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地球人に人権がない銀河で、零細猫耳社長にスカウトされました ~生体パーツ扱いのどん底から操縦チートと拿捕ビジネスで成り上がる~  作者: 星灯ゆらり
第2章 港・信用・拠点

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29.掴んだ手がかり

『気密の確認は最後でいいにゃ! 一気に超光速まで加速してもぶっ壊れないくらい頑丈にするのが最優先にゃ! 機械の自己診断だけじゃなく、絶対に自分の目で確かめろにゃ!』


 空気も重力もない建設中の母港の中で、新しい宇宙戦闘機が2機、急速に組み上げられていく。

 外見は、宇宙海賊襲来前の地球の戦闘機に似ている。

 翼があって、エンジンがあって、兵器がある。

 ベリル運送にとっての伝統的デザインだ。


『『『にゃっ!?』』』


『退避にゃ! ……よし、確認して問題なし! 念のため別の部品を使うにゃ!』


『『『あい!』』』


 十分な栄養をとった猫耳の身体能力は極めて高い。

 脳に焼き付けた整備知識を日々の仕事と訓練で磨いたキンを中心に、パワードスーツを着込んだ猫耳幼児たちがすごい勢いでパーツを運び、パーツを繋げ、状態を確認する。


 そんな光景を、俺はいつでも出撃できる状態のベリル号で見ている。


「サル様、こちらを」


 自称猫耳の下僕の地球人女性が、1つのデータチップを渡してくる。

 俺は直接は受け取らない。

 不貞の可能性がゼロであることを示すために、同席しているブルネットが受け取り中身を確認してから、ブルネットから受け取るのだ。


 俺はふたりに礼を言い、超光速通信網にも船内の通信網にも繋がる機能を持たないタブレットにチップを差し込んだ。


「これで対策は完了か」


 猫耳幼児の目も耳もないので、俺の口調は本来の口調に戻っている。


「いいえ、あくまで応急の対策です。ベリル運送の宇宙船に乗っている限り、外部からの情報すべてが低刺激になるよう自動で修正されます。以前に行われた映像と音声による攻撃は防御可能ですが、それ以外の攻撃への対処は万全ではありません」


 下僕を自称し下僕として振る舞ってはいても、中身は素質でも能力でも優れたエリートだ。

 この銀河の技術と知識を学び、その一部を身につけている。


「最大の問題は地球産の娯楽作品にも修正が行われることです。修正前を知っている我が主から、対策の取りやめを強く命じられているため、我々の総力をあげて対策の改善を研究中です」


 下僕は真剣だ。

 猫耳幼児への奉仕に常に全力だ。


「黙ってちょうだい」


 ブルネットの顔にも声にも、限りなく殺意に近い怒りが滲んでいた。


 頭を下げて沈黙する下僕と、深呼吸して冷静さを取り戻そうとするブルネットの近くで、俺はタブレットを操作し続ける。

 表示されているのは『対策』だけではないのだ。


「結構、するな」


 猫耳の予想治療費が予想以上に高額だった。

 幼少時から食を改善しても、これか。

 俺の表情とタブレットの表示を見たブルネットが、こほんと咳払いをする。


「あなた。あの子たちの治療費はあの子たち自身に払わせるべきよ。パワードスーツと高性能宇宙船のシミュレーターは、血のつながりのない相手に対する贈り物としては過剰よ」


 ブルネットは俺を責めるためではなく、俺を気遣うために口にしてくれた。

 俺は気遣いへの感謝を示すために深く頷き、態度もベリル運送での『普通』に切り替えた。


「はい。贈り物としてはその通りです。……実は他にも狙いがあるんです」


 言い訳ではない。

 猫耳幼児たちに情が移ったのは事実だが、それより大きな、切実な理由がある。


「俺たちの子は地球系猫耳になります。猫耳のこの銀河での立場は人間の中で最底辺である以上、俺たちの子の身内となるベリル運送の猫耳には、可能な限り能力と社会的地位を上げてもらう必要があります」


 下僕の体が少しだけ動いた。

 敵意は感じない。

 俺の真意を探り、自らの目的にどう活かすか考えているのかもしれない。


「あの子たちには聞かせられないわね。あの子たち、あなたのことを本当に慕っているのよ」


 ブルネットが少し苦笑する。

 孤児院時代から面倒を見ていた猫耳幼児たちを利用されることへの不快感と、将来生まれるかもしれない我が子がどのくらい優遇されているか知った満足感を比べると、後者の方が大きいのだろう。

