14.猫たちの初陣
「海賊船が連合して大艦隊を組んだ、ですか?」
朝食で出た話題に、俺は目が点になった。
そのままだと野菜もどきたっぷり肉もどき雑炊が冷えるので、すぐに食べるのを再開する。
「はい。現地星系の超光速通信網で流れている情報からは、そう推測できます」
自称お猫様の下僕であり、実際は船長候補猫耳のお世話係である地球人が、猫耳幼児の口元を拭きながら真顔で答えた。
「罠、かなあ?」
ベリル社長はチューブ状容器を両手で持ったまま考え込む。
一食で食べて良い数が決まっているので、猫耳幼児に奪われないようチューブ状容器は死守の構えだ。
「ンなことして海賊の商売が成り立つのにゃ? 小さな獲物を山分けしても腹はふくれねーにゃ」
既に自分の分のチューブ状容器を空にしたキンが、少し冷めた雑炊を行儀悪く口へ流し込む。
子供たちが真似しそうになって、ブルネットに注意されている。
「そこまでは分かりません」
報告と同時に送られてきたデータは簡潔かつ明瞭。
口頭での説明も分かりやすく聞き取りやすい。
気になって自動翻訳機を確認してみると、地球の言語ではなく異星人の言葉を使っているのが分かった。
「……お、おう」
俺とは比較にならないレベルのエリートであったことが察せられて、俺は無意識に苦手意識を持つ。
「サルくんどうしたの?」
「サルさん。今のサルさんは特別なパイロットですよ。ブラックマーケット襲撃以降は特に」
ベリルに心配され、ブルネットから暗に『しっかりしなさい』と伝えられ、俺は腹に力を入れて気合いを入れ直す。
「その調子で頑張って治療費を返済してくれ」
「もちろんです」
お猫様の下僕は礼儀正しくはあるが、その熱意も忠誠も猫耳にだけ向けられていた。
☆
『なんでぇ、なんでぇっ!?』
『どうして当たらないんだよぉっ!』
今日も海賊の悲鳴がうるさい。
アホみたいに高額だが超光速で飛ぶミサイルを使えば俺も怖くて近寄れなかったのに、威力重視のミサイルや大砲ばかり使うので手癖で回避できてしまう。
「サルくん、猫の巣艦隊を攻撃に参加させる? 今なら不意打ちできるよ」
「最初は戦場の空気に慣れてもらうだけでいいと思います。体や心が人殺しに向いていない人間もいますから。今回駄目そうなら整備や事務に転向してもらうのはどうでしょう?」
「お姉ちゃんやキン姉はどっちもできるよ? 私もだけど」
「新入社員が全員向いてるならラッキーってことで」
お互い、会話に頭はほとんど使っていない。
ベリル社長は、戦場だけでなく近隣星系から海賊の増援が出発していないかの確認も含めた情報収集と分析。
俺は、加減速するだけで減っていくエネルギー残量を横目で見ながら回避と移動を続ける。
「サルくん、たぶんあれも高速船。他は基本鈍足だよ」
画面のひとつに表示されている海賊艦隊の情報が詳しくなる。
1光秒未満の距離で撃ち合えば、俺とベリル社長が乗るベリル号も数秒で撃破されるだろう大戦力だ。
「今回は稼ぎより安全重視でいきます。猫の巣艦隊に届きそうな船から壊していきますね」
「ん。よろしく!」
ベリルが上司で社長なのは変わらないが、戦闘に限らず俺に任せられる頻度と範囲が増えた。
俺が信用されるようになったというのは間違いない。
それ以上に、ベリル運送という組織が大きくなり、ベリルがすべてを動かすのが難しくなったのだと思う。
『死ね! 死ねよぉっ!』
『オレたちを飢え死にさせようとするお前が悪いんだ! 悪魔め!』
「実はですね社長。俺、敵から悪魔と呼ばれて恐れられるという状況に憧れがありまして」
賞金額と所属を確認してから、1隻あたりエネルギー残量2パーセント分のタキオン粒子を撃ち込む。
高速を出せるということは、加減速やエネルギー容量に重点を置いた船ということだ。
普通の小型船なら耐えることもある一撃で、どれも簡単にシールドごと撃ち抜かれて爆散する。
「サルくん、エネルギー残量が半分切ったよ? 大丈夫?」
「海賊の増援がいきなり現れたりしない限り余裕はありますよ。拿捕できるかどうかは別の話ですが」
前半の言葉は自信に満ち溢れ、後半の言葉は心底情けない。
敵船の残骸が飛んでいく向きはばらばらでしかも速い。
敵本体を放置して拿捕を目指しても、回収できるのはひとつだけ……いや、アンカーワイヤーを積んでいないし積むためのスペースも残っていないから、回収自体不可能だ。
「トラクタービームとかが買えればいいんだけど、高いんだよね」
