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地球人に人権がない銀河で、零細猫耳社長にスカウトされました ~生体パーツ扱いのどん底から操縦チートで成り上がる~  作者: 星灯ゆらり


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11.ごめんねベリルちゃん

「海賊船を見つけるまでが大変だよねぇ」


「賞金首の中には有力者に睨まれただけの人もいますからね」


 俺たちはほとんど頭を使わず会話している。

 お互い会話がなくても不快に感じないんだが、ずっと会話なしだと猫の巣号に帰った後に舌の動きが鈍くなるんだ。


「サルくん、海賊かどうか分かったりしない?」


「そこまで便利なものじゃないですよ。危険があるかどうか、どの程度危険かが雑に分かる程度です」


 ほとんどセンサーが役に立たない超光速戦闘では、これができるかどうかで生死が確定してしまうほどに有用だ。


「僕にもその感覚があればなー」


「社長にあったら俺はスカウトされなかったので、俺としてはなくて安堵してますよ」


「サルくん生意気!」


「その分は稼ぎますから勘弁して下さい。……うん?」


 感じて、位置と向きを言葉にする前に、俺の近くの画面に敵船の情報が追加される。

 星系から少し離れているので、恒星、ベリル号、敵船しか画面上にない。


「どう? あってる?」


 にゅふふと得意げに笑いながら、ベリル社長が話しかけてくる。


「お見事です。後は俺が鹵獲できる程度に壊せればいいんですが」


 現在のエネルギー残量は83パーセント。

 今回の標的は海賊船がひとつだけなので、船倉が無事ですむ『よく狙った一撃』を何度も狙える、はずだった。


「あっ」


「にゃぁ」


 ふたつあるエンジンのひとつを吹き飛ばすまでは良かった。

 ダメージコントロールがまともなら爆散なんてせず、加速と減速の性能が低下するだけのはずだった。


「全部吹き飛びました」


「……こっちでも確認したよ。なんか脆くない? もっと頑丈な船だって情報だったんだけど」


 現在のエネルギー残量は78パーセント。

 近くに賞金首がいるならもう一戦できる状況だが、新たな賞金首を探しに行くのも問題ない。

 そう俺は思ったんだが、ベリル社長の判断は違った。


「一度猫の巣号に戻って、サル君は休憩ね。体力ないんだから無理はしないで」


「年齢の割にはあるつもりなんですが……」


 ベリルが善意100パーセントなのは分かっている。

 分かっていても悔しい。


 そんな俺の内心を明らかに見抜いているベリルが、優しい目で俺を見ていた。



  ☆



 着艦したベリル号へのエネルギー補給と整備は短時間で終わった。


「整備士としての仕事がねーにゃ。サル、おめー、手を抜いてるんじゃねーか? 最近離れてタキオン撃ってるだけにゃ」


「勝率99パーセントでも1パーセントは負けますし、勝っても修理費で赤字になったら無意味なんですよ」


「そりゃそうだけどにゃ」


 金毛猫耳はふてくされる。

 重い負荷に耐えて身につけたものが思ったより活躍しないというのは、精神的に厳しいのだろう。


 ここで煙草でも咥えれば似合いそうだが、金毛猫耳が自分の口に入れたのは乾パンもどきだ。

 俺が気分転換目的で作った菓子兼保存食でもある。


「子供たちにも残しておいてあげてくださいよ」


「……サル。ショックを受けないよう、心の準備をしておくにゃ」


 金毛猫耳は、茶化す気配なしのシリアス顔だった。


「キン姉、何言ってるの?」


「おめーも見れば分かるにゃ。にゃーは念のため再チェックするからガキ共の面倒は任せたにゃ」


 ベリル号に向かう金毛猫耳を見送ってから、俺たちは食堂として使っている空き倉庫へ向かう。

 扉を開ける前から、賑やかな気配と音がうっすら感じられた。


「つぎはあたいにゃっ!」


「やっ」


 猫耳幼児たちが、真新しい自動調理器のとりあいをしている。

 イメージとしてはテレビのリモコン争奪戦だ。

 いつもは仲の良い連中が、小さいけれど鋭い犬歯を剥き出しにして威嚇しあっている。


 食堂の隅には、俺が作り置きをした乾パンもどきが、ほとんど減っていない状態で大型半透明容器に入っているのが見えた。


「サルくん、しっかりして!」


「い、いえ、俺は何も……」


 銀河通商製の自動調理器が憎い。

 子供に料理を作って喜ばれる立場を奪いやがって!


