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不死王の手ほどき  作者: 森山すぱこ。
アバンフ攻略
71/79

コマゾス、久しぶりのアバンフ


昼下がり。

コマゾスはアバンフにいた。


実に久しぶりだ。

アバンフの中央にある石造りの塔――中央塔を見上げる。

駆け足で入っていった。



コマゾスは不死王から連絡板をもらった。

アバンフとの連携のために連絡板を渡しに来たのが今回の目的だ。

明日の朝まで滞在できる。たっぷり時間はある。


まずは兵士隊長のシエンスだ。

石の階段をひたすら登っていく。


最上階。

そこには、大男――シエンスが長椅子にだらしなく横たわっていた。


「起きろ」


コマゾスは握りこぶしでシエンスのあごをコツコツと小突く。

シエンスのふくよかなあごがプルルと揺れる。

何度かコツコツとしていると、シエンスの目が開いた。


シエンスは眩しそうに目を細めた。

ようやくコマゾスの声だと理解したのか、背筋を伸ばして起き上がる。


「兵士隊長が昼間からそんなことでいいのか?」

「すみません……」


「私がいない間、どうだった?」

「……とくには」


コマゾスはじっとシエンスの目を見下ろす。

シエンスは時々コマゾスの目を見上げる。


コマゾスは手にした連絡板5枚のうち、最初の1枚をシエンスに手渡した。

受け取ったシエンスはその板の表と裏を確認する。


「しばらく王城で暮らすことになった。何かあれば、それで連絡してくれ」

「はい……」


連絡板――それは手のひらサイズの薄っぺらい板。少し青い。コマゾスの顔が片面の左上に彫られている。


「私の顔がある面に私からのメッセージが浮かび上がる。メッセージを読んだら消すんだぞ」

「消す?」


「人差し指の先でなぞれば消える。お前から用がある時は裏面にメッセージを書くんだぞ」

「書く?」


「人差し指の先でなぞれば書ける」

「……わかりました」


「ヴァンフとモノジは変わりないか?」

「は、はい」


コマゾスはすぐに次の場所に向かう。


「次、サボっているのを見かけたら外すぞ」


背中を向けたまま、シエンスにそう言うと、コマゾスは最上階を後にした。



◇◇◇



次はアバンフの有力商人ヴァンフだ。

中央塔の中ほどの階、そこにヴァンフの居室がある。

その階に着いただけでヴァンフの笑い声が聞こえてくる。


ノックせずにヴァンフの部屋に入っていく。

楽しげだった雰囲気が一変する。

ヴァンフと秘書が一斉に視線を向け、静まり返った。


コマゾスが板を渡そうとしたところでヴァンフが大声を発しながら突進してきた。


「おめでとうございます!」

「……」


コマゾスはヴァンフの声かけに一切反応しない。

それにもかかわらず、ヴァンフは続ける。


「私はいつ、城に呼んでいただけるので?」

「これは連絡板だ。アバンフで何かあった時はこれを通して連絡をくれ」


「私はいつ、城に呼んでいただけるので?」


ヴァンフがきらきらした目でコマゾスの目を見つめる。

さすがにコマゾスの口元がゆがむ。


「しばらくここでこれまで通りしていろ。くれぐれも余計なことはするなよ」


コマゾスはヴァンフの両肩を押さえて揺らす。


「くれぐれも余計なことはするなよ? いいか?」

「いつ呼んでいただけるので?」


「余計なことをしたら、永遠に呼ぶことはない」

「……」


コマゾスはヴァンフの秘書に話しかける。


「わかったな? あとで今私が言ったことを理解したか確認してくれ」

「はい……かしこまりました」


コマゾスは秘書の目を見てうなずくと、ヴァンフの居室を後にした。



◇◇◇



次はアバンフの若い長――モノジだ。

実は色々な意味で心配していた。


ヴァンフの一つ下の階にモノジの居室がある。

部屋の扉をノックする。


……


何も聞こえない。

もう一度、ノックする。



ノブに手を掛けようとした瞬間。

突然、首元を後ろに引っ張られた。

銀色の全身鎧が圧倒的な力でコマゾスの首を握りしめる。

