15.鹵獲品と新たな爪
三隻の宇宙船が大量の鹵獲品を牽引している。
戦闘のために加速や回避行動をとれば、鹵獲品を牽引するワイヤーが絡まったりして悲惨なことになりそうだ。
「星系の中央マーケットまで運べば勝ちだよ! みんな、頑張ろう!」
ベリル社長が皆を鼓舞している。
船長志願の新入社員(これまでは普通の被保護者だったし今でも被保護者だ)たちが盛り上がり、しかし操縦のサポートが頻繁に必要になっている。
「ブルネット。俺が代わります」
「いいえ。サルさんはいつでもベリル号で出られるようにしてください」
遠隔操縦でキャットタワー1号を助けているブルネットは疲れていて、猫耳や尻尾の毛並みもよくない。
船に関することなら何でもできるベリルとは違い、ブルネットは射撃はできても操縦は不得意なのだ。
「だったらにゃーを手伝えにゃ!」
いつもなら図々しく聞こえるはずのキンの声には余裕がない。
キンはEVAから白兵や整備までこなす多芸な人間だが、宇宙に浮かぶ船も建造物も多い星系内での操縦は荷が重い。
「キンさんの代わりはやる気が起きないので……いや半分くらい冗談ですから傷ついた顔は勘弁してください」
「気のせいにゃっ」
キンも疲れているせいか、実年齢相応の態度が漏れている。
「サルくん! 意見!」
ベリルは俺をスカウトする前はひとりでベリル号と操縦していたし、ベリル号よりは加速が穏やかな猫の巣号を操縦しながら全体を指揮することも可能だ。
ただし、可能であることと大変であることは矛盾しない。
「社長。せめて何に対する意見か言ってください」
俺は、ブルネットにストローで水を飲ませながら社長に答える。
「操縦めんどくさい!」
「新人が育てば楽になりますよ、多分」
脳に技能を焼き付けるための金はあるが、体力があるキンでもきつかった焼き付けを幼児にするのは躊躇してしまう。
「一箇所に落ち着いて訓練や教育をできるといいのだけどね」
ブルネットが珍しく弱音を吐いた。
猫耳の大人組3人の寿命に余裕があれば、そういう手段もとれたかもしれない。
なお、地球人に関しては、そもそも俺が何かできるかどうかも分からないし、数が多すぎて数年遅れても誤差のはずだ。
「お姉ちゃん、お金だよ、お金。お金さえあらばだいたいのことは解決するの!」
だから無理をして戦利品を運んでいる。
兵器、エンジン、厳重に拘束した海賊など、換金可能なものばかりだ。
「目的地は、星系の中央マーケット、ですか?」
俺は星系内の地図を横目で見ながら確認する。
もとの言葉を平易な日本語に翻訳するよう自動翻訳機を設定しているので、本来はもっと複雑な名称なのだと思う。
「うん! 専門の市場じゃないけど、まとめて売るならそこがいいと思うんだ。時間もあまりかけたくないしね」
「じっくり売るより次の獲物を狙った方が金が稼げそうですからね」
地球人製生体パーツが広まるまでは、俺とベリル号に勝てる相手はほとんどいない。
銀河通商の艦隊や、各星系の虎の子の最精鋭艦隊なら話は別だが、俺もベリル通商も、そんな相手と戦うつもりは全くないのだ。
ふと、大きな音に気づく。
実物ではなく超光速通信網に溢れている宣伝映像だ。
3D画像を再生可能な画面に表示される。
刺激が強い宣伝映像を、猫耳幼児だけでなくベリルやキンまで凝視している。
光の明滅に従い、皆の尻尾が上下に揺れていた。
「パチンコ屋?」
俺の感想はこの一言で要約できる。
刺激という意味では非常に洗練されてはいるんだが即物的だ。
それが悪いとは思わないし、プレイする気はないが見ていて楽しくはある。
猫耳たちが注意散漫になり船の操縦が止まっていなければ、俺も純粋に楽しめたかもしれない。
『サル様、可能であれば即座に応答願います』
お猫様の下僕を名乗る地球人からの通信が届く。
