コマゾス、ロレンスマークと再会
基本的にはエピソード単体だけでも読めるようにしています。
ただ、エピソード「コマゾスの悩み」を読んでから、このエピソードを読むとより楽しめます。
朝。玉座の間。
扉が開くとヘーレスがすました顔で目を閉じて入って来た。
手を口元に当てながら、コマゾスのもとへと向かう。
「ほっほっほっ」
長机の前に座っていたコマゾスが立ち上がる。
「おまえか! 娘に何をした!」
「私は何もしてませんのよー。何かあったんれすかー?」
「ウソをつくな!」
大人の女性の雰囲気を醸し出しつつ、コマゾスの目の前に立った。
腰に手を当て、片足を横にして、かかとを上げ下げして見せる。
「まぁまぁ、座ってください。ちゃんと話を聞いてあげますから……私、生まれ変わりましたのよ」
そう言うと、エレガントに椅子に腰かけてみせた。
ちょこんと椅子の隅におしりを置き、背筋をスッと伸ばす。
「さぁ、なんでも話してください」
「娘の様子がおかしい」
プッ……コホン
ヘーレスは咄嗟にうつむき、必死に笑いをこらえる。
鼻をすするようにして、ごまかしながら、顔を上げる。
「どういう……風に……おか……しいんれすか?」
「……」
コマゾスは憎しみのこもった目でじっとヘーレスをにらみつける。
「おまえが何か言ったのか?」
「まだお会いしたことがなくてよ……」
「なんだ、その言葉遣いは……気持ち悪い……」
コマゾスは手を組むと机の上の一点を見つめ、話し始める。
「よそよそしいんだ。何か隠している……」
さらに続ける。
「あと、娘の視線を頻繁に感じる……。これは今までなかったことだ」
手の甲で口を押さえていたヘーレスの目から一粒の涙がこぼれた。
コマゾスはチラッとヘーレスを見て、ようやくその涙に気づいた。固まる――
徐々に顔が赤くなりはじめた。
「やっぱりお前か! 何をした!」
ヘーレスの首元を掴み、前後に激しく揺らす。
ヘーレスは視線を横にずらし、どこか笑みを浮かべたような顔を見せる。口元もわずかに震えている。
コマゾスは顔を近づけ、じっとにらむ。
ヘーレスは横に顔を向けたまま。
「どうなんだ!」
「どうなんだ!」
コマゾスは何度も何度も詰め寄った。
それにもかかわらず、ヘーレスは口を割らない。
そして、次の文官が玉座の間にやってくるまで黙秘し続けた――
◇◇◇
コマゾスは今日もチージョイルと議論をしていた。
素朴な疑問をチージョイルにぶつける。
「ところで税に関するものが全くないのだが……どういうことだ」
「シンプルな徴税にしているので何もすることがないんですよ」
「シンプル?」
「口座の記録をもとに徴税しています。税金を支払う側、受け取る側もほぼ何もしません」
「そこまでできているのか……」
「双方の負担をなるべく減らす方針です。時間の無駄ですよね?」
「たしかにそうだが……」
腕組みをして天井を見つめる。
眉を上げると、さらにもう一つ疑問をぶつける。
「ところで王としばらく会ってないのだがどこで何をしているのか知らないか?」
「陛下ですか? 私も見てないので……」
「連絡は取れないのか?」
「文官では……ヨトフさんだけですね」
「えっ? ……あの小娘は?」
「小娘?」
「ヘーレスだ」
「取れるんですか?」
「取れるみたいだな……。ウソと思ったんだが……」
「んー……。陛下は時々私には理解が及ばないことをしますからね。きっと何か理由があるんでしょう。連絡が取れるようになっていても不思議ではないです」
「そうか……」
コマゾスは残念そうな顔で机の上を見つめた。
◇◇◇
食事時。
珍しい顔が現れた。娘クーリャの夫、ロレンスマークだ。
手には料理を載せた大きな皿を持っている。
扉から入ってすぐのところで、周囲を見回している。
「ロレンスマーク! 無事だったか!」
コマゾスは声を上げた。
立ち上がると、机の上の書類を片付け始める。
「こっちだ。この上に置いてくれ」
片付けながら、自然と笑みがこぼれてしまう。
思い出したように顔を上げ、たずねる。
「オルトはどうした? 一緒ではないのか? 元気にしてるか?」
「少し借りると言われました」
「骸骨にか?」
「あ……そうですね」
「そうか……もう気づかれたか……オルトは優秀だからな……」
「あと、しばらく手伝うようにと言われました」
コマゾスは玉座とロレンスマークを交互に見る。
「やっぱり、玉座はお前の方が似合うな」
コマゾスの口角が自然と上がる。
「筋を通すなら、お前がやらねばならない」
「はっ?」
「今、私がやっていることだ」
コマゾスは机の上の書類に手を向ける。
が、ロレンスマークはコマゾスの後ろに視線を送っている。
「あちらは秘書の方ですか?」
「あっ……」
振り返るコマゾス。それまでの笑顔が無表情に変わった。
下唇が震える。
「またお前か! 何してる!」
「ヘーレスれす。終わるのを待ってるのれす」
「ここに来るのは1日1回だろ!」
「それは誰が決めたのれすか?」
ヘーレスは窓辺の石枠の上でストレッチのようなことをしている。
目を血走らせたコマゾス。
念力でなんとか外へと落とそうと目に全神経を集中させる。
黒目がジリジリ動く――
しかし、まっ……たく、何の効果もなかった。