壁に背中をつけられ、兜が迫ってくる。


「誰だ?」

「コマゾス……」


「何しに来た?」

「これを渡しに来た」


コマゾスは顔の横に1枚の連絡板を掲げて見せる。


「なんだそれは?」

「私とモノジで互いに連絡できる魔道具だ」


「なぜ、連絡する必要がある?」

「は?」


「なぜだ?」

「……」



その時、向かいの部屋から眼鏡男が出てきた。

その眼鏡男と目が合う。


「コマゾス様!」


眼鏡男は全身鎧の手を掴む。


「その方は問題ない。離せ」


全身鎧はコマゾスの首を持ったまま、眼鏡男の首も掴む。


「ほぅ。私に指図するのか? 裏切っておいて……」

「何のことだ?」


眼鏡男は目を背ける。


全身鎧は二人の首から手を離すと、コマゾスのボディチェックを念入りに行う。

そして、コマゾスの頭を片手でわしづかみにした。


「嘘偽りはないな?」

「……ああ」


全身鎧はわしづかみにしたまま、モノジの居室の扉の鍵を開けた。



◇◇◇



再び、最上階に戻ってきたコマゾス。

長椅子に腰かけ、首元を緩めた。

モノジに連絡板をかろうじて渡せたものの、全身鎧の女に最後まで徹底的に阻まれた。

思い出すだけで息がつまる。

咳き込むコマゾスだった。


~~


日が暮れようとしていた。

シエンスはうつらうつらしているコマゾスの姿をそばで見ていた。

コマゾスの右手にある黒い輪。

それを見つめる。

それが不死王がコマゾスを認識するための印だと知っていた。


シエンスは音を立てずに腰の剣を抜いた。

剣に映る自分の瞳。


(コマゾス様を解放する……)


剣を振りかぶると、コマゾスの右手首に向かって振り下ろした。



「おおおおおおぉぉぉぉぉ」


コマゾスは目を大きく見開いて叫んだ。


シエンスの剣はしっかりコマゾスの右手首に触れている。でも落ちない。刃が入っていない。

剣を前後に動かす。それでも血一滴すら出ない。


「おまえはヘーレスか!」

「……」


コマゾスは剣の当たった右手首をさする。


「どういうつもりだ!」

「弁解のしようもありません。申し訳ございません」


「だから、どういうつもりで剣を振り下ろした!」

「その……黒いのを見ていたら、衝動を抑えきれなくなりました……気づいたら剣を抜いていました」


コマゾスはシエンスの首元を持つと前後に揺する。


「やっていいことと悪いことの区別もつかんのか……勝手なことをするな!」


そう言うと手を離し、再び長椅子に横になり、目をつぶった。



「……もういい。今日は帰れ」



しばらくして。

コマゾスは誰も居なくなったのを確認する。

右手の甲を軽くトントンしてみる。


ペーパーナイフを手に取った。

シエンスに落とされそうになった箇所に当てて強めに引く。


……痛みはあるが、血は出ていない。

右腕だけ無敵状態ということか?


いずれにしても、右手首の黒い印がある限り、不死王から逃れることはできない。

ヘーレスからも逃れることができない。


コマゾスはしばらくふさぎこむ――

ガッと顔を上げる。目に力が入っている。

ただ、諦めの表情ですぐに目を閉じた。



◇◇◇



翌朝。

漆黒の巨城、玉座の間。


コマゾスは机の端に連絡板を並べていた。


椅子に座る前に一度だけ深呼吸をする。

座ろうと中腰になった時、視界に入った。


『もうすぐ行くからね』


腰を下ろしながら、二度見する。

座って、正面を向いたまま、しばし固まる。

そして、それを裏返すと、何事もなかったかのように作業を続けた。



しばらくして。

ヘーレスが鼻歌混じりで入って来た。


「誰のを奪った!」


コマゾスはいきなり声を荒らげた。


「私の魅力でぇ~」

「そんな訳あるか!」


ヘーレスは2枚の連絡板を見せびらかす。

コマゾスは机に手をついて、ガッと立ち上がる。


その後しばらく、二人は玉座の間で追いかけっこを楽しんでいるように見えた。


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