コマゾスの生活改善
そこには窓がない。
床から天井までびっしりと石が積まれ、一切光は入ってこない。
その部屋の中では明かりがないと何も見えない。
それなのに明かりがない。
寝ること以外、何もできなかった。
まだ、光がある独房の方がいいかもしれない。
ただ、独房よりもいいと思えることがある。
それは自分のタイミングでそこから出られることだった。
もう朝になっただろうか。
いつものように手探りで自分の位置を確認する。
扉を開ける。
光がまぶしい。いったん、目を閉じる。
今日はいつもより空気が新鮮な気がする。
肺の奥までしっかり届く感覚がある。気のせいかもしれないが。
目を開けては閉じ、を繰り返す。
ようやく周りが見えてきた。
そこはいつもの玉座の間ではなかった。
「ヘーレス!」
「ヘーレス!」
「またおまえか!」
コマゾスの声はいつもなら響いただろう。
しかし、すぐに空間を埋め尽くす物たちにかき消される。
もちろん、何の声も返ってこない。代わりに大きな葉が揺れていた。
◇◇◇
朝。
一人の女性が扉から入って来た。
最初は違う女性かと思ったが、ある程度近づくとヘーレスだとわかった。
「髪色を変えたのか?」
「……」
コマゾスの力がみなぎった目がだんだんと失望の目へと変わっていく。
次々と言葉が出てくる。
「どういうつもりだ?」
「何を考えている?」
「どうせ、ろくでもないことしか考えていないんだろ?」
ピキッ
ヘーレスは一切答えない。
コマゾスは不機嫌になったのを感じ取った。方針転換を図る。
「素晴らしい。よく似合ってるよ」
とりあえずの拍手をしてみる。
ヘーレスがじとっとした目でコマゾスの目を見つめ、つぶやく。
「心がこもってない……」
「素晴らしい! よく似合ってるよ! いつもより大人の女性に見える!」
コマゾスは語気を強めて言うと、気持ちを入れ、力強く拍手する。
パンパン、パンパン……
「なんかムカつく……」
「なんだと! 何言っても、結局、文句だな!」
「やっぱり……」
ヘーレスは目を細める。しかし、余裕めいた笑みを浮かべた。
大げさに両手を広げると、コマゾスに向かってたずねた。
「ところで、どうれすか?」
「どうですかじゃない」
「いい空気があれば、いい仕事ができます!」
ヘーレスは外周に手のひらを向ける。
「見てください。ちゃんと自転車も乗れるようにしてますよー」
ヘーレスはコマゾスに顔を近づける。
「どうれすか!」
コマゾスは目を閉じて、鼻で息を吸う。息を吐く。
そんなコマゾスの態度なんて気にしない。ヘーレスは続ける。
「素敵な空間になりましたね。家族を呼びましょう」
「どこがだ。これでは落ち着かん!」
「呼びましょう!」
「家族は娘一人しかいない!」
「他にも家族がいますよね? どうしますか? 呼びますか?」
「うるさい!」
ヘーレスがコマゾスのほっぺをつねり、左右にひっぱってみせる。
「どうして素直にならないんれすか……?」
コマゾスもヘーレスのほっぺをつねろうとするが、張りがあって掴めない。
仕方ないので耳を上下に引っ張る。
「う・る・さ・い。余計なことをするな」
コマゾスはヘーレスの手を振り払うと、書類仕事に取りかかろうとする。
座る前にヘーレスに忠告した。
「くれぐれも余計なことはするなよ」
それから数日。ヘーレスが玉座の間に姿を見せることはなかった。
静かなのはよかったが、コマゾスの不安は募るばかりだった。




