↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不死王の手ほどき  作者: 森山すぱこ。
命の重み
78/79

一向に攻略できないアバンフ


漆黒の巨城。

その最上階にある隠し部屋。


壁際に隙間なく置かれた鉢植えの草は大人の背丈を超え、まっすぐ伸びていた。

力強い緑の壁を演じている。


部屋の真ん中、板張りの上。

一人の小柄な老婆が目を閉じて正座していた。

三千の死霊兵を操るネクロマンサー(死霊使い)、タウィンガノスだ。


カチャッ


小さな茶色い陶器から緑の塗り薬を中指の腹ですくい取った。

両手になじませる。

手の表も裏も、くまなく……。


中指を押し当て、丁寧に、丁寧に顔に塗り込んだ。

緑が肌の中に吸い込まれるように消えていく。


仕上げにパン、パンと頬を軽く叩く。


灰色でしわしわだった顔が血色豊かで艶やかになっていた。


ただ……

――ぼさぼさでまとまりのない白髪は後ろで束ねられ

――下から見上げる疑り深い目はまばたき一つしていない


それらは相変わらずだった。




◇◇◇



外は日差しがまぶしい。

ただ、丸太小屋の中までは入ってこない。


外では、ジーーーーッと虫の鳴き声が絶え間なく続いている。

しかし、小屋の中では包丁や鍋の音がそれをかき消していた。



死霊使いのタウィンガノス、緑の秘薬の爺さん(ガボ)、筆頭文官のヨトフ、そして不死王。

その四人が山奥の食堂でテーブルを囲んでいた。

不死王の対面にタウィンガノス、左側にヨトフ、右側にガボ。


その中央には地図の模型が置かれている。

さらに各人の手元には人の形をした駒が置かれていた。


不死王が駒を手に取り、話し始めた。


「ミント(造幣所)の場所はまだわからないか?」

「わからないねぇ。アバンフの中だろうねぇ。それ以外はもう探しつくしたよ」


タウィンガノスがもう懲り懲りだというような声で話した。

不死王が間を開けずに答える。


「急を要するものでもないが、場所は押さえておきたい」

「硬貨の切り替えが終われば意味がなくなるのにねぇ」

「そう……だから、腑に落ちないのだ」


タウィンガノスの返答に不死王は語尾の声量を少し強めた。



ガボは駒の配置を終えると、席を立つ。

窓際で額にしわを寄せ、外の景色を眺める。


~


「アバンフと契約ができればいい。コマゾスが首を縦に振れば終わりと思っている。ただ、それをしない……」

「なぜ、それほど執着しているのか、それとも何かを守ろうとしているのか。それがまったく見当もつかない」


不死王は続けざまに言うと、頭を抱える。

ヨトフはその姿を見て、少し身を引いた。



タウィンガノスが不死王に話しかける。


「アバンフから引いた死霊兵はいつ戻すんだい?」

「……」


不死王は伏せたまま答えない。


ガボが席に戻った。

タウィンガノスがガボの顔をチラッと見て、小さな陶器を滑らせた。


「どうだい?」


ガボはそれを両手で受け取った。

陶器の蓋を開けると、まず匂いを嗅いだ。

緑色をした粘り気のあるものを指先に付けると、少し眺めて口に含んだ。

鼻をスンとする。



そこへ、料理が入った大皿が次々と運ばれてきた。


――山菜のサラダ

――豆のスープ

――木の実の蒸しパン

――白身魚のあんかけ


不死王は席を立つと、大皿から小皿へと取り分ける。

まずサラダ。三人分、均等に取り分ける。スープもだ。


そして、平らなプレートに入った焼き立ての蒸しパン。

三角形の金属ヘラで切り分けようとする。


「どうだ? 食べない者はいるか?」

「「「……」」」


誰も返事をしない。


白身魚は一尾ずつ取り分けた。


不死王の分はない。コップすらもない。食事の必要がないからだ。

食べない代わりに取り分けをしているようだった。



ガボは小さな陶器をタウィンガノスに戻す。

タウィンガノスと目を合わせると、眉を上げて言った。


「上等だ。すばらしい」



ヨトフが席に戻った不死王に口を寄せ、話しかける。


「調査させますか?」

「ん……ヘーレスに任せているから、もう少し待ってみようと思う」


そう言うと不死王は顔を上げ、駒を手に取った。



◇◇◇



コマゾスは柩の中で仰向けになり、目を開けていた。

ヘーレスがコマゾスの目を見て、顔を撫でる。

コマゾスの目が閉じられる。しかし、すぐに目が開く。


すぐに柩から出ようとするコマゾスをヘーレスは静かに止める。


「待って」

「命が尽きたあとでいいではないか」


そう言うと、コマゾスは面倒くさそうな顔をして頭を起こそうとする。


すかさずヘーレスがコマゾスの目を手のひらで押さえ、顔を撫でる。

目が閉じられる。しかし、すぐに目が開く。


「そうね……でもね、残される人たちのことを考えてみなさい。悲しみに暮れているのよ。ぴったりの柩なんてすぐに用意できないわ。最後くらい、気を使ってあげてもいいんじゃないの?」


ヘーレスがコマゾスの目を見て、顔を撫でる。

目が閉じられる。でも、すぐに目が開く。


「もういいのではないか? わかっただろう」




バンッ!


「おぉぉぉぉぉおい!」


ドンドンドン!



口元に笑みを浮かべたヘーレスは去っていく。

あとには柩の蓋だけが揺れていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。