12.単艦から艦隊へ
「4隻、小型船以下、超光速です」
俺が報告を終えたときには、ベリル号の周囲の状況が画面に映し出されていた。
ベリル号の船外センサーではなく、俺を観察したベリル社長と船内センサーによる合作だ。
「サルくん、これたぶん海賊の戦闘機だよ。サルくんが進路を変えるとすぐに反応してるから、たぶん最低一機は生体パーツを積んでると思う」
「これだけ動き回られると当たりませんね」
1番動きが鈍い奴の『周辺』にタキオン粒子を小刻みに撃ち込む。
敵がどの程度感じられるか探るつもりの牽制だったんだが、恐怖に駆られたように横へ逃げようとして、極僅かのタキオン粒子を浴びてバランスを崩した。
「……今当たらなかった?」
「運を使い尽くしましたかね?」
加速力が落ちた宇宙戦闘機が1機に、全く無傷の宇宙戦闘機が3機だ。
武装が同程度なら、俺たちに勝ち目はない。
その4機を中心に『危険な場所』の感覚が広がっていく。
広がる速度は光速未満だが、広がる範囲が広い。
「敵機が対超光速デブリを撒いたと思われます。俺たちが突っ込んでいくとでも思ってるんですかね?」
敵の攻撃を感じた時点で、俺はベリル号の進路を変えている。
急角度で曲がろうとすると慣性制御が間に合わないので、かなりの大回りだ。
それでも『危険な場所』にはかすりもしない。
「それに賭けるしかなかったのかも。サルくんの自力センサーの能力を確かめるためかも?」
「自力センサー……」
造語なのに妙にしっくりきた。
「いいですね。これからは自力センサーといいましょう。で、社長。攻めます? エネルギー残量は77パーセントです」
ベリルは画面に目を向けたまま数秒間考え込む。
そして、迷いなく断言した。
「エネルギー20パーセント分攻撃! そのまま倒せそうなら攻撃続行!」
「了解です」
ベリル号の向きと速度を調節する。
最適な位置や速度差は目指さない。
思考速度ではAIに圧倒的に負け、純粋な射撃の技術に圧倒的に負けているのが俺だ。
俺の強みは自力センサーだけだ。
だから、強みを信じて危険に踏み込む。
具体的には、デブリが作った危険地に突入した。
「サルくん!?」
「近付けば当たります」
エネルギー残量の1パーセントをタキオン砲へ送る。
普通の宇宙船相手にはシールドなしでも耐えられてしまう、宇宙戦闘機でもシールドを使えば耐えられそうな威力しか出ない。
タキオン粒子がかすめただけの宇宙戦闘機が、俺の自力センサーで反応を捉えられなくなる。
それを俺の反応経由で反映した画面を見たベリルが、小首を傾げた。
「当たるけど危険だし効くとは……んんっ? 撃墜した?」
「殺気のオンオフを完全にできる奴なら、まだ撃墜されていない可能性はあります」
残りの敵機は3機。
タキオン砲があればベリル号を打ち落とせるかもしれない。
砲塔型タキオン砲なんて戦闘機に載せられるわけがないから、敵機の真正面を避ければベリル号が被弾する確率はゼロに近いんだがな。
「敵からの攻撃はありません。敵の攻撃手段はデブリだけかもしれませんね。機関砲くらいはあるかもしれませんが」
軽口のつもりで言った予測は的中していた。
敵の3機が、俺たちにとっては見慣れた動きで機関砲を使ったんだ。
要するに急降下爆撃の真似だ。
当てるためには、近付くしかない。
「少し揺れます」
「にゃっ!?」
慣性制御にエネルギーをまわす。
エネルギー残量が一気に65パーセントまで減るが、『爆撃コース』にのった3機が重なって見える位置へ到達した。
「賞金だけで食っていければいいんですが」
エネルギー残量の5パーセントをタキオン砲へ。
タキオン粒子が光速の10倍の速度で発射される。
超光速戦闘において光速の10倍は特別速くはない。
俺のような自力センサーがあるなら、気付いた時点で逃げれば高確率で躱せる。
戦闘機のような身軽な宇宙船なら特にだ。
「サルくん! 命中! 串刺しだよ!」
生体パーツの能力が低かったのか、生体パーツの能力と操縦者の連携が雑だったのかは分からない。
敵が3機まとめて消えて賞金が振り込まれ、調べる方法はなくなった。
「宇宙戦闘機なら、近くの星系からここまで飛んで来られますかね? ベリル号だと航続距離の関係で無理ですが」
「ちょっと待って。今、敵機の軌道から計算するから」
ベリル社長が、艦に搭載された簡易AIを使って分析を行う。
俺も平時に何度かやり方を説明されたんだが、全く理解できなかった。
「他に海賊船がいるとしたらこのあたりかも」
星系からもベリル号からも、一般的な宇宙船が使う航路から離れた、何もないはずの場所が強調表示される。
「猫の巣号が浮いている場所に近いですね。……偶然でしょうか」
偶然でもそうでなくても確実に殺す。
以前から猫の巣号は職場だが、今では交際相手が住んでいる場でもあるしな。
「サルくん、今、怖い顔してるよ」
「おっと失礼」
感情に流されすぎるとろくなことにならない。
俺は何度か深呼吸をして落ち着こうとする。
激情が少しだけ落ち着くと、これまで見えなかったものも見えてくる。
いや、本当に、見えている?