「おっちゃん、どうしたの?」


「げんきだせー」


 争奪戦に参加していない猫耳幼児たちが集まってくる。

 距離感の近さと体温の高さは相変わらずで、疲労がたまっていた俺は数秒で意識が薄れ、十数秒で眠りに落ちていた。



  ☆



「はっ!?」


 目覚めるとベッドだった。

 猫耳の孤児院で寝たときはビニールめいた毛布だけで寝ていたと比べれば、素晴らしい待遇改善といえる。


「おはようサルくん!」


「おはようございます、サルさん」


「あれに慣れると不味いにゃ」


 ベリル、栗毛猫耳、金毛猫耳というベリル運送首脳陣が近くに椅子を並べて座っている。

 金毛猫耳は乾パンもどきを不味そうに食べていて、少し回復していた俺の精神に再びダメージが発生する。


「キン姉、甘いものばかり食べると体に悪いよ?」


「食い物を無駄にする趣味はないにゃ。……ベリル。銀河通商のカートリッジが1本でいくらするか知ってるにゃ?」


「で、でも、必須栄養素とか必要だし」


「質を考えると高くはないのでしょうけど、一度に大量に買う必要があるのが厳しいわ。どれだけ言い聞かせてもみんな食べちゃうもの」


 栗毛猫耳さんは冗談めかした口調だが目は深刻だ。


「カートリッジ商法ですか。宇宙でも目にすることになるとは思いませんでした」


 俺の言葉を、自動翻訳機が長い言葉に翻訳する。

 カートリッジ商法についての説明をしているのかもしれない。


「サルくんの星でもあったんだ」


「サル。いい加減気づけにゃ」


 金毛猫耳が椅子から立ち上がりベッドに近付く。

 そして、俺の腹や太股を枕にして熟睡していた猫耳幼児たちをデコピンで叩き起こしていく。

 適度な体温が快適すぎて、金毛猫耳に言われるまで気付かなかったことにショックを受け、俺は硬直していた。


「サルがガキとヤリたがるクソじゃねーのは知ってっけど、ここまで反応ねーのは性欲がねーからなのにゃ?」


 金毛猫耳がにおいを嗅いでいるのに気付き、俺は慌てて咳払いをする。


「勘弁して下さい。我慢しているだけですよ。まともな性格の美人の同僚が近くにいたら、気を抜いたらすぐにセクハラ案件な行動をしてしまいますよ」


 別に意図したわけではないが、栗毛猫耳さんと目がばっちりあう。

 俺は偶然だが、栗毛猫耳さんは俺をずっと見ていたのかもしれない。


「あら。こんなおばさんにそんなことを言うと勘違いをして……あの、サルさん?」


 最初は余裕の表情だった栗毛猫耳さんが、動揺する。

 無意識の動作で、微かにしわが浮いた目元と口元を手で隠そうとしている。


 落ち着いた猫耳美人と思っていたが、可愛いところもあるんだな。


「繰り返しになりますが我慢しているだけです。お互い、まず生き残らないと現実逃避にしかならないでしょう」


 俺は鈍感を気取れるほど若くはないし、鈍くもない。

 口説くなら今だと判断し、栗毛猫耳さんから目を逸らさない。

 猫耳幼児たちが『かまえー』とまとわりついてくるが、今は本当に目を離せない。


「サルさん。私の名前だって聞かないし」


「ベリル社長やキンとの会話で名前が出ていませんでしたので、何か事情があると判断しました。教えて頂けるなら、是非、知りたいです」


「にゃっ……に゛ゃっ」


 汚い鳴き声で鳴いているのはベリル社長だ。

 頼りになる年上の異性を姉に奪われそうになった心境、なのか?

