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地球人に人権がない銀河で、零細猫耳社長にスカウトされました ~生体パーツ扱いのどん底から操縦チートと拿捕ビジネスで成り上がる~  作者: 星灯ゆらり
第1章 地球人に人権がない銀河で

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17.地球のお猫様

 今日のブルネットは気合いが入っている。

 普段から熱心に手入れしている肌の上から、普段以上の徹底した化粧。

 服は猫耳の伝統である金属服で、しかも体の線が出すぎない上品仕様だ。


 そんな彼女と、あの混乱を生き延びた親父とお袋が、畳の間で向かい合っている。

 俺は、生きてこの状況に到達できたことに喜び、涙をこらえるので精一杯だった。


「サルくんサルくん。サルくんのお父さんとお母さん、滅茶苦茶困ってるみたいだよ?」


「もてない息子が美人の嫁さんを連れてきて驚いているんですよ」


「ブルネットお姉ちゃんは美人だけど、そういうのじゃないと思うな……」


 ベリル社長は座布団に座って尻尾を畳の上に伸ばした状態で、先端を『ぱたぱた』と小刻みに動かしている。

 これは、納得がいかず戸惑っている感じだな。


 視線を感じる。

 俺を30年老けさせて日焼けさせるとこうなるという顔の親父と、外見はほとんど似てないんだが肌や目や髪の色が俺そのままなお袋が、アホでも分かるはずの目配せを俺に対してしている。

 俺は舞い上がりすぎて、アホ未満になっていたようだ。


「改めて紹介します。こちらはブルネット。私の婚約者です」


 実家訪問が決まってからの数時間で必死に正座の練習をしたブルネットが、付け焼き刃とは到底思えない動きで頭を下げる。

 日本の田舎そのままな光景の中に猫耳のブルネットがいる光景は、よく考えてみると違和感の塊かもしれない。


「あ、うん」


「す、すばらしいお嬢さんね?」


 親父もお袋も、悪意は全く感じないんだが混乱が酷い。


「お茶のお代わり持ってくるわね!」


「ちょっ、母さん! 俺が持ってくるから!」


 ひとりで撤退しようとするお袋と、逃がすまいと押し留める親父。

 ブルネットだけでなく義妹予定で上司でもあるベリルもいるんだから、もっとシリアスに決めて欲しかったと心底思った。


 それから十数分して、俺が本物の俺であり、ブルネットたちが宇宙人で婚約者と上司であることがようやく伝わった。


「まあ、その、なんだ。生きてて良かった」


「顔を出してくれたのは嬉しいけど……」


 ふたりとも言いたいことを言えていない感じだ。


「ねえサルくん、ブルネットお姉ちゃん。あまり長居はできないから、僕が話を進めていい?」


 俺の両親への挨拶で疲労したブルネットが少し考えてから頷く。

 親父とお袋は猛烈な勢いで頷いている。


「この惑星は数ヶ月前に複数の宇宙海賊に襲撃された。被害を受けたのは大都市が中心で、大勢死んで大勢さらわれて、惑星環境にも大ダメージ。その直後に銀河通商の艦隊が海賊を皆殺しにして惑星の応急修理をした。……ここまではいい?」


 ベリルは、縁側から見える青い空を指さす。

 そこには、静止軌道に浮かんでいるのに、地表から見える大きさの巨大衛星があった。

 地表に人がいる状態での惑星改造と惑星防衛を同時に行う、とんでもなく高性能な衛星だ。


「「はい」」


 ふたりは従順に頷く。

 表情にあるのは劣等感、ではない。

 恐怖というより畏怖かな?


