↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不死王の手ほどき  作者: 森山すぱこ。
アバンフ攻略
72/79

アバンフ計画


玉座の間。

その窓辺には仲睦まじい二人の男女がいた。

ロレンスマークとクーリャ――二人は夫婦である。

クーリャが見上げている。自然と笑みがこぼれていた。



今日は長机ではない。

床をくりぬいた部分に足を下ろし、正方形のテーブルを四人で囲んでいる。

時計回りにコマゾス、ロレンスマーク、クーリャ。そして、ヘーレス。

テーブルの上には山積みの書類が置かれていた。


ヘーレスはテーブルの上の書類をあさりながら、コマゾスに話しかける。


「私はまるで二人の子供みたいですね」

「精神年齢はな」


ピキッ


「王妃って言ってるじゃないですか」

「バカ言え。お前みたいのが、どんな弱みを握ったとしてもなれるわけがない」


「お前には家族はいないのか?」


ヘーレスが答えようと口を開けた瞬間にコマゾスが続ける。


「あっ……今のはなかったことにしてくれ」


ヘーレスは書類を一つ引き抜くと、コマゾスを一瞬にらんでから、仰向けで後ろに倒れ込んだ。

書類を見ながら、つぶやく。


「私には姉がいます……。さぁ、どうしますか?」

「どうもしない。関わるとろくなことがなさそうだからな。お前とそっくりか、それ以上かもしれん。大変なことになる。二倍だ。二倍では済まないかもしれない。一(・)匹(・)でも大変なのに、それが二(・)匹(・)だ。なぜ、わざわざ地雷を掘り起こす必要がある? 私にはそんな時間はない!」


ピキキッ


「よく、わかりました」


ヘーレスはしとやかに答えると顔の上に書類を乗せて動かなくなった。



コマゾスはヘーレスをチラッと見る。

ヘーレスの顔の上には「アバンフ計画」と書かれた書類があった。


(これからの統治計画?)

(よりによって……)

(目を通したい……)


コマゾスは立ち上がると、ヘーレスの頭付近まで静かに近寄る。

アバンフ計画の書類に触れようと手を出した瞬間。

ヘーレスの手がその書類を動かす。


コマゾスは眉間にシワを寄せると、ヘーレスに覆いかぶさるようにして書類に手を伸ばす。


「見せなさい!」

「キャッ」



ロレンスマークとクーリャ、二人の目線が同時に向けられる。

ロレンスマークとクーリャ、コマゾスと見つめ合う――


「何もしとらんぞ……」


つぶやくように言うと、コマゾスは渋々、席に戻った。

小さい声でなるべく口を動かさずに催促する。


「見せなさい」


ヘーレスは嫌そうに服をずらして肩を出そうとする。

それを見て、ハッという表情をするコマゾス。


「ふざけるな!」


ロレンスマークとクーリャ、二人の目線が再び向けられる。


「仕方ないなぁ……」


ヘーレスはだるそうに体を起こす。

アバンフ計画の書類をコマゾスの目の前に置く。

ページをサラサラっとめくる。

コマゾスは目を見開いて必死に中身を見ようとする。


「お・し・ま・い」

「見えるか!」

机バンッ


ロレンスマークとクーリャ、二人の見開いた目が向けられた。



◇◇◇



ヘーレスが急に席を離れた。

窓の方へと向かっていく。


コマゾスはさりげなくその手を目線で追った。

ヘーレスの手にはしっかりと計画書が握られている。


黒い毛の大きな熊のような怪物――それが窓の外から中を覗いていた。

この前、コマゾスに見せに来た”黒いの”だ。


「ライちゃん。どうしたの?」


ヘーレスがライちゃんにかける声。トーンがいつもと違う。心から心配しているような声だ。

そんな声はここでは一度も聞いたことはない。

それも少し腹立たしい。



ヘーレスは外に出ると窓の石枠に腰掛け、ライちゃんを見上げる。

何か話しかけているようだが、ここから聞こえない。

腰掛けると同時に計画書が石枠の上に置かれた。


ヘーレスが立ち上がった。

ライちゃんはお尻を向ける。尻尾がビュンビュンと左右に振れていた。

この前、見た尻尾と違っていた。

もっとぼわぼわして真ん丸だったはず……。


ヘーレスはどうやらライちゃんをどこかに連れて行こうとしているようだった。

でも、ライちゃんは行きたくないようだ。

尻尾が不機嫌そうに左右に振れるのを繰り返す。



コマゾスは計画書を手にするチャンスだと思った。

ロレンスマークとクーリャの目がある。小走りで向かうことはできない。

ヘーレスの視界に入ることがないように、窓のそばまでゆっくりと歩いていく。

手を伸ばすが、”アバンフ計画”には全く届かない。

仕方なく石枠に上がって四つん這いで歩みを進めた。


ライちゃんの尻尾が当たらないタイミングを計る……。

まともに当たると体ごと持っていかれる。

そんなことを思っていると、ライちゃんの尻尾が止まった。


ようやく”アバンフ計画”を手にした。

膝立ちのまま読む。


ふむふむ。

次々とページをめくっていく。

どんどん読み進める。

あるページの最後に次のように書かれていた。


『という妄想れす。』


次のページには何も書かれていない。

何度も前後のページを見返す。


グイッと顔を上げるコマゾス。

その瞬間、光が失われた。


~~


クーリャが声を上げる。


「大変!」


ロレンスマークの腕を引っ張る。


窓の石枠の上でライちゃんのお尻で踏みつぶされ、コマゾスの膝から下だけが上下に動いていた。

クーリャとロレンスマークが駆け寄る。

クーリャは窓の石枠に上がると、ヘーレスのもとへと向かった。


「ヘーレス!」



ヘーレスが顔を出す。


「どうしたの?」

「お父さんが……」


クーリャがコマゾスの足を指さす。

ヘーレスがライちゃんの足を軽く叩く。


「ライちゃん!立って!」


ライちゃんがのそっと立つと、コマゾスの足も同時に宙へと浮いた。

それを見て、吹き出しそうになるヘーレス。手で口を押さえ、必死に笑いを隠す。

クーリャとロレンスマークはコマゾスの足を持つと、真剣な表情で引っ張る。


ライちゃんが顔をしかめる。


コマゾスの体はまったくビクともしない。


「ライちゃん! お尻の力を抜いて!」


そう言うと、ヘーレスがライちゃんの足を軽く叩く。

すると、スルッとコマゾスの体がライちゃんのお尻から引き抜かれた。

コマゾスの足を引っ張るクーリャとロレンスマークが後ろによろめいて、尻餅をついた。

ようやく出てきたコマゾスは窓の石枠の上にうつぶせのまま、動かない。


ヘーレスはコマゾスの背中、心臓の上に思いっきり拳を振り下ろした。


ドンッ

……

ドンッ


「おーーほっ、おーーほっ」


コマゾスは息を吹き返し、肩で息をし始めた。

ロレンスマークとクーリャはヘーレスの容赦ない拳の勢いに目が点になっていた。



「盗み見するからよ。バチが当たったのね……」


そう言うと、ヘーレスはライちゃんと一緒に外階段の方へと向かう。

コマゾスは何も反論できず、肩で息をしながら、ライちゃんの左右に動く尻尾を見つめるだけ。

その手にはぐちゃぐちゃになった嘘の計画書がまだ握られていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。