんどん買って、第7営業艦隊の売上に貢献してくださいね!』


 購入する前に、盗聴の賠償金請求から始めようと思った。

◆ BERYL FLEET

規模:2 防衛:3 遠征:4


◆ BERYL THE GREAT MK2

船体:3 / 跳躍:4 / 航続:4 / 装甲:2 / 居住:2 / 船倉:2 / 兵装:4


◆ CAT'S NEST MK2(4/4)

船体:4 / 跳躍:2 / 航続:4 / 装甲:4 / 居住:2 / 船倉:4 / 兵装:1


◆ CAT CLAW *5

船体:1 / 跳躍:2 / 航続:1 / 装甲:2 / 居住:0 / 船倉:0 / 兵装:2


◆ CREW

ベリル  |船長Lv2 [財産Lv5]

サル   |操縦Lv4 [疲労Lv2]

ブルネット|射撃Lv2 [事務Lv2]

キン   |白兵Lv2 [整備Lv2]

妹猫耳ズ |白兵Lv1 [整備Lv1]

新人船長ズ|船長Lv1 [猫語Lv1]

猫耳の下僕|操縦Lv2 [信仰Lv2]


◆ CREW IN TRAINING

母猫耳ズ |学生Lv1 [衰弱Lv2]


◆ SALVAGED ASSETS

船体:0 / 跳躍:1 / 航続:0 / 装甲:3 / 居住:0 / 船倉:2 / 兵装:1


◆ BERYL HOME PORT(1/1)

権利:1 / 規模:1 / 装甲:0 / 修理:0 / 居住:1 / 備蓄:0 / 兵装:1

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