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2.その聖具、粘着クリーナー(+スペアテープ)

深夜24時過ぎ。

 100円ショップ『スマイル』の店の片隅で、一ノ瀬りんは新商品の発注ミスによる段ボールの山と格闘していた。


「……なんで来月の季節商品が今届くかな……」


ただでさえ疲れているのに、無駄な労働をさせられてりんの小言は止まらない。


伸びをした瞬間、背後のバックヤードのドアが『キィ……』と頼りない音を立てて開いた。


またか...とりんはバックヤードに続く扉を見る。

そこにあるはずの段ボールや在庫の山はなく、代わりに広がっていたのは、豪華な調度品が並ぶ薄暗い更衣室。

 そしてその部屋の真ん中には、高級な燕尾服を抱え、床にへたり込んで頭を抱える老執事の姿があった。


先週は魔道士たぶんの女の子、今回は執事?かな?


「ああ、なんということでしょう……! 当主様がこれから開催される晩餐会でお召しになる漆黒の礼装が、これでは台無しでございます……!」


老執事は上着に付着した白い粉塵のようなものを払おうとしている。だが、払うたびに生地にこびりつき、余計に広がっているようだ。


りんはダンボールの山に寄りかかったまま、開いたドアの向こう側へ向かって、気だるげに声をかけた。


「……あのー。こんな時間にそんな大きな声出されるとすごく迷惑なんですけど」

ただでさえ予定外の在庫管理が増えて残業が確定しているりんにとってこの状況は迷惑以外のなにものでもない。いつもよりさらに冷たく声をかけてしまう。


「なっ……!? い、いったいどこから声が……!?」

 執事が驚いたようにりんのほうに振り返る。


「後ろです……それより、服になんか付いてて大変そうですね。扉が開いちゃってるんですけど、用がないなら閉めていいですか?こっちも忙しいんで」


疲れているし、こっちは一秒でも早く終わらせて帰ってベッドにダイブしたいんだ。


「そ、それどころではないのです! これは当主様が隣国の使者と会談するための重要な礼装! 魔導結界の粉塵ただのフケやホコリがこびりついて取れず、このままでは我が家の面目が潰れてしまいます……!」


老執事は絶望に打ちひしがれ、青ざめた顔で高級な布地を見つめている。魔法で吹き飛ばそうとしても、生地の魔力と反発してこびりついているのだという。


早く帰りたいが、この執事の悩みを解決しないと、このバックヤードに続く扉も元に戻らず、自分の荷物や財布すら取ることができない。



「あー、そういうこと。それなら簡単に取れますよ」


途中の在庫管理の作業を切り上げため息をつきながら、りんは目的の商品のもとに歩いていく。

棚から取り出したのは、プラスチックの柄がついた円柱状の道具。


 『粘着クリーナー(スペアテープ付き)』。


バックヤードの扉から更衣室を覗き込むと、執事は相変わらず上着を抱えて途方に暮れている。


「はい、これ使って」


商品を執事の顔の前に出すと、執事は一瞬目を丸くした。


「な、なんですか、その白い円柱は……?」

 執事の視線はすぐに、りんの手にあるロール状のものに注がれた。


「コロコロ、って言うんですけど。こうやって服の上を転がすだけ。ほら」


りんが実演してみせると、礼装に付着していた白い粉塵が面白いように吸い取られていく。


「こ、これは……!? 触れるだけで邪悪な付着物を根こそぎ奪い去り…………!?」


さらに、りんがミシン目に沿って汚れたシートをペリッと剥ぎ取り、新しい白い面を見せつける。


「汚れたらこうやって一枚剥がせば、また新しいのが出てくるんで。簡単でしょ」


「な……な、ななな……!? !? !? 」

 執事はあまりの合理性に言葉を失い、ガタガタと震え出した。


「穢れをその身から切り離し、新たな純白の姿へと生まれ変わらせるですと……!? これほどまでに圧倒的な浄化の力を秘めた聖具……まさに究極の除霊結界エクソシズム・ロール……!!」


「いや、ただの粘着テープですけど。……あ、それ単品だと110円でスペアのセットで220円なんですけど、お釣り出すの面倒くさいんで、金貨1枚でいいです」


「金貨1枚でこの聖具を譲ってくださるのですか……!?」


執事は涙を流し、黄金に輝くコインをりんに差し出し、宝物を抱えるように礼装の裾を整え始めた。


静まり返る更衣室。


りんは店内に戻り、執事に渡された金貨を、スマホのライトでじっくりと検分した。

 柔らかな黄金の輝き。ずっしりとした重み。


「……よし」


彼女は自分のエプロンのポケットから、使い古された財布を取り出す。

 中から100円玉2枚、10円玉2枚……合計220円を取り出した。

 レジの引き出しに『チャリン』と投入する。


「はい、本日もお買い上げありがとうございました、っと」


誰もいない店内に、やる気のない声が響く。

 これで商品の代金は正当に支払われ、在庫管理も完璧。レジの数字も1円の狂いもなく一致する。


「……あーあ。早く、換金レートの良い質屋でも見つけなきゃな」


りんは死んだ魚の目のまま、金貨をポケットにねじ込み、店の電気を消した。

100均のコロコロいいですよね。

やすいから罪悪感なくじゃんじゃん使っちゃってます。

みなさんが必ず買う100均の商品はなんですか?

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