21.地球人の戦い
『猿谷さんがいると感覚が麻痺しますけど、本来こういうものですよね』
雑さを隠さなくなった星系管制が、勝手にこちらのデータを読み取り、適性を調査した上で結果を送りつけてくる。
俺を操縦Lv4としたら猫耳の下僕がLv2、移乗攻撃に志願した軍人たちがLv1かLvなしらしい。
なお、キンが軍人として扱った者は、全員そのまま軍人扱いされている。
「ねえサルくん。クラッキング被害の届け出はどこにすればいいと思う?」
ベリル社長の態度はとことん冷たい。
ブルネットは無言で微笑んだまま、銀河通商第7営業艦隊本隊に提出するための書類を作成中だ。
ベリル運送の新しい船は、猫の巣号とは違って事務仕事も交渉ごとも非常にやりやすくて助かると、俺は現実逃避気味に考えていた。
「お偉いさんと話すときに、ちょっと話す程度で良いと思いますよ」
『お願いします! 謝罪と賠償しますからそれだけは!』
地球だけでなく星系まるごとひとつを支配している……少なくともその権限を与えられているエリートのはずなのに、態度がとても軽い。
「ベリルちゃん、お金じゃなくてセキュリティを物納で頼めないかしら」
ブルネットが言った直後に、とんでもなく割引されたカタログがデータで送られてくる。
これはベリル運送が優位に立っているというより、銀河通商視点で『安い金で便利に使える戦力』だからこの扱いなのだと思う。
『気に入らんにゃ』
箱の準備を進めているキンから、通信で愚痴が届く。
「気持ちは分かりますが、こっちと通商の力関係を考えたら丁寧な対応ですよ」
『今だけはこっちが優位と思うけどにゃー』
うんざりした顔のキンに、俺は苦笑を返す。
キンの言葉は正しいとは思うが、後で仕返しをされたらたまらないし、あんなのでも失脚させたら次はもっと酷いのになるかもしれないからな。
「計算は終わりました。やはり、曳航するなら亜光速が限界ですね」
『複数回の襲撃は無理にゃ?』
「2度目以降は、移乗兵の半分以上が死ぬと思ってください。海賊船に乗り移る前にです」
『伝えておくにゃ。まー、志願者が増えることはあっても減ることはないにゃ。武器が依頼人持ち、報酬が鹵獲品の半分なんて、本来食い詰め者にまわってくる仕事じゃねーにゃ。にゃーでも、ベリルがサルを雇う前なら喜んで志願してるにゃ』
言うまでもなく、戦死しても補償なしだ。
だからこその好条件。
それでも、人権のない地球人には超好条件だ。
「俺の場合は、志願しても100パーセント死ぬそうなので志願しなかったかもしれません」
『……ノーコメントにゃ』
見込みのある相手には「鍛えろにゃ」と言うキンがこの反応なのが、俺の肉体的素養の貧弱さを証明している。
『『キンのあねご! おっちゃん! もうはこにつれて行っていいにゃ!? あいつら寒そうだにゃ!』』
キャットタワー1号と2号の船長が許可を求めてきた。
ついでに送られてきた予定進路を確認して、俺は目を瞬かせる。
「軌道上で軍人を回収? 地表の技術で軌道上まで人間を運んだら、大金がかかるでしょうに」
『地表の通貨は宇宙では使い道がねーにゃ。どーせ使えないなら今使うってことにゃ。たぶん』
俺がブルネットやベリルたちのために稼ぐのに必死なように、地球に住む連中も必死だということだろう。