 彼女は悪党ではないが、ベリルのような善人ではない。


「俺も善人ではありませんからね。善行と私益追求は基本的にセットですよ」


「あら。私益追求ならもっと安いパワードスーツとシミュレーターでよかったでしょう?」


「あの子たちが喜ぶのも俺の私益ですしね」


 からかうようなブルネットの言葉に、俺は本音で応える。

 下僕は、同類を見る目で俺を見上げている。


「仕事の話をしましょう。母港建設のために膨大な資金が必要で、建設後も大変ですが建設中は金稼ぎが特に滞ります。ですが、ベリル運送には最低ひとつ、自己所有の安全地帯が必要です。銀河通商から安全を買う場合でも、自己所有があるとないとで値段が大きく変わるでしょうから」


「安全な場所を作らないと、落ち着いて子育てはできないわ。だから私も母港建設に反対はしない。だけど、財政面での懸念はするわよ? 現時点で、租借権が10年というのも問題だわ」


「20年くらいじっくり育てたいですからね」


「猫耳だと10年でも過保護よ、サルさん」


 久しぶりに、ブルネットに呆れられてしまった。


「発言、よろしいでしょうか」


 許可を求めた下僕に、ブルネットが嫌そうな表情を隠せない。

 同族の子供に強烈な感情を向ける他種族の成人に対する態度は、これでも甘いくらいだ。


 ブルネットが本当にしぶしぶ頷き、俺が軽く頷くと、下僕は別のタブレットを取り出した。


「地球人の利用を提案いたします。ベリル運送による採掘では採算性が低いですが、安価で大量に使える労働力があれば話は変わります」


 同族であるはずの地球人に搾取労働を強いる、善人ではない俺でも『こいつマジか』と思う提案だった。


「銀河通商と揉めるのは嫌よ」


「ブルネット。通商はおそらく気にしません。連中にとって、地球人は人権がないんです」


 現状が把握できている地球人なら、使い潰されるような労働条件でも覚悟して契約する奴が多いはずだ。

 俺たちを怨んだ上で生き残ったら後が怖いから、常識的な危険と報酬になるような条件にしないとな。


「あなた、通商はそうかもしれないけど、地球人がこっちを巻き込んで何かを企むかもしれないわ。地球人があの惑星の所有権を主張したとき、銀河通商の実力行使に巻き込まれたらベリル運送は破滅よ?」


 その通りなので、俺は素直に誤りを認めた。


「奥様。お許し頂けるなら、地球人を利用する計画を立案可能です」


「既に立案済みなのでしょう。見せなさい。……本当に、性格の悪い」


 ブルネットは大きなため息を吐いた。

 俺も確認させてもらうと、フィクションに登場する侵略宇宙企業じみた計画内容だった。


「もう少し表面を取り繕った方がいいのでは? ベリル社長へ提出はしますから、内容をマイルドにしてください」


 結局、常識的な危険手当や報酬条件に変更された計画が、ベリルによって了承されることになる。


「下僕さんたちに交渉を任せるのは不安だよ。サルくんが交渉お願いね!」


「うっす」


 地球の超絶エリートと交渉するなんて絶対に嫌だが、ベリルには命の恩があるし、下僕たちの雇用継続を積極的に推しているという弱みもある。

 俺は、ストレスフルな仕事を、了承するしかなかった。



  ☆



「サルー! 5番機の初飛行に乗る気は……サルおめー大丈夫か?」


 キンが俺の頬をつんつんするが、俺に反応を返す余裕はない。

 立場としてはベリル運送が圧倒的有利でも、生まれや育ちや能力のすべてで争い、権力の座を勝ち取った超絶エリートとの交渉だった。

 本当に、疲れた。


「顔はしばらくしたらもとに戻ると思います。戻りますよね?」


「知らねーにゃ。その薄気味悪い作り笑い、早めに消しとかねーとガキどもが怯えるから早く治しとくにゃ」


「うっす」


 俺はのそのそとソファーから起き上がり、宇宙服を着込む。

 地球の宇宙服と比べれば薄手で負担も軽いが、機能は基本的に同じだ。


「地球の反応はどうです?」


「惑星地表はさっぱりにゃ。分かるのは、下僕どもがまた変なこと言って混乱させてることくらいにゃ」


「あいつらまたやらかしたんですか」


 比喩的な意味でも実際にも頭が痛い。

 俺があいつらを信用しているのは、能力の高さと『猫耳幼児には害を与えない』こと限定だ。

 それ以外は信頼も信用もしていない。


「いつものことにゃ。地球人の艦隊が何隻かこっちに来てるにゃ。すっげー不慣れだけど根性はあるし地頭はすげーにゃ。脳に滅茶苦茶難しい知識を焼き付けても死なねーんじゃねーか?」


