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地球人に人権がない銀河で、零細猫耳社長にスカウトされました ~生体パーツ扱いのどん底から操縦チートと拿捕ビジネスで成り上がる~  作者: 星灯ゆらり
第2章 港・信用・拠点

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23.寄港拒否

『ベリル運送へ通告する。当星系は貴社艦隊の寄港を許可しない』


 星系への寄港に備えて減速していた俺たちに、予想外の通信が届いた。


 俺も、社長も、ブルネットも、こんな扱いをされる理由に心当たりはない。

 いや、ひとつだけありはした。

 考えたくなかっただけだ。


 まさか、星系政府と星系中央マーケットが連名で、『経営陣の種族的信用不足』を理由に寄港拒否してくるなど。


「サルくん、残念だけど次の星系へ……」


「いえ社長、殺意剥き出しの艦隊が星系からこちらへ向かって来ます!」


 既に亜光速まで減速しているので、ベリル号はともかく猫の巣号が十分速度を上げるまで時間がかかる。

 そうしているうちに多数の敵船が接近し、一方的に通信を送りつけてきた。


『聞こえるか吸血猫! 今すぐ降伏すれば命だけは助けてやる! こっちに来い!』


『貴様! 戦利品は山分けの契約だぞ!』


 どうにも、あちらはやる気十分らしい。

 船の数は向こうの方が10倍以上多い。

 船の容量だとぎりぎり10倍程度で、純粋な火力もそのくらいのはずだ。


「ベリルちゃん。向こうの艦隊の主力は海賊ではないわ。ほとんどが賞金稼ぎか警備会社。少数混じっている海賊も、あの星系では犯罪を犯していないようよ」


 超光速通信網経由で情報を集めたブルネットが報告する。

 超光速通信網に接続中の通信機は、大量に流し込まれるウィルスや情報的攻撃の迎撃中で、猛烈に熱くなっている。


「そっか」


 ベリル社長が頷く。

 その顔に最初に浮かんだのは無念さと諦めだ。


 海賊が賞金をかけても合法なのがこの銀河だ。

 しかし、海賊にのみ賞金をかけられた企業が、警備会社に狙われることは滅多にない。

 その『賞金首』が、猫耳の企業でない限りは。


「友好的に取り引きできないのは、とっても残念だよ」


 ベリルは席に体重を任せ、不敵に微笑む。

 この銀河で最底辺に位置するはずの猫耳が、弱者を憐れむ目で、星系内の強者たちを見下ろした。


 敵艦隊から傍受中の通信ログが一気に荒れた。


 罵声を返してきた連中が半数。

 こちらの反応を怪しんで沈黙した連中が、さらにその半分ほど。

 残りは、おそらく『ベリル運送と銀河通商』の関係か、『異様に高性能な生体パーツ』の噂を知っていたのだろう。


 俺たちの本当の実力を味わう前に、ほんの少しだけ気付くことができたらしい。


「艦隊行動『パルティアンショット』開始! サルくんは操縦に専念、ブルネットお姉ちゃんはタキオン砲をよろしく!」


 ベリルの気合いの入った声で命令が下された。


「うっす」


 俺の言葉が乱れてしまった。

 タキオン砲にこだわりはあるが、真っ当な上司のまともな命令は拒否ができない。


「了解。既に狙われているから迎撃するわね。サルさん、私の目視とAIによる撮影で勝手に読み取るから口頭での伝達は不要よ」


 ブルネットはキーボードを軽やかに叩いてタキオン砲を精密に操っている。

 1光秒の距離があれば、砲塔の向きが少し違うだけでもアホみたいな距離で外れてしまうのだ。

 だから精密な操作が必要で、だからブルネットによる精密な命令と砲塔の精密な動きにより、撃つ前に当たることが確定する。


 必要最小限のタキオン粒子が、光速の100倍の速度を与えられ、ミサイルを消し飛ばしてその残骸を何もない方向へ吹き飛ばす。

 それが十数回繰り返され、当たればベリル号を破壊できたはずのミサイルすべてが消滅した。


『超光速ミサイルが迎撃された?』