納得した俺が了解信号を送ると、ベリルからも『まともに確認していないような速度で』了解信号が送られて計画が始動する。
「何隻鹵獲できますかね?」
俺は自力センサーを意識して使い、ゆっくりと地球に迫る海賊の群れを観察する。
あの裏切り者の船と同サイズの特大宇宙船だけでも3隻。
大小あわせて最低40隻。
艦載機まで含めると100に達するかもしれない。
『できるだけ鹵獲してください! 片付け面倒なんです!』
極めて傲慢でも悪意はない光翼人間が、そんなことを言っていた。
☆
多種多様な言語も、自動翻訳機を通せば日本語に聞こえる。
『『『『『突撃ぃ!』』』』』
危険極まるEVAを、小さなガスガンによる進路変更だけで成功させた地球各国の軍人たちが、人間が使うことを前提に設計された宇宙船の入口をこじ開けて入り込む。
もちろん迎撃はある。
たまに無警戒なアホ海賊もいるが、艦橋近くまで攻め込まれたら反撃はする。
それでも軍人たちは止まらない。
おそらく選抜されて長年多額の国家予算で育てられてきた精鋭たちが、戦友が何人倒れても一切足を止めずに刺し違え上等で海賊をしとめていく。
地表で何もできないまま海賊に蹂躙された屈辱に苛まれた彼らは、恐るべき復讐者として蹂躙し返していた。
「すっげぇにゃ」
「「「にゃっ! にゃぁっ!」」」
キンが圧倒され、猫耳幼児たちが興奮して言葉を忘れて騒いでいる。
ひとりも怯えていないんだから、猫耳ってのは本当に戦闘に向いている。
「サルくん、これだけ強いのに最初の襲撃では海賊にやられ放題だったの?」
「生身では宇宙船には勝てませんよ。それに、これだけ気合いが入った兵士を、不意打ちされた状況で一か所に集めるのも現実的じゃなかったでしょうし」
ベリル運送が用意できたのは民生品の毛が生えたレベルの品だ。
海賊の装備には明確に劣るが、対抗はできる。
足りない分は磨き抜いた技術と犠牲で埋めて、複数の海賊船から海賊の生存者をゼロにした。
「海賊船Cから撤退してください。自爆装置解除が間に合いません」
AIで自動的に行われるクラッキングの進捗を見ていたブルネットが伝える。
残念ながら脱出できたのは4割ほどだったが、特大海賊船の爆発四散を目視してしまった残りの海賊が戦慄した。
「社長、残りは始末しても?」
移乗攻撃で鹵獲した宇宙船が大小10隻。
阻止しようとした海賊船のうち俺が破壊したのが7隻。
まだ海賊船は20隻以上生き残ってはいるが酷く混乱している。
海賊船同士をぶつけるようエンジンを潰して機関砲で追い立てれば、すべての船を仕留めるのも不可能ではないはずだ。
「サル、ちょっと待つにゃ。生き残りの軍人が次の獲物を襲いたいって言ってるにゃ」
キンは『マジかよ……』という感じの呆れ顔になっている。
「最初のは不意打ちだったから上手くいったと思うんですが」
「にゃーも言ったけど聞かねーにゃ」
「サルくん、キン姉、成功率は?」
「サルに聞くにゃ」
「俺だって軍事に詳しくありませんよ。……海賊船を落とすことはできても、鹵獲はまず無理だと思います。鹵獲した宇宙船は、すぐには使えないでしょうし」
「そっかー」
ベリルの返答が雑なのには理由がある。
機関砲を操作して、地球人が制圧した船を攻撃しようとする海賊船の武器を狙っているのだ。
砲塔型の大砲や大型レーザー砲、果てはタキオン砲まで根元から吹き飛んで……タキオン砲!?