「キンさんから初めて聞く評価ですね。……ひょっとしたら宇宙飛行士かもしれません」


「それ何にゃ?」


「科学者としても宇宙船乗りとしても優秀で、狭い空間に大勢で閉じ込められても問題を起こさない、地球人の中でも上澄み中の上澄みですよ。言っててなんですが化け物じみた能力ですね」


「サルが言っても自慢にしかならねーにゃ。で、どうするにゃ?」


「一度俺も操縦してみます。加速力がなくて装甲とシールドが厚いんですよね?」


「おめーは加速力がありすぎる船にしか乗ってないから感覚が狂っているだけにゃ。つーか、シールドの扱い覚えてるにゃ? おめーがベリル号を動かしているとき、ほとんど使ってるの見たことねーにゃ」


「使う機会が少ないだけです。本当ですよ?」


 俺たちは猫の巣号の艦内を移動する。

 相変わらず母猫耳の視線は怖いが、ベリル運送の大口出資者のひとりであり、ベリル運送における個人武勇の頂点であるキンが側にいるので、俺にちょっかいはかけて来ない。


「「「おっちゃんおはようにゃ!」」」


「おはようございます」


 猫耳幼児とは普通に挨拶を交わし、猫耳の下僕とは目礼だけ交わして、新しい宇宙戦闘機のもとまでたどり着く。

 ベリル運送の船らしく、外見は戦闘機そのものだ。


「サルに乗ってもらうのは猫の爪号の5番機にゃ。頑丈にはしたけど、にゃー以外は初心者が作業したから、念のため宇宙服は着っぱなしで操縦するにゃ」


「窮屈ですが仕方ないですね。俺も命は惜しいですし」


 外側から機体の確認をしていると、間近に迫ってようやく気づける足音に気づいた。


「キンのあねご! 来ましたにゃ!」


「おう。サル、今日はこいつと一緒に飛んでくれにゃ。今日飛ぶ宙域に一番慣れてるやつにゃ」


 キンの横には、体格は小さいが姿勢の良い猫耳幼児がいた。

 かなり後ろで、はらはらした表情でお猫様の下僕がひとり……いや数人見守っている。


「よろしくおねがいします!」


 俺が聞いた猫耳幼児の発言の中で、最も人間らしい発言と発音かもしれない。


「こちらこそよろしくお願いします。出発前に打ち合わせをしましょう。この図は分かりますか?」


「もちろんにゃ!」


 種族も年齢も違っても同じパイロットだ。

 共通の話題は多いし話も弾む。


『サルさん、ずいぶん仲が良いのね?』


 突然通信してきたブルネットの微笑みは華やかで、ちょっと怖かった。



  ☆



 猫の爪号の加速力は弱い。

 敵弾に遠くから気づいて回避を始めても、回避が間に合わないことまである。


 今の速度は光速の5パーセント。

 破片の速度はそれ以下だ。


 これなら、回避以外にも対抗手段が存在する。


「戦闘機の大きさで、ベリル号並のシールドですか」


 戦闘機と比べれば非常に分厚いシールドが破片を受け止め、猫の爪号の装甲に触れさせない。

 超光速戦闘のときの、デブリですら超威力攻撃になる戦闘とは大きく違う。


「おっちゃん! もっと近付かないと当たらないにゃ!」


「了解。安全第一で近付きますね」


 ここまで低速で距離が近い戦いは久しぶりだ。

 加速が弱くて思うように動けない戦闘機はじれったいが、シールドの操作は結構楽しい。


「今にゃ!」


 機関砲が、猛烈な勢いで捕縛用の粘着弾を発射する。

 猫の爪号より少しだけ大きな海賊船に至近弾が何回か。

 敵船のシールドが少し弱まったが、敵船の速度は衰えない。


「回避します」


 特に濃い殺意を感じ取った瞬間から回避を開始し、回避を伝えたのは1秒以上あとになってからだ。


「いきなり危ないにゃ!」


 射撃中だった機関砲が明後日の方向へ弾を飛ばしている。

 気付いた新人船長が止めるまで、かなりの数を無駄にしてしまった。


 先ほどの行動は無駄ではない。

 あのまま回避しなかったら猫の爪号がいた場所を巻き込む形で、巨大な爆発が発生する。

 かなりの大型ミサイルだ。


「伝えてから動くと間に合わないんですよ。それより、敵が戦意を喪失したようです」


 あれだけ大きいミサイルは、大型船でも何発もは載せられない。