『安物を買ったからだろう! 逃がすな、追え!』


 大小3つの艦隊が前進を開始する。

 判断も行動開始までの時間も短い時間で行えているが、阿吽の呼吸で動けて、俺の自力センサーもある俺たちは次元が違う。


「進路上に、ステルス状態の攻撃ドローンを複数確認しました」


「敵に気付かれない程度に進路変更! サルくん、このまま速度を上げて!」


「了解です。光速の200倍まで出しますね」


「うん! キン姉、聞こえてる!? 猫の巣号にデブリを撒かせて!」


 ベリル社長が猫の巣号に通信を送ると、すぐに返信があった。


『初航行で無茶させるんじゃねーにゃ。ったく、デブリもただじゃねーんだから』


 猫の巣号の側面から、ゆっくりと小さなデブリが離れて行く。

 宇宙には空気も何もないので減速はしない。

 光速の200倍という壮絶な速度で、俺たちの艦隊の至近を漂っている。

 これで、敵船あるいは質量兵器が突っ込んできても、俺たちの船ではなくデブリに当たる可能性が激増した。


「ベリルちゃん。敵の超光速ミサイルは撃ち尽くしたか温存みたい。次は何を狙おうかしら?」


「追撃を続けるかどうか迷っている船! 装甲とシールドが薄そうなの優先!」


「この速度と距離だと、装甲の厚さまでは分からないわね」


 敵であるのは分かる。

 俺が自力センサーで捉えているし、捉えていることをブルネットやAIが読み取っているからだ。


「……面白いわね、これ。固かったり脆かったりで」


 敵船が砕けていく。

 ブルネットが喜ぶのは俺も嬉しいが、俺も楽しみたかった。


「そろそろ諦めるか逃げると思うんだよね。サルくん、逃げられる前に足止めお願い。僕に報告する前に動いて良いよ」


「できる限り報告はしますよ。……おっと」


 追撃中の艦隊……既に2艦隊になっているか、とにかく、その連中に動きがあった。


『クソっ、逃がすな! もっと加速しろ!』


『正気か!?』


『ビビってるなら逃げちまえ! 行くぞ!』


 大型船のみで構成された5隻の艦隊が加速。

 大中小と色々揃っている十数隻艦隊が、それまで続けて来た加速を止めた。


「敵艦隊Aが加速、Bが加速停止。Aは加速力があるのに武装も戦意もなかなかです。どうします?」


「にゃ!? そうきたかあ……」


「ベリルちゃん。敵艦隊Aはすべての船が海賊よ。敵艦隊Bも、この状況なら破壊や拿捕をしても正当防衛になるから罪には問われないわ」


『こちら猫の巣号! あんまり無茶な加速してもこっちはついていけねーにゃ! サルの航法支援があってもこっちは素人にゃ! 加減するにゃ!』


 僚船からの抗議が予想外だったベリルが「にゃあ」と鳴いた。


「社長。面倒そうな5隻は拿捕できればラッキー程度に潰すのを優先して、敵艦隊Bの拿捕を目指すのはどうでしょうか。他の艦隊が追いついてくるとしても時間はあります」


 俺が提案すると、ベリル社長は1秒きっかり考えてから大きく頷いた。


「ん。じゃあそれで」


「キンさん、聞いてましたね。デブリ群を盾にして艦隊Aを迎撃しましょう。艦載機は遠隔操作でお願いします」


『分かってるにゃ。……おいっ! 直接乗ろうとするなって何度言わせるにゃ!』


 猫の巣号では騒動が起こっているようだが、キンがなんとかすると信じることにした。



  ☆



『クソがっ。いかれた速度を出しやがって』


『だが追いついたぞっ。ははっ、デブリを撒けば勝てると思ってたか? 甘いんだよ!』


 濃密な対空レーザーでデブリが排除され、猫の巣艦隊に敵艦隊A……海賊艦隊が追いついた。

 そして攻撃が始まる。


 ベリル号は猫の巣号を盾にしたので、海賊船が撃ちまくるビームが何本も猫の巣号の平たい装甲に突き刺さる。

 だがその穴は浅い。

 シールドも装甲の厚さも、ベリル号より圧倒的に優れているのだ。


「キン姉!」


『いいぞおめーら!』


『『『にゃー!』』』


 装甲と全く同じ色の宇宙戦闘機が飛び立った。

