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地球人に人権がない銀河で、零細猫耳社長にスカウトされました ~生体パーツ扱いのどん底から操縦チートと拿捕ビジネスで成り上がる~  作者: 星灯ゆらり
第2章 港・信用・拠点

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26.母港予定地の火種

 久しぶりの旧ベリル号は非常に軽快だ。

 操縦桿に触れるだけで俺が考える方向へ飛び、4つのエンジンが絶妙なタイミングで動いて敵を正面に捉える。


「エネルギー残量の2パーセントを使用します」


 搭載兵器は、現ベリル号にも載っているタキオン砲1門のみだ。

 超光速で飛ぶ宇宙戦闘機に大火力というのは、俺のロマンを強く刺激する。

 残念ながら、射手は俺ではないがな。


「了解、サルくん」


 ベリル社長は射撃も巧い。

 最近はずっと俺と組んでいるブルネットと比べても見劣りはせず、かなりの距離がある小型海賊船のエンジンに致命傷を与える。


『こちらは民間船だ! 訴えてやる!』


 猛烈な抗議の通信には怯えが滲んでいる。

 襲われたことに対して怯えるのは当たり前だ。

 それとは別に、奇妙な演技くささがある。


「ふーん。銀河通商に提出したデータと、実際の船にすっごく差があるんだけど? まるで海賊みたいだね!」


 とても明るい声と顔で返信するベリルの目には、残酷な光がある。

 獲物を嬲る傾向があるのは猫耳の種族的性質だが、それ以上に海賊に対する憎悪が強い。

 猫耳幼児たちの多くが、海賊により片親を失っているからだ。


『そ、それはっ』


「そのままじっとしていれば後で救助してあげる。逃げるなら……分かってるよね?」


 微笑みながら牙を剥いたベリルに、わずかな賞金しかかかっていない海賊が必死に首を振っていた。



  ☆



「社長。エネルギー残量は77パーセントです。次の目標に……」


「今日の出撃はこれで終わり! サルくんは戻って休んでね!」


 ベリル社長は船長権限を使って俺から操縦を奪い取る。

 旧ベリル号の加速力を限界まで引き出さないなら、ベリルの腕でも十分だ。


「サルくん、今なにか失礼なこと考えなかった? 僕って普通の基準だと、操縦も射撃も上手なすごい人だよ!?」


「ええ、分かっていますから操縦に集中してください。そことそこ、小さいデブリが散らばってますから避けてくださいね」


「にゃっ!?」


 そのまま突っ込んでも事故になるのは1パーセント未満だが、無駄に危険を冒す意味はない。


「こっちのベリル号は加速しすぎるんだよね。装甲もシールドも薄いし、あの頃の僕、なんでこの船を買おうと思ったんだろ」


『こちら星系管制。それは我々も知りたいです。猿谷さんのために用意したのだとしたら、当時のベリル運送が購入できた船としては最良です。……最良すぎるのです』


「また盗聴っ!」


 ベリルが「ふしゃー!」と威嚇する。

 が、今の星系管制は雑談や暇つぶし目的ではなく、100パーセント仕事として質問してきているようだ。

 ベリルの感情を平然と受け流し、背中の光翼を静かに光らせたままベリルの回答を待つ。


「もうっ! 今思い出したけど、すっごいパイロットをスカウトするつもりで、すっごいパイロット前提の船を買ったの! 船というより艦載機に長距離用エンジンを載せただけの船だけど!」


『……賭けに勝った、というわけでしょうか。貴重な情報をありがとうございます。租借権をさらに割引きさせて頂きます』


 送られてくるデータを見せてもらうと、最初に提案された宙域より数倍広くなっていた。


「カイパーベルトの4分の1!?」


 俺は思わず叫んでしまった。

 点在する小惑星すべてを合計しても地球の総重量の5パーセントにも満たないとはいえ、大型宇宙船を2隻しか持っていないベリル運送にとっては巨大な資源帯といえる。


『お望みなら星系外縁すべてでも構いません。猿谷さんの能力があれば、十分管理可能なはずです』


 これは、かなり良い取り引きかもしれない。


「しっかりしてサルくん! 租借地に海賊が入り込んだら僕らが討伐しないとなの! サルくんが10年間この星系に縛り付けられちゃう! 母港に関係なくお金を稼ぐだけなら、遠征して高賞金首とその船を狙った方がずっと儲かるの!」