猫耳に対する礼儀正しさなどなく、しかしこれ以上なく真摯な響きがある。
「こちらサル。要件のみ簡潔に頼む」
『画像による攻撃です。外部との通信を遮断してください』
俺の表情が激しく歪み、大きな舌打ちの音が響く。
走ってベリルの顔を覗き込むと、瞳孔が開いたまま派手な画像を追っているのが分かった。
「いきなり止めて副作用はないだろうな!?」
『放置するよりはマシです』
その通りなので、俺はベリル社長から預けられていたマスターキーを使って3隻すべての画面をシャットダウンする。
普通の人間には操縦しづらくなるが、今この瞬間操縦できるのは俺だけなのであまり影響はない。
敵意や害意をうるさく感じ取ってはしまうが、ストレスと引き換えに我慢すれば操縦できる。
「ブルネット! ベリル社長!? キンもですか」
3人とも弱々しく「にゃあ」と鳴いている。
明らかに本調子ではないので、できるだけ優しい口調と態度でその場でじっとするように伝える。
それから少しして、俺個人宛の通信が届いた。
映像を警戒して文字のみ受け付けに設定したので、怪しい勧誘メールのような内容が画面のひとつへ大量に表示される。
「猫耳から独立しろ、ね。裏切り者の末路は悲惨だぞ。本当にな」
裏切りは必要だが裏切る者は不要ってのが常識だ。
これまで積み上げてきた信用的にも論外だし、いい女やいい子たちがいて給料が良い職場なんて裏切るわけねーだろ。
「そっちはどうだ」
『お猫様はわたくしの膝の上でお休みになっています』
誇らしげに言われても、困る。
「そうか。あなたは操縦可能か?」
『……よろしいのですか?』
「緊急時だ。最悪このまま戦争だ。そうでなくても、体調不良の猫耳を抱えたまま鹵獲した戦利品を売る必要がある。ガキどもの教育費や食費にもなるんだ。協力してもらうぞ」
3隻の操縦はこいつらに任せて、俺はベリル号で出撃可能にしておく必要がある。
『お任せください』
透き通った瞳と表情で、凄まじい気合いで断言されて、俺は存在しない尻尾を股の間に隠したくなっていた。
☆
「にゃあ……。酷い目にあったよ」
「あんな単純な手にひっかかるとは、にゃーも油断したにゃ」
星系中央マーケットの『駐車場』に猫の巣艦隊の3隻を停止させる。
向きを変えてゆっくり減速させたので、ワイヤーが一度ぴんと張ったが、ワイヤーが切れたり鹵獲品がぶつかりあったりはせずにすんだ。
「ありがとうございます。サルさん」
ブルネットの声は俺の至近から聞こえた。
回復してから正面から抱きついてきて、そのまま離れないんだ。
「礼は、心情的には言いづらいですが、あの地球人たちにも言ってやってください。あのタイミングならキャットタワーを乗り逃げできたはずです」
ブルネットは頷き、俺に頬と体をすりつけてくる。
俺は理性を維持するので精一杯だ。
「う、うーん、お礼は言うし、能力だけなら社員として採用すべきなんだろうけど……」
ベリルが困り顔をしている。
「あいつらに好きにさせると、甘やかされたガキどもが調子にのるにゃ。ベリル運送でしか通用しなくなったら、困るのはガキどもにゃ」
キンは目を閉じたり開いたり、体を動かしたりして、回復しているか確かめているようだ。
いつもはアレでも、こいつは肝心な場面では良識派だ。
「社長。今回のは攻撃にあたりますか? 正当防衛していいなら、正直、派手にやりたいです」
あれ以上隙を見せていれば、雑な理由をつけて鹵獲品や船を奪いにきていたかもしれない。
そうなれば俺たち全員おしまいだった。
「ごめん、無理。猫耳は法的にも慣習的にも立場が弱いから、基本無法な星系外ならともかく、星系内だとやりづらいの」
「地球人よりずっとマシな猫耳でもそうですか。参りますね」
俺はベリル号をいつでも出撃できる状態にした上で、猫の巣号の中にいる。