「その後は、地表で不足している物資が宇宙から撃ち込まれるけど、それ以外は放置されてる。そのため地表は混乱状態、だよね?」


 ベリルは俺に確認を求めてくる。

 残念ながら、俺が地球の状況を知らされたのはブルネットと一緒にここへ連れてこられる直前なのでさっぱり分からない。


「「はい!」」


 代わりに親父たちが元気に答えた。

 健康に問題はなさそうで安心した。


「なあ親父。その態度、テキトーにごまかして相槌打ってないか?」


「サルくん! 親御さんに失礼なこと言うのはダメだよ。大事にしないとだよ?」


 猫耳は基本的に寿命が短いので、両親という存在には思い入れがあるのかもしれない。


「答える前にひとついいか?」


「ああ」


 親父が口調を崩して聞いてきたので応じて向き直る。

 こほんと咳払いをした親父を見て、ブルネットが「サルさんにそっくり」と小さくつぶやいた。


「あの日の電話の内容がマジなら、地球に戻って来ないほうが良かったろ。そりゃ、会えたのは嬉しいけどよ。……それと俺は嘘は言ってないからな」


 まだ混乱はしているが、親父の調子が宇宙海賊襲来以前に近付いている。


「そうよ! 婿入りでもなんでもして生活基盤を整えることに集中しなさい! ここにいたら、あんたにたかろうとする人が山ほど現れるわよ!」


 お袋の調子は既に以前に戻っている。


「無視すればいいでしょう」


「あんた、人の嫉妬を甘く見て失敗するつもり? いくら稼いでいるか知らないけどね、宇宙じゃ使えない日本円でいくらじゃなくて、滅茶苦茶稼いでいるんじゃないの?」


「まあ、最低限の性能の恒星間宇宙船なら買えるくらい?」


「サルくん、結婚するんだからもっと貯蓄は増やしなよ。それと、最低限の性能だと海賊とかに無防備だからね」


「……本当に買えるのね」


 お袋は、納得と驚きと呆然が渾然一体となった、面白い顔をしていた。


「それでね。この星には物資搬入の依頼を請けてやって来たの。最初はサルくんの実家に寄る予定はなかったんだけど……」


 ベリル社長はタブレットを取り出す。

 地球のタブレットとは性能は桁違いだし操作方法も少し違うが、機能はだいたい同じだ。


「外から見たとき、家の近くに猛獣を見つけちゃって」


 ベリルが言うと、親父とお袋がはっとした。

 以前から、実家の近くには熊や猪が出没していた。

 俺や猫耳たちが助けに来たとでも思ったのかもしれない。


「キン姉が本能を刺激されちゃって……」


「キンさんだけではないですけどね」


 ベリル社長と俺がため息を吐いた数秒後、実家の裏山から迫力のある猫耳の雄叫びと、恐怖を隠し切れない熊の咆哮が響いてきた。

 太い木が力任せにへし折られる音も連続して響いてくる。


「避難をっ」


「お待ちください、お義母様、お義父様」


 慌てる俺の両親をブルネットが宥めている。

 ベリルは諦め顔でキンに連絡するが、反応がない。


「にゃーっ!!」


 聞き慣れた大声と、熊の断末魔らしき轟音が裏山から反響してくる。

 俺は比喩でなく頭痛に襲われながら、返り血まみれで戻ってくるだろう猫耳たちのため、勝手知ったる実家の風呂を沸かし始めるのだった。



  ☆



「特権階級の遊びを経験しちまったにゃ」


 熊の巨体をひとりで引きずって、キンが山から降りてきた。

 血の臭いも酷いが虫の気配も強い。

 キンは返り血だけでなく、野生動物の毛に住んでいた虫まみれにもなっていた。


 この時点で既に十分問題だが、日本に限らず地球なら論外な光景がキンの後ろに続いている。


「おっちゃーん!」


「狩ってきたにゃ!」


「ごはん! ごはん!」


 泥まみれ、草まみれの猫耳幼児たちが、片手には血がついた刃物、もう一方の手には猪の一部だったものを誇らしげに掲げている。

 地球基準で猟奇的で危険な行動かもしれないが、ただの猪と栄養十分な猫耳を遭遇させたら必然の結果でしかない。


「親父! 料理手伝ってくれ!」


「ワイルドだなあ」


 俺の親はどちらも衝撃を受けたようだ。

 お袋は救急車を呼ぼうとしてベリルに止められたので消毒液と包帯を用意し、親父は俺と一緒に庭に解体場所と肉を焼くための設備をでっちあげる。


「ずいぶん力持ちだ。……本当に宇宙人なんだな」


「そのままで子供が生まれる程度に近い種だよ」