 ベリル社長の発言で、俺は正気に戻った。


『ちっ』


「あ゛ぁっ!?」


『いえなんでもありません。それでは、現地呼称カイパーベルトの半分を租借ということで構いませんね?』


 こいつ、誠実そうなツラをしたまま平然と騙しにきた。


「8分の1!」


 もちろん社長は騙されないし、主張すべきことは主張していく。


『下限が4分の1です』


 ベリルが睨み付け、星系管制がにこにこ微笑む。


「……4分の1でいい」


『毎度ありがとうございます!』


 星系管制は、背中の光翼を上機嫌に『ぱたぱた』させていた。



  ☆



「にゃあ……」


 すっかり参ってしまったベリルだが、操縦に危なげはない。

 現ベリル号と共にゆっくり等速飛行する直方体な特大艦『猫の巣号』に、ほとんど振動させることもなく着艦する。


 ここで補給はできるが艦内に自動で移動できるような高価装備はない。

 俺も社長もキャノピーを開ける前に宇宙服のチェックをしていると、艦内からパワードスーツの群れと宇宙服の群れが現れた。


『『『おかえりなさいにゃー!』』』


 猫耳幼児たちは出迎えもしているが、実戦装備のベリル号に興味津々だ。

 特に猫耳新米船長(交代制で猫の巣号の艦長をしている)たちの視線は熱い。


「タキオン砲に触っちゃダメだよ。安全装置はあるけど万一があるんだから」


 社会の最下層からベリル号を駆って成り上がったベリル社長は、猫耳にとっての生ける伝説だ。

 その最初の宇宙船であり、大量の海賊船を破壊あるいは拿捕してきたベリル号は、猫耳社会における聖剣や神剣に等しいのかもしれない。


『ベリル! 租借権の話はどうなったにゃ!?』


 キンが姿を現すと、猫耳幼児たちが比較的大人しくなる。

 キンが大口出資者というのは多分理解されていないが、キンが拿捕班を率いて多くのパーツと金を稼いで来たことは皆知っている。


「ごめん。宙域は削れなかった」


『変な条件がついていないなら十分にゃ! あれだけデカイ企業によくやったにゃ! 母港建設予定地の目星はつけてるから今送信するにゃ』


「……これだと直接向かって確認した方がいいね。僕はベリル号へ乗り換えるからサルくんのことよろしく!」


『ブルネットがこえーから、にゃーひとりでサルの面倒みたくねーにゃ……』


 それでも面倒を見てくれるのが、キンの良い所だと思う。


『『『おっちゃん、操縦おしえて!』』』


『サルはにゃーたちみたいに頑丈じゃねーんだから、とっとと船の中に連れてくにゃ』


 俺はベリル社長と別れ、キンたちによって猫の巣号の中へ運ばれていった。



  ☆


 比喩的な意味で空気が悪かった。


 猫耳女性たちは精一杯お洒落をしているつもりなのだろう。

 だが、派手な色使いと肌を多く見せる服は、特大宇宙船の乗組員というより、彼女たちが銀河の底辺で生き抜いてきた場所を連想させた。

 最低でも一児の母で、しかし俺よりも明らかに若い。その事実が、彼女たちが置かれてきた環境の悪さを強調している。


 対照的に、ヘルメットを被れば簡易の宇宙服にもなる実用的な服を着ているのが下僕たちだ。

