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不死王の手ほどき  作者: 森山すぱこ。
アバンフ攻略
70/79

ヘーレスの大切な仲間たち


漆黒の巨城、玉座の間。

それまでは実に穏やかで静かな朝だった。


バンッ

扉が無造作に開く。


不自然に腰を左右に振りながら、女が入ってきた。

たぶん……ヘーレスだ。


今日の髪は白、雪の結晶の模様が入った青黒いワンピースとニット帽を身につけている。

まるで神官のような出で立ちだ。


途中、無駄にポーズをとって止まってみせる。

止まるたびに自然と苛立ちがこみ上げてくる。


だから、コマゾスはなるべく見ないようにしていたのだが……。

ヘーレスの手や肩に不自然な動きを感じた。

これは見ざるを得ない。


よーく目を凝らす――



「ごきげんよう」

「朝だぞ。また、何か持ってるな? 見せなさい」


「見・た・い・の?」


ヘーレスは肩掛けの両端を指先でつまむと、サッと宙へ投げた。


「どぉ?」


肩掛けの下には大人しく佇む水色のヘビ。

舌を出したり引っ込めたりして、こちらを見ている。

コマゾスは思わず、席を立ち、一歩退く。


「余計な物を持ってくるんじゃない!」


コマゾスはなるべくヘビを刺激しないようにと、声を抑えつつも、精いっぱい強く言った。


「私の大事なパートナーでしてよ。ほっほっ……」


そう言うとヘーレスは手を口に当てる。


「仕事にならん。出ていけ!」

「?」


ヘーレスは不思議そうな顔でコマゾスを見つめると、机の上に人差し指をちょんちょんと突き立てる。


「できるでしょ? 座りなさい」

「ふ、ふざけるな……。さっさと元に戻してこい!」


「さぁ、少し遊んでおいで」


ヘーレスは優しい笑顔でヘビにそう言うと、少ししゃがんで地面に手を伸ばし、ヘビを下ろした。

地面に下りたヘビは高速でニョロニョロと動き回る。



「おーーーい!」


コマゾスはヘーレスに向かって叫んだ。必死にヘビの行方を追う。ヘビが近くに寄ってくると、あわてて椅子の上に立つ。

それを冷たい目で見ているヘーレス。


「いい大人が大声とは、みっともなくてよ……。ほほほっ……」



「おーーーい!」


いつの間にか、ヘビがコマゾスの背中を登っている。

コマゾスの体に巻きつくと、顔の前で舌を出し入れさせ、じっと見ている。

コマゾスの顔から冷や汗が出る。


「ぉぉぉぉぉぉ」


震えるコマゾスの唸るような小さい声。


ヘビの舌先がコマゾスの耳につくたび、コマゾスは肩をすくめる。


「わかった! わかったから! ヘビを元に戻せ!」


コマゾスは目をギュッとつぶる。


「?」


ヘーレスは不思議そうにコマゾスをじっと見つめるだけ。

コマゾスのそばまで近づくと、無表情であごを掴んで左右に揺すった。


「な・に・が分かったの?」

「どうした? 今日はいつものおまえじゃないぞ」


「私を秘書にしなさい。養子にしなさい。全財産を生前贈与しなさい」

「それは脅しか?」

「提案よ」


「ふざけるなよ……」


コマゾスのうなじに汗がにじむ。

ヘーレスがペンダントのようにしている連絡板――不死王との筆談アイテムが目に入る。



「どうせお前のことだ。毎日粘着して、その板をもらったんだろ?」

「違いますのよ……ほっ」


ヘーレスは両手を高く広げる。


「それは私が……妃だからです!」

「……ウソをつくな! 妃が首輪をつけるか!」


ヘーレスは自分の首輪を触る。

首輪と首の間には指が入らない。ぴったりとくっついており、隙間がない。

なんとか隙間を作ろうとしても作れない。


それを見たコマゾスは笑い始める。


「何がおかしいんれすか?」

「やっぱり、お前は信用されていないんだな」


ピキッ


ヘーレスは立ちあがると、ヘビをそのままに扉へと向かう。

コマゾスとヘビはしばらく見つめ合う。

コマゾスはヘーレスを指さし、「一緒に行かなくていいのか?」と指先と目線でヘビに合図する。

しかし、ヘビはまっすぐコマゾスを見つめたままだった。



◇◇◇



翌朝。

ヘーレスは表情を動かさない。

無言で立ち続ける。


コマゾスはヘーレスの隣にいるものを見て、思わず後ずさりする。


「こ、これ以上近づくな」

「……」


「まだヘビの方がかわいいわ!」

「……」


「どういうつもりだ?」

「……」


「何か話さないか!」

「……」


ヘーレスは一言も発しない。

ただ、コマゾスを見下しているように見える。「それがどうした? そんなにあわてて」というような余裕を感じさせる。


ヘーレスの隣で四つの足を床につける黒い艶やかなそれ。

ヘーレスより大きく、横幅もしっかりあり、どっしりしている。

黒光りする大きな爪を見るだけでも寒気がする。

前足で軽く払われただけでも体が吹き飛びそうだ。


黒いそれは頭で円を描き、咆哮した。その声が玉座の間に鳴り響く。


ガァァァァーーーー!!!



コマゾスはたまらず耳を押さえる。

黒いそれをよく見ると首輪が緩い。してないに等しい。

まるで金色のネックレスのようだ。


「しっかり結ばんか!」



ヘーレスはスッと体を回転させる。少し遅れて黒いそれも回転する。

リズムよくカッカッと靴音を立てて扉へと向かう。

その隣で黒くてふわふわの丸い尻尾が小刻みに左右に揺れている。


(どういうことだ? 見せにきただけか?)


コマゾスは額にシワを寄せながら、椅子に座った。

背もたれに寄りかかろうとしたが、丸椅子。背もたれはない。

床に尻餅をつき、丸椅子も倒してしまった。


黒いそれは少し振り返って横顔を見せたが、歩みは止めない。ヘーレスは反応すらしない。

二人はそのまま扉から出て行った。


コマゾスは冷たい床の上で深く息を吐いた。


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