切なくため息をつくベリルはまさに猫耳美少女。
ただしその中身は、資金繰りに苦しむ零細企業の経営者だ。
「まぐれ当たりはあり得ますから、万一に備えた保険もお願いしますよ」
今戦っている海賊相手なら100戦して100勝する自信はある。
だが、一度も被弾しない自信はない。
ベリル号は装甲を限界まで削っているので、シールドで防いでも被害は悲惨なものになる。
外付けしているタキオン砲もまず壊れるはずだ。
「にゃぁ……」
考えるべきことが多すぎ、ベリル社長が鳴いた。
俺はベリル号を加速させ、鈍足の船しか残っていない海賊艦隊を残し、猫の巣号へ帰還するのだった。
☆
帰還途中には『実は被弾していたふり』や『機体の調子が悪そうなふり』をするのがお勧めだ。
エネルギーの消費が少しだけ増えるのと引き換えに、敵が勝ち目のない戦いを決意する確率が上がる。
『今にゃ!』
キンが命令を下す。
猫の巣号と、元海賊船のキャットタワー1号と2号が、船倉に詰め込んでいた戦闘用デブリを大量にばらまく。
もちろん後退しながらだ。
高速で突っ込むと致命となる罠に囲まれたまま、猫の巣艦隊は追撃してきた海賊艦隊に向かい合う。
相対速度はわずかで、しかも敵味方の間にはデブリがたっぷりなので、激しい戦いなど起きようがない。
『前に出ようとすんにゃ!』
『戦闘中でも交代しなさい。疲れを甘く見ては駄目よ』
猫の巣号は年中無休の24時間体制。
キャットタワー1号と2号は8時間勤務の3交代制だ。
やる気はたっぷりの船長候補たちが対空レーザーを使い、未だ回復の途上ではあるが遠くを感じられるお猫様の下僕たちが脅威を感じ取る索敵と回避を担当している。
本来、宇宙での戦闘は時間がかかる。
シールドを展開し、ビームや質量弾やミサイルを撃ち合い、減衰はするが光速のレーザーで船の近くまで来た質量弾やミサイルを撃ち落とす。
近づけば敵味方の被害が急増するので、命知らずの海賊でも接触するほど近づくことは滅多にない。
「意外と戦えてますね」
「あの子たちはサルくんが来てからの戦いしか知らないから、危機感がないんだ。心配だよ」
「恐怖で動けないよりはマシですよ」
俺はベリルを慰めながら、デブリを躱して猫の巣号の飛行甲板に着艦する。
キャットタワー1号にも2号にも似たような飛行甲板があり、残念ながらそちらには何も載っていない。
社長を残して降りると、キンが待ち構えていた。
「サル! 補給は!」
「時間優先でお願いします。80パーセントあれば十分です」
「お前ら聞いたな! 急げ!」
キンだけでなく数人の地球人も補給作業に従事している。
エネルギー補給以外は外から目視の確認程度だが、技術を身につけているのはキンだけなので効率は……妙にいいな。
「キンさん! そいつらにもう教育を?」
「飲み込みが早すぎてこえーにゃ」
「やる気があるのはいいことですよ」
猫耳幼児たちに向ける忠誠心ほど強烈ではないが、キンに向ける感情もかなり熱い。
「適量ってもんがあるにゃ。……終わりにゃ! サル、82パーセント!」
「了解です! 今出ます!」
慌ただしくベリル号に乗り込む。
デブリの数が減り、海賊船との距離が縮まり、猫の巣艦隊がレーザー砲で猛烈に対空射撃を行い、海賊船からのミサイルがあちこちで爆発している。
爆発も徐々に猫の巣艦隊に近付いていて、かなりのピンチに見える。
「よし!」
各船と通信していたベリルが顔を上げる。
良いことを思いついた顔をしていて、猫耳にも尻尾にも力がみなぎっている。
「サルくん! ここから狙い撃てる?」
「えっ……はい。タキオン砲は固定式ですから、飛行甲板からとはいきませんが」
俺は高速で発進するつもりだったので、発進の操作を中断しながら答える。
「じゃあ、猫の巣号からちょっとだけ離れて全力で撃ちまくってから猫の巣号へ戻って! 味方と海賊艦隊の速度差がほぼない今倒せば、いっぱい拿捕できる! たぶん!」
「おおっ」
俺は演技でなく、本気で感嘆した。
速度と自力センサーで勝ってきたからそれで戦うが当たり前になっていたが、よく考えてみればそれにこだわる必要などない。
「遠いのから撃っていきます? それとも近いのから?」
「途中で逃げ始めると思うから遠いのから! よろしく!」
俺は大きく頷き、限界まで速度を下げて発艦させる。
海賊に狙いをつけさせないために位置は頻繁に変えながら、自力センサーだけでなく、猫の巣艦隊がこれまでの戦いで集めたデータも参考にして海賊艦隊の最後尾を狙う。