 着ているものは安価でも、特大宇宙船の乗組員として清掃から簡易な整備まで熱心に行っている。

 海賊に捕らわれていた頃の怪我で体の一部を機械化しているが、今地球に戻れば人類トップレベルの人材として迎えられるだろう連中だ。

 普通の地球人には絶対に手が届かない治療費も、とっくに返済し終えている。


「げぼく?」


「はい、あなたの下僕です。今、御髪を整えますね」


 そんな人材がベリル運送に居着いている理由はただひとつ。

 猫耳幼児たちだ。

 精神的にも極めて深刻なダメージを負っていた下僕たちは、比較的善良で裏表皆無の猫耳幼児たちのお陰で回復した。

 回復しただけでなく、はまった。


「にゃっ」


「目をつむってくださいね」


 猫耳幼児が信頼しきった表情で髪だけでなく上体を預けている。

 猫耳の下僕を自称する地球人女性のひとりが、崇拝対象に向ける目つきと手つきで、猫耳幼児の髪だけでなく顔や服装まで整えていく。

 今髪を整えられている猫耳幼児は既に母親が死亡しているが、母親が生きてベリル運送に合流できた猫耳幼児も、下僕を信頼しきっている。


 教養でも技術でも、下僕たちは圧倒的に上だ。

 対して母親たちが持っているのは、腕力と、銀河の底辺で子供を生かしてきた経験だ。

 愛情については言及するつもりはないが、どう考えても派手に揉めるのが確実な組み合わせだ。


(ここまで深刻な状況だったのか)


 ここのところずっとベリル号で生活していた俺は、とんでもない状況になっているのにようやく気付いた。


「「「おっちゃん! 操縦!」」」


 パワードスーツや宇宙服を脱いだ猫耳幼児たちが俺を引っ張る。

 猫耳幼児が数人がかりで全力を出せば、俺は間違いなく壁と正面衝突している。

 考えなしに力を使わない程度には理性的で、俺に対して配慮ができる程度には頭が良い。


 このまま育って欲しいと心から思う。


「はいはい。操縦を見てあげますから、順番にね。他に希望者がいたら連絡をください。時間がかかっても必ず操縦を見ますので」


 俺は手すきの下僕に目で合図する。

 すると、母親の有無に関係なく、操縦の訓練を希望する猫耳幼児のリストが送られてきた。


(危険思想の持ち主でも、ここまで有能だと放り出すわけにもいかないんだよなあ……)


 自称、猫耳の下僕の地球人女性たち。

 彼女たちは「地球人類はお猫様の奉仕種族になるべきなのです」と主張する、危険思想集団でもあった。



  ☆



「「「おっちゃんずるいにゃ!」」」


 シミュレーターから出てきた猫耳幼児たちが俺に抗議する。

 かなり本格的なシミュレーターで、自力センサーがあるなら反応するよう改造してもらっている。

 俺が拿捕班や整備志望の猫耳幼児たちにパワードスーツを贈ったように、船長やパイロット志望の猫耳幼児たちにはこのシミュレーターを贈ったんだ。


「ずるいと言われてもこれが俺の才能ですよ。皆さんが体力と反射神経に優れているように、俺にも自力センサーという強みがあるんです。……まあ、皆さんの場合は、反射神経だけでなんとかしようとする前に、軌道計算や確率計算ができるように努力するのが先です。AIによる補助にも限界があるんですから」