 血抜きが不十分なので日本基準では美味いとはとても言えないが、宇宙の不味いメシと、日本製のタレをつけて焼いた肉を比較すれば、後者に軍配が上がる。

 特に、獲物を狩った本人たちには大好評だ。


「親父、宇宙に連れて行かなくて本当にいいのか? 地上に残れば俺の肉親だって理由で狙われるぞ。地球出身で宇宙船を持てる奴は極少数のはずだ」


「母さんとも話したがな。宇宙までついて行って、動物あつかいされるのも嫌だしな」


「ブルネットたちはそんなことはしないぞ?」


「それ以外からだ。それに、この歳になると環境を変えるのも億劫でな。まあ、お前は気にせず嫁さんと自分のために働け。子供ができたら子供優先でな」


「……分かった」


 これ以上言っても時間の無駄だし、親の覚悟を馬鹿にすることにもなる。

 俺は親父と一緒に臭いと嫌な感触に耐えながら、ひたすら肉を焼いていく。


「うめーにゃ!」


 風呂に入ってさっぱりしたキンが、缶ビール片手に串を刺した熊肉をかじっている。

 かなり固いはずなんだが平然としている。

 牙と顎が頑丈なんだろう。


 お袋は、風呂上がりの勢いで肉に向かおうとする猫耳幼児にバスタオルを巻くのに忙しい。

 初めて会った大人を警戒する猫耳幼児もいたが、ブルネットが甲斐甲斐しくお袋を補助しているのに気づくと大人しくなる。


 一番年上で、母親代わりで、権力者だからな。


「満足してもらえるのは嬉しいけど、これで満足できてしまうような、普段の食生活が心配ねえ」


 一通り猫耳幼児の面倒を見終わったお袋が、俺をじっと見てくる。

 甲斐性! 甲斐性! と主張されているのは、長年親子を続けているから分かる。


「お義母様。地表と宇宙では物価が違いますので……」


「息子がきちんとフォローしてくれる娘さんと結婚できるなんて」


 感極まって泣く『ふり』をしたお袋が、わざとらしく俺を『ちらっ』と見る。

 俺は降参のつもりで一度両手をあげてから、ブルネットに感謝の目配せをして、血なまぐさいジビエ料理を続けた。



  ☆



「サル。今日は悪かったにゃ」


 酔いが抜けたキンが頭を下げた。

 既に夜だ。

 猫耳幼児たちは、実家の上空50メートルに浮かぶ猫の巣号から自分の毛布を運んできて畳の上で寝ている。

 天然素材の寝台で寝るという、子供たちにとっては人生初の経験らしい。


「息抜きは必要ですよ。キンさんにとっては狩りだったということでしょう」


「そりゃそうかもしれねーが贅沢すぎるにゃ」


「物資搬入依頼の役得です。銀河通商に睨まれない程度に楽しめばいいと思いますよ」


 地球人の社会は静かに崩壊が進んでいる。

 銀河通商は海賊を排除した後、地球人を人類としては扱わなかった。

 資源を供給するのも、野生動物が減りすぎないよう餌をやっているようなものだ。


 あらゆる要求や懇願が銀河通商第7営業艦隊に対して行われた。

 最初は善意で応じる人間もいたらしいが、立場をわきまえない地球人の要求に呆れて、今では全くの無反応だ。


 その結果発生したのは人類規模の絶望感だ。

 努力しても外へ出られない。

 すぐ近くにいる実力者は自分たちに反応すらしない。


 自暴自棄で国単位で暴れ出す連中や、絶望で何もしなくなった連中までいて、地球人は外からの援助なしでは生きられなくなりつつある。

 いや、既に独自の文明としては終わっているのかもしれない。

 宇宙から送り込まれる、圧倒的な効率と膨大なエネルギーで生産される物資が、これまで自力で生き抜いてきた人類を急速に堕落させつつある。


「サル。この星の人間のために何かしようとは思わないにゃ?」


「そこまでの義理も力もないですよ。あのクソども……失礼、自称地球防衛艦隊がスカウトしたらいくらでも地球人が応じそうな状況なのは気に入らないですけどね」


 俺は宇宙船の操縦に向いている。

 超光速の戦闘では特にだ。

 だが、俺より優れたパイロットは、地球には何人か何万人かは知らないがとにかく存在するはずだ。

 絶望と閉塞感に満ちた状況なら、人類の安全を私利私欲のために叩き売った奴らの甘言に乗る奴も、出てきてしまうだろう。


「サルさん」


「ブルネットさん。すみません、お袋の世話をしてもらって」


 婚約者を出迎える。

 懐かしい香りと味のスープを、人数分より多く、カップで運んできてくれた。


「味噌汁、ですか」


 懐かしい。