 猫の巣号と比べると体積では3桁は小さい。


『ま、まさか』


『ブラックマーケットを襲った悪魔かっ!』


 その宇宙戦闘機は旧ベリル号そっくりだ。

 見ている俺も懐かしくなる。


「すみません社長、ブルネット。敵味方で相対速度がゼロの戦いでは、俺はそれほど役に立てません」


 俺が小さく頭を上げると、ブルネットは困ったように微笑み、ベリル社長が目を丸くした。


「あの、サルくん? 数十隻を相手に5隻だけ誘き寄せるなんて、普通無理だからね?」


「サルさんが今より強くなったら、サルさんが独立してしまうかもしれないわね。そうなったら、私はどうなるのかしら」


 ベリルが混乱し、ブルネットが俺をからかう。


「ブルネットがいるのに単身赴任は嫌ですね」


 俺は肩をすくめた。

 仮定の話は仮定の話でしかない。

 まあ、チートじみて巧い操縦に比べると射撃が下手っていうのは、結構なコンプレックスだが。


「社長」


 海賊艦隊の真後ろ……から少しズレた位置でベリル号を静止(相対速度をゼロに)させる。

 敵にとっては推進剤を武器にすることもできず、普通の武器での反撃もし辛い最悪な位置だ。


『艦載機を先に潰せっ』


『こいつ固い……まさかドローン?』


 海賊が騒いでいる。

 宇宙戦闘機であり、遠隔操縦可能なドローンでもある艦載機は、パイロットの体力や頑丈さを考えなくて良い利点を活かし、とんでもない頻度で加減速を繰り返して海賊船の攻撃を躱している。


 海賊は、ドローンの撃墜を諦めて母艦である猫の巣号を狙おうとする。

 しかしその直後からドローンが密着するような接近と執拗な攻撃を繰り返し、海賊船の攻撃効率を著しく低下させる。


「ベリルちゃん、どれからやる?」


「艦橋から潰そう。敵は艦隊B以外にもいっぱいいるから、降伏勧告している間に追いつかれちゃう」


「海賊が怯える時間が短いのは残念だけど、仕方がないわね」


 基本的に愛想のよい猫耳たちだが、敵に対しては残酷だ。

 ベリルは淡々と、ブルネットは嗜虐的な笑みを浮かべながら、亜光速の弾を撃てる機関砲1門ずつで海賊の命と海賊船の艦橋を潰していった。



  ☆



 戦闘は短時間で終わった。


「2隻は爆発四散、1隻は艦橋破壊の衝撃で進路変更。残った2隻にはビーコンを撃ち込みます」


 俺が報告すると、疲れた気配もないベリルが即座に応える。


「サルくん、終わったら即、艦隊Bへ向かって。ただし接近戦はなし。遠くからタキオン砲でエンジンを潰してから、他の艦隊への人質にするよ!」


「……よろしいので? 多少無理することにはなりますが、拿捕はともかく撃破なら敵艦隊すべてでも可能ですが」


「サルくんに無理をさせる価値はないよ。艦隊Bの半分は、捕虜は解放するけど船はもらうつもりだし。……問題は、ここまで派手に戦った後だと、星系のマーケットに行ったら暗殺や襲撃があるってことなんだよね」


 断言するベリルの表情は暗い。


「ええ。交渉がどれだけうまくいっても、あの星系を利用するのはお勧めできないわ。恨みというのは、正当性があってもなくても、なかなか消えないものだから」


 俺たちベリル運送の交渉担当であるブルネットが、静かに断言する。


『やっぱり母港が欲しいにゃ。そこに行けば確実に補給と休息ができる場所がねーと、どれだけ強くても破綻するにゃ』


 キンは珍しくシリアスだ。


「母港はあの小惑星の都市なのでは?」


 俺が口を挟むと、キンは静かに首を左右に振った。

 代わってベリルが口を開く。


「おっちゃんは親切にしてくれるけど、おっちゃんって都市の幹部でもなんでもないしね。なんとかあの惑星を母港にできればいいんだけど」


「ベリルちゃん。サルさんと一緒に戦うと感覚が狂ってしまうけど、宇宙船は本来数世代使い続けるものなの。あの惑星の改造は50年後には終わっているかもしれない。終われば、私たちがコネを持っている銀河通商第7営業艦隊はあの惑星から立ち去ってしまうし、地球人も退去か退化を迫られてしまうわ」