「にゃぁ……」


「けーさんはげぼくに教わるにゃ」


「あたいたちは終わったからつぎの班くるにゃ!」


 孤児院でブルネット、キン、ベリルに面倒を見てもらっていた猫耳幼児たちは、種族として獰猛な傾向はあるがよく躾けられている。

 特に、仲間には優しくするよう徹底されている。


「「「にゃ!」」」


 次の班は年少組の猫耳幼児たちだ。

 下僕の影響が強い子は、金属服の着こなしも髪型も上品だ。

 実母の影響が強い子は、よくも悪くも銀河の底辺で育った荒っぽさが滲んでいる。


「はい。よろしくお願いします」


 子供の相手は気を遣う。

 しかし、光で数分やそれ以上かかる場所を自力で知覚して操縦に反映するのと比べれば、心身への負担は軽い。

 俺は、猫耳幼児たちのやる気を維持するため、ときどきわざと苦戦したり撃墜されたりしながら、伝授可能な技術と知識を可能な限り教えていった。


『サルくん、今時間ある?』


 休憩に入った直後に社長から通信が……。


『代わったわ。サルさん、体調は? 子供の面倒も大事だけど、サルさん自身の体を優先して』


 強引に社長を押しのけたブルネットからの通信が届いた。


「はい、ありがとうございます。疲労はかなり抜けていますよ。ひょっとして緊急事態でしょうか?」


『緊急というほどではないけど重要な相談があるの。母港は小惑星に建てる予定だったでしょう? 候補にしていた小惑星には、どれも最近の採掘跡があるのよ』


「海賊が入り込んでいるんですか!?」


『ブルネットお姉ちゃん、僕にも発言……はい、そのまま続けてくださいにゃ』


 画面外で何が起きているんだろうか。


『それがよく分からないの。非武装に近い小型採掘船なら見つけるのも大変だし、これは可能性は低いけど、ステルス性能の高い船なら戦闘用の船でも見つけ辛いわ』


「俺が哨戒しましょうか。旧ベリル号を使えば、こっちが見つかる前に見つけられると思います」


『母港予定地や猫の巣艦隊を守るためならともかく、それ以外で無理をする必要はないよ!』


 画面外から、ベリル社長の断固とした声が響いた。

 今回はブルネットもベリルを止めようとはしない。


「ですが、母港建設するなら、念入りに哨戒をして安全を確保しないと危険です。建設中はどうしても無防備になりますから。俺抜きで偵察や哨戒をするならベリル社長しか……」


 そのとき、俺の頭に、これまでなんとなく目を逸らしていた事実が浮かんだ。

 あの猫耳大好き集団って、俺ほどではないが自力センサー持ちなんだよ。


「下僕たちに宇宙戦闘機を与えてはどうでしょうか」


『えっ』


『あなた、本気? 今あるドローンを有人仕様にするだけで戦闘機は用意はできるし、ドローン自体も量産は容易だけど、あの人たちに今以上の影響力を与えることになるわよ?』


 俺に対しては全肯定に近いブルネットが、ほとんど拒否の態度をとってしまうほど、下僕たちの評判は猫耳大人組では最悪だ。

 重大な裏切りが発覚した時点で武装解除、拘束、必要なら処分という条件を下僕が(嬉々として)受け入れているから、解雇を我慢している。


「新人船長たちには、まだ単独飛行できるほどの技術はありません。今、信頼できるパイロットを確保する手段は、連中を使うしかないと思います」


 俺だってできれば連中の手を借りたくない。

 それでも、理詰めで考えればこれしかないし、これが一番マシだ。

 今より厳しい制限をかければ……。

 制限をかけても、あいつらは、猫耳のためなら喜んで受け入れそうだな。


『にゃぁ……。と、とりあえず、あの子たちの母親が暴発しないようにしないと駄目だよ!?』


「俺はもうしばらく静養する必要があります。静養中に、下僕たちと母親たちをなんとか……なんとか、したいと思います」


 俺は、下僕たちからは『猫耳に最も奉仕している地球人』として評価されている。

 俺は、母猫耳たちから『群れに大量の餌を運んで来る雄』として評価されている。

 だからどうにかなるかというと、正直、どうにかする手段が思い浮かばない。


『あなた、顔色が悪いわ。やはり別の手段を見つけましょう』


「ブルネット。すまん、助けてくれ」


『っ……。もちろんよ、あなた』


 紅潮して目を輝かせるブルネットが映る画面から、ベリルのため息が響いていた。

◆ BERYL FLEET

規模:1 防衛:2 遠征:3


◆ BERYL THE GREAT MK2

船体:3 / 跳躍:4 / 航続:4 / 装甲:2 / 居住:2 / 船倉:2 / 兵装:4


◆ CAT'S NEST MK2(4/4)

船体:4 / 跳躍:2 / 航続:4 / 装甲:4 / 居住:2 / 船倉:4 / 兵装:1


◆ CREW

ベリル  |船長Lv2 [財産Lv5]

サル   |操縦Lv4 [疲労Lv5]

ブルネット|射撃Lv2 [事務Lv2]

キン   |白兵Lv2 [整備Lv2]

妹猫耳ズ |白兵Lv1 [??]

新人猫社員|船長Lv1 [未熟Lv1]

猫耳の下僕|操縦Lv2 [信仰Lv2]

母猫耳ズ |白兵Lv1 [衰弱Lv2]


◆ SALVAGED ASSETS

船体:2 / 跳躍:3 / 航続:5 / 装甲:1 / 居住:1 / 船倉:2 / 兵装:3


◆ BERYL HOME PORT

権利:1 / 規模:0 / 装甲:0 / 修理:0 / 居住:0 / 備蓄:0 / 兵装:0

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相変わらずの危険思想だなぁ
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