「エネルギー残量10パーセントを4回使います。……いきます」
戦闘機に載るサイズなのでタキオン砲は小さい。
当然、放たれるタキオン粒子の範囲も狭いのだが、狙うのに使ったデータが恐ろしいほど正確だ。
何よりタキオン粒子が速い。
慌てて対超光速デブリを撒いても、エネルギー残量の10パーセントも費やして放った粒子は半分以上が海賊船に届き、その重要な区画を食い破る。
『おいっ! さっきから降伏するって言ってるだろう!』
『私は星系防衛軍の士官だ。この艦隊には潜入捜査のため……聞いているのか!?』
海賊艦隊から聞こえてくる、本当か嘘か分からない発言を、俺もベリル社長も聞き流す。
「サルくん、次の次でいいからあの艦お願い! たぶんミサイルいっぱい残してる!」
「了解! 次に狙います!」
あわせて4隻の海賊船が連続して残骸と化す。
10パーセントで消し飛ばないんだから、かなりの大きさでかなりの装甲の厚さなのだろう。
「ブルネットお姉ちゃん、降伏勧告いける?」
『難しいと思うわ。船の数が多いから、偽装降伏して私たちを狙う海賊を防ぐのが難しいもの』
「それじゃ適度に減らしちゃおう! サルくんよろしく!」
「賞金額と船の推定価格を教えてください。……はい受け取りました」
距離が近いので猫の巣号に戻っての補給も簡単だ。
教育に悪そうなので、海賊たちの断末魔は猫耳幼児たちには聞こえないようにして、淡々と処理していった。
☆
「「「やったにゃ!」」」
雄叫びをあげる猫耳幼児たちに、それを崇めるお猫様の下僕たち。
ベリル運送の幹部陣である大人猫耳3人と俺は、その雰囲気にはついていけない。
「やべーにゃ。回収できる戦利品が船倉の3倍はあるにゃ」
「生体パーツにされた人でまだ生きているのはひとりだけだよ。サルくん、また銀河通商に頼むの?」
「一時保存用の装置……例の棺桶もどきに突っ込んでおいて、今度地球の近くに行ったときに依頼するつもりです」
「ってことは銀河通商の輸送船はなしにゃ? あれ、高いけど頼りになるにゃ?」
「あまり銀河通商に頼るのもね。今でも、ベリル運送は銀河通商の協力企業と外部から見られているわ。これ以上関係を深めるのは、悪いことばかりではないけど、良いことばかりでも、ね」
海賊船の残骸が大量に浮かぶ宇宙で、俺たち4人は良い考えが浮かばず悩む。
「ベリル社長、儲かるものだけ回収するというのは?」
「それでも十分儲かるけど、持っていけたら倍儲かるんだよね」
「キン、残骸を動ける程度に直すことは可能かしら?」
「無茶言うなにゃ。にゃーはそこまでの技術はないし、サルの同族もまだ無理にゃ」
解決策がない。
いや、次善の策ならあるか。
「近くの星系に運び込むのはどうでしょうか。運べそうな残骸をこっちの船で引っ張るんです」
俺が提案すると、特にベリルが嫌そうな顔をした。
「えぇ……? たぶん、海賊の生き残りもいる星系だよ? 危ないよ?」
「でもベリルちゃん。ここに残骸を残しておいたら同業者か海賊の生き残りに奪われてしまうし、お金を早く稼ごうとするなら、全部運ぶのが一番よ?」
ブルネットもベリルの言葉の正しさは認めている。
その上で、猫耳の治療を考えると捨てるのは論外と言っている。
「……しかたがないかぁ」
「「「おでかけにゃー!」」」
これから危ない橋を渡るということを理解できていない猫耳幼児たちが、元気にはしゃいでいた。
◆ BERYL THE GREAT
船体:1 / 跳躍:3 / 航続:1 / 装甲:0 / 居住:0 / 船倉:0 / 兵装:4
◆ CAT'S NEST(1/1)
船体:2 / 跳躍:2 / 航続:3 / 装甲:2 / 居住:2 / 船倉:2 / 兵装:0
◆ CATS TOWER(0/1) *2
船体:2 / 跳躍:2 / 航続:2 / 装甲:1 / 居住:1 / 船倉:1 / 兵装:1
◆ CREW
ベリル |船長Lv1 [財産Lv5]
サル |操縦Lv4 [疲労Lv2]
ブルネット|射撃Lv1 [事務Lv1]
キン |白兵Lv1 [整備Lv1]
妹猫耳ズ |白兵Lv1 [未熟Lv2]
新人猫社員|船長Lv1 [未熟Lv4]
猫耳の下僕|操縦Lv2 [疲労Lv7]
◆ SALVAGED ASSETS
船体:3 / 跳躍:3 / 航続:3 / 装甲:3 / 居住:2 / 船倉:3 / 兵装:3