「にゃあ……」


 ベリルは夢破れて落ち込んだ。


「なるほど。母港には長期に渡る安定と信用と信頼が必要なんですね」


 俺は敵艦隊Bを追い回す。

 タキオン砲でつつき回すのはブルネットの役目だ。

 艦橋のような極めて厳重に防御された場所を潰すのは攻撃力不足で大変だが、その性質上装甲で覆いづらいエンジンを潰すだけならそれほど難しくない。

 少なくとも、俺たち夫婦にとっては。


 もちろん反撃はされるが、タキオン砲を持たず、超光速ミサイルも撃ち尽くしたらしい敵艦隊の攻撃など、当たるわけがない。


「ベリルちゃん、敵艦隊Bが降伏を申し出て来たわ。無条件降伏を言い出すまで放っておく?」


「敵残余が敵艦隊Bに接触するまで後20分……今減速したので後2時間です」


「ん。敵艦隊Bが人質にならなくても、拿捕はできそうだね。……寄港できないのは辛いなぁ」


『『『ベリルねーちゃん、おでかけできないにゃ?』』』


 今回ドローンを操縦して活躍した猫耳幼児たちが、涙目になっている。


 もとはベリルたちの孤児院で育てられていた子たちで、今でもベリルたちの被保護者だ。

 そして本人たちは、次代の主力船船長を目指して切磋琢磨中でもある。


「ごめんね」


 ベリルが頭を下げると、『『『にゃあ』』』と悲しげな鳴き声が響いた。



  ☆



 それからしばらく、ベリル社長は黙り込んでいた。


 ブルネットが通信記録と襲撃艦隊との関係を突きつけると、星系企業のいくつかはあっさり賠償に応じた。

 海賊を武装解除して退去させ、バラした海賊船を猫の巣号の船倉におさめた。

 その間も、ベリルはただひたすら何かを考え続けていた。


「……うん、決めた」


 会社の口座残高と、今回の戦利品の予想売却価格を見て、ベリルは決断する。


「母港がないなら、母港を作る。建造費とか、防衛戦力とか、今のままだと全然足りないけど、それでも作る!」


 無謀すぎる願いだ。

 否定の言葉なら一日中続けることができる。


 だが、俺の口からは否定の言葉など出ない。

 それどころか、熱に浮かされたような笑みが浮かんだまま消せない。


 ちらりと横を見ると、ブルネットも俺と似たようなものだ。

 ベリルの野心と覚悟が、俺たち夫婦に伝播している。


「ねえあなた。あとは星系政府と星系中央マーケットからの賠償だけど、何を請求すべきかしら」


「母港を動かすための動力源か、防衛戦力のためのタキオン砲が理想ですね。どちらも貴重すぎて値段があってないようなものです。今ここで手に入るなら、母港建設へ一気に近付きます」


「あ、あの、ブルネットお姉ちゃん? サルくん? 僕、そこまでやるつもりは……」


『ベリル。覚悟を決めるにゃ。こいつらがこうなったら止められねーし、にゃーも止める気はねーにゃ』


 大口の出資者全員から突き上げられ、ベリル社長は涙目で頷くしかなかった。

◆ BERYL FLEET

規模:1 防衛:2 遠征:3


◆ BERYL THE GREAT MK2

船体:3 / 跳躍:4 / 航続:4 / 装甲:2 / 居住:2 / 船倉:2 / 兵装:4


◆ CAT'S NEST MK2(4/4)

船体:4 / 跳躍:2 / 航続:4 / 装甲:4 / 居住:2 / 船倉:4 / 兵装:1


◆ CREW

ベリル  |船長Lv2 [財産Lv4]

サル   |操縦Lv4 [疲労Lv8]

ブルネット|射撃Lv2 [事務Lv2]

キン   |白兵Lv2 [整備Lv2]

妹猫耳ズ |白兵Lv1 [未熟Lv1]

新人猫社員|船長Lv1 [未熟Lv2]

猫耳の下僕|操縦Lv2 [信仰Lv1]

母猫耳ズ |白兵Lv1 [衰弱Lv2]


◆ SALVAGED ASSETS

船体:2 / 跳躍:3 / 航続:2 / 装甲:1 / 居住:1 / 船倉:2 / 兵装:3



第2部開始です!

第1部では「地球人に人権がない銀河で生き残る」ことが中心でしたが、第2部では、強くなったベリル運送が「港・信用・拠点」をどう手に入れるかが大きな課題になります。

ベリル運送の母港作りを見守っていただける方は、ブックマーク・評価・リアクションで応援していただけると励みになります!

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