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1.その聖具、超強力・ネオジムマグネット(4個入り)

 深夜24時。


 駅前の100円ショップ『スマイル』の入り口に「CLOSED」の札を出し、バイトの一ノ瀬りんは、レジカウンターで大きくあくびをした。


「……やっと終わった。あとはレジ締めて帰って寝るだけ……」

 終電間際に祝儀袋を買いに来た酔っ払いや、明日の授業で使う工作道具を買いに来た学生をさばき切り、りんのHPはもうゼロだ。


100円ショップ『スマイル』は24時までの営業だからか夜遅くに滑り込んで買い物に来るお客が結構多い。


だらりと伸びをした瞬間、背後のバックヤードに続くドアが『キィ……』と、頼りない音を立てて勝手に開いた。


 そこにあるはずの在庫の山はなく、代わりに広がっていたのは、月明かりに照らされた豪華絢爛な大理石の回廊。


「……あー、またか。今週は随分と豪華なところに繋がったね」

 りんは驚かない。驚くエネルギーは先週、電池切れでなくなった。


回廊の向こうでは、一人の少女が這いつくばって、泣きながら床をなで回していた。とんがり帽子にローブ。どこからどう見ても、小説や漫画に出てくるテンプレ通りの魔導師だ。


 りんはレジカウンターに肘をついたまま、開いたドアの向こう側へ向かって、気だるげに声をかけた。


「……お客様、そこで何してるんですか。正直、不気味なんですけど」


「ひゃっ!? ど、どこから……!? !? 」

 少女が驚いたように飛び上がる。


「レジからです。で、何探してるんですか? 閉店したんで、用がないならドア閉めていいですか? そっちから入ってくる風が冷たいんで」


もう勘弁してほしい.....閉店したしこっちは早く帰りたいんだ....

店の『笑顔で奉仕!』というスローガンなんて知ったこっちゃないと限りなく無に近い表情でりんは少女をみていた。


「そ、それどころじゃないんです! 明日の儀式で使う『魔導核』の極小ネジを落としてしまって……! これが見つからないと、我が国は結界が解けて魔獣に滅ぼされますぅ……!」


 少女は絶望に打ちひしがれ、泣きながらまたツルツルの大理石に顔をこすりつける。魔法で探そうにも、魔導核の残存魔力が邪魔をして探知魔法が効かないのだという。


早く帰りたいがこの少女の悩みを解決しないとこのバックヤードに続く扉も元に戻らず、荷物も取ることができないのは先週のことでりんは把握済みだ。


「あー、そういうこと。そのネジって金属でできてるの?」


魔導核がなにかわからないがどうやらその魔導核のネジは金属でできているらしいことを聞いたりんは、面倒くさそうにため息をつきながら目的の商品棚へ歩いていった。


 りんがが棚からひょいと取り出したのは、銀色に輝く小さなボタンのような塊。

『超強力・ネオジムマグネット(4個入り)』。


バックヤードの扉から回廊を覗き込むと少女はまだ床に這いつくばりながらネジを探している。


「はい、これ使って」

商品を少女の顔の前に出すと少女はりんが近くに来ていたのに気づかなかったようで驚いていたが視線はすぐにりんの手に持っているものに注がれた。


「な、なんですか、その禍々しい銀の輝きは……! もしかして、伝説の引力石……!?」


「いや、マグネット。磁石。110円。貸してあげるから、そのへん床に近づけて適当に振ってみて」


 半信半疑で少女が磁石を受け取り、床にかざした、その時。


『カチッ!』

 小気味良い音とともに、少女の手元の磁石に、銀色の小さなネジが吸い付いた。一つ、また一つ。


「…………え?」


「ほら、あったでしょ」


「な……な、ななな……!? !? !? 」

 少女はネジがくっついた磁石を凝視し、ガタガタと震え出した。


「魔力を一切使わず、特定の金属だけを選別して引き寄せる……!? どんな精密な重力魔法ですか!? これがあれば、失われた古代魔導具の修復も、暗殺者の刃を逸らすことも自由自在……まさに、神の重力ゴッズ・グラビティ……!」


「いや、ただの磁石。冷蔵庫にメモ貼るやつ。それ、110円でいいんだけど……あ、お釣り出せないからこの世界だと金貨1枚でいいよ」


「金貨1枚でいいのですか!? 」

 少女は涙を流し、黄金に輝くコインをりんに叩きつけるように渡し、宝物を抱えるように回廊の奥へ去っていった。


静まり返る回廊。


りんは店内に戻り少女が置いていった金貨を、スマホのライトでじっくりと検分した。

柔らかな黄金の輝き。ずっしりとした重み。


「……よし。たぶん本物でしょ」


彼女は自分のエプロンのポケットから、使い古された財布を取り出す。

中から100円玉1枚と、10円玉1枚……合計110円を取り出し、レジの引き出しに『チャリン』と投入した。


「はい、お買い上げありがとうございましたー」


誰もいない店内に、やる気のない声が響く。

これで、商品の代金は正当に支払われた。在庫管理も完璧。レジの数字も1円の狂いもなく一致する。


代わりにリンの手元に残ったのは、現代日本では計り知れない価値を持つはずの、純金のコイン。


「……あーあ。早く、換金レートの良い質屋でも見つけなきゃな」


リンは死んだ魚の目のまま、金貨をポケットにねじ込み、店の電気を消した。


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