コマゾスも空を羽ばたけるのか?
漆黒の巨城・玉座の間。
昼下がり。
コマゾスは窓の石枠に軽く手を置き、清々しい表情で空を見上げている。
空に浮かぶ小さな黒い点。
最初は鳥でも飛んでいるのだろうと思っていた。
~
それが少し大きくなってきた。
でも、まだ広い空の中にある小さな黒い点でしかない。
少し気になる存在になっていた。
~
ようやく、形が認識できる大きさになってきた。
それは玉座の間に向かってくるようだ。
やがて、屋外の回廊、その先端部に降り立った。
ザーーーーーーーーーーーッ
着地した勢いのまま、石の床を滑るようにして、コマゾスの前にやってくる。
それは透明なパラシュートを背負っていた。
「うん…………。ヘーレスれす!」
「……あ……ぁぁ」
コマゾスはあごを少し引き、とりあえず声を出す。
まだ、自転車事件で痛めたおしりが治っていないので、大きな声を出したくない。
ピキッ
ヘーレスはその反応を見て、急に不機嫌になった。
「もっとほかにないんれすか!」
「……まぶしくて誰かわからなかった」
それを聞いて、ヘーレスは目を輝かせた。
「特別に乗せてあげてもいいれすよ」
「いや、いい」
食い気味に答えるコマゾス。
「わかりました。いつにしますか?」
「……今、乗りたくないと言ったぞ?」
「じゃあ、明日れすね」
「だから……乗・り・た・く・な・い」
◇◇◇
「ぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーー」
コマゾスは朝から空中で叫んでいた。
寝起きで目がうまく開かないし、口も回らない。
むにゃむにゃ
ようやく見えてきた。
眼下は絶景。
いろいろなものが小さく見える。
あの漆黒の巨城でさえも。
後ろを振り向く。
そこには口元に笑みを浮かべ、まっすぐ前を見ているヘーレスの顔があった。
「ほんがーーー」
(お前か!)
ヘーレスが耳元で話しかける。
「チージョイルさんが待ってますよー」
王都全体の形がはっきりしてきた。
ここまで来ると漆黒の巨城が改めて異様な大きさだとわかる。
「いい気分転換になりますねー」
「ほんがーーー」
(朝から気分転換はいらん!)
玉座の間に向かって歩く人が見えた。
おそらくチージョイルだ。
「早く行かないと」
ヘーレスが後ろからささやく。
頬がぼわぼわっとなるコマゾス。
風圧で何もしゃべれない。
「なんれすかーー? そろそろ着陸するので足を前に伸ばして、じっとしててください。もげますよー」
玉座の間の外に着地する。
コマゾスはあごをこわばらせたまま、足元を見ている。
ザーーーーーーーーーッ
扉を開けようとしていたチージョイルの後ろで止まった。
振り返ったチージョイルは目を丸くして、足元の二人を見つめる。
コマゾスは虚空を見つめたまま、微動だにしない。
「ちょうど間に合いましたね」
そう言うとヘーレスはコマゾスとつながっていたベルトを外していく。
コマゾスの両肩に手を置くと、耳元でささやいた。
「じゃあ、夕方にまた来ますね」
「ぁぁ?」
コマゾスは去っていくヘーレスを振り返り、眉を吊り上げる。
失禁していることに気づいていないようだった。