「社長!」
「うわやばっ。サルくん追って!」
「ブルネット! 地球の船への援護をお願いします。クソっ、海賊どもも気づきやがったな!」
以前にこの船がベリル運送の資産の9割以上だと言ったが、残りのほぼすべてがベリル号に搭載されているタキオン砲だ。
それより大型のタキオン砲となると、修理が必要な状態でもかなりの額になるはずだ。
「サル。なんか、鹵獲した船が海賊に向けてぶっ放し始めたにゃ」
「マジですか。連中には宇宙船取り扱いのマニュアルなんて渡してませんよ!?」
「その場で学習したのかもしれないわ。何十億人もいる中の上澄み中の上澄みならあり得る、のかしら」
ブルネットが困惑している。
俺は、移乗攻撃に参加した軍人たちよりも、地球視点では怪しい零細宇宙企業でしかないベリル運送にそこまで賭けた政治家連中の方が怖いと感じた。
「サルくん! トラクタービームを使うから反動とかよろしく!」
ベリルが言い終える前に船から光が伸びる。
その光が等速で星系外へ向かっていたタキオン砲を捉えるまでは良かったんだが、慣性制御で消しきれない衝撃が船全体を襲う。
致命的な事態になる前に速度と方向を一致させるのに成功はしたが、正直、生きた心地がしなかった。
「社長。勘弁してください」
「ごめんね。でもこれで、3人分の治療費になるかなって」
「そう言われると文句を言えませんね。しかし今回、いくらの儲けになるんでしょうか」
爆発が怖いのでタキオン砲はトラクタービームで捉えたまま固定。
俺は、十字架型の大型船を加速させて、『地球艦隊』と連携して海賊艦隊を挟み込める位置へ移動する。
「海賊がどの程度降伏するか次第かなあ」
『降伏する! 降伏するから命だけはっ!』
『こちら星系管制。例の上司が海賊嫌いなので、その場で捕まえるのはいいですけど最終的に生かすのはナシでお願いします』
通信の暗号強度が弱く、海賊船の中には解読して聞いてしまった船もあったようで、海賊艦隊が恐慌状態に陥った。
海賊の残弾を考えない攻撃は、強くはあるのだが単純かつ隙だらけだ。
俺が超光速で船を飛ばしながら、数秒後にどの位置でどの方向へ飛んでいるかをブルネットとベリルに伝えると、ふたりは俺よりも正確に射撃して、シールドにまわすエネルギーを減らした海賊船を貫き、凹ませ、爆発させる。
「サルさんが戦闘で勝ってくれるのに、鹵獲という結果に確実には繋げられないのが心苦しいわ」
誇らしさと少しの無念さが交じった表情で、ブルネットは獲物をなぶる。
その必要があるからだ。
「んー、そろそろいいかな。キン姉、あっちの船に連絡して。今なら移乗攻撃できるかも、って」
「わけまえはどうするにゃ? 戦利品の分配はまだとはいえ、連中も船に乗ってるにゃ」
「今は交渉の時間も惜しいし、向こうの取り分は7割にしちゃおう。嫌なら勝手にしていいけどこっちからの支援はなしって伝えて」
「了解にゃ。……連中、やる気がありすぎてこえーにゃ。全部鹵獲する気だにゃ」
元海賊船が現海賊船へ突撃を開始する。
数では負けていても士気が違う。
回避しようとする海賊船にシールドを展開したまま突っ込み、双方が大打撃を受けた状態で、海賊船へ地球人が飛び移る。
死の間際でも闘志を失わない攻撃側と、殺意はあってもどこか逃げ腰な防御側の違いは、勝たねば未来のない地球と金を稼ぎに来ただけの海賊の、立場の違いからきているのかもしれない。
「えーっと、再利用可能な船だけでも、合計で20隻くらい鹵獲できそう、かな。キン姉、どう?」
「どれだけ傷んでいるか分からない船はこえーにゃ。デカくて状態のいい船だけ受け取るのもアリだと思うにゃ」
「交渉、揉めそうねえ……」
全滅寸前の海賊艦隊を丁寧に痛めつけながら、ブルネットが憂鬱なため息を吐いていた。
◆ BERYL FLEET
規模:1 防衛:2 遠征:2
◆ BERYL THE GREAT MK2
船体:3 / 跳躍:4 / 航続:4 / 装甲:2 / 居住:3 / 船倉:2 / 兵装:4
◆ CREW
ベリル |船長Lv1 [財産Lv6]
サル |操縦Lv4 [疲労Lv6]
ブルネット|射撃Lv1 [事務Lv1]
キン |白兵Lv1 [整備Lv1]
妹猫耳ズ |白兵Lv1 [未熟Lv2]
新人猫社員|船長Lv1 [未熟Lv3]
猫耳の下僕|操縦Lv2 [疲労Lv1]
◆ EARTH FLEET
規模:2 防衛:1 遠征:0
◆ CREW
軍人集団A|白兵Lv1 [士気Lv5]
軍人集団B|操縦Lv1 [士気Lv5]
軍人集団C|研究Lv1 [士気Lv5]