 猫の爪号より少し大きい程度の船では、1発載せるだけでも無理をする必要があるはずだ。

 例えば、自爆装置がないとか、遠くにいる味方にSOSが届く大型通信機がないとか。


「おっちゃん! 捕まえるにゃ!」


「移乗攻撃は駄目ですよ。船長であるあなたが危険を冒すほどの価値はありません」


 俺は、宇宙服の気密を確認し始めた新人船長を止める。


「でもチャンスにゃ!」


「餅は餅屋です。攻撃してこない上に自爆の気配もないですし、ワイヤーアンカーで母港の近くまで引っ張りましょう」


 俺は言葉だけでなく、ここで移乗攻撃を仕掛けた場合と運んだ後にキンに任せる場合の成功率と怪我をする率を示す。


「にゃぁ……」


 非常に残念そうではあるが、新人船長は俺の指示に従ってくれた。

 なお、その後の戦闘よりも、戦いを長引かせたがる船長を説得する方が大変だった。



  ☆



「あの海賊の所属は中規模の犯罪組織よ」


 そう言うブルネットは、恐れてはいないが懸念の表情だ。


「ブルネットお姉ちゃん。僕たちが攻撃した海賊の生き残りだったりする?」


「攻撃に巻き込んだ可能性はあるけど、復讐が狙いではないと思うわ。略奪より情報売買が中心の組織だから、狙いは……どれかしら」


 ブルネットの返答に、ベリルはからかわれたと判断したようだ。


「お姉ちゃん!」


「冗談を言っているつもりはないわ。惑星改造が終わって銀河通商が立ち去れば、あの惑星への侵攻ルートはお金になる。今惑星に住んでいる人たちのほとんどは銀河通商の保護下にないから、惑星住民の誘拐が狙いかもしれない。だから本当に分からないのよ」


「今回捕まえたのは下っ端ですからね。既にかなり絞りましたから、これ以上の情報は出てこないでしょう」


「もー、次から次に問題が出てくるんだから! サルくん、意見!」


「放置して守りを固めるか、今すぐ反撃するか、くらいしか思い浮かびません」


「じゃあ攻撃で! ブルネットお姉ちゃん、キン姉と一緒に、地球人の相手はお願い!」


「地球人全体ではなく、地球人の艦隊の人たちよ。ベリルちゃんも面倒に巻き込まれるのは嫌でしょう?」


「あっ。そうだった。ごめんお姉ちゃん」


 俺はベリル号の出撃準備を進めながら、苦手な交渉ではなく暴力の仕事に、うきうきしていた。

◆ BERYL FLEET

規模:1 防衛:2 遠征:3


◆ BERYL THE GREAT MK2

船体:3 / 跳躍:4 / 航続:4 / 装甲:2 / 居住:2 / 船倉:2 / 兵装:4


◆ CAT'S NEST MK2(4/4)

船体:4 / 跳躍:2 / 航続:4 / 装甲:4 / 居住:2 / 船倉:4 / 兵装:1


◆ CAT CLAW *5

船体:1 / 跳躍:2 / 航続:1 / 装甲:2 / 居住:0 / 船倉:0 / 兵装:2


◆ CREW

ベリル  |船長Lv2 [財産Lv4]

サル   |操縦Lv4 [疲労Lv3]

ブルネット|射撃Lv2 [事務Lv2]

キン   |白兵Lv2 [整備Lv2]

妹猫耳ズ |白兵Lv1 [整備Lv1]

新人船長ズ|船長Lv1 [猫語Lv1]

猫耳の下僕|操縦Lv2 [信仰Lv2]


◆ CREW IN TRAINING

母猫耳ズ |白兵Lv1 [衰弱Lv2]


◆ SALVAGED ASSETS

船体:0 / 跳躍:0 / 航続:0 / 装甲:0 / 居住:0 / 船倉:0 / 兵装:0


◆ BERYL HOME PORT(1/1)

権利:1 / 規模:1 / 装甲:0 / 修理:0 / 居住:0 / 備蓄:0 / 兵装:1

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― 新着の感想 ―
下僕の人、内心目ん玉キラキラさせながら「やはりあなたも…!」って思ってそう ブルネットさん、基本ヤンヤンだから怖いのう
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