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10.その聖具、圧縮袋

深夜24時前。


100円ショップ『スマイル』のバックヤードの扉が『キィ……』と、音を立てて開いた。


レジカウンターで、少し湿気た「お買い得ポテトチップス」を一枚ずつ、機械的に口へ運んでいたりんは、音の方を見向きもせずに言った。


「……いらっしゃいませー」


扉の隙間から滑り込んできたのは、重厚な石の匂いと、鼻を突くような強い酒の残り香。


普段アルコールを嗜むりんですら、やや顔をしかめるほどである。


入ってきたのは、身長は低いが、横幅が常人の二倍はある、筋骨隆々の老人だった。


地面にまで届きそうな見事な白髭を複雑な三つ編みに結い、背中には身の丈ほどもある巨大なハンマーを背負っている。


「....はあ。重量オーバーで床が抜けても知りませんよ?」


この立ち姿、異世界ものに必ずといっていいほど出てくるドワーフである。

エルフの次に実際に見てみたかったキャラが登場したことにりんは薄っすらと笑みを浮かべるがすぐにいつもの無表情に戻る。


「....お、おい。ここが、あらゆる『ことわり』を無視した神具が揃うという、異界の蔵か?」


異界の蔵というものは知らないがどうやらこの100円ショップ『スマイル』は異世界で噂になっているらしい。


ドワーフの老人は、額の汗を太い腕で拭いながら、店内の棚をギロリと睨みつけた。その瞳には、職人特有の鋭さと、どうしようもないほどの絶望が混ざり合っている。


「....俺ぁ、この道500年の石細工師、ガルドだ。故郷の山が噴火しちまって、今すぐ一族総出で引っ越さなきゃならんのだ」


「はあ...。引っ越しですか。それは大変ですね」


いきなり始まった自己紹介と状況説明にりんは慣れきった様子で応対する。


「大変どころじゃねぇ! ドワーフの引っ越しを舐めちゃいけねぇ。先祖代々伝わる鉄鋼の防具、何百年も買い溜めた鉱石の山、そしてこの、酒樽よりデカい防寒用の毛布……。運んでも運んでも終わらねぇ! 馬車はパンパン、足腰はガタガタだ。このままじゃ溶岩に飲み込まれる前に、荷物の山に押し潰されて死んじまう」


ガルドはカウンターに、獣の毛で作られた巨大な寝袋のようなものをドサリと置いた。それはドワーフ族特有の厚手で頑丈な毛布だったが、あまりに嵩張りすぎて、一人が抱えるのが精一杯というボリュームだった。


「これを見ろ! 暖かさは天下一品だが、場所を取りすぎる! 職人の道具だけでも山ほどあるってのに、こんな『綿の塊』に荷台の半分を占領されてたまるか! かといって捨てれば、新天地の冬を越せねぇ……。ドワーフっちゅうのは熱さには強いが寒いのには弱くてな!なあ、こいつを、豆粒くらいの大きさに変える空間魔法の袋か何か、置いてねぇか?」


「....空間魔法ねぇ。まあ、体積を減らすだけならありますよ」


りんは、生活雑貨コーナーの奥、「旅行・収納」の棚へ向かった。


手に取ったのは、透明なビニール製の袋。

『掃除機不要! 手巻き圧縮袋(Lサイズ)』。


「これ使ってください」


カウンターに戻ったりんは、ガルドの前にそのペラペラとした袋を広げた。


「……はあ? 冗談はやめてくれ。これは何だ? こんな薄っぺらい膜の中に、俺の誇り高い毛布が入るわけねぇだろうが。無理に詰めれば、一瞬で破れるのがオチだ」


「まあ、四の五の言わずに入れてみてください。ドワーフの力なら簡単ですよ」


ガルドは毒づきながらも、指示通りに巨大な毛布を折り畳み、袋の中へ押し込んだ。袋はパンパンに膨らみ、今にも弾けそうな様子だったが、そこは100均のタフなポリプロピレン製。意外としぶとい。


「よし、入れたぞ。だが、ただ袋に入れただけじゃねぇか。むしろ空気の分、余計に嵩張って……」


「ここからです。その端っこを持って、ぐるぐると丸めてください。力一杯」


「ぐるぐる……? こうか! ぬんっ!!」


ガルドが丸太のような腕に力を込める。


その瞬間、袋の底にある特殊な「一方通行の脱気弁」から、「プシューッ!」という、何かが断末魔を上げているような音と共に、中の空気が一気に放出された。


「な、なんだ!? 異界の精霊が悲鳴を上げているのか!?」


「いいから、最後まで巻き切ってください」


「う、うおおお! ぐおおおおおっ!!」


ガルドが渾身の力で丸めていくと、あんなにフカフカと反抗していた毛布が、みるみるうちに圧縮され、岩のように硬く、薄くなっていく。中の繊維が極限まで押し潰され、体積が三割以下に減少していく様子は、まさにドワーフが金属を加工する工程そのものだった。


数秒後、そこには板のようにカチカチに固まった、奇妙な物体が転がっていた。


「……な、なんだ、これは」


ガルドは、自分の腕の中に収まった「それ」を、震える手で持ち上げた。


「質量は変わらねぇが....なんだこの薄さは! さっきまで俺の視界を遮っていたあのデカブツが、まるで薄く削り出した石板のようじゃねぇか!」


「空気を抜いただけです。これなら、大量の毛布も大丈夫なんじゃないですか?」


「.…これは『空間圧縮』の秘術じゃねぇ! 物質が持つ『存在の余裕(空気)』を物理的に剥ぎ取り、最小単位まで追い込む、究極の『次元圧砕ディメンション・プレス』だ!」


「……まあ、ただの圧縮袋ですけど。上についてるスライダー、しっかり閉めないと元に戻っちゃうから気をつけてくださいね」


ガルドは感激のあまり、圧縮された毛布を何度も叩いた。コンコン、と石のような音がする。


「おい! この『次元圧砕の膜』を、店にあるだけ譲ってくれ! これで俺たちは溶岩から逃げ切り、新天地で最初の冬を、凍えることなく越せる! これはドワーフの歴史を変える神具だ!」


「あー、在庫はあと30枚くらいありますけど。....じゃあ、まとめ買いで金貨3枚でいいですよ」


ガルドは腰のポーチから金貨を掴みカウンターに置いた。


「....この恩は、新天地で建てる俺の工房の第一号の作品で返させてくれ!」


ガルドは30枚の圧縮袋を大事そうに手に抱え、地震のような足音を立てて、バックヤードの扉の向こう側へと消えていった。


「……あー、今日も腰に来た」


りんは、ガルドが置いていった金貨をポケットに入れ、伸びをする。


24時の閉店を告げるアラームが鳴り、りんは気だるげに店内の照明を落とし始めた。


明日の入荷予定には、あの『手巻き圧縮袋』を最大数で注文しておくことを、りんは忘れなかった。

異世界キャラでみなさんが一番会いたいのはどんなキャラですか?

私は獣人とエルフです!狼やうさぎ、猫の獣人にちょっと憧れますね。


読んでくださりありがとうございました!ブックマークと高評価してもらえたら嬉しいです!

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