 いずれにせよ、地球時代のコンプラの感覚が残っている俺に、ベリルに手を出すという意識はない。


「名前は、捨てたわ」


 栗毛猫耳さんの目の色が変わった。

 最年長の親代わりの姉から、ひとりの女性に変わる。


「おねえちゃんは以前……」


「ベリル。今は黙っとくにゃ。ガキどももこっち来い」


 猫耳たちが移動し、俺の近くには栗毛猫耳さんだけになる。


「サルさんが新しい名前をくれるの?」


 心細さと、どろりとした情念を同時に感じる声だ。

 俺はそれと真正面から向き合い、気圧されないよう腹に力を込める。


「ここで結婚指輪でも用意出来てれば格好もついたのですけどね。ブルネット、と呼ばせてください。落ち着いた美しさを持つあなたに、ふさわしい名です」


 栗毛猫耳さん、否、ブルネットの尻尾が上機嫌に振られ、犬歯が全て見えるほど深い笑みが浮かぶ。

 彼女は俺に密着するような距離で寄り添い、ちらりとベリルを見た。


「ごめんねベリルちゃん」


「にゃぁ……」


 子猫のように力なく鳴いたベリルが、がくりと肩を落としていた。



  ☆



 色々あったが、それはそれだ。

 俺たち全員が金に困っているという現実は変わらない。


「こいつ、じゃなくてブルネットの奴が色ボケしたからにゃーが話を進めるにゃ。サルはクソ忙しいときに口説いたのを反省するにゃ」


「うっす」


 俺はブルネットの体温と柔らかさを左腕と左足で感じながら、反省の意を込めてキンに向かって頭を下げた。

 なお、ベリル社長はショックから回復していない。


「銀河通商に完全にやられたにゃ。一度あの味に慣れると元のメシを食うのは拷問にゃ。頭では、三食美味しいのを食わなくても体調に変化はないって分かってても、体が耐えられねーにゃ」


「俺は前からある自動調理器とカートリッジを使うつもりですが、ひとりだけですからね」


 ブルネットたち猫耳は不遇な生活を続けてきた。

 俺という武力を得て、大量に稼げるようになった今、その程度の贅沢で我慢できるなら十分に立派だ。


「問題は支出の増加にゃ。新しい食事で体の劣化速度が抑えられるとはいえ、本格的な治療をしねーと近いうちに死ぬにゃ。サル、収入の見込みはどうにゃ?」


「収入は、今のままでは頭打ちです。遠出可能な小型空母である猫の巣号と、航続距離は短いですが速度と攻撃力が圧倒的なベリル号の組み合わせは極めて強力です。ですが、賞金以外で儲けるには倉庫のサイズが足りません」


「うにぃ……。サルくん、何か案はある?」


 精神に大ダメージを受けてもすぐに復活できるのは、間違いなくベリル社長の長所だ。


「俺の感覚とタキオン砲を搭載したベリル号があれば、停泊中に襲われでもしない限り、ほとんどの相手に勝てます。勝てない相手が現れても高確率で逃げ切れます」


 本当だ。

 しかしこの強さは、戦闘以外での弱さと表裏一体だ。


「問題は船倉の大きさです。倒した相手の船を金に換えられません。今の戦力に加えて輸送船がひとつでもあれば、劇的に儲かるようになると思います」


「輸送船にゃ? それなら、ベリル号でぶっ殺した海賊船をニコイチかサンコイチすればなんとかなるにゃ」


 俺が思っていたより、金毛猫耳の整備士スキルは高そうだ。


「でもキン姉。乗組員が足りないよ? キン姉もお姉ちゃ……ブルネットお姉ちゃんも操縦の適性はないし、あの子たちも訓練はしてるけど、操縦技術が身に付くとしてもずっと後だよ」


 お姉ちゃんと呼ぼうとしたベリルが、ブルネットに迫力のある笑顔を向けられて言い直していた。


「心当たりがあるわ」


 ブルネットの態度も言葉遣いも変わらない。

 俺との距離だけが、以前と違って近い。


「ベリルちゃんのように起業を目指して、ベリルちゃんと違って失敗した猫耳は、結構な数いるの。この近くでまだ生きている猫耳に限っても、数人はいるはずよ」


「買い叩くつもりにゃ?」


「まさか。猫耳をまともに扱う企業なんて存在しないわ。銀河通商だってサルさんがいるからあの自動調理器やカートリッジを寄越しただけよ。ベリルちゃんが誘えば、他に選択肢なんてなくなるわ」


 冷たく、妖艶に微笑むブルネットに、俺はきゅんとしていた。



  ☆



「サル。一応言っておくけど猫耳は多夫多妻にゃ。ここだと男はサルしかいないから一夫多妻にゃ」


「俺が住んでた場所だと一妻一夫が基本なんですがね」


「諦めるにゃ。ガキどもまで娶れとは言わねーから、その分稼ぐにゃ。甲斐性見せろにゃ」


 こっそり伝えてくるキンと、キンに殺意に近い目を向けるブルネットの間で、俺は胃に痛みを感じるのだった。

◆ BERYL THE GREAT

船体:1 / 跳躍:3 / 航続:1 / 装甲:0 / 居住:0 / 船倉:0 / 兵装:4


◆ CREW

ベリル |船長Lv1 [財産Lv4]

サル  |操縦Lv4 [疲労Lv2]



◆ CAT'S NEST(1/1)

船体:2 / 跳躍:2 / 航続:3 / 装甲:2 / 居住:2 / 船倉:2 / 兵装:0


◆ CREW

ブルネット|射撃LV1 [事務Lv1]

金毛猫耳 |白兵LV1 [整備Lv1]

妹猫耳ズ |白兵LV1 [未熟Lv2]

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