 地球にいた頃は好きでも嫌いでもなかったこの味が、今はやけに美味く感じる。


「お義母様に作り方を教わったの。材料の調達を考えると頭が痛いメニューばかりだけどね」


 ブルネットは嬉しさと困り顔が混じった表情だ。


「すげーいい星だから住めるなら住みたいにゃ。明日、ガキどもがダダこねてここに残りたがるのが目に見えるにゃ」


「銀河通商も慈善事業じゃないですからね。人権を持つ人間として地球に住もうとしたら、いくら請求されることか」


 俺たち3人は、タイミングをはかったわけではないのに同時にため息を吐いた。


「3人ともここにいたんだ」


 ベリルがやって来る。

 明日から始まる物資搬入の打ち合わせで忙しくしているが、通信での打ち合わせなので俺の実家を楽しめているようだ。


「サルくん以外のこの星の人、何してるか知ってる?」


 猫耳幼児に夢中な変態あるいは淑女どものことだ。


「サルの実家が目立たないよう工作するって言ってたにゃ」


「あの人たち、子供たち以外に対しては雑だから少し心配ね」


「少し嫌な予感がして来ました」


 4人で味噌汁を啜っている間に、手遅れになった。


『地球人類はお猫様の奉仕種族になるべきなのです』


 インターネットでも、TV放送でも、防災行政無線でも、宗教勧誘が始まったのだ。


 その、あまりにアレな宣言に、俺も猫耳たちも思考が一時停止する。

 この瞬間から、ベリル運送は一部の人類から強烈に憎まれ、別の極一部の人類から強力に支持される存在となった。

 なってしまったのだ。


「……どう収拾をつければ良いんでしょうか?」


「サルくんが分からないなら、僕にも分からないかな」


 現実逃避する俺たちに対し、銀河通商第7営業艦隊から緊急の通信が届く。

 顔が真っ青になったベリルが拒否したので、仕方なく俺が対応に出る。


『よくやってくれました』


 光翼人間の背中の翼は、大きく広がって眩しく輝いている。

 本人の服装を少し変えれば、宗教画に登場してもおかしくない見た目だ。


『我々を天使と混同する者たちが、非常に、不愉快だったのです』


 いつも無表情の顔が、心底嫌そうな表情になっている。


『我々銀河通商第7営業艦隊は、ベリル運送に対する支援を公式に表明します』


「ええっと、それって、この星の人は猫耳でも崇めてろって、煽りだったり?」


 ベリルが恐る恐る尋ねると、光翼が『ばさっ!』と力強く上下した。


『我々は他者の信仰に介入しませんが、何を感じるかは我々の自由です』


 これは、地球人に対してぶち切れていたのかもしれない。


『今後、我々銀河通商第7営業艦隊は、戦力の大部分を次の惑星へ移動させます。命令するつもりはありませんが、搬入依頼と同時に惑星警備の依頼も受けて頂けると助かります』


 地球はこの銀河で高価な惑星だ。

 惑星改造が進めば超絶高価な惑星になる。

 今は銀河通商を恐れて近付かない宇宙海賊も、駐留艦隊が減れば再び襲撃や占領を目指すようになるだろう。


『今後ともよろしくお願いします』


 光翼人間は言いたいことだけ言って通信を切る。


「サルくん、どうしよう? なんか、この惑星の第2勢力になっちゃったんだけど」


「とりあえず、物資搬入依頼を成功させましょう。この惑星から立ち去る場合でも、最低でも治療費だけは稼ぐ必要があります」


 俺の自力センサーが、『もう逃げられないぞ』と断言していた。

◆ BERYL THE GREAT

船体:1 / 跳躍:3 / 航続:1 / 装甲:0 / 居住:0 / 船倉:0 / 兵装:4


◆ CAT'S NEST(1/1)

船体:2 / 跳躍:2 / 航続:3 / 装甲:2 / 居住:2 / 船倉:2 / 兵装:0


◆ CATS TOWER(1/1) *2

船体:2 / 跳躍:2 / 航続:2 / 装甲:1 / 居住:1 / 船倉:1 / 兵装:1


◆ CREW

ベリル  |船長Lv1 [財産Lv6]

サル   |操縦Lv4 [疲労Lv1]

ブルネット|射撃Lv1 [事務Lv1]

キン   |白兵Lv1 [整備Lv1]

妹猫耳ズ |白兵Lv1 [未熟Lv2]

新人猫社員|船長Lv1 [未熟Lv3]

猫耳の下僕|操縦Lv2 [疲労Lv4]

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