「ちょっ、サルくん? 目の動きが変だよ!?」
「すみません。危ない薬はやってないはずなんですが」
ほぼ黒一色の宇宙が見えるキャノピー。
緊急時には手動で宇宙戦闘機を操作可能な操縦席周辺に、いくつかの画面、そしてベリル社長。
ここまではいつもの光景なんだが、視界の中央に縦50画素、横50画素程度の何かがある。
まるでドット絵だ。
手を伸ばしても触れられないので、俺の目か脳が勝手に映し出している映像のはずだ。
なのに、妙に現実感がある。
まるで、視線のはるか先にいるかもしれない、海賊船のように感じる。
「社長。こういう形の宇宙船って存在します?」
俺は指を動かして形を示す。
「サルくーん、それだけじゃぜんぜん分かんないよ。ごつごつしてないから、武装少なめの輸送艦タイプか空母タイプ、かも?」
「変な質問をしてすみません。もう少しで問題の場所に……おや」
ベリル号のセンサーが、進行方向にいる宇宙船を補足して画面に反映する。
まだ情報が少ないので画像は粗く、俺が今も見ているドット絵もどきにそっくりだ。
「サルくんの能力がパワーアップ!?」
ベリル社長は驚いて、目が見開かれ、耳がピンと立つ。
「慣れるまで苦労するかもしれません。数が多いんで撃破優先で攻撃しますね」
「だったら中央の細くなった部位を狙って。そのタイプは安い代わりに脆いから」
艦載機の迎撃はない。
展開されるデブリも少ない。
砲撃の数も頻度も、小型海賊船4隻の割には非常に弱い。
「こいつら相手なら、タキオン砲より機関砲2門の方がよかったかもしれません」
威力を最小にしたタキオン砲で1隻を撃ち抜く。
衝撃で前半分は消し飛び、後ろ半分は亀裂まみれだが生き残る。
弱すぎて、タキオン砲では戦力過剰だ。
「タキオン砲と機関砲の両方は載せられないもんね。……命乞いが届いてるけど、聞く?」
「暇ですし聞きますか」
『やめっ、やめてくれぇ! 降参する! 金も女も全部置いてくからっ』
本当に全部置いていくなら鹵獲で稼ぐ額が増えるなと思った直後、つい癖でタキオン砲を使ってしまった。
最初に壊したのと同じ種類の船が、今度は前半分が生き残った。
海賊の命乞いがひとつ途切れる、
残る2つの命乞いは、悲壮感だけでなく狂気まで混じっていて、俺も社長も困ってしまう。
『サルさん、ベリルちゃん。説得を代わって良いかしら?』
既に安全と判断した猫の巣号がシールドを展開した状態で現れ、ブルネットからの通信が届けられた。
「ブルネットお姉ちゃん? でも、海賊はこんな感じだよ?」
『調教には丁度良い状態よ』
ブルネットが俺に、許可を求めるような視線を向けてくる。
「俺もベリル社長も降伏勧告には向いていません。ここのままだとタキオン粒子を撃ち込んで、残骸が残るかどうかの賭けをすることになります」
ブルネットは失敗しても成功しても、状況が悪くなることはない。
『ありがとう。期待していてね、サルさん』
俺に対しては上機嫌でも、海賊に対する態度は邪悪とすらいえる。
始まった交渉を中継して聞かされる俺と社長は、ただひたすら圧倒される。
「そういえば社長。遠くを……1光秒以上先を見ようとすると変なものが見えるようにもなったのですが、俺を改造とかしました?」
「サルくんの様子を見る限り、役に立つものが見えるようになったんだよね? そんな改造ができるなら、改造してあげるからお金払ってって言うよ」
「それもそうですね。今回のボーナスも結構な額になりそうですし」
海賊が卑屈な態度でブルネットに媚びている。
二隻の小型海賊船空母と、あわせて一隻分の残骸の鹵獲によるボーナスは、人権はもちろん人間をダース単位で買えてしまう額だった。
◆ BERYL THE GREAT
船体:1 / 跳躍:3 / 航続:1 / 装甲:0 / 居住:0 / 船倉:0 / 兵装:4
◆ CREW
ベリル |船長Lv1 [財産Lv4]
サル |操縦Lv4 [疲労Lv2]
◆ CAT'S NEST(1/1)
船体:2 / 跳躍:2 / 航続:3 / 装甲:2 / 居住:2 / 船倉:2 / 兵装:0
◆ CREW
ブルネット|射撃Lv1 [事務Lv1]
金毛猫耳 |白兵Lv1 [整備Lv1]
妹猫耳ズ |白兵Lv1 [未熟Lv2]
◆ Small Pirate Space Carrier(0/1)
船体:2 / 跳躍:2 / 航続:2 / 装甲:1 / 居住:1 / 船倉:1 / 兵装:1