反則級の操縦技術があっても、俺にできることなど限られている。
今は、いざというときに備えることしかできない。
『『『おでかけできないにゃ?』』』
猫耳幼児たちは、泣きそうなのに泣いていない。
我慢に慣れてしまっていることが見て分かるので、本当に何かしてやりたいんだが俺は何も思いつかない。
『提案があります』
自発的に猫耳幼児の座布団になっている地球人女性が、至福の表情のまま提案してくる。
『鹵獲品でドローンを組み立てませんか。不足している部品だけマーケットで買えば安価で組み立てられると思います』
「……悪くはねーにゃ。クソっ。ガキを裏切らねーのは分かるから、切るに切れねーにゃ」
キンが『ぐぬぬ』と耐えている。
「作業場所や人を借りる必要があるのでは? バックドアを仕込まれたら最悪がありえると思います」
案にケチをつけるつもりはないんだが、不安要素がどの程度か確認しておくのも重要だ。
ベリル号のパイロットという欠かせない立場にいる俺が、嫌われ役を買ってでる。
「船の近くで使うためのドローンなら、精度も人手もそれほど必要ないにゃ。つーか、にゃーの腕だとそれしか無理にゃ」
「……キンさん。そのドローン、ベリル号に似せることはできますか?」
俺の質問に、キンは最初は戸惑い、次に『にやり』と笑った。
「もちろんにゃ。ついでに、サルの同類が社員になったという噂も流すにゃ?」
「いいですねえ」
俺は『にちゃり』と笑う。
部外者視点では、海賊に対する殺戮を繰り返すベリル号が、1機から3機増えたように見えるはずだ。
特に海賊と関係のある奴は、生きた心地がしないだろう。
「適度な恐怖は交渉を容易にするわ。ドローンに使わなかった部品も高く売り易くなるし、あの映像の慰謝料を請求できるかもしれないわね」
「お姉ちゃん。そろそろ離れないとサルくんが苦しそう……あいたっ」
デコピンされたベリル社長が涙目になっている。
「みんな賛成みたいだから採用するね。キン姉、製作の指揮をお願い。ブルネットお姉ちゃんは売買交渉をお願い。危ないから直接行っちゃ駄目だよ?」
「……分かったわ。心配してくれてありがとう、ベリルちゃん」
ブルネットが優しく微笑む。
ベリルも『にこり』と笑う。
「全部うまくいったらみんなで観光しよう! 頑張って働いた後は、息抜きしないとね!」
『『『りょーかいにゃ!』』』
猫耳も下僕も士気は高い。
士気が高いのは俺も同じだ。
休む間もなくとりかかり、2機のベリル号もどきがその日のうちに組み上がる。
3機の宇宙戦闘機が並んでマーケットの近くを飛ぶと、鹵獲品の売却交渉も、損害賠償請求も、とてもうまくいった。
◆ BERYL THE GREAT
船体:1 / 跳躍:3 / 航続:1 / 装甲:0 / 居住:0 / 船倉:0 / 兵装:4
◆ CREW
ベリル |船長Lv1 [財産Lv6]
サル |操縦Lv4 [疲労Lv4]
◆ CAT'S NEST(1/1)
船体:2 / 跳躍:2 / 航続:3 / 装甲:2 / 居住:2 / 船倉:2 / 兵装:0
◆ CREW
ブルネット|射撃LV1 [事務Lv1]
金毛猫耳 |白兵LV1 [整備Lv1]
妹猫耳ズ |白兵LV1 [未熟Lv2]
◆ CATS TOWER(1/1) *2
船体:2 / 跳躍:2 / 航続:2 / 装甲:1 / 居住:1 / 船倉:1 / 兵装:1
◆ CREW
新人猫社員|船長LV1 [未熟Lv4]
猫耳の下僕|操縦Lv2 [疲労Lv6]
◆ CAT CROW *2
船体:1 / 跳躍:2 / 航続:1 / 装甲:2 / 居住:0 / 船倉:0 / 兵装:2
ここまでお読みいただきありがとうございます!
評価やブックマーク登録やアイコンで応援していただけると、執筆を加速するための超効率燃料になります!




